つよきす 愛羅武勇伝   作:神無鴇人

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雪辱日和

レオSIDE

 

 本日は毎週恒例の館長による授業、『心』を学ぶ独自のカリキュラム、その試験結果発表である。

 

「うむ、全員出席か、実に結構」

 

 いや、アンタの授業をサボる命知らずはココにはおらん……。

 

「いつの世になっても体が資本であるのに変わりはないからな、それではこの間の試験を返却する!全員、戦場で敵を倒す兵士のように元気良く答案を受け取るように」

 

 …………ノリが最早戦時中だ。しかし口がそんな事は裂けても言えない。

 

「俺、これだけは点数いいんだよな」

 

 フカヒレは試験の名前を書く欄、男・女の男の部分に二重線を引き、『漢』と書くアホだ。

だが、これをすると館長は5点アップしてくれる。それで良いのか?

だが問題は結構面白い。『問1 お前の主張を書け』や、『問2 百人の命と一人の命、どっちを助ける?』など。

 

「とりあえず百人って書いたら○もらったよ」

 

「気分にもよるけど、もちろん両方助けるわよ、私、結構欲張りだし」

 

「一人と百人、その百人が他人で一人がダチだったとしたら、オレは一人だね」

 

「美人だけ助ける。後は自力で生き延びてくれ」

 

「うーん、私わからないって書いたらバツだった……どっちが正しいかわからなくて……」

 

 上からカニ、姫、スバル、フカヒレ、佐藤さんである。人それぞれ色んな考えがあるというのがよく分かる。

え?俺はなんて書いたって?

『出来る限り多くの命を助ける、100人も1人も関係なし、ただし助ける優先順位は選ぶ』だ。

 

「ま、若い内は色々やってみるが良い。恋愛、旅、スポーツ、勉学、何でも構わん」

 

 何だかんだ言ってもこの人の言葉には重みがある。それがこの竜鳴館のクオリティの一つなんだろうな…………。

 

「いずれそれがお前たちの『力』になるだろう、例えば、儂(わし)のように体を日々鍛えていれば、熊九頭までなら素手で倒すことも可能になる」

 

(それはアンタだけだ)

 

 まぁ2〜3頭ぐらいなら何とか出来る自信はあるが…………。

 

「もし、日々がつまらぬ。日常がつまらぬ。毎日が同じことの繰り返しで何か刺激を求めている者がいたら、儂のところへ来い儂が心身を鍛え、面倒を見てやろう」

 

 それはそれで面白そうだが怖いと言う思いが強いので止めとこう…………。

 

 

 

 ようやく一日の授業が終わって帰りのHR。今日は中間考査の結果の総括。

 

「2−Cは7クラス中4位と、問題児揃いにしてはまずまずではありました」

 

 祈ちゃんよ、仮にも担任ならそういう発言は控えてくれ。

 

「ですが、仇敵である2−Aには及びませんでした」

 

 祈先生とA組の担任は対立関係にある。テストの成績でよく賭けをしているから、それに負けるのが癪らしい。っていうか俺達を勝手に賭けの対象にしないでよ…………。

 

「霧夜さんのワンマンクラスと言われては皆さんも心外でしょうし、ここは一つ期末で順位昇格を狙おうではありませんか」

 

 アンタの懐のためにか?

 

「ここで土永さんから一言」

 

「いいか、テストなんてただの記号だ。生きるための知識として通用するのは多くない……だが、しっかりやっといていい点取ってりゃ進路も増える、くだらねぇがこれが日本のシステムだ、ま、がんばれや」

 

「……と、土永さんが言ってますわ」

 

 正論だが……オウムに言われたくねーよ。

 

「あくまで私が言ったのではなく、オウムが鳴いただけ、というのお忘れなく」

 

 そしてこの台詞である。この人はこういう所が抜け目無いんだよなぁ…………。

 

 

 

 

 そしてまた、夜のダベり。

暫くはタイトルマッチも無いので皆でのんびり出来るぜ。

 

「しかし、乙女さんか……俺のねーちゃん程酷くは無いけど、同情するぜ」

 

 姉にトラウマの有るフカヒレが俺を哀れむような目で見てくる。

 

「まぁ、確かに規則正しい分うるさいからな……昔は恐怖の対象だったからな」

 

 ま、いずれリベンジするつもりだけど…………。

 

「そうそう、分かる分かる、姉ってさぁ、怖いだけなんだ、人の体兵器で実験に使うしさ、背中に爆竹入れたりするんだぜ」

 

「そりゃお前ん家のねーちゃんだけだ」

 

 たまに恐ろしくなってしまう。あの時リベンジを誓わなかったら俺はフカヒレの同類になってしまったのではないかと…………。

 

「あ……あ……あ……やべぇ記憶が蘇ってきた……!」

 

 突然フカヒレが震えだした。トラウマモード突入だ。

 

「あーあ、トラウマが発動しちまった」

 

「こうなると放置しておくしかないね」

 

「うわーん!止めてよお姉ちゃん、いくら声が似ているからって僕をM字ハゲにしないでよう!」

 

「難儀な奴だな」

 

 フカヒレがトラウマから解放される日は……来ないだろうなぁ…………。

 

 …………あ、そういや乙女さんが明日会うとか言ってたけど、家に来るのか?

…………ま、いっか。

 

 

 翌日……つまり土曜日の朝。俺は目を覚まし休日の恒例である片手逆立ち腕立て伏せを開始する。左右それぞれ100回で1セット、コレを3セット繰り返す。ちなみに普通の片手腕立てなら高速でも1000回は普通にイケる。

コレを始めてもう結構経つ、割と続いているんだがどうにも俺は筋肉が付き難く、そのため割りと細身だ。

ま、そのおかげで無駄な筋肉が無く今みたいに身軽になれたんだけどな。

 

「98、99、100……よし、まず1セット」

 

『ピンポーン』

 

 

「?……はーい、今出ます」

 

 丁度1セット終わった頃、呼び鈴が鳴った。

 

「おはよう」

 

 乙女さん…………本当に来ちゃったよ。

 

「おはようごさいます……………」

 

「うむ、盟約どおり、私は今日からここで暮らす」

 

 は?

 

「あの、それはどういう……」

 

「その間の抜けた顔は寝起きだな……私は勝手にやるから、顔でも洗っていろ」

 

 そのままズカズカと家の中に入っていく乙女さん。

 

「……取り敢えず顔洗おう」

 

 冷水で顔面を濡らして頭を落ち着かせる……よし、落ち着いた。

そして結論→うん、やっぱりおかしい。

 

「ちょっと待った!何でいきなりそんな話になってんの!?ココで暮らすってどういう……」

 

「聞かなかったのか?私はここに卒業まで逗留する」

 

 逗留って古い言い方だな……って違う違う違う!!

 

「ご両親から話を聞いていなかったのか? 元々はそっちからの頼みだったハズだが……」

 

「頼みって何の……?」

 

「疑問文の応酬だな」

 

 誰がそうさせた……。

 

「レオはどうにも頼りないからビシバシ鍛えてやってくれと言われてな、空手も破門されてしまったと聞いたしな、私もお前には鍛錬の必要ありと感じた、だからココに来た」

 

 …………。

 

「本来ならお前が鉄家に来れば話は早いのだが、爺(じじ)もいるからな……だが、私の実家は東京だ、通学には遠すぎる、実際私も朝早くから電車を乗り継いで通学していたが、家が遠くて不便だったからな、だが、ここなら徒歩十分だ、私だって空いた時間を好きに使えるし、お前も引っ越さなくてすむ、家賃も無いし正直悪くない話だと思ったぞ」

 

 さいですか…………。

 

「受験勉強もここでするの?」

 

「私は推薦狙いだ、成績は問題ない、むしろ学校が近くなり、より風紀委員や部活に精が出せる、推薦狙いには丁度いい」

 

「でもさ、推薦狙いが男と同居してるってマズくない?」

 

「私とお前が赤の他人ならそれこそ大問題だがな、親戚同士で何が問題なものか」

 

「乙女さんのご両親はなんて?」

 

「もちろん両親も同意の上だ」

 

「俺の同意は?」

 

「……お前、私が嫌なのか」

 

 嫌って程じゃないが、今すぐ同意しろと言われてもなぁ……。

 

「乙女さんはそれで本当にいいの?俺と一つ屋根の下だよ?」

 

「私は一階の客間、お前は二階、さほど気にならん、第一軟弱なお前ごときに襲われるほど私はやわではない」

 

 ん?聞き捨てならん言葉があったが……まぁいい、まずは……。

 

「ちょっと待ってて、親に確認する」

 

 

 ……………………結果、両親も同意でした、ハイ。

 

 

「どうだった?」

 

「『伝えるの忘れてた』と」

 

 なんつー親だ。

 

「コレで問題ないな」

 

「まぁね、俺の意志以外は……性格合わないと思うよ、俺テンションに流されるの否定派だから、主導権が俺にあるっていうなら話は別だけど」

 

「その性格を含めて鍛え直すんだ、軟弱とテンションに流されない事は違う」

 

 …………へぇ、そう言う。

 

「言ってくれるじゃん……でもさ、俺だって意地ってもんがあるんだよ、少なくとも古い情報だけで心身ともに俺を舐めきってる人と一緒に住みたいとは思わないね」

 

 俺が挑発的に笑って見せると乙女さんは余裕綽々と言った感じに笑みを浮かべた。

 

「随分自信満々だな、何ならかかってくるか?一撃でも入れることが出来ればお前の勝ちにしてやる」

 

 舐めやがって……!だけどリベンジマッチとしては悪くない!!

 

「それじゃ…………!!」

 

 一瞬で距離を詰める。コレが俺の宣戦布告だ!!

 

「!?」

 

 乙女さんの表情が一瞬で驚愕に変わる。その隙を見逃しはしない!!

スピードを乗せた左フックを乙女さんの眼前で寸止めする。

 

「!?(み、見えなかった……だと)」

 

 寸止めとはいえ思わぬ一撃に狼狽する乙女さん、当然だ、油断しきっている状態で俺のスピードは捉えられない。館長クラスであれば話は別だが……。

 

「『男子三日会わざれば刮目して見よ』……それは俺にも当てはまるんだぜ」

 

「…………レオ、お前」

 

「ルール変更して戦(や)る?戦(や)るって言うなら本気出さないとね、お互いにさ」

 

 挑発的に笑ってやる。もう俺はアンタに駄馬と呼ばれていた俺じゃないんだ。

 

「…………お前への認識を改める必要があるな」

 

 静かに此方を睨みつけてくる乙女さんに俺は表情を引き締める。

 

「ココじゃ何だし、場所移そうか……」

 

「そうだな、学園の道場で戦(や)るぞ、あそこなら今日は人がいないから思う存分戦(や)れる」

 

 上等、白黒はっきり付けてやるよ。

 

 

 

フカヒレSIDE

 

 街を歩いていたら妙な光景を見た!

レオと乙女さんが二人揃って歩いてやがる。

しかもレオの表情、滅多に見せない戦闘モードだったし!

なんか凄い事になりそうだ、カニとスバルにも知らせねぇと……。

 

 

 

エリカSIDE

 

 突然頭に何か妙な感覚が走った。虫の知らせって奴かしら?

 

「学校の方?何かビッグイベントな予感♪」


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