つよきす 愛羅武勇伝   作:神無鴇人

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対馬レオの日常 学園生活

レオSIDE

 

 現在竜鳴館は朝礼中、姫の演説が終わり、艦長のありがたいお言葉の時間に入る。ココで生徒達は全員緊張した面持ちになる。

今この場で居眠りでもしている奴がいるとすれば、脳に異常があるか自殺志願者のどちらかだ。

 

「男子は男気を!女子は女気を!磨き、青春を謳歌せよ!竜鳴館館長、橘 平 蔵!!」

 

 マイクも使わずに響く馬鹿でかい声、その声の主こそ竜鳴館館長、橘平蔵(たちばなへいぞう)だ。

185cmという長身と丸太のようにでかくがっしりとした筋肉、右目と鼻の頭に刻みついた傷跡と長い髭を蓄えたその顔、全身から出る威圧感、まさしく豪傑そのものだ。

俺の目標としている人物でもある。いまだ独身という点を除いて…………。

 

 

 

「ふわぁ〜〜……」

 

 長ったらしい朝礼が終わり教室に戻りながら欠伸を掻く。

 

「でっかいあくびねー、みっともない」

 

「ん?姫か……」

 

「そんなテンション低い人は見ててうざったいから消えて欲しいかなー」

 

 声をかけて早々これだ……いつもの事だけど。

 

「はい、薔薇をあげる、香気で目を覚ましなさい」

 

 何処からともなく薔薇を取り出し俺に投げ渡す、いつも思うが本当に何処から出してんだこの薔薇。

 

「相変わらず妙な特技をお持ちのようで」

 

「お嬢の嗜みよ、ポーズをとったら薔薇ぐらい出せなきゃ」

 

 解らんなぁ……。ま、俺には無縁の話しだからどうでもいいけど。

 

「じゃ、こっちはチャンプの嗜みだ」

 

 貰った薔薇を軽く指で弾く。直後に薔薇は四散し、文字通りバラバラになり、そのまま風に乗って窓の外に飛んでいく。

 

「わぉ、薔薇がバラバラって奴?綺麗だけどネタは古いわね」

 

 古い言うな、薔薇しか材料が無いんだから仕方ないだろ。

 

 

 

NOSIDE

 

 本日は学生達(一部除く)にとって憂鬱な日である。

『中間テストの結果』という鋭利な刃物で精神を抉られ、クラス中が阿鼻叫喚の図に早変わりである。

さて、我らが主人公レオの結果はというと……。

 

古典 まぁまぁ

現国 無難

歴史 それなり

 

(我ながら何て無難な出来なんだ)

 

 例えるなら特徴が無いのが特徴、学業のジムカスタム、それがレオである

「フカヒレ、歴史で勝負だもんね」

 

「せめてフカヒレには負けねぇべ」

 

「負けたら人間として終いやからなぁ」

 

 そっして今この時だけはフカヒレは人気者になる。

馬鹿の代名詞カニ。

授業中は消しゴムのカスを集めている田舎の匂いが染み付いた立ち絵つきの脇役イガグリ(本名?知らん)

カニに劣らず成績低空飛行者、褐色関西弁娘、浦賀真名(うらがまな)。

その他大勢の成績の低い者達が挙(こぞ)ってフカヒレに非常に低レベルな戦いを挑むのである。

 

 それに引き換え……

 

「エリー、また満点?勝てないなぁ」

 

「当然でしょ、何?よっぴーは1問間違え?」

 

 姫こと霧夜エリカとその親友にして2―Cの委員長、佐藤良美(さとうよしみ)。

こっちは余りにもハイレベルすぎる。

 

(この落差は何?)

 

 レオはそんな事を呟いた。

 

 

 

レオSIDE

 

 結果発表と言う名の地獄の後、昼休みに入りフカヒレをパシってパンを買いに行かせて昼飯を済ませ(ちなみに、カニの奴は先程低レベルな戦いを共に戦った戦友の浦賀さんと浦賀さんの親友で留学生の楊豆花(ヤントンファー)さんと一緒に食った)、その後残りの授業をクリアしてようやく帰りのHRになる。

しかし……担任教師がまだ来ない。

 

「祈りちゃん、まだ来ないのかなぁ……」

 

「来るの遅いよな、大方また職員室でくっちゃべってるんだろうけど、現実の女はこういう所がイヤだよなー」

 

「その発言、フカヒレは人生終わってるね」

 

「よっぴー、帰っていい?」

 

「よっぴー言わないでよぅ」

 

 佐藤さんは基本的に姫以外によっぴーと呼ばれるのは否定的だけど、もうその呼び名が定着しているのでクラスメート殆どはおろか担任にすらよっぴーと呼ばれてしまっている。

ま、そこら辺はもう諦めるしかない。

 

んで結局イガグリの奴が姫に先制を呼びに行かされ、数分かけてようやく担任が姿を現す。

 

「皆さん申し訳ございません、遅れてしまいましたわ」

 

 絶対申し訳ないなんて思って無い…………。

高校教師、大江山祈(おおえやまいのり)。

俺達の担任で担当は英語。美人で居乳ということで男子生徒の人気は抜群。媚びた態度を取らず飄々としているので女子生徒からの人気もある。

大江山と言う苗字は地名で紛らわしいので皆は祈先生と呼んでいる。

ただし教育方針はスパルタである。

 

「祈センセ、何してたのさ?」

 

「職員室でお茶をしてましたらいつの間にやらこのような時間でしたの」

 

「ま、お前たち若造は忍耐ってモンをしたねぇからな、たまには待ってみる、と言うのもいい経験だろう、コレも教育の一環だよ」

 

 祈先生の肩に止まるオウムが饒舌に喋る。

この鳥公の名前は『土永さん』、祈先生のペットだ。

普段は空に居るがたまにああして一緒に行動している。

ちなみに声質はかなり渋く、古臭い知識で説教するのが得意技だ。

 

「それでは早速HRを始めますわ、プリントを配りますので回してくださいな」

 

 ……進路希望調査か。

 

「いいか、お前たちはとっくに義務教育終わってんだ、進学しない者はもうすぐ世間の荒波に揉まれて生きていかなきゃいけねぇ、たまにはそのとろろみてぇな脳ミソ真面目に使って、自分の将来について考えてみろ、分かったな?ジャリ坊どもが」

 

「……と、土永さんが言ってますわ」

 

 相変わらず鳥の癖に痛い所突いてきやがるぜ。

 

 

 

 放課後

 

「どっかで遊んで帰ろーっ」

 

 カニがピョンピョン飛び跳ねる。元気が有り余ってるな。

 

「帰宅部の活動開始と行きますか」

 

 フカヒレよ、帰宅部に活動なんてあるのか?

 

「んじゃ、オレは陸上部行くとすっか」

 

「がんばれよアスリート」

 

 スバルは陸上部期待のホープである。

 

「……テメェらも部活がんばれよ」

 

「おうよ。全身全霊をかけて帰宅してやんよ」

 

「帰宅部には帰宅部で辛いところあるんだぜ? 陸上部の連中にはわからねぇだろうがな」

 

「はっ、そりゃあわかりたくもないがよ、一応聞いてやるよ。なんの苦労があんだ?」

 

「あるね。陸上部や空手部……部活の連中が一生懸命やってる中、俺たちは悠々と帰宅、そして家に帰ってふと、ある考えがよぎる……俺はこのままでいいのか? 青春をダラダラ無駄にしていないか? いや、まだ本気出していないだけ。俺はやればできる子って言われてるんだからな」

 

 ……

 

「うーん、でも真面目に自分の将来を考えるとハッキリ言って怖いぞ。とりあえず、ゲームでもして気を紛らわせよう!……って、こんな自分に気づかないフリ……で、ごくまれに自己嫌悪するわけよ。苦労というより苦悩ね」

 

 そりゃ苦悩じゃなくて単なる逃避だ。しかもニート思考の。

 

「……あぁ、そりゃあツレーな。せいぜい悩んでくれよ。じゃあな」

 

 スバルは呆れ顔で踵を返した。

 

フカヒレを表す言葉がもう一つあった、それは『ダメ人間』だ。

 

「あれ? 俺の意見ダメだった?」

 

「ダメ人間の国家代表だなお前は」

 

 いや、本当マジで。

 

「伊達君、再見(ツァイツェン)」

 

「伊達君、部活頑張ってやー」

 

「はいはい」

 

 浦賀さんと豆花さんを始めとした女子がスバルに声を掛けていく。

スバルはイケメンだから基本的に女子の人気は高いのだ。男子からは怖がら(疎ま)れているが……。

 

「くそっ、スバルの野郎、男子からは怖がられているクセに、女子の人気が高いんだよなぁ、アウトロー気取っちまってさぁ」

 

 もてない男の僻みはみっともないぞ、フカヒレよ……。

 

「あ、ひとつ断っておくけど、うらやましくなんかねぇよ? 本当だよ?」

 

「実はうらやましいんだろ」

 

 フカヒレはコクリとうなずいた。素直な奴だ。

 

「まぁ、スバルは顔がいいからね。クラスNo.1」

 

「結局顔なんだよなぁ。でも俺だって悪くないと思わない? 眼鏡っ漢(こ)だしさ」

 

 お前はその眼鏡がマイナス要素になってるのに何故気付かない?

いや、つけようがつけまいが変わらんけど。

 

「フカヒレは遠回りに言うと、ブサイクのカテゴリーに入ると思うよ」

 

「……それ近道で言うとどうなるんすか?」

 

「言って欲しいんなら言うけど、遠慮なく」

 

 やめとけ、お前が遠慮無しに言ったらフカヒレは死ぬ。

 

「あ、やっぱやめて下さい、勘弁してください」

 

「まぁ、黙ってればそれほどでもないんだけど。しゃべるとダメオーラを発散するんだよねぇ君は」

 

「いいんだ。俺には二次元があるもん、結構いいもんだぜ」

 

「はい、この時点で負け決定」

 

「言ってる傍からコレですよこのダメ人間は……」

 

 俺とカニの容赦ない毒舌にフカヒレはort状態になったのであった。

 

 

 

 靴箱のある玄関に到着したところで、フカヒレが突然キョロキョロとしきりに辺りを見回し始めた。

 

「何、ついに妖精見えちゃったん? レオと一緒に病院行くか?」

 

「いや、何か視線感じない?」

 

 視線?そう言われてみれば、確かに後ろの方から感じないことも無い、ただこれは妙な気配だ、敵意も熱意も無い無機質な気配。

とりあず無視して様子を見るか。

 

「そうかな? どうも誰かが俺を見ている気がするんですが」

 

「誰もフカヒレなんか見ないよ、時間の無駄じゃん」

 

 ばっさり切り捨ててカニは靴箱の小扉を開けた。

 

「いや、この鋭い視線……確かに感じる……」

 

 コイツの察知能力は時々俺より高くなってしまうから怖い。

 

「少なくともお前に思慕の情を抱いているようなものじゃないから気にするな」

 

「新一です、親友にまた馬鹿にされたとです……」

 

 再び落ち込みだすフカヒレ。喜怒哀楽の激しい男である。


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