NO SIDE
「う……ん……」
第2試合が終了して数分後、大和は医務室で目を覚ました。
「あ、起きた?」
隣のベッドから包帯を巻いたエリカが声をかけてくる。
起き上がろうとする大和だったがそれと同時に体中に鈍い痛みが走る
「……負けたか」
痛みによって空也との戦いを思い出し、敗北を自覚した大和は静かにそうつぶやいた。
(ケケッ、俺もまだまだ修行が足りないか。また一から修行のやり直しだな)
自嘲気味な笑みを浮かべ、大和は右手を強く握り締める。
しかしその瞳には強い決意を孕んだ光が宿っていた。
レオSIDE
一回戦も後半に入り、次の試合は橘さん達のチームの出番だ。
不本意とはいえ橘さんは俺の今後に関係する人物なのでこのチームの実力には大いに興味がある。
それで敵情視察……というわけではないが二人の闘いを乙女さんと共にじっくり観察してみることになったんだが……。
「…………」
乙女さんが物凄い殺気を出しながら橘さんを睨み付けてるため周囲の人間はかなり引いている。
「…………フン!」
ゲゲッ!!橘さんがこっちに気付いて乙女さんに向かって中指を立ててる!?
こ、これは所謂『FUCK YOU』の意思表示……。
「クク……クククク……あの女、何処までも私をコケにしなければ気が済まんようだな」
や、ヤベェよ……乙女さん口元じゃ笑ってるけど目が全然笑ってない。
「ならばこっちにも考えがあるぞ!!レオ!!」
「へ?んんっっーーーー!!?!!?」
突然乙女さんは俺の顔を掴んでキスしてきた!?しかも濃厚なヤツを!!
ある意味嬉しいけどこれはまずいのでは……。
「く・ろ・が・ねぇぇ………!!」
やっぱり…………。
乙女SIDE
フン、橘の奴め、私とレオの絆の深さを思い知ったか!!
「鉄ぇーー!!貴様、殺す!!」
「上等だやってみろ!!」
刀を構えて向かってこようとする橘にこちらも刀を抜いて観戦席(選手用)から飛び出して身構える。
もう大会などどうでもいい!今ココで橘と決着を付けてやる!!
「待てよ」
しかし突然一人の男が私の前に立ちふさがった。
「……え?」
そしてそれと同時に視界が一瞬真っ暗になり、気がつくと私の体は空を舞っていた。
レオSIDE
それは一瞬だった観戦席を飛び出した乙女さんの体が一瞬死角になり、その一瞬のうちに乙女さんの体は上空へと移動していた。
いや、移動されていたというべきか。目の前には俺達と一回戦で当たるD&Iハリケーンズの一人、小野寺拓己の姿があった。
「今の……お前が?」
落下してきた乙女さんをお姫様抱っこでキャッチしながら俺は小野寺に訊ねる。
「ああ、まぁな。俺達と戦う前に余計な体力使われちゃつまんねぇからな。ましてや折角の上妻と松笠のミドル級チャンプ同士の戦いだ。それをふいにするのはゴメンだ」
「上妻……そうか、お前『鳥人』か」
「ああ、そうだ」
上妻の地下闘技場に関して噂は聞いた事がある。そしてその闘技場の中で1、2を争う実力者で鳥人の異名を持つ男、それが目の前にいるこの男、小野寺拓己か……。
「いい機会だ。松笠と上妻のミドル級同士、どっちが上か決めようじゃねぇか」
「ああ、首洗って待っとけ」
少しながら言葉を交わして小野寺はその場から立ち去った。
「乙女さん、悪いけど橘さんとの決着は準決勝まで待って……」
話を終えて乙女さんのほうに目を向けるが……。
「レオにお姫様抱っこ…………///」
………最早何も言うまい。
敢えて言う事があるとすれば、目茶苦茶可愛すぎるよ、乙女さん。
ふぶきSIDE
「放せ!離せと言ってるんだ羽丘!!あの女を殺る!!」
「落ち着きなよ。失格になったら橘家の恥になるでしょ?向こうも落ち着いたみたいだしさ」
鉄という人に斬りかかろうとする橘さんを抑えながら僕は着ていた上着で橘さんをコーナーポストに括り付ける。
「貴様!何をする!!」
「また暴れられたら困るから、しばらくそこで頭冷やしなよ」
「あの……君達、もういい?」
「はい、すいません。面倒かけちゃって」
レフェリーに一言謝罪して僕はリングに上がる。
「おいおい、良いのか?パートナーを縛り付けちまってよぉ」
「構わないよ。アンタ等程度なら僕一人で十分だし」
「何ぃ!?」
雑魚の分際で挑発してくるデカブツ(士慢)にこっちも小馬鹿にしたように嘲笑ってやる。
これだから嫌なんだよね、身の程知らずの馬鹿ってさ。相手の実力も分からない癖に自分を大物に見せようとする。
『それでは第三試合、ビッグ・ジャガーズVSウォーリアーズ……試合開始!!』
さ〜て、どう料理するかな?
NO SIDE
「このオカマ野郎がぁーーー!!!!」
試合開始の合図と同時に士慢は得意の張り手の乱打をふぶき目掛けて繰り出す。
「フン……芸の無い攻撃だね」
しかしその攻撃は一撃として当たる事無く空を切る。
「この野郎!!ちょこまか動いてんじゃねぇ!!!」
何度避けられても休む暇無く士慢は張り手を繰り出す。
しかしこの一撃もまた空振りに終わる。
そしてその隙を突いてふぶきは士慢の真上に跳び上がった。
「そんなにお望みなら動かないであげるよ。ただし……叩きのめされるのは君の方だけどね」
士慢の肩に乗り肩車の体勢のままふぶきは士慢の頭部目掛けて肘を振り下ろした!
「グッ!テメ……ガッ!!」
「喋ると舌、噛んじゃうよ」
続けざまに二発、三発とふぶきは肘鉄を士慢の脳天に叩き込んでいく。
「グガッ!!……グェァッ!!ウグァ……」
凄まじいエルボーの連打がまるで暴風雨のように士慢の脳天に打ち込まれていく。
先程まで威勢の良さを見せていた士慢も今ではマットに膝を付き、顔面を夥しい量の血で染め、ただエルボーを喰らい続けるだけのサンドバック状態だ。
「ホラホラホラァッ!さっきまでの減らず口はどうしたんですかぁ!?」
「ウ…グ…ァァ……」
常人なら目を覆う程の惨状の中でもふぶきは攻撃の手を全く緩めない。むしろ士慢を痛めつける程にその表情は残忍な笑みに歪んでいく。
「士慢!!貴様、もうやめろ!!」
ふぶきのあまりにも残虐な闘いぶりに見兼ねた半田がふぶきに飛び蹴りで襲い掛かるがいとも簡単に回避されてしまう。
「何?選手交代?交代するのは良いけど片付けといてよ、そのボロクズをさ」
「き、貴様ぁ!許さんぞ!!」
タッグパートナーを罵倒された怒りのままに半田は殴りかかる。
「遅すぎだね」
「な!?」
しかしその拳も吹雪には当たる事無く逆に掴まれてしまう。
「つまんないからもう終わらせてもらうよ……!!」
掴んだ腕を引き寄せながら半田の顔面にふぶきは頭突きを叩き込む!
「ウグァッ!!」
「これで終わりじゃないのは、解ってるよねぇ?」
直後にふぶきは腰部のホルスターに収納された二本の短棒を取り出し、怯んだ半田の顔面を殴り飛ばす!!
「ブッ!!」
しかしふぶきの攻撃は一度だけでは終わらない。そこから先はまさに先程の惨劇の再現も同然だった。
「アハハ!!自慢のそのイケメン、ぶっ潰れたらどんな気分かなぁ?」
相手の流血で返り血が飛ぶのもお構い無にふぶきは半田の顔面のみを殴り続ける。
その表情には一切の慈悲の欠片も無い。
ただ血に餓え、血を求める悪魔の笑みを浮かべ、ふぶきの凶行は続く。
「ガハ……お、の……れ」
遂にダウンする半田。それでもプライドと気力、そして仲間を叩きのめされたことへの怒りで立ち上がろうとする。
「まだ、終わって……な……フゴォッ!!!?!?」
立ち上がろうとする半田にふぶきはただ無慈悲に半田の口目掛けて蹴りを見舞った。
「…………」
「やっぱつまんないなぁ……この程度じゃ」
白目を剥いて気絶した半田を見下ろしながらふぶきはそう呟いた。
「そ、そこまで!!勝者・羽丘ふぶき!!」
審判の声と試合終了のゴングが会場内に空しく響いた。
●ビッグ・ジャガーズ―ウォーリアーズ○
決まり手、フェイスクラッシュキック(顔面蹴り)
スバルSIDE
「な、何なんだよありゃあ……」
カニやフカヒレ達と一緒に観客席で試合を観戦していた俺は余りにも陰惨な試合を前に戦慄して一言漏らした。
俺も他人と喧嘩する時相手を殴る事に躊躇はしない方だが……あそこまで残忍じゃないぞ。
「ひ、酷い。酷すぎるわよ、こんなの!!」
近衛の叫びを誰もが無言で肯定する。この試合は余りにも血生臭過ぎる。
西崎さんに至っては既に失神している。
「あ、あんなのが相手でレオも乙女さんも大丈夫なのか?それに一回戦では村田を倒した奴等と戦わなきゃいけないんだろ」
フカヒレが何とも情けない声を上げる。自分が戦うわけでもないのに。
「オメー等揃いも揃って何弱気になってんだよ!!戦う前からレオと乙女さんが負けるみたいなこと言ってんじゃねぇよ!!」
カニの怒鳴り声に周囲が静まり返る。
「そ、そうよね。応援してる私達がこんなんじゃ鉄先輩達も思いっきり戦えないしね」
「カニにしては良い事言うぜ!よっしゃ!俺が鮫氷家に伝わる必勝の舞を!!」
「やめろ!!あれただの裸踊りだろうが!!」
カニのお陰でいつもの調子が戻りやがった。
「カニ、お前凄ぇな」
「ん?何か言った?」
「いや、何にも」
NO SIDE
「相変わらず悪趣味な戦い方だな」
試合が終了した直後、瀬麗武(縛っていたふぶきの上着は無理矢理引きちぎった)が渋い表情でふぶきに声をかける。
「悪趣味おおいに結構、これが僕のやり方だから」
皮肉を意に介す事無くふぶきは選手用の観戦席に足を向ける。
その先には次の試合にて戦う獅子蝶々とD&Iハリケーンズの姿があった。
「次はどっちかなぁ?フフフフ……」
すれ違い様に不敵な笑みを浮かべながらふぶきは去っていく。
その姿をレオ達は無言のまま見つめていた。
レオSIDE
羽丘ふぶきか……。橘さんも恐ろしい奴をパートナーに選んだもんだ。
「油断できないな……しかし、その前に目の前の難敵をどうにかしないとな」
乙女さんが真剣な眼差しで口を開く。そうだ、まず一回戦を突破しなければアイツと戦う事も出来ない。
「ところで乙女さん、もう落ち着いた?」
「ああ、お陰さまでな。色々すまなかったな」
「良いよ。乙女さんの可愛い一面見れたし」
「そ、それは言うな!」
俺の返しに乙女さんは顔を赤くして反論する。それがまた何とも可愛い……。
『間も無く、一回戦第四試合を開始します。出場選手はリングの方までお願いします』
「よし、勝ちに行くぞ。レオ!!」
「おう!!」
試合開始を前にして俺達は気を引き締め、リングへと向かった。