レオSIDE
戦いが終わった後、俺と乙女さんは保健室に担ぎこまれた。
今頃校庭では閉会式が行われているだろう。
「二人とも全身打撲で擦り傷と痣だらけ、おまけに肋骨何本か折れてるわ……あんた達よくココまでやれるわね」
「「すいません……」」
保険医の先生に呆れ顔で睨まれ、俺達は謝罪するしかなかった。
「対馬さん、お客様ですわ」
説教を覚悟していたところに祈先生登場。ナイスタイミングだ。
でも客って誰だ?
「ずいぶんズタボロになっちまいましたね、先輩」
「大和!?」
俺より少し年下の少年がビニール袋片手に保健室に入ってくる。
こいつの名前は直江大和。以前ストリートファイトで知り合った俺の後輩だ。
ちなみに格闘スタイルは中国拳法で鉄爪を武器として使っている。
「お前も見に来てたのか?」
「はい、しっかり見させてもらいましたよ。……っていうか俺だけ修行に呼ばないって酷くないですか?」
「悪ぃ、でもお前新薬が完成直前で動けなかっただろ?」
大和の言葉に苦笑いしつつ言い訳する。コイツにはファイター以外に薬剤師も目指していて薬物の知識はプロ顔負けだ。
コイツの師匠の本業も薬剤師だからな……。
「まぁ、そうですけどね……それはともかく、傷薬持ってきましたよ。きっちり二人分」
「マジか!?そいつはありがてぇ!!」
コイツの調合する特製傷薬は効果抜群。あっという間に治っちまうからな。
「二人分って、私の分もか?」
今まで蚊帳の外だった乙女さんがようやく声を出す。
「当たり前です。ココに湿布と一緒に置いていきますからちゃんと使ってくださいよ。骨折の方は先輩達なら毎日牛乳飲んで煮干でも食ってりゃ一ヶ月もせずに治るでしょうし。まぁ、安静にしておくことですね。それじゃ俺はこれで」
「え?金取らなくていいのか?」
「今日は無料でいいですよ、良い試合(もの)見せてもらいましたから」
それだけ言って大和は去っていった。
「あの男、かなり出来るな。気で分かったぞ」
「うん、アイツの実力は相当なもんだよ。来年から闘技場に登録するらしいから次期スーパーウェルター級チャンピオンは確実って言われてる」
「そうか、一度闘ってみたいものだ」
そう言って乙女さんは大和の置いていった傷薬と湿布に手を伸ばす。
「あ!乙女さんちょっと待って!!」
「え?」
俺が止めようと声を上げたのも空しく乙女さんは傷薬を自らの傷口に塗ってしまった。
「ひぎぃぃぃっぃぃぃぃぃっ!!!?!?!」
あ〜あ、遅かった。
「な、何だこれは!?目茶苦茶染みるぞ!!」
「あー、やっぱりか……アイツ、物凄いドSだから……わざと染みるように作って……」
「あ、あの男…………次に会った時は絶対蹴っ飛ばす!!」
大和の奴、よりによって乙女さんから恨みを買うなんて……なんて命知らずな奴……。
余談だが乙女さんが悲鳴を上げた頃、近くで「ケケケケ」と笑う少年を誰かが見たとか見なかったとか…………。
ひとまず薬を塗り終え(かなり染みたけど)、俺達は外に出た。
空は夕焼けで赤く染まり、校庭では体育武道祭の締めであるフォークダンスが行われていた。
「もうフォークダンスか、レオは行かなくていいのか?」
「相手いないし」
女子は殆ど誰かとペア組んでて残ってるのは男だけ、男同士で踊るとか絶対無理。
「なら私と踊るか?」
「へ?」
な、なんと意外な申し出。
「い、良いの?俺で」
「ああ、お前となら全然構わないさ」
「それじゃあ……」
俺は乙女さんの手を取って校庭のほうに向かう。
「俺こういうの慣れてないから下手かもしれないよ」
「心配するな。私も経験など殆ど無い」
軽口を叩きあいながら音楽にあわせて踊りだす。
……ヤベ、何か妙に意識して顔が赤くなって思わず目を背けてしまう。
「れ、レオ……私とじゃ嫌だったか」
俺の反応を見て乙女さんがそんな事を言った。
「い、いや全然!」
「そ、そうか?でも私は、手とか肉刺(まめ)だらけでごつごつしてるし、あんまり女らしくないし……」
「そんな事無いよ、その……こうやってると乙女さんだって十分女の子らしい所があるってのがわかるし、普段だって……雷苦手なところとか……」
「そ、それは言うな!!」
足踏まれた……。
「あはは、ゴメン」
「まったく……でもまぁ、そういう風に言ってくれるのは嬉しいぞ。ありがとう」
顔を真っ赤にしながら乙女さんはぶっきらぼうに礼を言った。
「顔赤いけど、大丈夫?」
「こ、これは違う!その……夕日の所為だ!お前こそ真っ赤ではないか!」
「お、俺のも夕日の所為だよ!」
「そ、そうか……そうだよな」
無理矢理納得させるように乙女さんは会話を締めくくる。
「…………でも、こうやってお前と踊るというのも何だか新鮮だな」
「うん、こういうのも悪くないね」
「そうだな」
こんな感じにいろいろありながらも俺達はダンスを楽しんだ。
フカヒレSIDE
畜生、レオの野郎!乙女さんとダンスとか羨まし過ぎるぞ!!
「ち、畜生……対馬め、鉄先輩の手なんか握りやがって……くそ、泣かない、泣くもんか!」
そして俺は何故か余ってしまった村田とペアを組む始末。
誘おうとした姫は佐藤さんとペア。椰子は男とペアになるのは嫌だとかで近くに居た女子と(ほぼ無理矢理)組んで、西崎さんは近衛とペア……カニですらスバルと組んでいるのに!!
「何で俺は村田(こんなの)と組まなきゃいけないんだ!!」
「こっちの台詞だ!!というかさっきから暴れるな!!ちゃんと合わせろ!!」
「うっせーよ!!お前にこの気持ちが解ってたまるか!!」
「うわっ!ば、馬鹿!!そんな風に動くと」
「どわぁぁぁぁっ!!」
俺たちは互いの足に躓いてそのまま転んでしまった。
『ぶちゅっ』
!!?!?!?!?!?
(………………こ、この唇に当たる感触……ま、まさか?)
おそるおそる目を開ける……そこには村田の顔が。
「「ぎぇぇぇぇぇええぇぇっぇぇぇぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」
鮫氷新一、通称フカヒレ
村田洋平、通称2−Aの理性を持った狼
これが二人のFirst Kissだった。
「「おえぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」」