つよきす 愛羅武勇伝   作:神無鴇人

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決戦!ドラゴンファイターズ!! その2

NO SIDE

 

 今まさに竜鳴館史上最大にして最高の戦いが始まろうとしている。

当人以外の生徒達(一部除く)の誰もが乙女によってレオが秒殺されると思っていながらもこれから戦いが行われるリングから目が離せなかった。

そんな一般生徒達はこの後行われる戦いに本能的に胸を躍らせていた。

 

 

2−C応援席

 

「けど次の相手は鉄先輩かぁ、対馬も気の毒やで」

 

「まだ分かんないヨ、対馬君て実は凄く強いネ」

 

「そんなに強いんか?」

 

「そういや対馬が戦ってるところなんて見た事ねぇべ」

 

「せやな、豆花(トンファー)は見た事あるんか?」

 

「一度だけ、そりゃもう凄かたヨ」

 

 

 

3−D応援席

 

「おい、お前どっちに賭けた?」

 

「鉄に決まってるだろ。この学校であいつに勝てる奴なんて館長以外にいるかよ」

 

「だよなぁ……山下、お前は」

 

「俺?対馬って奴に賭けた」

 

「は、マジでか!?」

 

(ククク……俺は知ってるんだ。あの男、対馬レオは鉄相手に互角に蹴りと蹴りの応酬を演じた猛者だって事をな。頼むぜ対馬、全財産お前に賭けてんだぞ俺は)

 

 

 

素奈緒SIDE

 

 村田の試合が終わって十分後、鉄先輩と対馬の試合が始まる数分前、村田は目を覚ました。

 

「よーへー……大丈夫?」

 

「あ、ああ……なんとかな……次の試合は」

 

「まだよ、どうせ鉄先輩が勝つんだから見る意味無いでしょ?」

 

「あ、ああ……だが、何故か気になるのでな」

 

 何が気になるんだか……どうせあの対馬(ふぬけ)の事だから10秒も持たずにボコボコにされるのがオチなのに。

 

「おい上原、お前対馬に賭けたって本当か?」

 

「ああ、アイツは絶対強いって!」

 

 あ!あいつ等賭けは違反なのに!!

 

「ちょっとあんた達!」

 

 私は賭けをしている連中に文句を言おうと一歩前に出る。

 

「戦って分かったんだよ!アイツ絶対破門された後も鍛え抜いてるって!!」

 

 …………え?

 

「ちょ、ちょっと!それどういう事!?」

 

「ゲ!ジャスティス近衛!?」

 

「対馬が破門って、アイツ自分から空手辞めたんじゃ!?」

 

「はぁ?何言ってるんだ?アイツが空手辞めたのは傷害沙汰起こして破門になったからだぞ」

 

 そ、そんな……それじゃあ対馬は……。

 

 

 

レオSIDE

 

「さぁ、皆さん!遂にこれが最後の戦い!!泣いても笑っても全てが決まる一戦が始まろうとしています……ドラゴンファイターズ最終戦!鉄乙女VS対馬レオ!!!!」

 

 いよいよ試合開始時刻となり、俺と乙女さんはリングに上がる。

 

「レオ!負けんじゃねぇぞ!!」

 

「勝ったら霧夜スタンプ5枚上げるわ、絶対に勝ちなさい!」

 

「対馬君、頑張ってー!」

 

「頑張れレオ、お前がナンバーワンだ!!」

 

「私の懐のためにも是非勝ってください」

 

 皆からの声援(約一名おかしいのがいるが)に俺は無言のまま親指をグッと突き出して応える。

 

「赤コーナー、竜鳴館風紀委員長にして拳法部主将、鉄の風紀委員の異名を持つ学園最強の女……鉄乙女!!!!」

 

 選手紹介と共に来ていた上着を脱ぎ、胴着姿になる乙女さん。ファンからも黄色い声が上がる。

 

「青コーナー、乙女さんの従弟にして、かの青い疾風、ジョン・クローリーによる地獄の扱きを生き残り、彼の弟子を名乗ることを許された若き獅子……対馬レオ!!!!」

 

 今度は俺の紹介だ。俺は無言のまま右手の握り拳を上空に突き出した。乙女さんほどではないが結構な声援が聞こえてくる。

 

「さぁ、最後は従姉弟同士の対決、果たして勝利の女神が微笑むのはどっちだ!?」

 

 カニの実況を余所に俺たちはリング中央で向かい合う。

 

「レオ……お前とココで戦う日をずっと待っていた。前回のようにはいかないぞ」

 

 乙女さんは俺に向かって拳を突き出してくる。

 

「上等、こっちも負ける気は無い!」

 

 突き出された拳に自らの拳を当て、俺たちは互いに構える。

 

「さぁ、いよいよ試合開始!開始のゴングは館長自ら鳴らします!」

 

「周囲のことなど気にしなくても良い、双方悔い無きよう全力で戦え。準備は良いな?」

 

 ゴング代わりの銅鑼(どら)を持った館長の問いに俺たちは同時に頷く。さぁ、早く始めてくれ。

 

「それでは最終決戦!リューメイファイト、レディー……」

 

「GO!!!!」

 

 館長の馬鹿でかい声と銅鑼(ゴング)の音が鳴り響いた。

 

 

 

NO SIDE

 

「ハァァーーーー!!!!」

 

「ダァァーーーー!!!!」

 

 ほぼ同時に踏み込み互いの拳がぶつかり合う。

 

「チッ!」

 

「クッ!」

 

 反発するように同時に一度後方に飛び退き、直後に乙女が仕掛ける。

 

「《疾風(はやて)突き!!》」

 

 一瞬で距離を詰めた正拳突きがレオ目掛けて繰り出される。

 

「!?」

 

 誰もが乙女の拳がレオに入ったと思った、しかし入ったと思った瞬間乙女の拳はレオの体をすり抜けた。

 

「残像か!?」

 

 レオの得意技『残像拳』によって回避された乙女の疾風突き。そして当のレオは……

 

「上!?」

 

 乙女が察知すると同時に上空からレオが襲い掛かる。

 

「《スパイラルレッグボマー!!》」

 

 足に気を纏わせて錐揉み回転しながら凄まじい勢いで落下してくるレオ。見様見真似で習得した師匠であるジョン・クローリーの必殺技『スパイラルレッグボマー』だ。

 

「クッ!!」

 

 乙女あわてて回避、マットに穿たれたレオの技でリングに穴が開く。

さらにそこを狙って乙女が動く。

 

「《真空鉄砕拳!!》

 

 早くも必殺技を繰り出す乙女。とてつもない威力の拳がレオに迫り来る。

 

「甘い!」

 

 しかしレオは一切動揺する事無く乙女の腕を掴んで拳を止める。

 

「もう見切ってんだよ、その技」

 

 そのままがら空きになった乙女のボディにレオの膝蹴りが繰り出される。

 

「同じ轍は踏まん!!」

 

 しかし乙女は瞬時に気を脚に集中させてレオの膝蹴りを自らの脚で受け止める。

 

「前回のようにはいかないと言った筈だぞ?この技の弱点は既に克服している」

 

「らしいね、前より何もかもレベルアップしてるじゃん。やっぱり爺様直々の修行は伊達じゃないって事?」

 

「お前こそ、まだ本気ではないのにこれ程とは、大したものだなレオ」

 

 お互いに一旦距離を取り合い、相手の上がった実力を賞賛し、そして戦慄する。しかしレオと乙女の表情(かお)は笑っている。

なぜこんな状況で笑ってしまうのかは本人達にも定かではない。

 

(たぶん……)

 

(本能だな、ファイターとしての……)

 

 それだけ理解して二人は一度職員席に目を向ける。

 

「館長、穴開いちまったからリング取っ払ってもらって良いですか?」

 

 レオの頼みに平蔵は満足げに笑みを浮かべる。

 

「良かろう、存分に闘うが良い!!」

 

 

 

 平蔵によってリングが取り払われるなか、観客席ではこの僅かな時間に巻き起こされた攻防の凄まじさにざわめきが起こっていた。

 

「す、スゲェー!!レオも乙女さんも滅茶苦茶スゲェーー!!!」

 

 実況も忘れてカニが騒ぐ。

 

「やっぱ凄いな……」

 

「っていうか前より凄くなってね?」

 

 スバルとフカヒレも開いた口が塞がらないといった感じだ。

 

 

「す、凄い!めっちゃ凄いで!!」

 

「対馬……あんなに凄かったべか?」

 

「前より強くなてるネ……」

 

 

「う、嘘だろ!?鉄とまともに渡り合ってるぞあの2年!!」

 

「やっぱり俺の予想は正しかった!!いやそれ以上だ!!」

 

 

「くー……すごい……」

 

「く、鉄先輩と互角、だと……か、勝てないはずだ……あれ程実力の相手では」

 

「嘘……あれが、対馬……なの?」

 

 

「凄い……あれが空也の言ってた例の友達?」

 

「うん、しかし対戦相手も凄いな……(あ、錬達も二人を凝視してる)」←解説席から帰ってきた。

 

 

 

 そしてリングが取り払われ、文字通り大地の上で二人は再び構える。

 

「今度はこっちから行くぜ!!」

 

 レオが動き乙女に掴み掛かり脇腹に膝蹴りを入れる。

 

「ぐっ……この程度で!!」

 

 即座に乙女も反撃に移り、レオと同じように相手の肩をつかんで脇腹に膝蹴りを入れる。

「チッ……根競べか!?上等!!」

 

 そのまま互いに相手の脇腹に蹴りを入れ合う。この状態になれば先に体勢が崩れたほうが一気に不利になる。

 

「オラァッ!!」

 

「フンッ!!」

 

 互いの膝が脇腹に何度も叩き込まれる。気で防御しているとはいえ確実にダメージは蓄積されている。

 

 

「両者一歩も引きません!っていうかさっきから蹴りが入る度に鈍器で殴ったような音が聞こえるのですが二人とも骨は大丈夫なのか!?館長、この勝負どう見る!?」

「力は鉄、スピードによる鋭さは対馬に分がある。これではどっちが先に体勢を崩してもおかしくない」

「つまりこれは体力の削りあい!果たして先に崩れるのはどっちだ!?」

 

 

「こ、のぉぉぉっ!!!!」

 

「喰らえぇぇぇっ!!!!」

 

 両者フィニッシュと言わんばかりの渾身の一撃が双方に叩き込まれる。

 

「グッ……クソ……!」

 

「これ程とは……だが、貰ったぞ!!」

 

 体勢が二人同時に崩れる。しかし僅かにレオの方が深く崩れ、そこを狙って乙女が逸早く体勢を立て直し、レオに蹴りを繰り出す。

 

「嘗めるな!!」

 

 だがレオも負けてはいない。乙女が蹴り繰り出すと同時に足に力を入れて無理矢理な体勢のまま乙女に体当たりした。

「グゥッ……抜かった、お前のスピードを甘く見ていた」

 

「乙女さんこそ、とんでもないパワーだ。後一瞬でも体当たりするのが遅れていたらマジでやばかったよ」

 

 両者ダメージはほぼ同じ。もはやこの戦いの勝者は誰にも予想できない……。

 

 

 

レオSIDE

 

 取っ組み合いは取り敢えず引き分け……ま、ただの蹴り合いで決着がつくなんて思ってないけど。

 

「そろそろ本気で行くぜ」

 

「ああ、私もだ」

 

 身体全体に気を巡らせ、全身(特に手を重点的に)を強化する。

 

「《メガスマッシュ!!》」

 

「《波動光弾!!》」

 

 同時にお互いの掌から気の塊が撃ち出され、ぶつかり合う。

互いに押し合う俺の気と乙女さんの気。しかしそれを余所に俺達は再び突撃する。

そして弾が相殺し、消えるのと同時に俺と乙女さんは再び接触した。

 

 

 

NO SIDE

 

「《獅子王乱舞!!》」

 

「《千烈乱舞!!》」

 

 レオの拳が、乙女の脚が、目にも留まらぬ速さでお互いに襲い掛かる。

ある一撃は相手に打ち込まれ、また一撃は防がれ、相殺し合う。

 

 

 殆どの観客達にはレオと乙女の手足は捉えきれずいつの間にか二人共傷が増えていくように見えていた。

 

「ぜ、全然見えねぇ……二人ともどんだけ速ぇんだよ!?」

 

「村田!お前鉄先輩と同じ拳法部だろ?あの二人の動き分かんないの!?」

 

「分かる訳無いだろ!!あの二人の戦いは僕達の常識なんてとっくに超越しているんだぞ!!」

 

「対馬……何であの時……」

 

 

 

レオSIDE

 

「ハァァァァーーーー!!!!」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 そのまましばらく殴り合い続ける俺達、そろそろフィニッシュをかけるか……。

 

「行くぜ!《修羅旋風拳!!》」

 

 渾身の一撃を繰り出した。

 

「!?」

 

 しかし俺の狙いとは裏腹に乙女さんのバックステップで俺の一撃はかわされてしまった。

クソッ、ミスったか!?

 

 

 

乙女SIDE

 

 レオの一撃を避け、私は好機とばかりに手に気を集中させる。

 

「《地走流弾!!》」

 

 地面に拳を殴り、地を這う気弾を飛ばす。

 

「ヤベェ!」

 

 あわててレオは上空へ飛び上がって回避する。だがそれこそが私の狙いだ!!

 

「今だ!!」

 

「!?……しまった!!」

 

 いきなり飛び上がった状態では(たとえ気を使用しても)急な方向転換は不可能!そこさえ狙えば確実に当たる!!

 

「喰らえぇぇ!!《爪嵐撃!!》」

 

 両手を合わせ全身を錐揉み回転させて突進する。

狙いは完璧、回避は不可能だ!!

 

「《爆風障壁!!》」

 

「な!?」

 

 突然レオが腕と体を同時に捻り、直後に竜巻がレオの体を守るように包み込む。

 

「くっ、その程度の竜巻で!!」

 

 私は竜巻に真正面から突撃するが軌道がずらされてしまう。

 

「クッ……」

 

 それでも私は攻撃の手を緩めず、必死に爆風に抗う。

 

「ダァアアアアア!!!!」

 

「グッ!」

 

 そして私の体がレオを通り過ぎようとした時、私の手はレオの脇腹を掠めた。

 

「ガハッ!?」

 

 だがレオも擦れ違いざまに私に膝蹴りを入れてきた。

お互いダメージで追撃が出来ず、そのまま地面に着地し、一旦距離を置く。

 

「相変わらずとんでもないパワーだ。正直甘く見てたよ」

 

「貴様こそ大した抜け目無さだ。ここまで腕を上げていたとはな」

 

 ここまで互角とは……。

 

(こうなったら……)

 

(使うしかない、この日のために編み出したあの技を!)

 

 

 

NO SIDE

 

 覚悟を決め、睨み合うレオと乙女。両者とも気を高め、全身に力を込める。

 

「見せてやるぞ、私のとっておきをな」

 

 先に動いたのは乙女だ。

 

「…………」

 

 乙女の身体中の気が一度静まる。しかしその姿はどこか凄味がある。

 

「ハアアアアアァァァァ!!!!」

 

 そして乙女がその気を開放した時、凄まじい覇気と共に空気が震え、乙女の身体は蒼い気に包まれる。

 

「《鉄流奥義・滅式!》」

 

 鉄流奥義・滅式……それは気を爆発的に高め、全身を極限まで強化する鉄家の奥義!

 

(最も今の私では戦闘時では大した時間は維持できない。だからこそ次の一撃で決める!!)

 

 乙女は静かにレオを見据え、そして構える。そんな乙女に対してレオは冷や汗を流しながらも身構え、気を高める。

 

「行くぞレオ!!」

 

「ああ、来いよ!!」

 

 言い終わると同時に乙女はレオに駆け寄る。

そしてここで遂にレオが動いた。

 

「《気掌旋風波!!》」

 

 乙女目掛けて繰り出される爆風にも近い竜巻。

 

「無駄だ!今の私にその技は通用しない!!」

 

 しかし乙女の勢いは全く緩まない。竜巻など意に介せずレオに迫りくる。

 

「これでいいんだ!!」

 

 しかしレオの狙いはそこではない。レオは突然駆け出し自らが生み出した竜巻の中に飛び込んだ。

そして飛び込むと同時にありったけの気を足に集中させ錐揉み回転する。

竜巻による風圧とレオの回転、この二つが組み合わされた相乗効果によってレオの体はすさまじい破壊力を持った弾丸となる。

 

「「勝負!!」」

 

 レオと乙女……凄まじい破壊力を持った至高の技を携えた両者が遂にぶつかり合う!!

 

「うぉおおおおおおおーーーーーー!!!!《蒼天空烈弾!!!!!》」

 

「喰らえぇえええええーーーーーー!!!!《滅・真空鉄砕拳!!!!!》」

 

 

 二人の肉体がぶつかり合ったその時、会場に凄まじい風圧と閃光が走った…………。


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