つよきす 愛羅武勇伝   作:神無鴇人

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久々に更新できました。


モンキー・マジックVSジャパニーズ・マジック!!(前編)

レオSIDE

 

 拓己が逆転勝利を決めてくれたお陰で戦績は1勝1敗1分の五分になり、次は副将戦。

向こう(神霆流)の残りメンバーは居合いの使い手・国本景一、そしてリーダー格の桐ヶ谷和人。

対するこちら側は俺と乙女さんか……。

さて、どっちが行くか?

 

「…………私は時代遅れなのか?

メールも満足に出来ない私は時代に取リ残サレテシマウノダロウカ?」

 

 ……乙女さんは大和の教育的指導(罵声込み)で真っ白になってる。

こりゃ復活まで後10分はかかるな。

仕方ない、副将は俺がやるか。

 

「こっちは俺が出る。そっちはどっちが出てくるんだ?」

 

 次の試合でチーム戦の勝敗は8割がた決まる。

実力的にはやはり副将は国本だろうが、この試合の重要性を考えれば桐ヶ谷が出る可能性も十分ありえる。

さて、どう出るか……。

 

「次の試合、一つ提案がある」

 

 俺の言葉に答えたのは桐ヶ谷だった。

 

「お互いここまでの戦いで1勝1敗1分。

次の勝負で引き分けにでもならなければ次で勝敗がほぼ決まってしまう。それでは興醒めもいい所だろ?

そこでだ、残ったそれぞれの副将と大将とでチームを組んでのタッグマッチを提案したい」

 

 タッグマッチか……悪くない!

 

「それじゃあ、次の試合までの繋ぎは俺がやってやる。その間に連携の打ち合わせでもしてろ」

 

 そういって口を挟んできたのは大和だ。

言うや否や大和はリングへ上がり、ある人物へ視線を向けた。

 

「来な、あかり!久々に闘り合おうぜ!」

 

 

 

 

 

NO SIDE

 

 大和から指名を受け、あかりはそれに無言で頷いて静かにリングに向かって歩き出す。

 

「ちょっ!?あ、あかり……大丈夫なのか?相手は“あの”大和先輩だぞ!」

 

「そ、そうだよ!あかりが強いのは解ってるけど、よりにもよって“あの”大和先輩とガチバトルなんて……」

 

 リングに上がろうとするあかりに、彼女の友人であり、大和との付き合いも長い結衣と京子は大慌てで止めに入る。

 

「……大丈夫。大和お兄ちゃんと戦うのは、これが初めてって訳じゃないから」

 

「「……え?」」

 

 あかりの答えに目を点にしてしまう京子と結衣。

大和という男の強さと恐ろしさが心底に根付いている二人にとっては、あかりの言葉があまりにも現実味を欠いたものに思えるのだ。

 

「ひ、酷い事とかされなかった?口では言えない事とか……」

 

「ううん全然。それにお兄ちゃんが本気で容赦しないのってさっきの二人組み(誠と泰助)みたいな下劣で卑劣な人だけだから。

それじゃ、行くね!」

 

 戸惑う二人に力強く返し、あかりはリングへと上がっていくのだった。

 

「そ、そんなにヤバイ人なんですか?あのドS男って……」

 

「「まぁ、一言で言えば……鬼(悪魔)だね」」

 

「…………」

 

 顔を青くしながら声をハモらせる京子と結衣。

それに対し、ちなつはただただ呆然とする事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 一方その頃、レオはというと……

 

「ほら、乙女さん。タッグ戦の打ち合わせするよ」

 

「……私ハ時代遅レナノカ?」

 

 乙女は未だに放心中だった。

年下から説教を受けた事で色々と精神的ダメージがでかいようだ。

 

(大和の野郎……やり過ぎだろ。後で一発殴っとくか?

それより、乙女さんだけど……仕方ない、『あの手』で行くか。人前でやるのはちょっと恥ずかしいけど……)

 

 やがてレオは乙女の顎を右手で持ち上げ、そして……

 

「んんっ!?」

 

『おぉーーっ!?』

 

 そのままレオは乙女の唇に口付けた。

その行為に周囲の者達から驚きの声が上がるのはある意味当然と言えた。

 

「れ、レオ……ひ、人前でこんな事……///」

 

「でも、目が覚めたでしょ?」

 

「こ、このバカが……でも、ありがとう……///」

 

 ある種の童話のヒロインの気分を味わい、乙女は赤面しながら恥らうのだった。

しかし、そんな二人を見る者の大半は、その甘ったるい光景に嫉妬の目を向けていた。

 

「ムガァーーーーッ!!」

 

「ギャアア!!俺に八つ当たりするなぁ~~~!!」

 

 そして、哀れにもフカヒレは暴走したカニの跳び蹴りの餌食となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「お前と戦うのも久しぶりだな。しかも今回は観客付きと来た」

 

 心配する友人達を尻目に意気揚々とリングに上がったあかりを大和は満足そうに笑みを浮かべる。

 

「観客付き?……ハッ!まさか皆の前であかりを晒し者にすr…ウギャッ!?」

 

 大和の言葉に過敏に反応する外野(京子)だったが、大和が指で弾き飛ばした五円玉を額に喰らって強制的に黙らせられる。

 

「外野うるせぇぞ。それとも何か言いたいことがあるのか?ええ、京子ちゃんよぉ……」

 

「い、一生ありません……」

 

「な、なるほど……たしかに鬼で悪魔ですね」

 

「でしょ?」

 

 後輩にも容赦の無い大和の姿にちなつは改めて京子達が大和を畏怖しているかが理解できた。

 

「大和お兄ちゃん、京子ちゃん達に酢の自分を見せるきっかけを作ってくれた事は、凄く感謝してるよ。

でも、勝負は勝負……負ける気なんか無いし、本気で行くよ!」

 

「ケケッ……当たり前だ。寧ろ本気で来る事が感謝の証ってもんだ。

こっちもガチでやらせてもらうぜ」

 

 凶悪なまでに好戦的な笑みを隠す事無く浮かべ、大和は愛用の鉄爪を装着して臨戦態勢を取る。

 

「始m…『ハァッ!』え?」

 

 試合開始の合図を審判が言い終えるよりも先に動いたのはあかりだ。

瞬時に大和の背後に移動し、貫き手を繰り出した。

 

「っ……おいおい、ゴング前の奇襲とは随分な真似するじゃないか?」

 

 だが、貫き手が首元に打ち込まれる寸前、大和はあかりの手首を掴んでこれを阻止してみせた。

 

「影に生きる者は奇襲なんて序の口だよ。それくらい知ってるでしょ?お兄ちゃん……っ!」

 

 手首を捕まれたまま、あかりは口角を吊り上げて不気味に笑う。

直後に捕まれた右手を手首のスナップを利かせて振るう。

 

(っ!?)

 

 この時、大和はあかりの様子に直感的に危険を感じていた。

あかりが手を動かすと同時に素早く掴んでいた手を離して身体を仰け反らせたその刹那、大和の頬が僅かに裂けた。

 

「グッ!(この技は……!?)」

 

 鎌鼬の如く不可視の斬撃。

その恐ろしき技をいきなり見せられて面食らいながらも、大和は脳内で技の正体と対処を猛スピードで思考する。

 

(あの指の動き、そして傷を受けた時の状況……考えられるとすれば、それは!)

 

「それ、もう一発!」

 

 志向する大和を余所に、あかりは再び右手を振るい、再び不可視の斬撃を繰り出す。

それに対し、大和は何を思ったのか、服を脱いでそれを大きく振るった。

 

「……やっぱりな」

 

 今度は大和の身体に傷は付いていない。

一方で大和が振るった自身の服は何故か数箇所ほど鋭利なナイフで刺されたかのような傷が出来ていた。

 

「……凄いね、もう見抜いちゃうなんて」

 

「フン、空気を使った飛び道具か。なかなか面白い技を覚えたじゃねぇか」

 

 大和の観察眼と聡明さにあかりは思わず舌を巻く。

この技の正体は大和の言う通り『空気』である。

その名も《空気手裏剣》……空気を気で包み込んで圧縮し、手裏剣型に形を整えて相手目掛けて投げつけるという技だ。

この時、重要なのは圧縮した空気を気で包み込む際、その気を限りなく薄くする事だ。

そうする事で相手側には投げられた空気手裏剣を目視するのが非常に困難になり、この技は不可視の攻撃と化すのである。

 

「ならこれでどう!?《お団子バズーカ!!》」

 

 即座に判断を切り替え、あかりは先の戦闘で見せた鉄球の仕込まれた二つの付け毛を投げ付けた。

 

「おっと!?」

 

 一投目は凄まじいスピードで真っ直ぐに大和に迫る。

だが、これは回避され、空を切るのみに終わる。

しかし、あかりの本命は二投目の鉄球にあった。

 

「うおぉっ!?」

 

 一投目とは打って変わり、二投目は弧を描くようなきれいな曲線を描いてカーブする。

更に先程の一投目によって生じた大和の死角を上手く捉え、これを回避するのは至難の技だ。

 

「クソッ!」

 

 間一髪の所で、大和は身を翻してこれを迎撃し、鉄爪で鉄球を真っ二つに切り裂いて見せた。

だが、それを見詰めながらあかりは再び口元に笑みを浮かべた。

 

「それ、爆弾だよ」

 

「しまっ……!?」

 

 大和が声を上げる間も無く、切り裂かれた鉄球……もとい、爆弾が爆ぜ、大和の身体が爆風に飲まれた。

 

「す、スッゲー!!あかりの奴、目茶苦茶強ぇ!!あの大和先輩が手も足も……」

 

 予想だにしていない親友(あかり)の猛攻に、彼女を応援している京子は歓声を上げてあかりの完勝を確信した、が……

 

「《真空空転爪!!》」

 

 爆煙の中から勢い良く飛び出し、大和は高速回転しながら鉄爪であかりを強襲する。

 

「グッ!」

 

 大和の素早い攻撃にあかりは完全には回避しきれず、僅かに鉄爪が身体を掠めた。

そして、それによって出来た隙を大和は決して見逃さない。

 

「うぉらあっ!!」

 

 即座に技を切り替えて大和はバック宙の要領で跳び上がり、あかりの方に跨った。

そしてそのまま前方に倒れこむように身体を揺らし、その勢いと足の力であかりを投げ飛ばそうとする。

プロレス技で言う所の『フランケンシュタイナー』である。

 

「《順逆自在の術!》」

 

 だがあかりも黙ってやられはしない。

先の戦いで見せた超高速の返し技で体勢を入れ替え、逆に大和をフランケンシュタイナーに捉えた!

 

「これで…『墳っ!!』っ!?」

 

 そのまま大和を投げ飛ばそうとしたあかりの表情が驚愕に変わる。

勢いをつけて前に倒れこんだにも拘らず、大和の身体は微動だにしないのだ。

 

(な、何て踏ん張り……。まさか、不意を突かれてこれだけの力を出せる筈が……ハッ!?)

 

 そこまで考えてあかりは気付いた。

不意を突かれて出せない力ならば、逆に不意を突かれさえしなければ話は別である。

 

「そう来ると思ったぜ。この返し技は、お前の十八番だからなぁっ!!」

 

 そう、大和はこの展開を読んでいたのだ。

自身の投げ技をあかりは順逆自在の術で返そうとする事を……それを予測していれば対処のし様はある。

そして、大和はあかりを肩車の体勢で担いだまま、一気に跳び上がった。

 

「とっておきだ……しっかり味わいな!」

 

 そのまま空中で上下反転し、一気にマット目掛けて落下する!

 

「《九龍城落地(ガウロンセンドロップ)!!》」

 

「カハァッ!!」

 

 成す術無くマットに激突し、あかりは苦悶の声を上げる。

落下の勢いと大和の全体重をかけた強烈な一撃だ。これでKOされない者は少ないだろう。

 

「そ、そんな……あかりちゃんが」

 

「あ、あんなの喰らったら、いくらなんでも……」

 

 マットに倒れ伏すあかりの姿に、京子達の顔は青褪める。

ピクリとも動かない親友の無残な姿は彼女達に最悪の結末を予想させた。

 

「ひ、人殺s『いや、死んでねぇぞ』……へ?」

 

 絶望しているちなつに対し、大和は不意に言葉を挟んだ。

 

「つーか、いつまで狸寝入りしてんだ?さっさと起きろ、あかり」

 

「やっぱりばれてた?」

 

 その言葉に、KOを確信していた周囲の者達は驚愕する。

KO必至の一撃を受けたはずのあかりが何事も無かったように立ち上がったのだ。

 

「ケッ……大方、激突する前に首周りをさっきの手裏剣の要領で空気を集めて防護してたな」

 

「まぁね。でも、結構ギリギリだしダメージも少なくないよ」

 

 大和の予測の的確さを肯定しつつ、あかりは再び身構え、まだまだ戦闘可能という事をアピールする。

 

「今度はこっちのとっておきを見せる番だよ。お兄ちゃん!」

 

「ケッケッケッ!そう来なきゃ、戦(や)り甲斐がねぇぜ。……来な!あかり!!」

 

 二人の戦いは佳境へ突入する……。

 


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