つよきす 愛羅武勇伝   作:神無鴇人

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花嫁修業と初デート

乙女SIDE

 

 私、鉄乙女にはある重大な悩みがある。

え、それは何かって?

 

 

容姿……違う。これでも平均以上はあると密かに自負している。

金銭……それも違う。実家からの仕送りは節約できているし偶にバイトもしているのでコレといった不自由は無い。

彼氏(レオ)との関係……それは絶対ありえない!!今でもレオとは毎日最低3回は(実際はもっと)キスしている!!

夜の営み……それも絶っっっっっっっっ対ありえない!!!!レオには抱かれるたびに毎回イかされて…………って何を言わせる!!

機械音痴……い、一応それも悩みではあるが、今は関係ない。

 

ではいったい何か?それは……

 

 

 本に書いてあった通りの時間になったので私は恐る恐る鍋の蓋を取る。

 

「うぐっ!?こ、この臭いは……」

 

 出てきた物は最早原料の名残も無い真っ黒な物体。

 

「く、くそぉ……」

 

 肉じゃが作り、今日もまた失敗……これで通算44回連続失敗だ(肉じゃが以外の料理を含めると3桁は軽く超える)。

 

 

 私の悩み…………それは料理が全くダメという事だ。

 

 

 11日後の7月17日にはレオとの初デートが控えている。

友人から聞いた話ではこういう時の必需品は手作り弁当だと聞いて張り切って練習してはいるがこのザマでは……。

こうなったら、多少プライドを捨ててでも……。

 

 

「……と、言う訳だ。頼む椰子!私に料理を教えてくれ!!」

 

 年下に教えを請うのは気が引けるが、最早そんな悠長なことは言ってられない。

 

「はぁ……事情は大体分かりましたが、何故私なんですか?」

 

「この前の合宿で自炊した時お前の作った食事は凄く美味かったからな。それに伊達ではレオに知られてしまう可能性がある。当日まで秘密にしておきたいからな」

 

「まぁ、そこまで真剣に言うなら構いませんけど、教えるからには半端な真似はしないし徹底的にやりますよ。それでも良いなら」

 

「ああ!全然構わない!!むしろそうしてくれ!!」

 

 必ずこの欠点を克服するんだ!!そしてレオに美味い弁当を作ってみせる!!

 

 

 

レオSIDE

 

 付き合い始めて2週間近く間が空いて初デートは遅くね?なんて思われるかもしれないが俺達は学生である。

この時期はテスト勉強で忙しいし、乙女さんは拳法部主将の仕事がある。

俺は俺で鳶職のバイトと闘技場でのファイトマネーで初デートと夏休みの軍資金作りに奔走している(だが家では乙女さんとはキッチリいちゃついてる)。

……それにしても鳶職のおっさん達が俺のこと尊敬するような眼差しで見てくるんだが

、一体何がどうなってんだ?

 

「なぁ対馬の兄ちゃんよ、お前さんこのままウチの会社に就職しねぇか?兄ちゃん程この職向いてる奴いねぇよ」

 

 おいおい、勧誘かよ……俺はただ金鎚(かなづち)無し(というか必要無い)であちこち跳び回って釘を打ってただけなのに。

勿論丁重に断ったよ。だって俺まだ学生だし。

 

 

 

乙女SIDE

 

 さて、ここからは私の花嫁修業の風景になるわけだが……。

 

「皮剥きと米握る事しか出来ないんですか、あなたは?」

 

「す、すまん……」

 

 学校が終わった後椰子の家で猛特訓……なのだが椰子は私の余りの低レベルさに呆れ果てている。

 

「ハッキリ言いますよ。今のあなたの作る料理は生ごみを通り越して有害物質です」

 

「うぐぅっ……そんなハッキリと」

 

「事実です。異論は認めません」

 

 そんなに酷いのか?ためしに私は先ほど自分で作った料理を少し口に含んでみる。

 

「ふぐぅっ!!?ゲホッ、ゲホッ!!」

 

 な、何だコレは!?不味い!不味過ぎる!!

 

「お解かりいただけましたか?」

 

「……しっかりと」

 

 確かにコレは毒だ……。

私はこんなものしか作れないのかと思うと泣きそうになってくる。

 

「とにかく、私が教えるからにはキッチリ美味しいと思える料理(もの)になるまで一切手は抜かないし、それが出来るまであんたにも敬語は使わない。それで良いな?」

 

「た、頼む……こんなんじゃ嫁に行けない」

 

「本格的な指導は明日からやる、今日はもう帰れ」

 

 こうして私の椰子によるスパルタ料理地獄は始まった。

ココから先はダイジェストだ。神無の奴がそこまで細かく書ける自信が無いのでな。

 

 

7月7日

 

「まな板ごと包丁を切るな!!この馬鹿力が!!」

 

「うぅ……すまない」

 

「キッチリ弁償してもらうから」

 

 

7月8日

 

「だから力任せになるなって言ってんだろ!!料理を戦場と勘違いしているのか!?」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 

7月9日

 

「今何を入れた?」

 

「いや、隠し味を……」

 

「素人がそんなものを入れるな!!」

 

 

7月10日

 

「何で皮ごとなべに入れてる?」

 

「いや、火にかければ問題無いだろ」

 

「問題大有りだ!!」

 

 尻を思いっきり蹴られた……少し痛い。

 

 

7月11日

 

「塩入れすぎだ」

 

「いや、この時期は塩分を消費するから多めに……」

 

「どこの世界に瓶一本分全部入れる奴が居る!!」

 

 

7月12日

 

「何とか生ごみ程度にはマシになってきたけど、まだまだ」

 

「ぐぅ……あれだけ努力して生ごみレベル……」

 

 流石に物凄く凹むぞ。

実家に居た頃弟に厳しく接して反発されたが……今更になって弟の気持ちが解ってしまった。

琢磨、すまない……。

 

「教育は鞭だけじゃダメということか」

 

「何今更そんな事理解してるんだか。それに私がやってることは教育じゃなくて指導と矯正だから。やめたかったらいつでもどうぞ。所詮鉄先輩の料理に欠ける情熱なんてその程度って事ですから」

 

 ぐっ……こ、コイツ…………絶対やめるものか!!

 

 

7月13日

 

「もっと細かく気を配れ!アンタは大雑把過ぎるんだ」

 

「わ、分かった!」

 

 

7月14日

 

「ようやく見かけだけはまともになってきたけど、味付けがまだ疎か。今日と明日で仕上げるぞ」

 

「ああ!!」

 

 

7月15日

 

「あともう少し。不味くは無いけど美味しいという程でもない」

 

「よ、よし!!」

 

 

そして7月16日

 

 遂に特訓最終日を迎えた。

私は意を決して完成した料理を椰子に差し出す。

椰子は無言のままそれに箸で掴み、口に運んだ。

 

「ど、どうだ?」

 

「……自分で食べてみてください」

 

 そう言って椰子は私の方に箸を差し出す。

 

(ま、まさか不味いのか?)

 

 不安に駆られながらも私は恐る恐るその料理を口に含む。

 

「!?…………………………………………美味い」

 

 普通に美味しい。椰子や伊達には到底敵わないが十分食卓に出せるレベルだ。

 

「ここまで出来るようになればもう十分ですね。まぁ、おめでとうございます」

 

「あ、ありがとう………うぅっ」

 

 思わず泣いてしまった。

あれだけ料理がダメでトーストすら作れなかった私が……こんなまともな料理を……。

 

「な、何も泣く事はないと思いますけど、まぁ……せいぜいデート頑張ってください」

 

「ああ、ありがとう椰子」

 

 これで弁当対策は万全。かならず美味い弁当を作ってみせる!!

そ、そして……で、出来ることなら、『アレ』を……。

 

 

 

レオSIDE

 

 いよいよデート当日。この日は天気も快晴で文字通り絶好のデート日和だ。

しかし……やばい、柄にもなく緊張してしまう。

 

「お、おまたせ、レオ」

 

 私服に着替えて準備が出来た乙女さんが姿を現す。

ん?何か良い匂いが……。

 

「香水つけてるの?」

「あ、ああ。変か?」

 

「いや、全然。むしろ良い匂い」

 

 乙女さんなりに精一杯おめかししたんだろうなぁ……。そう考えると結構嬉しかったりする。

 

「それじゃあ行こうか」

 

「ああ」

 

 少しぎこちないけど手を繋ぎながら俺達はデートに出発した。

 

(あれ?何か今日の乙女さんの手、切り傷とかが多いような?)

 

 

 最初に向かったのはデートの定番であるゲーセンだ。

機械音痴な乙女さんだが流石にクレーンゲームやクイズゲームぐらいは出来るのでまったく問題なく楽しめる。

 

「なるほど……この技は意外と実戦でも使えるな」

 

 意外と乙女さんは格ゲーにも興味深々だった(プレイしたのは俺だけど)。

他に特筆すべき事といえば……。

 

 

『カキィィーーン!!』

 

 

「レオ見てみろ、またホームランだぞ!」

 

 乙女さんがバッティングマシーン(店内最高速の剛速球)で全球ホームランという記録をたたき出した事ぐらいかな?

ちなみにホームランを決めてはしゃぐ乙女さんは滅茶苦茶可愛かった。

すまん空也、錬……今までお前らの事を密かにシスコンって馬鹿にしてたけど、もう俺にそんなこと言う資格は無い。姉属性は最高だ!!

 

 

 そして昼食の時間となり、ベンチに座って昼飯を食うことになったのだが……。

 

「れ、レオ!こ、これ……」

 

 何と乙女さんが弁当を出してきた!?

 

「お前のために早起きして作っておいたんだ」

 

 そう言って蓋を開けるとそこにあったのは……。

 

(ふ、普通に完成した弁当、だと?)

 

 嘘だろ……消し炭料理しか作れなかった乙女さんが……。

 

「椰子に教わって、やっとまともに作れるようになったんだ。だ、だから、その……食べてみてくれ!」

 

 ……そうか、だから手に傷跡が。

それに年功序列とかに拘ってるのにプライドを捨ててまで俺のために……。

 

(ここまでされて食わないとか、ありえねぇだろ)

 

 たとえどんな味でも俺のために努力してつくってくれたものを無碍にするなんて出来っこないからな。

 

「(パクッ)…………あれ?美味い……マジで美味い!!」

 

「ほ、本当か?」

 

「うん、全然イケるよ!!」

 

 これが今の今までおにぎりしかまともに造れなかった人の料理とは思えない程美味い!

 

 

 

乙女SIDE

 

 よ、よかった。プライド捨てて椰子に教えてもらった甲斐があった!よ、よし……今こそ『アレ』を……。

 

「ほ、ほらレオ……口を開けろ」

 

「へ?」

 

 私の言葉にレオは間の抜けた表情を見せる。

クッ……この鈍感め。

 

「お、お前な!こういう時にやるべき事は一つしかないだろ!!」

 

「え、えぇ!?」

 

 ようやく察したらしくレオは一気に赤面してしまった。

 

 

 

レオSIDE

 

 あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!

乙女さんが弁当を作ってきてそれが予想外にも美味くて、その上カップルの定番である『あーん』をしてくれるだと!!

幻覚とか催眠術とかの類じゃない、全くの真実であり現実!!

 

「ほ、ほら!は、早く『あーん』ってしろ!!」

 

「ちょ、え?ま、マジで!?っていうかココ人前」

 

「そ、それは……私だって恥ずかしいが……で、でもお前が相手なら、これくらい……」

 

 ちょ…その恥じらいながらの上目遣いは反則だろ!!ただでさえ嬉しいのが余計嬉しくなって恥ずかしいという感情が消し飛んでしまうだろ!!

も、もう無理……外聞なんてもうどーでもいい。

 

「じゃ、じゃあ……あーん……(パクッ)。目茶苦茶美味いよ」

 

「ほ、本当か!?」

 

 そしてこの嬉しそうな顔。

も、もうやめてくれ!俺の精神的ライフはもう0だぞ!!

 

「じゃあ……今度は私に、してくれるか?」

 

 グハァァッ!!!!お、俺……幸せすぎておかしくなりそうだ。

このランチタイム……俺は無事でいられるのか?

嗚呼、こんな光景フカヒレにでも見られたら俺一生恨まれるなぁ(恨まれたところで大した問題はないけど)。

 

 

 

 まぁ、その後は買い物とかで色々と楽しんで、デートの最後の締めくくりはこれまた定番の観覧車(もちろん隣り合わせで座ってる)。

 

「普段暮らしてる町でもこうやって見るとなかなか絶景だな」

 

「うん」

 

 今は夕暮れだから夜景とはまた違った風情があってこれがまた良い。

……渡すなら、やっぱ今だよな?

 

「乙女さん、コレ」

 

 俺はこっそり買っておいたある物を乙女さんに手渡す。

 

「え?これ……ネックレス?」

 

 それはシロツメクサ(花言葉は約束)を象った装飾品が付けられたネックレスだ。

 

「初デートの記念って事で、俺からのプレゼント」

 

「い、良いのか?」

 

「うん。最初は思い切って指輪にしようかなって思ったんだけど、俺はまだ学生だし、だから責任取れる歳になった時に改めて指輪を渡す印って事で」

 

「レオ……」

 

 俺の言葉に乙女さんは頬を赤く染めながら俺に寄り添い、手を握ってくる。

 

「私だってまだまだ未熟だ。こんな私だけど、これからもずっと一緒に居てくれるか?」

 

「勿論」

 

「ありがとう。……これからもよろしくな、レオ……」

 

 寄り添ってくる乙女さんとキスを交わし、手を握り合う。

そのまま観覧車が下に着くまで俺達は寄り添い続けていた。

 

 

 

 

おまけ

 

フカヒレSIDE

 

 やぁ、皆の心の友達、シャークこと鮫氷新一だ。

おいコラ、誰だフカヒレなんて呼んだ奴は!?あ、ゴメンナサイ、石投げないで。

 

 気を取り直してTake2、俺が今何してるかって?それは合コンの相手をイガグリと一緒に待っているんだ。

フフフ、スバルを餌に呼び出して(勿論スバル本人は呼んでない。呼んだら俺の存在が霞むから)数合わせでつれてきたイガグリを引き立て役にして女を落とす!!

まさに完璧な作戦(プラン)!!

しかし……

 

「えー、伊達君来ないの?じゃあ、や〜めた」

 

「私も〜」

 

「他の二人全然ダメダメだし」

 

 ち、畜生……なんでだよぉ〜〜〜〜!?

 

「泣くな、フカヒレ。ゲーセンでも行って憂さ晴らすべ」

 

 しかもイガグリに慰められて余計惨めだ。

畜生!こうなったら格ゲーで乱入して無限コンボで憂さ晴らしだ!!

 

 そして早速ゲーセンで憂さ晴らし開始!

小学生のガキが一人プレイで好い気になってる所に乱入してそのまま無限コンボだ!!

ガキは外で遊んでろバーカ!!

 

「おい、見ろよあいつ。ガキ相手にみっともねぇなぁ」

 

「本当だ、サイテー」

 

 へっ、何とでも言え。今日の俺はもうこれ以上落ちることも無い程にどん底なんだよ!

 

「ほ、ほら!は、早く……ってしろ!!」

 

「ちょ、え?ま、マジで!?っていうかココ人前」

 

 ん、何だ?聞き覚えがある声が……ってレオと乙女さんじゃねぇか!?

 

「じゃ、じゃあ……あーん……(パクッ)。目茶苦茶美味いよ」

 

「ほ、本当か!?」

 

 あ、アハ…アハハハハハハ!!!

俺は…………俺はこの期に及んでまだどん底に落ちてなきゃいけないのかぁーーーーーーーーーー!!!!??!?

 

「フカヒレェ……何でだろうな?オラ、何故か涙が止まらねぇべ!」

 

「俺もだ………」

 

「「ウォォオオオオオオオオオン!!!!」」

 

 俺達はお互いに肩を抱き合い思いっきり泣いたのだった。




今夜12時頃に18禁版を投稿する予定ですのでそちらも是非見に来てください。

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