つよきす 愛羅武勇伝   作:神無鴇人

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対馬レオの日常 夜&二日目

レオSIDE

 

 俺達の生まれ育ったこの街、『松笠』。

名前の由来はこの地に固定保存されている連合艦隊の旗艦名から。

人口は約45万人。東京湾入口、関東の南東部に位置する、産業、港湾、観光の都市である。

米海軍・自衛隊の基地が点在し、異国情緒溢れる街として広く全国に知られている。

街には外国人や観光客、若者が多いため、ゲーセン、カラオケ、ビリヤード、ダーツ、ボウリング、クラブ、その他諸々、興施設には事欠かない。一種の歓楽街である。

都心まで一時間足らず、比較的おしゃれなイメージで尚且つ自然が多い。非常に魅力的な街だ。

 

 

 あの後ゲーセンで遊んだ俺達は家の近くで一旦別れた。

 

「お帰りなさい、あなた」

 

「ああ、ただいま」

 

 家に入るとスバルが飯を作りながら待っていた。

いっておくが別に怪しい関係とかじゃない。

俺は料理できないというほどではないが別に得意って訳でもない。

せいぜい肉と野菜炒めたり玉子焼きを作ったり出来るぐらいだ。

逆にスバルは不良っぽい外見に似合わず家事万能。作る料理は目茶苦茶美味い。

スバルの家は対馬家の三つ隣。

スバルの父親は将来を嘱望されていた陸上選手だったのだが、事故だかケガだかで挫折、後は酒びたりの女びたり。

結果母親は家を出てスバルも父親がいる家には帰りたくないらしく、父親と同じ空気を吸うのも苦痛と本人は語っている。

そんな事情で俺の家で飯を造って一緒に食うわけである。

大体週3〜4日くらい。俺は資金と場所を提供し、スバルは食材と技術を持ち寄る。

わかりやすいギブアンドテイクな関係だ。

 

「今日は野菜もこんもり入った牛カルビと、ネギの味噌汁、きくらげとフキのごまネーズだ」

 

「最高だぜ、何でお前女に生まれなかった?」

 

「フカヒレみたいな発言すんなよ」

 

 地味に傷つくぞその言葉……。

 

 その後カニとフカヒレも家に来て暫く駄弁り、9時を回った頃で家を出る支度を開始した。

 

「あ、そういえば今日だよね、防衛戦」

 

「ああ、骨のある奴だと良いんだけど」

 

 これから行く所は俺のバイト先、地下闘技場だ。

 

 

 地下闘技場……とだけ聞くと聞こえが悪いが、正確には違う。

地下にあるバー『狂犬(クレイジードッグ)』、そこで行われる格闘ショーだ。

ショーといっても勝負自体は真剣勝負そのもの、ファイトマネーだって出る。

賭博もやって無いから合法だし、ルールもプロの総合格闘技と同じだ。分かりやすく言えばハイレベルなアマチュア格闘技って所だ。

客もかなり多く、遠くから来る人間も居るほどだ。松笠の隠れた名所である。

ただしファイターの実力もピンからキリ、俺の実力は闘技場に登録しているファイターの中でもトップクラスでミドル級チャンピオンなため、互角に戦える人間は少ない。

チャンピオンクラスの実力者であれば俺と互角以上の奴はいるんだが、如何せんそんな実力者はなかなかいない。それに他のクラスのファイターとは早々戦えないし、最近はつまらない防衛戦ばっかりだ。

 

「今回の対戦相手だけど、半田紗武巣とかいうキザ野郎だぜ、新人潰して好い気になってるって噂だ」

 

 何処で仕入れたのかフカヒレが対戦相手の情報を教えてくる。

新人潰しか…………あんまり期待できないな。

 

『さぁ、本日のメインイベント、ミドル級のタイトルマッチだぁ!!』

 

 で、試合になった訳だが……試合内容に関しては割愛させてもらう。

プロローグで語ったし…………。

 

 

 

NO SIDE

 

 現在時刻午後一時ジャスト。

夜の松笠にたたずむ一人の女。

長身で鋭い目つきだが整った顔つきに抜群のプロポーション。

 

「ねぇ、ちょっといいかな?」

 

 その美貌に釣られて男が声をかけてくる。何処からどう見てもナンパだ。

 

「消えろ……潰すぞ」

 

「う……」

 

 目で威嚇して追い返す。たいていの人間はコレで尻尾を巻いて逃げる。

 

「小物が……つまらないな」

 誰にも聞こえないような小さな声で彼女、椰子(やし)なごみは呟いた。

 

 そして一日が終わる。

 

 

 

レオSIDE

 

 校門が閉まる直前、あわただしくかける人影が二人、俺とカニだ。

 

「ったく、また遅刻ギリギリだ、懲りもせず朝デッドなんかしやがってこのチビは」

 

「うっせー!デッドを聴いて一日が始まり、デッドを聴いて一日が終わる、これがボクのライフスタイルだもんね!つーか誰がチビじゃ!?」

 

 こんな感じで今日もまた遅刻ギリギリで登校。どうにかならんのかね、カニの朝デッドは…………。

 

 

 

 本日はテストの成績順位の発表日。全員廊下に張り出される結果に釘付けになる。

 

1位 霧夜エリカ 800点

 

 オール満点である、さすが姫。

 

「やっぱ姫って頭いいよね……」

 

「ああ…………」

 

 俺もカニも感嘆の声を上げる。

ちなみに俺の順位は丁度真ん中辺り。カニは……聞くな。

 

 

 

 一時間目は英語。祈先生の担当教科だ。

普段はおちゃらけな祈先生だが授業は厳しく、スパルタなので私語も居眠りも厳禁だ。

 

「フカヒレさん、のんびりしてますわね、このままですと、二年生をもう一回、ですわ」

 

 男子から先に呼ばれて、答案と一緒に祈先生の一言をもらう。

 

「伊達さん、貴方ならもっと出来るはずです、期待していますわ」

 

 それは賞賛、慰労、叱責、脅迫、激励と実に様々。

 

「対馬さん……点数はまぁまぁですがあまりに特徴がなくてつまらないですわ、もう少し正解か間違いを増やしてください」

 

 俺は訳のわからん言葉だった。

 

「続きまして女子、浦賀さん、まだまだですわ」

 

 無表情。

 

「カニさん、期末には一寸の虫にも五分の魂を、期待してますわ」

 

 呆れ顔。

 

「霧夜さん。言うことなしです。相変わらず素晴らしいですわ」

 

 笑顔。祈先生は表情をコロコロ変えて答案を返していく。

 

「よっぴー、ひっかけ問題にひっかかってくださってありがとう。点数自体は素晴らしいですわ」

 

「先生までよっぴー言わないでくださいよぅ……」

 

 諦めよう佐藤さん、もうそれが定着してるんだ。

 

「祈先生って人によってコメント露骨に違うね……」

 

 確かにな…………丁寧な言葉遣いなのだが、言っていることがかなりシビアである。

 

「くそっ、またフカヒレの点数見て心の傷を癒すぜ」

 

「フカヒレ君は何点だったのかなぁ、彼には負けたくないなぁ」

 

 点数の低い連中の声が聞こえてくる。フカヒレよ、お前は本当にこういうときだけは人気者だなぁ。

 

「なお、通常は30点以下なら赤点追試ですが、英語のみ、50点以下の場合から追加プリントをやっていただきます」

 

「ええぇーっ」

 

「その課題をやってこなかった方は……残念ながら“島流し”にしますわ」

 

 良かった、俺68点で…………。

 

 

 

 そして昼飯、本日は毎週恒例の学食30円引きの日だ。

 

「先行くぜ、よっとぉ!」

 

 スバルが先行して2階の窓から飛び降りる。

 

「じゃ、俺も先行くわ、じゃあな臆病者(フカヒレ)」

 

「あばよ臆病者(チキン)」

 

 俺とカニも飛び降りる。

普通に危ないが俺とスバルは運動神経が高いし、カニは体が軽いから全く問題ない。

フカヒレだけは無理。

 

「ちっくしょう、俺を仲間はずれにしやがって!!」

 

 そんな声が聞こえたような聞こえなかったような……。

 

 

 

 大学食は竜鳴館の名物の一つだ。

野外には海も見えるテラスがあり、そこで食う飯は格別だ。

 

「それにしても、島流しか……流されるのは欲望だけで充分だよね」

 

 水平線の先に見える小さな島、竜鳴館所有の無人島、『烏賊島(いかじま)』だ。

祈先生が言っていたように成績不良者や素行不良者は、あの島に流される。

そこで性根を鍛え直されるのが、通称『島流し』。大学食と並ぶ竜鳴館の名物である。

以前典型的なツッパリヤンキーが、島流しにされ、戻ってきた時には聞き分けの良い子に変わり果ててしまったという話だ。

こんな破天荒な学園なのにド派手な不良がいないのは、こういうのが抑止力になっているのが大きい。

 

 

「じゃ、俺集会あるから」

 

 フカヒレがそう言って席を立つ。

集会とは霧夜エリカファンクラブの集会である。フカヒレはその広報部隊所属。

親(ファン)でも反(アンチ)でもない俺から見ればよく分からない集会だ。

 

「あ、そうだレオ、お前も来てくれ、出頭命令が出てるんだ」

 

 は?

 

「何で?」

 

「ほら、お前姫と割と仲良いじゃん、お前と姫の関係について確認したいって皆が言ってさぁ」

 

 面倒くせぇ……。でも変な噂立つのも嫌だし、仕方ない行くか。

 

 

 

「まずは広報部隊、研修〜今日までの姫の様子を報告してください」

 

「うす、相変わらずテストはオール100点、2位に影も踏ませずぶっちぎりトップっす」

 

 親衛隊長の言葉にフカヒレが答える。

 

「また、のどが渇いたといってそこら辺の男をパシリに使ったり…………」

 

 …………よくもまぁ一つの話題でココまで騒げるなぁ。

まぁ当然と言えば当然か、姫にはそれだけのカリスマ性と実力があるし、かく言う俺もあそこまで自分を貫ける彼女を結構尊敬しているからな。

 

「で、そろそろ本題に移るけど、対馬君」

 

「あ、はい?」

 

「君は姫とはどういう関係なんだ?」

 

 姫との関係…………。

 

「悪友かな?姫の事尊敬はしてるけど別に恋愛感情は持って無いし」

 

「本当か?二言は無いな」

 

 俺の言葉に細目にオールバックの男が訝しげに訊ねてくる。確かこいつは2−Aの……。

 

「ああ、少なくとも今の俺にそういう感情は無い、安心しろ村越」

 

「村田だよ!村田洋平(むらたようへい)!!村越って誰だ!?」

 

 ああ、そうそうコイツ村田だ。

ついでにその後ろに居る女子は写真係で村田と同じクラスの西崎紀子(にしざきのりこ)だっけ。

 

「おいおい、お前村田知らないの?2−Aの秀才で地獄育ちの男で有名じゃん」

 

 フカヒレが背後から小声で話しかけてきた。

 

「地獄って何が?」

 

「村田洋平には12人の妹がいてアイツに懐いているらしい」

 

「それ天国じゃないのか?」

 

「ただ、全員すんごくブスなんだ」

 

「地獄だ!!」

 

 何て意味の無い設定なんだ……村田洋平恐るべし。

 

「で、写真係の可愛い女の子が西崎紀子、2−Aのマスコットみたいな娘で写真が趣味で広報委員会所属」

 

「やけに詳しいな」

 

「村田とは1年の時同じクラスだったし西崎さんは可愛い系として名を馳せている、つまり2人とも2−Aの有名人なんだよ、お前がそういうの無頓着なんだ」

 

「ふーん……ま、別にいいけど」

 

 どーでも。

 

 

 んで、ようやく長い集会が終わり俺も解放される。

 

「あ、やっぱりココにいたわね」

 

「なんだ近衛、お前アンチ姫じゃなかったか?」

 

 げ……嫌なのが来た。赤髪ツインテールでいかにも強気って感じの顔、俺の最も忌まわしい記憶の当事者の一人、近衛素奈緒(このえすなお)だ。

近衛のほうも俺と喋る気は無いらしく俺と目が合っても一睨みしてきただけで終わったが……。

 

「おいフカヒレ、いい加減レオ返せ〜〜」

 

 うわ、カニの奴なんてタイミングの悪い。

 

「ん?げ、何でツインテールがココに居んだよ?」

 

 詳しい説明は省くが、カニと近衛は目茶苦茶仲が悪い。その近衛がココに居るのに気付いてカニは一気に不機嫌になる。

 

「何よ、私だって来たくて来てるわけじゃないわよ、第一いきなり突っかかってくるってどういうつもり?」

 

 近衛の奴もますます不機嫌に……。

 

「ハッ!自分のそのぺったんこな胸にでも聞けよ赤毛猿、来たくないなら来んじゃねぇよ」

 

「何ですってぇ!!」

 

 あーあ…………やっぱりこうなるか。

 

「アンタ本当にトサカに来る!!」

 

「けっ!ボクはお前の存在自体が気に入らないんだよ!!お前の所為でレオはなぁ……」

「カニ!!」

 

「……ッ!ご、ゴメン」

 

 俺の怒声にカニは口を滑らせかけた事に気付き、引き下がる。

 

「戻るぞ」

 

「う、うん…………悪ぃ、レオ」

 

「いいんだよ、次から気をつけろよ」

 

軽くポンポンとカニの頭を撫でるように叩き、俺達は屋上を後にした。


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