つよきす 愛羅武勇伝   作:神無鴇人

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変わる予兆

レオSIDE

 

 体育武道祭での乙女さんとの壮絶な戦いから3日が経った。

骨折の方はまだ療養中だが、他の傷は大和特製の傷薬のおかげであっという間に治り、俺はいつも通りカニと一緒に学校に登校(もちろん遅刻ギリギリで)したわけだが……。

 

「鉄先輩、おはようございます!!……あ、あのこれの手紙読んでください!!」

 

「あ、ああ……」

 

 登校してまず見た光景が男女問わず多くの手紙をもらって難儀している乙女さんの姿だった。

 

「うわ、乙女さんモテモテ……」

 

「半数は同性だがな……」

 

 カニが唖然とした感じに声を漏らす。

乙女さんが貰った手紙の枚数はすさまじく、既に紙袋一杯の量が……。

……何か、面白くねぇな。

 

「おいレオ、そのポケットと鞄一杯の手紙とか包み紙は何だ?」

 

 そんな事を考えていると乙女さんに呼び止められた。

 

「え、これ?さっきいろんな女子から貰い続けて……」

 

 ちなみに手紙の内容はまだ読んでいない。包み紙のほうはクッキーなどのお菓子類のようだが……。

 

「まったく、手紙はともかく菓子類は持ち込み禁止だというのに……」

 

「あ、あの、対馬君!」

 

 乙女さんと会話していると突然背後から声をかけられた。

誰だっけ、この女の子?たしか隣のクラス(D組)の娘だったような……。

 

「こ、この前の体育武道祭凄く格好良かったよ!!」

 

「え?あ、ああ……ありがとう……」

 

「じ、じゃあね!」

 

 女の子はそのまま顔を真っ赤にしながら逃げるように校舎へ走り去ってしまった。

 

「ほ、ほぅ……お前も結構モテているではないか」

 

「え、そう?」

 

 あれそういう意味なの?いや、そんなまさか……。

 

「どう見たってそうだろうが!」

 

「ケッ、どーせ体育祭の活躍で出る人気なんて一時でしかないんだよ!1ヶ月もすりゃレオの人気なんてあっという間に逆戻りに決まってるもんね!」

 

 ……な、何で二人してそんなに不機嫌になるんだよ?

 

「まぁいい、菓子類は生徒会室の方で放課後まで保管するから校門を閉めるまでここで待ってろ」

 

「うん」

 

 こうして俺は本鈴まで身柄を拘束されることになってしまった。

 

 

 

NO SIDE

 

 レオが生徒会室へ行っている頃、2−Cでは……。

 

「おいおい、何だよこれ!?」

 

 教室に入って早々フカヒレがある一転を指差して騒ぎ立てる。それはレオの机だ。

レオの机の引き出しの中には物凄い量の手紙と包み紙が詰め込まれていた。

 

「殆どファンレターの類だろうな、あれだけ活躍すりゃ当然だ。この分だと下駄箱にもぎっしりだな」

 

 かく言うスバルも何枚かファンレターを貰っていたりする。

 

「不公平だぁ!俺達は同じ対馬ファミリーじゃねぇか!なのにこの差は何だ!?」

 

「オメーは元々女子から人気なかっただろーが」

 

「それにレオは元からモテないって訳じゃないしな」

 

 悔しそうに騒ぐフカヒレをカニとスバルの冷静な突っ込みで嗜める。

 

「フカヒレ、オメェの机にも何通か手紙入ってるべ」

 

「何!?それを早く言えよ!!」

 

 イガグリからの報告にフカヒレはすぐさま自分の席に直行。そして引き出し中をのぞく。

 

「おお!本当に手紙来てる!!しかもピンクの封筒にハートのシール!!遂に我が世の春が来たぁぁ!!」

 

 その台詞はCV的にスバルが言うべきであるがそんな事フカヒレは気にしない。

嬉々として手紙の封を開ける。

 

「フカヒレにラブレターなんて……ありえねぇべ。何かの間違いだ!!」

 

「いやぁ〜遂に俺も彼女持ちか……悪いなクラスのモテない男諸君!」

 

 そして手紙を読み始めるフカヒレ。しかし……

 

 

『拝啓・鮫氷新一様

 

 俺達と一緒に肉踊る官能の世界へ逝こうぜ!!

 

                     筋肉同好会一同』

 

 

「おいおい、フカヒレ固まってんぞ」

 

「うわ……見ろよこの手紙」

 

 カニがショックのあまり硬直するフカヒレの手から手紙を奪って周囲の見せびらかす。

 

「これって原因は絶対あの事故やろうなぁ……」

 

「男同士でキスしちゃたからネ……」

 

「フカヒレぇ……流石に同情するべ」

 

 クラス中から同情と哀れみが篭った視線がフカヒレに送られる。

 

「やめろぉ!そんな目で俺を見んじゃねぇよ!!同情するなら愛をくれ!!特に女子!!」

 

 しかしそんな同情もフカヒレのこの一言で一気に消え失せ、女子達はドン引きしてフカヒレから離れていく。

 

「う、うわぁぁ〜〜〜ん!!探さないでくれぇ〜〜〜〜!!!!」

 

 フカヒレは泣きながら走り去っていった。

 

「皆さ〜ん、HRの時間ですわ」

 

 フカヒレと入れ替わりに祈が入室してきた。

 

「祈センセ〜〜、フカヒレの奴心に大ダメージを受けて逃げちゃいました」

 

「あらあら、それは大変ですわ。ですがフカヒレさん一人のために貴重な時間を無駄にしたくはありませんので、このままHRを始めましょう」

 

 さりげなく酷い事を言う教師である。しかし誰も文句は言わなかった。

 

 

 

乙女SIDE

 

 貰った手紙や菓子を生徒会室に保管し終え、私はレオを一足先に教室に行かせた。

 

「まったく……よくもまぁこんなに貰ったものだ……」

 

 この様子じゃ多分教室や下駄箱の方にも……。

 

「……面白くない」

 

 何故か知らないが変な不快感が込み上げてくる。

……意識、しているのか?レオの事……。

 

「ん?」

 

 レオへの手紙の中に見知った名前を見つけ、それに目を向ける。

 

『日上順子』

 

アイツもか……今日の練習いつもより厳しくしてやろうか?

 

 

 

レオSIDE

 

 ただいま昼休み中。俺は今の状況は……。

 

「対馬!鉄先輩との勝負めっちゃ凄かったで!!どこであんなに鍛えたん?」

 

「対馬ぁ……オメェ本当はスゲェ奴だったんだな……何だか急にオメェが遠く感じるべ」

 

「対馬先輩!今日からは兄貴と呼ばせてください!!」

 

「対馬君……私の手紙呼んでくれた?」

 

……質問攻めという名の地獄だ。

 

(…何でこうなった?)

 

 スバル曰く「あれだけ活躍すれば当たり前」との事だが嬉しい反面、結構キツイ……。

 

「ねぇねぇ対馬君、鉄センパイの肌に触った感想は?」

 

「何で姫まで質問攻めに参加してるの?」

 

「面白そうだから♪」

 

 …………こういう愉快犯もいるから困る。

乙女さんはどうなんだろ?やっぱ俺と同じように質問攻めか?いやでも乙女さんの場合元々強い事は知れ渡っていたからそれほどでもないか?

 

「対馬……」

 

「ん?」

 

 聞き覚えのある声がして振り向くとそこに居たのは……。

 

「近衛か……何だ?」

 

 まさか近衛から話しかけてくるなんて、珍しい事もあるもんだ。

 

「アンタに話があるの……」

 

 

 

乙女SIDE

 

 私は届いたファンレターの処理に追われていた。

自分に送ってくれた手紙だ。無碍に扱うわけにもいかないし熱心に書いてくれた者やある程度親しい者には返事はキッチリ書かなければならない(というかそうしないと私の気が済まない)。

 

「ふぅ……これで大体半分ぐらいか」

 

 ひと段落着いたところで一息吐いて廊下に出る。しかしどいつもコイツもよくもまぁ、こんなに……。

 

「ん?」

 

 別校舎の方にレオの姿を見つける。何故か近衛も一緒に歩いて屋上の方へ向かっている。

屋上……二人きり……まさか告白!?

いやいや、何を不埒なことを考えているんだ私は……。それに従弟(おとうと)に彼女が出来るなら姉として祝福してやるべきだろう。

 

(だ、だが……いや、でも……何なんだこの胸騒ぎと不安は!?私がレオを意識しているとでも…………)

 

 心の中で否定しようとするが出来ない。逆に合宿の時の事故(キス)と体育武道祭でのフォークダンスを思い出してしまって顔が熱くなる。

 

(そ、そういえば近衛は私を慕っていたみたいだし、武道祭の一件でレオの事を変に恨んでいるのかもしれない。もしそうだったら私がフォローしないといけないな。これは盗み見なんかじゃなくて従弟の心配だ)

 

 心の中でかなり苦しい言い訳をしながら私はレオ達の後を追い、屋上への入り口から彼らの様子を伺うことにした。


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