???SIDE
この日をずっと待っていた。
これから乗り込む場所で手に入れるべきものは二つ。
母様の形見、地獄蝶々をこの手に掴み、私が地獄蝶々の所持者となる。
そしてもう一つ……私だけでなく、父様をも認めさせる才を持った強き男。
数ヶ月前の闘いから奴の顔が頭にこびり付いて離れない……その男とまた会える。
今でも思い出せるあの闘争心に満ちた力強い瞳。貪欲なまでに強さを求めるその精神。
そして強さの中に秘めた優しさ…………ハッ!?いかんいかん、私としたことがトリップしてしまった。
「フフ……待っていろ、地獄蝶々…そして対馬レオ!!」
私は必ず手に入れてみせるぞ!!
乗り込む場所……その名は竜命館!!
レオSIDE
本日は終了式。漸く1学期も終わりを告げて明日からは夏休みに入る。
つまり乙女さんと思いっきりイチャイチャ出来るって事だ!!
そう思うと教師達の長い言葉も祝福のファンファーレに聞こえてくるから不思議だ。
「チッ、浮かれやがって……」
「頭にくるぜ……友達に彼女ができるってのはよ」
カニとフカヒレは僻み全開だが、この際それは無視しても大丈夫だろう。
「お前らも夏休みなんだからもう少し嬉しそうにしたらどうだ?」
「その嬉しさを半減させてる本人が何を言うか!!」
「落ち着けよ、浦賀さん見てみろ」
スバルに促されて浦賀さんを見てみると…………
「ウチはもう終わりやぁ〜〜」
絶望の淵に立たされていた。
「何があったんだ?」
「あぁ、真名の奴テストで赤点取ったんだよ。しかも英語でさ」
ゲゲッ!よりによって祈先生の科目で……。
「かろうじて島流しは免れたけど、夏休みの半分近くが補習地獄になるんだって。アイツアホだぜ、祈ちゃんの科目で赤点なんか出しやがって」
「スバルみたいに部活補正があればまだ何とかなったのになぁ……」
なんというか……ご愁傷様です、浦賀さん。
さ〜て、もうそろそろ学校も終わるし、今日は生徒会の仕事も少ないし、どうしようか…………ッ!?
(これは……デカイ気が……近付いている?)
肉眼では見えない程の距離でも分かる程の気が二人分。
しかもその片方は館長とほぼ同等だと!?
(それにこの気……前にどこかで)
『ズガァァァァン!!!!』
俺がそう思っていると馬鹿でかい轟音と共に校庭にドデカイ軍艦が出現した。
乙女SIDE
人ごみを掻き分け、私は騒動の発端の下へ足を進めていた。何なんだ?大きな気を感じたと思ったら突然軍艦が現れるとは……。
それにあの艦……正確にはその中から感じる大きな気の持ち主二人、その片方に対して何故か言いようのない不快感を感じる。
まぁいい、今はあの軍艦を調べるのが先決だ。
「お、おい!誰か出てきたぞ!!」
軍艦の中から人影が現れる。透き通るような長い銀髪にやや釣り目だが整った顔つき、そして何より背中に背負った日本刀が一際目立つ女だ。
「地獄蝶々……まさか来て早々見つかるとは、私の運も捨てたものではないな」
女は私の持つ日本刀『地獄蝶々』を一瞥して不適に笑った。
「貴様、何者だ?」
「私は橘(たちばな)瀬麗武(せれぶ)、その地獄蝶々(かたな)を、貰い受けに来た」
刀を引き抜き、私を見据えながら構える侵入者、橘瀬麗武。
「断る、と言ったら?」
「力ずくでも手に入れるまでだ」
なるほど、分かりやすくて良い。
それにコイツから感じる不快感の正体を知る良いきっかけにもなる。
「出来るものなら……やってみろ!!」
地獄蝶々を抜くと同時に橘に接近、同時に橘も踏み込んだ。
「万物、悉く切り刻め!地獄蝶々!!」
「天上より赤く染め上げろ!曼珠沙華(まんじゅしゃげ)!!」
互いの一喝と共にすさまじい金属音が鳴り響き、私たち二人の持つ刀の刃はぶつかり合った……。
レオSIDE
俺が校庭に駆けつけた時、既に乙女さんは侵入者と闘っていた。
(やっぱり……彼女だったのか!)
突如校庭に現れた軍艦と少女には見覚えがあった。
まさか学校に乗り込んでくるとは……。
(とにかく一旦止めるか)
無粋と思いながらも、俺は二人の闘いを止めるべく、闘ってる二人の間に気弾を飛ばし、そのまま二人の間に割って入る。
「「!?」」
「乙女さん、橘さん、二人ともこの勝負少し待ってくれ」
「対馬か……久しぶりだな」
「レオ、この女と知り合いなのか?」
「うん、春休みの時にちょっとね……」
遡る事4ヶ月前、俺は春休みを利用して筏(イカダ)を使って武者修行の旅に出ていた。
当初の予定では適当な無人島(烏賊島)にテントでも張って野生の猛獣を相手に修行しようと思っていたのだが、この軍艦に遭遇し、ある条件と引き換えに居候させてもらっていた。
その条件とは艦の主の娘である橘さん、そして戦闘員達の訓練に付き合うスパーリングパートナーになれというものだった。
俺にとっても良い修行になる条件だったので俺は快諾し、それから暫くの間俺は春休みをこの軍艦で過ごした。
「とりあえず、ココに来た目的を説明してもらえますか?橘司令!!」
「フハハハハハハハハ!!!!」
豪快な笑い声と共に軍艦の天井を突き破って飛び出してくる漢が一人。
この軍艦の主にして松笠海軍司令官、通称『松笠の古狼』。そして橘瀬麗武の父親でもある男…………その名は橘幾蔵。
竜命館館長、橘平蔵の実の兄だ。
「久しぶりだな、対馬レ……」
『ズルッ』
「オォォッッ!!!?」
着地に失敗して幾蔵司令は盛大にこけた。
「こけた……」
「うん、こけたね……」
俺と乙女さんを含めた周囲は呆然とし、橘さんは頭を抑えている。
「こけてなぁーーい!!断じてこけてない!!」
そしてこの台詞だ。余計滑稽に見えるだろ、そのリアクションじゃ……。
「相変わらずだな、兄者」
お、館長登場。
「フン、貴様もな、愚弟よ」
「いずれ来るとは思っていたが、少々早すぎではないか?」
「儂(わし)とてそうは思ったが、少々予定が繰り上がってな」
何か勝手に話が進んでるし……。
「館長……話が見えないのですが、橘さん達は何をしにココへ?」
「それは私が言おう」
ココに来て橘さんが口を開く。かなり真剣な様子だ。
「私がココに来た目的は二つある。一つは既にその女に……」
「その女とは何だ。私には鉄乙女という名がある」
何か乙女さんの態度が妙に刺々しい……。
「……鉄には言ったが地獄蝶々を手に入れる事、そしてもう一つは……」
突然橘さんは俺を凝視してきた。え?何だ?
「対馬。お前を私のものにする事だ!!」
はいぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?!?!?
「ななな、何を言って……」
「何をって言葉通りだ。お前ほどの男が我が隊に加われば即戦力になる。それに……お前とならば子孫を残しても私は構わないと思ってるし、だから……その、私の婿に……」
「と、言うことだ。対馬よ、我が隊に入るがいい。少尉の席を既に用意してあるぞ」
「痛デデデデデ!!!!」
な、何か幾蔵司令が泣き笑いの複雑そうな表情で俺の肩を物凄い力で掴んでくるんですけど!?
「ちょ、ちょっと待て!!俺には彼女が居るんだぞ!!!!」
「な、何……だと」
「ソーバーーッド!!おい小僧。貴様瀬麗武という者がありながら他の女に現を抜かしていたのか!?」
突如宙に浮かぶ亀らしき生物が現れる。
この亀公は権田瓦さん。橘さんの非常食(ペット)だ
「誰だ!?その腐れ女は誰だ!?某(それがし)が成敗してくれる!!」
このクソ亀……ぶっ殺したろか?
…………と、思っていたが俺が手を下す前に俺の隣に居た人物が権田瓦の体を掴んだ。
「私だが、それがどうした爬虫類」
底冷えするようなドス黒いオーラを纏い、乙女さんクソ亀を睨み付ける。
ヤベェよ、これ絶対キレてるって……。
「ひ、ひぃぃぃ……お、お助け……」
「フンッ!!」
亀公の命乞いも空しく、乙女さんは円盤投げの要領で権田瓦さんを投げ飛ばした。
「ソーーーーーーーーーバーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッド!!!!」
権田瓦さんは星になった。
乙女SIDE
私は今……キレていた。
陳腐な言い方だがそれ以外に言葉を思いつかない。
だが……これ程までに他人に怒りを感じたのは生まれて初めてだ。
「貴様……地獄蝶々だけでは飽き足らず対馬までも私から奪うか……どうやら命はいらんようだな!!!!」
「こっちの台詞だ。私のレオに手を出すなど……そんなに死にたいというなら望み通りにしてやる!!!!」
再び刀を抜いて構える。館長の姪といえど絶対許さん!!
NO SIDE
戦場と化した校庭。一方その光景を見守る一般生徒達は……。
「ヤベェよ!乙女さんマジ怖すぎだろ!!おいココナッツ、お前盾になってボクを守れ!!」
「ふざけるな、そんなこという暇があったらさっさとここから離れろ甲殻類」
「おい、フカヒレ!お前もさっさと逃げろ!!巻き添えになったら本当に死にかねないぞ!!」
「うわぁぁ〜〜〜〜ん!!やめてよお姉ちゃん!!靴の裏についてたガムなんて噛みたくないよぅ!!」
「いかん、トラウマ発動してやがる」
全員乙女の怒りに恐怖し、必死に彼女達と距離を開けようとしていた。
そして平蔵と幾蔵の兄弟は……。
「兄者……複雑なのは解るが怒るのか安心するのかハッキリせい」
「ぬぅぅ……瀬麗武を振るなどと……だが嫁に行かずに済むと思うと…………」
父親はかなり複雑であった。
「いい加減にしやがれコノヤロウ!!人の意見無視しやがって!!俺は乙女さん一筋なんだよ!!誰が軍人になんてなるか!!」
流石にレオも我慢の限界を感じたらしく怒鳴り声を上げる。
「聞いたか橘、レオは私以外と付き合う気は無いんだ。命が惜しいならさっさと諦めて詫びを入れろ!そうすれば制裁蹴りの2、3発で許してやるぞ」
「ふん、それが何だ。力づくで奪って振り向かせればいいだけの話だ!!」
乙女と瀬麗武の間では凄まじいバトルが展開していた。
乙女SIDE
(チィッ……肋骨がまだ完治してない状態では少し厳しいか……)
橘の攻撃を受け流し、反撃に転じるがいまいち威力に欠ける攻撃しか出せない。
先の体育武道祭でのレオとの闘いで折れた肋骨はまだ完全には治ってなかった。
せめてあと2〜3日時間があれば……。
「どうした?その程度か!!」
橘の刀が振り下ろされる。クソッ、癪に障るがコイツは手負いでどうにかなる相手ではない!
「《修羅旋風拳!!》」
そこに突然レオが割って入ってきた。
「悪いけど加勢させてもらうよ、乙女さん。こっちは肋骨折れてんだ、2対1でも卑怯とは思わないでくれよ」
無粋なまねをしてくれる。だが今回ばかりは文句は言えんか。
「ならば対馬よ、貴様はこいつらでも相手にしておけ」
館長の兄上がパチンと指を鳴らすと50人程の男達が軍艦から飛び出してきた。
「対馬レオ!貴様はこの橘幾蔵揮下の戦闘部隊が相手だ!!」
クソッ!この状況で……。
「ちょっと待ったぁ!!」
!?
NO SIDE
「誰だ!?」
突然乱入してきた声に部隊の一人が声を上げる。
「問われて名乗るもおこがましいが、ガキの頃から姉に囲まれ、惚れた女もこれまた姉よ。姉の魅力を語らせりゃ、数日程度じゃ終わらぬ漢。柊空也とは俺の事だ!!」
「さてその次に控えしは、阿呆な親父を蹴り倒し、姉と二人で一蓮托生。結婚控えた今もなお、忘れちゃいねぇぜ姉への敬い。上杉錬とは俺の事だ!!」
「さてどんじりに控えしは、幼き日より姉御に憧れ、姉御目指して一直線。爪と薬はちょいと染みるぜ。直江大和とは俺の事!!」
「「「我等、姉魂(シスコン)三人衆、姉属性を愛する者として、同志対馬レオを助太刀に参った!!」」」
その漢達は柊空也、上杉錬、直江大和!!
何故か白波五人男風に登場!!
レオSIDE
まさか空也たちが助太刀に来るなんて……。
「お前等、どうしてココに……」
「馬鹿でかい気を感じて気になってきてみれば、泥沼みたいな展開になってたんでな。同じ姉属性に惚れた者としては、お前の味方をするべきだと思ったんだよ」
空也……すまねぇ。
「ってな訳だ。俺達4人対雑魚50人。文句は無いだろ?」
「良いだろう、だが一つ訂正だ」
リーダー格の男が合図すると軍艦から更に多数の男達が現れた。
「こっちは200人だ!!我々を雑魚呼ばわりしてただで済むと思うなよ!!」
せこい真似しやがって……。だが……。
「何人でもまとめて面倒見てやるよ、かかって来な!!」
俺からの挑発に敵部隊は一斉に襲い掛かってくる。
4対200の乱戦の火蓋は切って落とされた!!
NO SIDE
「一人頭50人って所か。ま、こいつら程度なら問題ないな」
姉魂三人衆最年少である大和は面倒くさそうにそう呟く。
「ほざけガキが!!」
血気盛んな戦闘員の男、夏葉次郎(通称ナッパ)が大和に殴りかかる。
しかしその拳は大和に当たることなく空を切り、夏葉の視界から大和は消えていた。
「ッ……ど、何処に?」
「遅いぞ、ナッパ」
「な、なぁっ!?」
大和は男の頭上に立っていた。夏葉がそれに気付いた直後大和は夏葉の人中(鼻と上唇の間にある急所)に蹴りを叩き込んでいた。
「グギャアアッ!!?」
なすすべなく夏葉は吹っ飛ばされ、そのまま気を失う。
気を失う直前、夏葉はこう思った『何で俺のあだ名知ってるんだ?』と……。
「やっぱこの程度か。さ〜て、次は誰が気絶したい?」
「ふ、ふざけやがって!全員掛かれぇーー!!!」
恐怖を振り払うように戦闘員達は大人数で大和に襲い掛かる。
しかし、大和の余裕は崩れない!
「フン……《空転爪(くうてんそう)!!》」
向かってくる多数の敵に大和は突撃すると同時に錐揉み回転しながら両腕に装着された鉄の爪で敵を切り裂き、吹き飛ばした。
「ギャアアアアアアア!!!!」
「な、何やってるんだ!早く捕まえろ!!そんなガキ捕まえちまえばどうって事ないだろ!!」
「む、無理だ……早すぎて捕らえきれない!!」
「そ、そんな……グギャアアアア!!!!」
戦闘員達の抵抗空しく大和に襲い掛かった戦闘員達は一人残らず大和の鉄爪の前に倒れていった。
「ケケケケ……切り裂き甲斐のねぇ連中だなぁ」
倒れていく敵たちを見据えながら大和は爪に付着した返り血を舐め取り、ながら不適に笑った。
「ったく、俺は一対一(サシ)の闘いが専門だってのに」
などとぼやいてはいるが錬の周囲には既に30人近くの戦闘員が倒れていた。
「ち、畜生!このヤロォォォーーーーー!!!!」
何とか生き残っている戦闘員の一人、岩山力男が錬にナイフで襲い掛かるが簡単に避けられ逆にナイフをはじき落とされてしまう。
「この際だ、これで決めてやる!《飛燕斬(ひえんざん)!!》」
「ゴブォッ!!!」
錬のサマーソルトキックが岩山の顎に叩き込まれ、岩山の体は中を舞う。
そして落下する岩山に錬は渾身の蹴りを放つ。
「吹っ飛びやがれぇ!!!!」
凄まじい爆音と共にサッカーボールのように蹴り飛ばされた岩山の体は他の多数の戦闘員を巻き込みながら校庭内に置いてあるサッカー用のゴールネットに投げ込まれたのだった。
「く、クソ……化け物め!」
地面に這い蹲りながら戦闘員の一人、佐野山誠一は空也を睨み付ける。
「化け物とは失敬だなぁ、お前らが弱すぎるだけだ。体ちゃんと鍛えてんのかお前等?」
「き、貴様ぁ!!軍で俺達が受けた訓練を否定する気か!!」
怒りに身を任せながら佐野山はぼろぼろな体に鞭打って立ち上がり、空也に襲い掛
かる。
「分かってないな、本当の強さってもんは入ったことを後悔するほどの地獄に飛び込み、それを乗り越える執念の持った者のみが手に入れられるんだ!」
空也は佐野山の攻撃をいとも簡単に受け止める。
「俺と錬は生き抜くため、レオと大和は目標を超えるため……己の体を鍛え抜いたんだ!!お前等みたいに教科書通りの訓練しかしてない生温い軍人とはワケが違うんだよ!!!」
佐野山の怒りをかき消すほどの気迫を醸し出しながら空也のパンチが佐野山の鳩尾に叩き込まれる。
「ゴフゥゥッ!!」
凄まじい威力の一撃に膝を付く佐野山。そして更に空也の追撃が加わる。
「あばよ……《覇王翔吼拳!!》」
「グギャアアア!!!!」
空也の両手から放たれた巨大な気弾は周囲の敵を巻き込んで佐野山を吹き飛ばした。
レオSIDE
空也達がそれぞれ活躍する中、俺も結構な数の敵を倒していた。
ま、こいつらの実力は精々俺が以前戦った半田と同じぐらいだ。肋骨が折れていてもどうにかなる。
「ば、馬鹿な……我々がこんなに簡単に……全滅などと……」
俺の目の前で戦闘部隊の隊長は信じられない物を見たかのように後退る。
最早先程まで威風堂々としていた筈の戦闘部隊200人は隊長を残して全員ぶっ倒れていた。
そして……。
「おいコラ、忘れ物だぜ。《トルネードアッパー!!》」
「ヒィギャアアアアア!!!!」
現時点を以って戦闘部隊は全滅した。
乙女SIDE
「ダァアアアアアアッ!!」
刀身が押し合う体勢のまま、私は橘を弾き飛ばそうと力任せに押し込む。
「チッ!」
バックステップで自ら後方に下がる橘、今だ!
「《青嵐脚!!》」
高速の蹴りによって生み出される真空波を橘めがけて撃ち出す。
「破っ!!」
しかしその一撃も橘の気で一瞬にしてかき消されてしまった。
クソ……肋骨が折れてるだけでこうも弱くなってしまうとは……。
「……なるほど、手負いとはいえ大したものだ。ならば……」
突然橘は刀を鞘に納める。
「何のつもりだ?」
「フン、手負いの貴様から対馬と刀を奪っても意味など無い。勝負は預けさせてもらう」
……そこら辺は館長の姪というわけか。なかなか堂々とした奴だ。
「良いだろう、いずれ必ず決着を付けてやる」
レオSIDE
橘さんが矛を収めた事で何とかひとまず収拾した闘い。しかし決着がついたわけではない。
「対馬よ、瀬麗武の事は抜きにしても我が隊に貴様が欲しいのは事実。そこでだが、後日貴様らと瀬麗武、改めて決着を付けるというのはどうだ?」
「分かりました」
「私も構いません」
「では、その日時と場所だが……」
「それについては儂(わし)から提案がある」
館長が横から口を挟み、懐から一枚のチラシを取り出す。
『松笠・鎌倉・七浜合同プロジェクト 無差別級タッグマッチ武術会!!
優勝賞金・100万円 副賞・熱海温泉旅行』
「1ヶ月後に行われる大会だ本来なら拳法部の合宿にと思っていたが、お主らの決着を付ける舞台には丁度良いであろう」
確かに……。しかも優勝すれば乙女さんと温泉旅行に行けるし。
「その案、乗りました。私にとっても対馬と地獄蝶々をまとめて手に入れる良い機会です」
「私も異論はありません、レオが誰のものかを身の程知らずに教える良い機会です」
乙女さんと橘さんはまだ火花散らしている……。
「フン、では1ヵ月後にな……今の内にせいぜい対馬と思い出でも作っておくんだな」
「貴様こそ悔し泣きの準備でもしておけ」
「「フン!!」」
女のバトルって怖いな……。
「レオ、私と組め!あいつに私たちの関係を見せ付けてやるんだ!!」
「う、うん……」
とても断りきれない……まぁ、断る気なんて最初から無いけど。
あ、そうだ!
「空也、錬、大和。ありがとな、助かったぜ」
「気にするな、どうせ1ヵ月後は敵同士なんだ」
え?
「お前、まさか……」
「ああ、出るぜ。俺もその大会にな」
マジかよ?
「俺も出るぜ。丁度新婚旅行を何処にするか迷ってたからな」
「俺も、新薬の開発資金が欲しかったところだし」
錬と大和も出る気満々だ。コイツは面白くなってきたぜ!!
登場人物紹介にキャラを追加しました。
……大和はもうオリキャラに近いなと思う今日この頃。