乙女SIDE
拳法部での仕事を終え、私はそのまま実家へと戻った。
実家に戻って最初に行わなければならないことがある。私の祖父、鉄陣内(くろがねじんない)への挨拶だ。
「爺様……鉄乙女、修業の為ただいま帰りました」
「乙女か、話は既に聞き及んでいる。主の目的、対馬レオとの闘いであるな?」
「はっ!かつての敗北を糧に雪辱を晴らすべく、己を鍛え直す次第であります」
「うむ…………乙女よ」
突然時事様は私の顔を覗き込む。
「何か?」
「いい面構えになったのぅ」
「え?」
唐突にそんなことを言われ思わず困惑してしまう。
「好敵手を得たからか?」
好敵手……か。確かにあの戦いの後、私もレオもさらに強くなったと思う。
アイツに負けたのが悔しくて、もっと強くなりたくて……修行に明け暮れた日々を思い出し、忘れかけていた『高みを目指す心』を再び燃え上がらせた。
「そうかもしれない……いえ、きっとそうです!私はレオに勝ちたい!そしてもっと強くなりたい!!そう思うようになったのはレオのおかげです」
「フフフ……その意気や良し!!すぐに着替えい、修行を始める!!」
「はい!!」
すぐさま胴着に着替え、修行の準備に入る。
覚悟しておけレオ、私は今より更に強くなってお前との戦いに臨む!!
レオSIDE
さて、さっそく家に戻って修行の準備に取り掛かるわけだが、相手はあの乙女さんでしかも鉄家直々の修行を受けるはず。生半可な修行じゃとても勝ち目は無い。
「となると、手は一つだな」
俺は携帯を取り出してある男に電話する。
「よし、大体こんな所か」
準備を終えた俺は、奴との待ち合わせ場所へと足を進めた。
数十分後 とある峠にて
待ち合わせ場所に選んだこの峠は急カーブが多いため走り屋からも敬遠されている人通りも少なく、喧嘩にはうってつけの場所だったりする。
そんな峠に俺は原付で先に到着し、待ち合わせていた奴を待っていた。そして数分後にそいつはやってきた。
「お、来たか」
「来たかじゃねーよ、巴姉とデート中だってのに呼び出しやがって」
茶髪に中性的な顔をした男が近付いてきて早々悪態をつく。
「良いだろ別に、俺が電話した時だって丁度ナニを済ませてたくせに」
「ま、そうだけどよ」
こいつの名前は柊空也(ひいらぎくうや)、以前は俺と地下闘技場で鎬(しのぎ)を削りあった階級違いのライバルでかつてはスーパーウェルター級のチャンピオンだった男だ。ちなみに流派は極限流空手。
現在は鎌倉の実家に帰郷しているため狂犬(マッドドッグ)の闘技場からは引退しているが、鎌倉の繁華街に存在する格闘バー『PAOPAOカフェ日本・鎌倉支店』のチャンピオンに君臨している。
あとこれはまったくの余談だがコイツには血の繋がりの無い姉が6人いて、コイツの彼女はその四女だとか……。
「で、何の用で俺を呼んだんだ?まさか旧交を暖めようなんて訳無いだろ?」
「ああ、実は今度の金曜にデカイ勝負があってな、それまでにどうしても実力を付けておきたいんだ」
俺の答えに空也はニヤリと笑う。
「なるほどな、さしずめ俺はそのスパーリングパートナーって訳か?しかも毎日」
「ああ、更に加えるなら物凄くハードな。ついでに言うならお前とも久しぶりに戦(や)りあいたかったからな……錬の奴も呼ぼうとしたんだが、あいつ結婚式控えてるし……」
「ああ、そういやアイツもうすぐ式だったな……まぁいい、戦(や)ってやるよ」
そこから先は言葉など要らない。お互い服を脱いで上半身裸になって構える。
「行くぜスピード狂野郎」
「ああ、来いよシスコン野郎」
お互い同時に踏み込んで会心の一撃を叩き込む。
(相変わらず重いパンチだぜ。しかも腕は落ちてないどころか上がってやがる)
(コイツまたスピード上がったんじゃねえか?)
なんて事を考えながら俺達は戦い続ける。
「《修羅旋風拳!!》」
「《飛燕疾風脚!!》」
俺の旋風拳に空也は気を纏った跳び蹴りで応戦し、お互いの技は相殺される。
「チッ、腕は鈍ってないって訳か」
「そっちこそ、伊達に現役続けてないってか?」
軽口を叩きながらも俺たちの攻防は続く。
「《テキサスコンドルキック!!》」
「《虎咆(こほう)!!》」
今日から武道祭まで毎日、飯と寝る時間以外の全てが修行だ!!
NO SIDE
体育祭に向けて始まったレオと乙女の特訓。
ここからはダイジェストでお送りいたします。
まずは日曜日
レオSIDE
あの後空也とは夜中まで戦い続け(結果は4勝3敗1分)、取り敢えず一度帰宅して今夜また再戦という事になった。
そのまま家に帰って泥のように爆睡、その後10時頃に目を覚ました俺は朝食をさっさと済ませて独自に修行を開始する。
「ハッ!!」
気をコントロールして鉄装拳を発動し、この状態をずっと維持し続け、その上訓練用の錘入りのジャケットを着ながら筋力トレーニング。
片手腕立て伏せ、人差し指一本での逆立ち、宙吊り腹筋、二の足に石版を乗っけての空気椅子。とにかくなんでもやる。
しかも精神と体力両方消費するのでかなりキツイ。
この修行にノルマは無い。限界まで続けてその後少し休み、また同じ事を繰り返す。これで徹底的に体力と気の絶対量を底上げする!
乙女SIDE
私が今行っている修行、その内容はうさぎ跳びだ。
しかしただのうさぎ跳びではない、背中に錘を背負い、周囲から飛んでくる投石を一切避けず瞬時に気を集中させて防御する。
前回のレオとの戦いで私は自身の必殺技である『真空鉄砕拳』の弱点である攻撃の際に体が無防備になってしまうという点を突かれ負けた。そういう意味では今回の修行は大いに意味がある、気のコントロール精度を上げれば真空鉄砕拳の弱点克服も可能なはずだ。
「大分様になってきたのぅ。乙女よ、一度休憩じゃ。次は2倍の投石で行う」
「はい!!」
月曜日
レオSIDE
この日の夜、俺の特訓に新たなスパーリングパートナーが加わった。
「よぅ、俺だけ除け者は酷いんじゃねぇか?」
「錬!?」
やや釣り目気味の顔をしたコイツの名は上杉錬(うえすぎれん)。空也同様元地下闘技場のファイターで当時のスーパーミドル級チャンピオンだ。格闘スタイルはテコンドー。
ちなみに現在の職業は七浜市に邸宅を構える久遠寺家の執事兼ガードマン。しかも久遠寺家の長女(当主)と婚約して結婚式を2週間後に控えているという超リア充だ。
「お前、式が近いから来れないんじゃなかったのか?」
「安心しろ、準備なら殆ど終わってるから休暇もらってきた。それにダチの真剣な頼み断ってちゃ師匠にどやされるちまうからな」
相変わらず師匠譲りの真っ直ぐさだぜ。
「嬉しい事言ってくれるぜ。それなら早速始めようぜ!」
「久しぶりにやるか、バトルロイヤル?」
「元からそのつもりだ!!」
そのまま一気に三者三様に攻撃を仕掛けあう。
「《虎煌拳(こおうけん)!!》」
先制を取った空也の右手から気の塊が錬に向かって飛ぶ。
「甘いぜ!!《飛翔脚(ひしょうきゃく)!!》」
気弾を跳んで回避しつつの上空からの連続強襲蹴り。錬の得意技『飛翔脚』だ。
「くっ……グァッ!」
ガードしようとする空也だが全て捌く事が出来ず蹴りを数発顔面に受ける。
「《ライトニングラッシュ!!》」
ここで今度は俺が仕掛ける。得意のスピードを生かした拳の弾幕だ。
「オラオラオラオラオラァァッ!!!!」
「がぁっ……テメェ!!」
「遅い!!」
反撃に移ろうとする錬だがもう遅い!一気にフィニッシュの回し蹴りを決めようとする。
「これで…「《覇王翔吼拳(はおうしょうこうけん)!!》」……!?」
しまった!錬に気を取られすぎた!!
空也の両手から馬鹿でかい気の塊が俺と錬をまとめて打ち落とそうと飛んでくる。
「クッ!」
あわてて回避しようとするが……。
「お前だけ避けようとしてんじゃねえ!!」
「ぬわっ!?テメェ、離せ!!」
錬に足を掴まれてしまった。何とか振りほどこうとするが間に合わない!!
結局俺たち二人とも空也の攻撃を喰らってしまった(ガードはしたけどそれでもダメージは結構ある)。
「畜生が、仕切り直しだ!!」
「おうよ、まだまだこれからだ!!」
「上等!!」
修行という名の三つ巴の戦いは始まったばかり……。
乙女SIDE
学校から帰ってすぐに爺様との修行を開始する。
「今日は我が門下生と戦ってもらう」
「はい!誰が相手でもやり遂げて見せます!!」
「うむ……では」
爺様が手を叩くと数十人ほどの門下生が道場に入ってくる。
「この者達一人一人のの実力はお前より一回り下だろう、だがその実力決して低くはない。これから全員と連戦してもらう」
「はい!!」
連戦か、体力と持続力の勝負だな。
「まず一人目、来い!!」
私の言葉に一人目の男が前に出る。それなりに修羅場を潜ってそうな顔をした男だ。
「始め!!」
「うおおおぉぉぉぉ!!!!」
開始の合図と同時に男が殴りかかってくる。確かにスピードもパワーも十分だ。だが……
「レオのスピードはこんなものではない!!」
男の拳を避けつつカウンター気味に相手の顎を打ち上げる。
「グベッ!!」
「次!!」
次に前に出てきたのは全身筋肉質な大柄な女だ。
「ハァアアアア!!!!」
「クッ……」
両手を掴まれ力比べの体勢に持ち込まれてしまう。
「力で私にかなう者なんて居ない!!」
「それは……どうかな?」
いきなりの力比べに困惑し、僅かに押されてしまったがそんなものは大した問題ではない。徐々に押し戻していく。
「そ、そんな!?私が力で押されて……」
「私も力には自信があるのでな!!」
そのまま壁際まで押し込み、隙を突いて鳩尾に膝蹴りを叩き込む!!
「ウゲェッ!」
「《降龍脚(こうりゅうきゃく)!!》」
私の一撃に怯み、力が抜けたその隙に私は上空に跳び上がり、上空からの強襲蹴りを見舞う。
「ガッ!!……」
「よし、次の者来い!!」
火曜日
レオSIDE
さて、本日で修行も大詰めとなった(ちなみに明日は体力温存のため軽い筋トレのみの予定)。
今まで修行をしながら考えていた新技の完成させるため、俺は空也と錬に協力してもらっている。
そして時間は深夜3時を回った頃…………。
「ハァアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
『ズガァァァアアアアアン!!!!』
やった……遂に完成だ。
「グッ、うぅ……………こ、コイツは効いたぜ」
「ああ……二人同時に防御してこの有様だ。まともに喰らっちゃひとたまりも無いな」
やった、やってやったぜコノヤロウ!!
「空也、錬。色々付き合わせちまって悪かったな」
修行も終わり、俺は修行に付き合ってくれた二人に礼を言う。
「水臭ぇ事言うな、俺たちにとっても良い修行だったんだ」
「俺達にココまでやらせたんだ、絶対勝てよ」
「ああ、分かってる」
二人の激励を背に俺は帰路についた。
「しかしレオの奴、この短期間であんな技思いついちまうなんてな」
「ああ、俺達も新技の一つや二つ考えないと追い抜かれるぜ」
「だな……錬、折角だから最後にもう一勝負していくか?」
「ああ!」
俺が帰った後、二人がそんな会話をしていたのはまた別の話。
「ただいま〜〜」
そしてようやく帰宅。誰も居ないのに「ただいま」って言うのは何か寂しい気もするが……。
この後はシャワーを浴びてそのまま就寝。
「はぁ〜〜、疲れた」
…………何か、家が妙に広く感じるな。乙女さんがいないからか?
……………………って、何考えてんだ俺は?
ついこの前まで乙女さんと同居してたから、いつの間にかそれが当たり前のように感じてしまっていたのかもしれない。
乙女SIDE
今日で修行も最終日。私は最後の修行として昨日の倍の数の門下生を相手に戦う。
そして残り10人ほどになった時、私はこう告げた。
「ええい!いちいち一人一人相手にしていては煩わしい!残った全員まとめてかかって来い!!」
私の言葉に残りの門下生の一人が爺様に目を向け、爺様はそれに頷く。『構わない』という合図だ。
爺様の承諾と同時に10人の門下生達が私を取り囲む。
「来い!私は逃げも隠れもせん!!」
一斉に襲い掛かってくる門下生達を相手に私は身構える。
「見せてやる、修行の成果をな」
そう、この修行で生み出した新たな技を……。
そして数分後
「ハァハァハァ……」
目の前には私によって倒された門下生の面々。
最後の10人組み手も新技を駆使することによって何とか全員倒すことができた。
「乙女よ、見事新たな技を会得したようじゃのぅ」
「はい!」
「うむ、ではこれにて今回の修行を終了とする!」
爺様の声と共に今回の私の特訓は無事終了した。
漸く特訓を終え、床に着いた私はかつてのレオと戦いに想いを馳せる。
(レオ、昔は根性無しだったのに、いつの間にかあんなに強くなっているなんてな)
負けず嫌いな奴だったが、それがあれ程の強さを持つまでに至るとは……従姉(あね)としては誇らしい限りなんだがな。
同世代の相手に味わった初の敗北の味、だが決して無意味なものではない。
「レオ、お前のお陰で私はまた強くなれたんだな……」
レオ、お前は今どうしている?お前もきっと以前より強くなったのだろう?そう考えると柄にも無く今から興奮してしまいそうになってしまう。
…………あれ?何か私、レオのことばかり考えてないか?
いかんいかん、これではアイツを意識しているようでは…………い、いかん!一瞬それも悪くないと思ってしまった!!
あー!もう!!何考えてるんだ私は!!
こういう時は闘う事を考えて落ちつくんだ!…………よし、落ち着いた。
「お前との勝負楽しみにしているぞ。……おやすみ、レオ」
この場には居ないけど、私は今頃対馬家に居るであろうレオに向けてそう言い。静かに目を閉じた。
NO SIDE
翌日の水曜日。竜鳴館にて東軍、西軍それぞれ別々の時間に団体戦の予選が行われた(両チームのメンバー構成は当日まで誰にも明かされない規則である)。
結果……
東軍
先鋒 山手淳(テコンドー部員・1年生)
次鋒 志村仁一(空手部員・2年生)
中堅 日上順子(拳法部・3年生)
副将 村田洋平(拳法部・2年生)
大将 鉄乙女(拳法部・3年生)
西軍
先鋒 ハンサム大野(拳法部員・1年生)
次鋒 海鶴正人(ボクシング部員・3年生)
中堅 霧夜エリカ(生徒会・2年生)
副将 伊達スバル(陸上部・2年生)
大将 対馬レオ(生徒会・2年生)
北軍
モブキャラ5名
南軍
モブキャラ5名
以上20名、体育武道祭メインイベント・異種格闘団体戦『ドラゴンファイターズ』参戦決定!!