NO SIDE
波乱の終了式の日から一夜明け、レオや乙女を始めとする闘士達はそれぞれの時間を過ごす事になる
タッグマッチの武術会までの1ヶ月間。それまで彼らはどのように過ごすのだろうか……。
case1
とある繁華街、その中にある古ぼけた雑居ビルの地下にあるパブ『りとるうぃんぐ』。
カウンターに座り、隣り合わせで酒を飲み合う男が二人。
一人は武術会参加希望者、上杉錬。
そしてその隣で酒を飲む男の名は大倉弘之(おおくらひろゆき)。元地下闘技場のファイターでボクシングの使い手だ。
「で、俺とタッグを組みたいと?」
「ああ、俺のテコンドーとお前のボクシング。なかなか面白い組み合わせだろ」
錬の言葉に笑みを浮かべて弘之はグラスに残ったビールを呷る。
「確かに面白そうだがよ……良いのか?俺引退して結構経つぞ。」
「よく言うぜ、全然鈍ってなさそうなくせによ」
笑いながら錬もビールを飲み干す。
錬も多少は気の概念を学んでいる。弘之の持つ気はファイターだった時期と比べてまったく衰えてなどいない事など丸分かりだった。
「それによ、お互いこれから結婚して父親にもなっていく身だ。自分の子供に誇れる物を一つぐらい作っとくのは悪い事じゃねぇだろ」
先程の軽快な笑みから一転、錬は真剣な表情になる。
大倉弘之……彼もまた数ヵ月後に結婚を控え、所帯を持つ事となる人間だ。
弘之にも心の底から愛する女性がいる、そしてその女性と自分の間に生まれるであろう命(こども)が誇れる親でありたいと思っていた。
「ったく、正義馬鹿の癖して口が上手くなりやがって……いいぜ。組んでやろうじゃねぇか。そのかわり香純の説得はお前がやれよ」
「ゲゲッ……」
余談ではあるが弘之の恋人(婚約者)である宮森香純(みやもりかすみ)はかなりのヤキモチ焼きである。
たとえ嫉妬の対象が男であっても…………。
翌日、錬の勤務時間外にてトレーニングに励む二人の姿があった。
なお、錬の左頬にくっきりと紅葉型の痕があったのはまた別の話。
case2
とある路地裏、時間は既に午前0時近く。普通ならこんな時間に路地裏に人がいるのはおかしいがこの日は違った。
「こんな時間にこんな所に呼び出して、何の用ですか?」
路地裏の真ん中、壁にもたれかかりながら立っている人影が一人……直江大和だ。
「あ〜ら、随分なご挨拶じゃない。せっかくタッグパートナーになってあげようと思ったのに」
大和の背後に現れるもう一人の人物。
「本気で言ってるんですか?アンタじゃ俺や先輩達の実力に及ばないって事ぐらい自分で分かってるでしょう?霧夜エリカさんよ」
路地裏に佇むもう一人の人物、霧夜エリカに対して大和は嘲笑を浮かべる。
「ま、そう言われるとは思ったわ。けど、そこら辺の対策はバッチリよ。もちろん絶対勝てるなんて言わないけど、アナタの戦術と知略が加われば結構イケると思うんだけどなぁ〜〜」
「結構な自信で……けど俺にはアンタと組む理由が無い。せめてメリットの一つぐらいは欲しい所だけど」
「もちろんあるわよ。賞金も副賞もアナタが独り占めで構わないわ。私は乙女センパイや可愛い女の子のおっぱいが揉めればそれでいいから。っていうかそれが武術会に参加する理由だし」
何とも不純な動機である。しかしその答えに大和は楽しそうに笑う。
「ケケケケ……成る程な。アンタも俺と同じ人種(ドS)ってワケか。良いぜ、その条件乗った!胸揉まれてヒィヒィ言ってる女を拝むのも悪くなさそうだ!!」
「フフフフ…………」
「ケケケケ…………」
ドSの真髄此処に極まれり……。
二人はがっちりと握手を交わした。ある意味最凶の二人が手を組んだ瞬間だった。
case3
鎌倉のとある空手道場………現在ここでは柊空也のタッグパートナーの選考会が行われていた。
内容は至ってシンプル。一対多数で空也と戦い、それ相応の実力を示すことが出来れば合格だ。
この空手道場は通常の空手道場と比べてかなり特殊であり、『空手は強くなるため通過点に過ぎない』という理念を持ち、空手以外の格闘技を学ぶのも自由とされている。
故に挑戦者達の闘い方は多種多様。中には武器を持っている者もいる。
しかし既に挑戦者の殆どが空也に手も足も出ず敗れ、残り一人を残し、皆倒れ伏していた。
「ダァアアアアーーーーー!!」
唯一残った棒術使いの少年、鹿島(かしま)ゆうじは子供とは思えない力強さで棍による一撃を繰り出すが空也の素早い反応速度には追いつかず、バックステップで回避されてしまう。
「今だ!」
しかしゆうじの攻撃はまだ終わっていなかった。
「クッ!?」
ゆうじの棍に仕込まれていた仕掛けが発動し、棍は突然伸びて空也の頬を掠めた。
ゆうじの使う棍は関節棍であり、内部にチェーンが仕込まれているためある程度の伸縮が可能なのだ。
「まさか、関節棍だったなんてな。今の今まで隠し続けて、その上今の駆け引きも悪くなかった……強くなったな、ゆうじ」
攻撃を掠めた際に流れた血を拭いながら空也は笑う。
鹿島ゆうじは空也が講師を勤めたのと同時期に入門した門下生だ。
入門当初はやや弱気な性格の少年だったものの、高いセンスと人一倍強い粘り強さと強さへの執着で自分の課す鍛錬をこなし、今では門下生の中トップの実力者となり、空也も彼に一目置いていた。
「よし、ゆうじ……お前合格!!明日からの鍛錬はスペシャルメニューになるから覚悟しとけ!!」
「はい!!」
case4
松笠市内のとあるマンションの一室で橘瀬麗武はとある場所へ電話をかけていた。
『はい、こちら白河ですが』
「橘という者だ、白河トモミに変わってくれ。瀬麗武からと言えば問題無い」
電子音の後に受付嬢らしき女性による応対に対して瀬麗武は淡々と用件を伝える。
『は、はい……分かりました。少々お待ちを』
多少戸惑いながらも受付の女性は言われた通りにする。
そして数分後……。
『もしもし、白河だけど』
目的の人物が電話に出る。
電話の相手の名は白川トモミ。日本でもトップクラスの財閥である白河グループの令嬢だ。
「久しぶりだなトモミ。お前に頼みがある。」
「何よ?さっさと用件言って。私忙しいんだから」
苛立たしげに用件を促すトモミ。どうやら何かの最中に電話してしまったようだ。
「1ヵ月後に行われる武術大会のタッグを組む相手がいないのでな、羽丘を貸してくれ」
『はぁ!?冗談じゃないわ!!ダメよ!ふぶきだけは絶対ダメ!!』
癇癪を起こしたかのように声を荒げるトモミ。彼女にとって『羽丘ふぶき』という人物は相当手放したくない人物というのが分かる。
「3ヶ月前に貴様の実家の企業の機密を持ち逃げしようとしたやつを捕まえるのに協力してやったのは誰か忘れたのか?」
「グ……それは……」
トモミが苦虫を噛み潰したように口ごもる。痛い所を突かれたようだ。
「安心しろ、別に奪う気など毛頭無いし対馬以外の男になど興味は無い。あくまで数日ほど戦力として借りるだけだ。何ならお前も武術会に観戦しに来れば良い」
「…………分かったわよ」
不服そうにそう言うとトモミは電話を切った。
電話を終えてトモミは自室へ戻る。
部屋の中では中性的な顔の少年と大人しそうな少女が全裸でベッドに横たわっている。
自分の専属ボディガードの少年、羽丘(はねおか)ふぶき、そしてその同級生で恋人(その1)の藤宮小雪(ふじみやこゆき)だ。
そしてトモミもまた全裸だった。
「武術大会だって?」
ふぶきはトモミを見据えながら怪しく笑う。どうやら電話の内容はお見通しらしい。
「そうよ。瀬麗武の奴がタッグパートナーになれって」
「そう、それじゃあ」
「きゃっ……んんっ!?」
小雪を抱き寄せてそのまま唇を奪う。
「ぷはっ……もう、ふぶきちゃん大胆なんだから」
「いいじゃん、別に」
甘い空気を作り出すふぶきと小雪。そんな二人をトモミは羨ましそうに見る。
「ちょっと、小雪ばっかりずるい!私にも……」
「待ちなよ、トモミさん」
自分にもしてほしいと望むトモミを突然ふぶきは制する。
「トモミさん……さっき僕の事呼び捨てにしてたよね?ヤッてる時は僕の事どう呼べって言ったか忘れたの?」
「そ、それは……」
気まずそうに視線をそらすトモミにふぶきは近付き、残忍な笑みを浮かべながらトモミの顔を掴み、視線を無理矢理自分の方へ向ける。
「ほら、言いなよ。今の自分の立場をさぁ。言わないと今日はお預けだよ」
「い、言います!言いますからそれだけは許して!!……私、白河トモミは羽丘ふぶきコーチの恋人(その2)で奴隷です!!だから私を抱いてください!!」
「はい、よく出来ました。小雪ちゃん」
トモミの赤裸々な発言にふぶきは満足げに笑みを浮かべると小雪に目配せする。
「はい、ふぶきちゃん♪」
小雪も満面の笑顔で棚からロープを取り出し、トモミを縛り上げる。
「今日は二人ともとことん可愛がってあげるよ。明日から忙しくなりそうだし」
「ああ……嬉しいです。コーチぃぃ…………」
「ふぶきちゃん……私にもしてぇ……」
以下自主規制。
一つだけ言う事があるとすれば、これは何とも歪な一つの愛の形である。
case5
あの乱闘から5日後、ようやく肋骨が完治したレオと乙女は今、乙女の実家である鉄家を訪れ、修行に励んでいた。
当初は門下生全員と戦っていた二人だが、既にレオと乙女の実力は門下生では相手にならない程に上がっていたため、二人の祖父である鉄陣内との組み手を行う事になった。
「ハァアアアアアアッ!!!」
「ダァアアアアアアッ!!!」
咆哮と共にレオと乙女の双方から強烈な一撃が繰り出されるが、陣内はまるでビクともしない。
「……フフ、悪くない一撃よ。だがまだまだ……青い!!」
陣内が軽く腕を一振りする。ただそれだけで突風が吹いたかのような風圧がレオ達を襲い、吹き飛ばす。
「どわぁぁっ!!」
「ぐぅぅっ!!」
圧倒的な暴風に成す術なく二人は吹き飛ばされてしまう。
「ハァ、ハァ……滅式を用いてもこのザマとは……」
「ハァ、ハァ……俺も……フルスピードだってのに、爺様相手じゃ歩いているも同然だよ」
文字通り力の差は歴然だった。
レオと乙女を超人とするなら陣内は超人を超える化け物……その強さは橘幾蔵・平蔵兄弟をも上回る。
しかし……
「だが……まだやれる!!」
「俺だって……やられっぱなしは趣味じゃない!!」
「フフフ……それで良い。闘士の真の価値は愚直なまでに強さを求める姿勢にある!!さぁ、来るが良い!!この陣内、いつまででも付き合おうぞ!!!」
たとえ敵わなくとも二人は立ち上がる。今よりももっと強くなるために!!
そして月日は流れ、遂に運命の日がやって来た。
「よし、行くぞレオ!!」
「おう!!」
お互いに青と白を基調とした同じデザインの胴衣を見に着け、決戦場へと赴く。
それぞれの維持と誇りを賭けた闘いが今始まる!!
おまけ 鉄家の人々
レオSIDE
午前中の修行を終え、昼食の後はしばらく休憩。
乙女さんは買出しのため外に出ているので俺は縁側で西瓜(スイカ)を食いながら寛がせてもらっている。
しかし鉄家の人達は皆俺が乙女さんと互角になってたことに驚いてたな……。琢磨(乙女さんの弟)の奴なんて『数少ない俺と同じ一般人がぁ〜〜!!』とか言って嘆いてたし……。
「レオ、隣良いか?」
「あ、叔父さん。どうぞ」
俺がのんびりしていると隣にかなり(っていうか滅茶苦茶)強そうな人が来る。
この人の名は鉄義雄(くろがねよしお)。乙女さんの父親だ。
「レオ……」
「は、はい」
な、何だ?妙に真剣な表情だぞ……。まさか今ココで『お前は娘にふさわしいのか?』とかいう話になるのでは?
「乙女とはいつ頃結婚する予定だ?子供は何人作る?」
「ブッ!!?ゲホッゲホッ!!」
なな、何聞いてんだこの人は!?思わず飲んでいた麦茶を噴出してしまった。
「ななな、何を気の早い事を!?」
「冗談だ。そんなに慌てるな。……だが、お前には感謝してる。乙女があそこまで女らしくなって、その上より強くなれたんだからな……まぁ、生真面目すぎるところがあって面倒を掛けることもあると思うが、乙女の事を頼むぞ」
「押忍、絶対幸せにして見せますよ」
俺にとってもそれが幸せだからな。
大倉弘之は『借金姉妹』シリーズ(設定は2から)
鹿島ゆうじは『相姦遊戯』
羽丘ふぶきは『新体操(真)』
からのゲストキャラクターです。