つよきす 愛羅武勇伝   作:神無鴇人

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疾風迅雷

NO SIDE

 

 準決勝第2試合……レオ、乙女、瀬麗武にとって己の今後を決める決戦とも言える戦いの幕が遂に開く。

 

「対馬選手と羽丘選手はAリングへ。鉄選手と橘選手はBリングへお願いします」

 

 審判からの案内に4人はそれぞれ各々の戦いの場へ向かう。

 

「レオ、信じているぞ。お前の勝利をな」

 

「ああ、俺もね!」

 

「理屈はいらん。勝て、羽丘」

 

「了解。君の結婚話はどうでもいいけど、僕は自分の戦いを楽しませてもらうよ。まぁ、そっちも精々頑張りな」

 

 両陣営それぞれのパートナーに激励の言葉を掛け、それぞれがリングに上がる。

 

「それでは準決勝第二試合、ウォーリアーズVS獅子蝶々……始め!!」

 

 

 決戦の火蓋は切って落とされた!

 

 

 

レオSIDE

 

 激励の言葉を掛け合った俺達は、それぞれリングに上がって対戦相手と相対し、睨み合う。

 

「久々に楽しめそうだ。本気で行くよ」

 

「ああ、こっちもだ。……行くぜ!!」

 

 言葉を交わした直後、俺と羽丘は一気に距離を詰める。

すかさず繰り出される短棒による一撃を左手で受け止める。

 

「オラァッ!!」

 

 防御と同時に羽丘目掛けて俺はエルボーを見舞う。

だが羽丘も棒を逆手に持って難なくコレを防御してみせる。

 

「……(ニヤッ)」

 

「!?」

 

 俺の一撃を防御した羽丘は、笑っていた。

防御した事に対してではない。まるで蒔いた餌に獲物が引っ掛かった様な笑い方だ。

この状況で考えられる攻撃パターンは……。

 

「フンッ!」

 

 案の定頭突きか!?だったら……

 

「ダァッ!」

 

 こっちも頭突きで応戦。

お互いに強烈な一撃が額を打ち込まれ、その反動で背後に仰け反る。

 

「《クロスダイビング!!》」

 

 一足先に体勢を立て直したのは羽丘。

即座に棒を交差させ、文字通りダイビングのように俺目掛けて飛び込んでくる。

旋風波で迎撃……いや、間に合わない!だったら……!!

 

「そりゃあっ!!」

 

 羽丘の真上に飛び上がり、そのまま体を捻りつつ羽丘の後頭部を掴み、膝を延髄に押し当てる!

 

「《カーフ・ブランディング!!》」

 

 そのままマット目掛けて落下。

完全に入った!コレはもう回避不可だ!!

 

「……ククク。間抜けが」

 

 しかし羽丘の口から出た言葉は嘲り。

この時、俺はミスを犯していた。もしも背後を狙っていなければ折れは羽丘の表情を見ることが出来た。

それが出来れば、恐らくこの後の反撃を回避出来ただろう……。

 

「喝っ!!」

 

 羽丘は大きく口を開いて、まるで漫画で悪役が出す技のように口から気を放出して見せた。

 

「うおぉっ!?」

 

 技の反動でジェット噴射のように落下していた俺たちの身体は浮かび上がり、俺は羽丘から振り落とされてしまった。

 

「そらっ!!」

 

「あぐっ!?」

 

 振り落とした勢いに乗せて羽丘の蹴りが繰り出され、俺はガードする暇も無く顔面にモロにくらってしまった。

 

「クソッ…!」

 

「そこぉっ!!」

 

 間髪入れずに羽丘は俺の肩に跨ってくる。

これは、士慢を倒した時の技か!?それなら……

 

「一回見た攻撃なんざ喰らうかよ!!」

 

「!?」

 

 咄嗟に俺は肘鉄が繰り出されるより前に跳び上がり、その勢いに乗せて体位を上下反転させて振り落とし、羽丘を上下逆の吊天井固(ロメロスペシャル)に捕らえて落下、羽丘の顔面をマットに叩き付ける!

 

「グオァッ!!」

 

 苦悶の声を漏らして羽丘はダウンする。

だがココで攻撃を終わらせちゃ勝てるものも勝てない。

 

「教官の見様見真似だが……」

 

 両腕に気を纏わせ、交差(クロス)させた状態で採掘ドリルのように錐揉み回転しながら羽丘の背中めがけて急降下し、一気に追撃をかける!

 

「《フライングアタック!!》」

 

「アグァァッッ!!……クソッ!!」

 

 追撃を喰らう中、羽丘は棒を一本取り出すとそれをコーナーポスト目掛けて投げつけた。

 

「何!?」

 

 棒はコーナーに跳ね返って一直線に俺へ向かって飛んでくる。

何てコントロールセンスしてるんだよ?

 

「チッ!」

 

 追撃を途中キャンセルして何とか回避するが、棒は頬を掠めて僅かに切傷が出来て血が流れる。

思わず舌打ちしてしまう、やっぱり一筋縄じゃいかないな……。

 

「抜け目の無いやつだ……」

 

「そっちこそ……今のを即座に見抜ける奴なんてそうそういないよ。大佐の技を使うだけの事はある」

 

 え?……大佐って……まさか!?

 

「そう、ボクも去年の春にジョン・クローリー大佐直々に鍛えられた強化合宿経験者さ。どうやら君とは時期が違うようだけどね」

 

「マジかよ……」

 

 コイツが俺の兄弟子だってのか?

面白ぇじゃねえか!!日本じゃ同門対決なんて実現する事は無いって思っていたが、こんなチャンスにめぐり合えるとはな!!

 

「フフフ……考える事は同じか。最初に君の技を見た時は、僕も同じ気持ちだったよ」

 

 口の端を吊り上げて羽丘は笑う。その時、俺は自分も笑っていることに気が付いた。

 

「行くぜ、羽丘ぁぁ!!」

 

「僕を楽しませてくれよ……対馬ぁぁ!!」

 

 お互いに好戦的な笑みを浮かべながら俺達は同時に飛び掛った。

 

 

 

NO SIDE

 

 互いに突撃するレオとふぶき。

その一方で、Bリングでは乙女と瀬麗武の戦いが繰り広げられている。

 

「《獣王拳!!》」

 

「《波動光弾!!》」

 

 瀬麗武の拳から獅子を模した気の弾丸が放たれる。

乙女はそれを避けようとはせず真っ向から向き合い自身も気弾で応戦して相殺する。

 

「「ハァアアアッ!!」」

 

 気弾を放った直後に両者共に距離を一気に詰め、手四つつの体勢で力比べに入る。

 

「ぐぐ……っ」

 

「ぎぎ……っ、クソ!」

 

 徐々にではあるが瀬麗武が押され始め、後方に押し出される。

 

「こ、これが貴様の本気の力というわけか?」

 

「ああ、前回と違って肋骨が折れていないからな、今日は前回とは訳が違うぞ!!」

 

「チッ!」

 

 ニヤリと笑う乙女に瀬麗武は苦々しく舌打ちし、蹴りを繰り出す。

乙女は難なくコレを回避するが瀬麗武は距離を取る事に成功し、一度審判を見る。

 

「おい審判、お互いの合意さえあれば刀などの危険物の使用も認められるか?」

 

「は、はい。一応両者の合意の上であれば」

 

 やや戸惑いがちに返す審判に瀬麗武は満足気に笑う。

 

「ならば……軍曹!!」

 

「ハッ!スタンバイ完了しております!!」

 

 観客席から軍人らしき男が瀬麗武の愛刀、曼珠沙華を投げ込む。

瀬麗武はそれをキャッチすると刀を抜き、再び構える。

 

「貴様も持ってきているだろう?抜け、地獄蝶々を!!」

 

「良いだろう……伊達、蟹沢、鮫氷!」

 

「さ、サー・イエッサー!!」

 

 乙女はコレを承諾し、カニ達に刀を送るよう合図を送るが……。

 

「……待ちな、お前等より俺が投げた方が早い」

 

「え?お、お前らは!?」

 

 目の前に現れた男にカニは驚きの声をあげ、周囲の者達も驚きの表情を浮かべる。

ただ一人、大和のみを除いて。

 

「おー、こりゃまた面白ぇ奴のお出ましだ」

 

「俺が負けた奴がもたついてる所なんて見たくないんでな。それ借りるぞ。」

 

 大和の言葉に包帯と絆創膏で顔を覆った山城優一はニヤリと笑みを浮かべて返し、フカヒレの手から地獄蝶々を拾い上げる。

 

「受け取りな、鉄!!」

 

「感謝する!」

 

 投げられた刀を受け取り乙女も瀬麗武同様刀を抜いて構える。

 

「第2ラウンドだ。勝負だ、橘!!」

 

「行くぞ、鉄ぇ!!」

 

 素手から刀に変え、新たな戦いの火蓋が気って落とされる……。

 

 

 

レオSIDE

 

「《修羅旋風拳!!》」

 

「チィッ!!」

 

 繰り出される俺の拳を羽丘は左腕でガードし、右手で俺の腕を取る。

 

「貰ったぞ!!」

 

「うおぉっ!?」

 

 そのまま羽丘は俺のもう片方の腕も掴み、両腕をチキンウィングに捉えて背中におぶさる様にのしかかる。

 

「うぐぁぁぁ!!」

 

「捉えたぞ!《パロスペシャル!!》」

 

「ぐがぁぁぁ……!!」

 

 そのまま両肩を締め上げられ、足すらもロックされる。

や、ヤバイ……抜けられない!?

 

「無駄な足掻きはやめなよ。この技は通称『アリ地獄ホールド』。一度は待ったが最後、相手の数倍のパワーでもない限りぬける事は不可能だ!!」

 

「ギャアアア!!」

 

 ご丁寧に説明しながらより一層方を締め上げてくる。

畜生が……嫌な性格しやがって……。

 

「ホラホラァ!さっさとギブアップしないと、肩が粉々になっちゃうよぉ!!」

 

 勝利を確信したように耳障りな声を上げる羽丘。

コノヤロウ……そのスカした面、今すぐ変えてやるぜ!!

 

「活ーーっ!!」

 

「!……僕の技を!?」

 

 俺の行動に羽丘は驚く。

コイツが俺のカーフ・ブランディングから逃れたのと同様、口から気弾を発射してその反動で飛び上がって振り解いてやったぜ!!

 

「こちとら他人の技パクるの何て慣れっこなんだよ!!」

 

 元々対馬家ってのは努力次第でどうにかなるが武家の血を薄めてしまう程に運動が苦手な血筋、故に俺はそれを克服するまではずっと他人の技を盗んでそれを使いこなす事でテクニックや力を磨いてきたんだ。

今更コイツの技パクる事なんて屁でもない!!

 

「使えるものは何でもか……嫌いじゃないよ、そういうの。だが、コイツはどうかな!?」

 

 ニヤリと笑って羽丘の2本の棒の先端がバチバチと火花を散らす。

 

「す、スタンガンだと!?」

 

「電流は真似できないだろ!?《ブラスターウェーブ!!》」

 

 スタンガンから放たれる電流が羽丘の気と混ざり合い腕のように伸びて俺の身体を焼く。

 

「ぐがあああぁぁっ!!」

 

「ハハハハ!!悪いねぇ、君もあのデカブツとイケメン野郎と同じようになるのさ!!」

 

 一回所じゃねぇ……何度も何度も同じ攻撃を繰り返される。

そしてその度に俺の身体は電流を浴び、多大なダメージを連続して受け続けてしまう。

 

「チッ……やっぱり持続性とバッテリーに難があるか。だけど、これで終わりだ!!」

 

 出力の落ちたスタンガンに舌打ちしつつ、羽丘は俺の身体を持ち上げ、そのまま飛行機投げで上空高く放り投げられる。

 

「コレで終わりだ。落下してきた時が最後、顔面をスクラップにしてやるよ!!」

 

 落下する俺を待ち構え、羽丘は両腕に握る棒に力を込める。

 

(負けるのか?俺は……こんな所で)

 

 乙女さんとの将来が掛かった戦いで、こんな無様に……。

 

「負けて、堪るか……!!」

 

 ……俺は、負けられねぇんだ!!

考えろ!この状況で使えるものを!武器になるものを!!

電撃喰らってズタボロの身体でもまだ動けるはずだ!!

 

 

 

 

……電撃? 電撃……刺激……蓄電……それだ!!

 

「持ってくれよ、俺の身体!!ハァアアアアアーーーーーッ!!!!」

 

 

 

NO SIDE

 

「な、何だ!?」

 

 落下するレオを狙い打とうとするふぶきの目が驚愕に見開かれる。

レオの身体から浴びたはずの電流が再び走り、鎧のようにレオの身体を覆っていく。

 

(こ、コイツ……今まで喰らった電撃を自分の気とブレンドして即席で気を性質変化させたのか!?)

 

「俺は、勝つ!!勝って乙女さんと添い遂げる!!」

 

「く、クソ!!」

 

「ウォオオオオオ!!《修羅電撃旋風拳ッ》!!!!」

 

 迎え討つふぶきだが、レオは電撃を纏った旋風拳で応戦し、ふぶきの棒を粉々に打ち砕いた。

 

「ば、馬鹿な……」

 

「本当……良い刺激だぜ、この電撃は!!」

 

「がぁぁっ!!?」

 

 全身に流れる電撃が身体を刺激し、パワーが、スピードが大きく跳ね上がる。

まさに疾風迅雷ともいえるレオの攻めにふぶきはただサンドバッグのように殴られ続ける。

 

(は、反撃する暇が無い!?……た、耐え切るしかない!こんな無茶な戦い方が何分も続いて堪るか!!)

 

 しかし、同時にレオのこの戦法は己の体力を常に削り続ける諸刃の剣でもある。

吹雪とてそれを理解し、可能な限りレオの攻撃を防御して致命的な一撃を避ける。

 

(もうそろそろ限界だ……俺の残りの力全て、この一撃に賭ける!!)

 

 覚悟を決め、レオは右腕にありったけの気を込める。

 

「これで、最後だぁぁぁーーーーーー!!!!」

 

 そしてレオはその右掌をふぶき目掛けて突き出す。

 

「ぬぁああああ!!!!」

 

 最後の力を振り絞り、ふぶきはレオの一撃を捉え、その腕で防御する。

 

「《排撃(リジェクト)!!》」

 

「何ぃぃっ!?」

 

 ふぶきの防御を突き破り、レオの一撃はふぶきの身体に直撃し、そしてその刹那レオの右掌から溜め込まれた気が爆ぜる!!

ゼロ距離からの気の爆発による衝撃波……それがレオの新技『排撃(リジェクト)』だ!!

 

「グォォォォ!!!……み、見事……僕の、負け……カッ……ハ………」

 

 最後の最後でふぶきはレオへ向けて笑いかけ、賞賛の言葉を送って意識を失った。

 

「勝者・対馬レオ!!」

 

●羽丘ふぶき―対馬レオ○

決まり手 排撃(リジェクト)

 

 

 

レオSIDE

 

「へへ……ギリギリだったけど、やってやったぜコノヤロウ!」

 

 精根使い果たし、俺はマットに座り込む。

流石に疲れちまった……コレ、数日はまともに動けないんじゃ……。

 

「乙女さんは……な!?」

 

 Bリングに目を向けた俺は自分の目を疑う。

俺の目に映った光景、それは……。

 

「う、ぅ……ま、負ける、訳には」

 

 マットに倒れ伏す乙女さんと、それを見下ろす橘さんの姿だった。




久々に更新出来た……。
次はいつになるのやら……。

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