格闘イベントで沸き立つ会場から少し離れたスタッフルームでは、ある事件が起きようとしていた。
「はぁ、はぁ……警察になんて、捕まって堪るかよ!
あのクソガキ!俺をこんな目に遭わせやがって!絶対後悔させてやる!!」
「待ってくれよ泰助ぇ〜〜」
澤永泰助と伊藤誠……先の猥褻未遂事件の下手人二人は、警察が来るまでの間スタッフルームに閉じ込められていたが、警備員が所用でその場を離れた隙にドアをこじ開け、脱走を図っていた。
(見た限り強いのはあのガキだけ。だったらアイツの連れをタイミング見計らってトイレにでも連れ込んで犯ってやる!
そうすりゃあのクソガキは大ショックを受けるって訳だ)
『懲りる』『反省する』という言葉を知らないのか、泰助は未だに下劣な企みを頭の中で浮かべ、下卑た笑いを浮かべる。だが……
「よぅ、性犯罪者どもが雁首揃えて何処に行く気だ」
「お、お前は!?」
そこに現れる一人の人影……直江大和だ。
大和は口元ではニヤニヤと笑い、目は冷徹に二人を見据えている。
「俺の妹分達に随分嘗めた真似して不快な思いさせてくれたじゃねぇか。あぁ!?」
「ゲェッ!ま、まさかテメェ、あのクソガキの仲間!?」
「ご名答。ならココに俺がいる理由、解るよなぁ?」
静かに殺気が大和の全身から溢れ出す。
気が付けば大和の表情は徐々に笑みが失せ、目には怒りの感情が加わっていくのが素人目にも解る。
例えるのであれば、それは獲物を捕らえる獣のそれだ。
「ひっ……ま、待ってくれ!俺は泰助に唆されただけなんだ!!
それにアンタの仲間の中学生達には手を出してない!!泰助は好きにしていいから俺は見逃してくれ!!」
「誠テメェ!!……あれ?」
誠の裏切り行為に激昂する泰助だが、ココである異変に気付く。
目の前に居た筈の大和の姿が消えていたのだ。
「俺の信条を教えてやろうか?」
「「!?」」
直後に聞こえる大和の声。その声を頼りに二人は大和の姿を見つける事に成功する。
大和は上に居た。上空に跳躍し、両手で手刀の構えを取っていた。
「下手人は、共犯諸共ぶっ潰す!!」
そして急降下と共に誠の両肩に大和の手刀が穿たれた!
「上海城壁崩しぃ!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアぁぁぁあぁっぁぁぁぁぁっぁ!!!!!」
ただでさえ鋭く強烈な手刀に落下のスピードが加わって、より威力を増したその一撃に、誠の肩から”メキッ”という音が鳴る。
肩の骨が脱臼したのだ。
「うがぁぁぁぁっぁぁぁーーーーーっ!!肩が、肩がぁあぁぁぁあぁああっぁああーーーーーっ!!!!」
凄まじい激痛に誠は絶叫し、のた打ち回る。
一般的に脱臼は骨折よりも痛みが強く、その上癖になりやすい。
デメリットという点ではある意味骨折よりも厄介だったりする。
「うる、せーぞ……馬鹿が!!」
「ゴェッ!!」
だが、それで終わらせやるような優しさなど、大和は持ち合わせていない。
倒れている誠の口内に蹴りをぶち込み、捻じ込み、顎を粉砕する。
大和の持つ残虐技の一つ『暴獣・口蓋捻り』だ。
「主犯じゃねぇからこの程度で終わらせてやってるんだ。
黙って床にキスでもしてろ雑魚が」
「ゲ……ガ…………」
当然そんな技を喰らって無事で居られるはずもなく、誠は白目をひん剥いて失神。
それを僅かに見据えた後、大和は誠の身体を脚で払い除け、今度は主犯である泰助に視線を向ける。
「ひぃぃいっ!た、助けて……ば、ばば、化け物……!!」
対する泰助は腰を抜かして後退るが、身体の震えが邪魔をして上手く動けない。
「さて、主犯格は……どうしてくれようかなぁ?」
「ひえぇぁぁぁっ!!
ま、待って!助けて!!許してくれぇ!!!!
金なら有るだけ全部やる!もうあんな真似しねぇから!だからもう勘弁してくれぇっ!!!!」
財布を差し出して床に頭をこすりつけながら土下座する泰助。
最早プライドも意地も全て捨て去り、無様かつ惨めな事この上ない姿だ。
「ほぉ、殊勝な心掛けだな。本当に有り金全部くれるのか?」
「勿論勿論!靴だって舐めったって良い!!だから許してくれよぉぉ〜〜」
「ククク……嫌なこった!」
泰助の懇願を鼻で笑い、大和は泰助の手を踏み躙った。
「ウギャアアあっぁぁぁっぁぁーーーーーーーー!!!!!!」
誠の時とは違い、”ベキッ”という音が踏み躙られた手全体から聞こえてくる。
今度は脱臼ではない。文字通り骨折……しかも複雑骨折だ。
「正真正銘のクズだなテメェは。クズ野郎の薄汚ぇ金なんぞに価値なんざねぇんだよ。
何より……テメェは俺の前でやっちゃいけない事を三度もやった!!」
泰助の胸倉を掴み、大和は凄まじいまでの殺気を放つ。
「ひいぃぃ!」
「一つ、あかりはもとよりリングに上がってすらいない京子に手を出そうとした事!
二つ、再起可能な程度の怪我で済ませてやったあかりの思いやりを無碍にして脱走し、挙句の果てに出来もしない復讐を企てやがった事!!」
怒りに比例するように大和の口調はどんどん荒くなっていく。
そしてそれに対して更に比例するかの如く、泰助の表情はますます恐怖の色を濃くしていく。
「大人しく警察に捕まっていればあかりの意思を汲んで見逃してやろうと思ったのによ……。
そして三つ目、アイツらを『クソガキ』って呼んで良いのは……俺だけなんだよぉっ!!」
「や、やめ……許しt、ぶげらぁっ!?」
この時、最早大和には泰助の命乞いなど聞こえもしなかった。
そのまま一切の躊躇もなく、泰助の髪を掴み、そのまま一気に自らの膝を泰助の顎に叩き込んだ。
「うぁがぁぁっぁ〜〜〜〜〜!!!!」
哀れにも、泰助は顎を砕かれるという一生味わいたくない痛みを体験する。
それに耐えられるほどのタフネスなど元々持ち合わせていない泰助は、当然の如く顎を押さえてのた打ち回る。
「おいおい、そんな悲鳴出すなよ。もっと聞きたくなるだろうが!」
表情を狂気の笑みに変え、大和は軽くステップを踏むように跳躍。そして……
「暴獣・口蓋捻り!!」
「ごがぁぁぁっ!!!?」
先の誠同様に泰助の口内に大和の足が捻じ込まれる。だがココから先は誠とは違った。
大和はただ捻じ込むだけには飽き足らず、足を更にグリグリと回転するように捻じ込んでいったのだ。
ただでさえ先程の膝蹴りで痛めつけられた顎にこの行為である。相手が相手とはいえ最早鬼畜の所業だ。
「おっと、まだ気絶すんなよ。これからがお楽しみなんだぜ」
「ひ!だ、だずげt……」
無理矢理泰助の身体を起こし、左手で泰助の身体を磔にするように壁に押さえつけ、空いた右手に力を込め……
「百烈拳!!」
「うがああああぁぁあぁあぁ!!!!」
一気にボディ目掛けて拳撃の連打を穿つ様に浴びせ、あばら骨を数本へし折った!!
「ガ……ぁ……も、もうやべで……殺ざないで…………」
最早呂律の回らぬ舌で泰助は仰向けに倒れたまま命乞いを続ける。
一方、大和は先程までの怒りと狂気の表情が消え失せ、無表情のまま泰助を見下ろす。
「安心しろ。次で最後だ」
感情の篭らぬ声を発し、大和は静かに愛用の鉄爪を右手に装着する。
「まま、待っでぐで!ぞ、ぞではじゃでに……」
(訳:「まま、待ってくれ!それはシャレに……」)
「誰がシャレでこんな事するか。…………死ね!」
「ぎゃあ゛あ゛ぁぁっぁあぁぁぁっぁぁッぁッっっっっぅぁぁあっぁ!!!!!!!!」
一気に殺気を発し、大和は右手の爪を振り下ろし、直後にその場には泰助の断末魔にも近い悲鳴が鳴り響いた。
大和SIDE
「あ゛…………ぁ…………」
「確かに殺したぜ。テメェの薄汚い心をな……」
目の前で寸止めを喰らって無様に泡を吹いて小便を漏らす澤永に俺はそう言い放ち、背を向けてその場を立ち去る。
後は大会が終わった後にでもさっき調べたコイツらのメアドに『次は無い』とでも脅しのメールを入れて口を封じておけばそれで良い。
「ケケッ……やっぱ下種野郎は良い。潰そうが裂こうが心痛まずに済むからな」
俺の仲間に侮辱する馬鹿は誰だろうと許さねぇ。それが猥褻行為なんていう下らねぇ目的なら尚更だ!
コイツ(泰助)はそれをやろうとした。あかりや京子達をテメェ勝手な性欲の捌け口にしてアイツらの女としての尊厳を侮辱しようとした!!
物理的に潰すだけじゃ足りねぇ!コイツの心も尊厳も全部八つ裂きにして踏み躙ってやらなきゃ許せねぇ!!
だからそうしてやった……ただそれだけだ。
(命があるだけ良かったと思え。半年も経てば治る怪我で済んでありがたいと思え。
これでまた同じ事をやるというなら、次はこれ以上の地獄を味合わせてやる!!)
残虐と思うなら思え。悪魔と呼びたきゃ呼べ。
今の俺には最高の褒め言葉だ……。