つよきす 愛羅武勇伝   作:神無鴇人

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激突!!〜若き獅子の咆哮〜

レオSIDE

 

 更衣室で愛用のボクサーパンツに着替え、道場にて乙女さん(こっちは拳法着)と相対する。しかし……。

 

「何でこうなってんの?」

 

「私に聞くな」

 

 周囲にはカニ達+姫、更には館長まで居る。館長は審判を買って出てくれたからいいとして…………。

 

「うぉおおおお!いつかはやると思ってたけど遂に始まるぜ最強のドリームマッチ!!」

 

 興奮してはしゃぐカニ、うるさい…………。

 

「まさかこんなに早くレオがリベンジに挑むなんてな、俺の予想じゃあと1ヶ月ぐらいは掛かると思ってたのに」

「乙女センパイに何処まで持つかしら?」

 

 姫、俺が負けること前提で考えるなよ。

 

「いや、レオはああ見えて強いぜ、普段喧嘩なんてしないが見えない所で相当場数踏んでるからな」

 

 皆口々に言いたい事言いやがって。

 

「では、準備は良いな?」

 

「いつでも構いません」

 

「こっちも」

 

「うむ……ルールを確認しておくぞ、噛み付きと目潰し、急所への集中攻撃は無し、それ以外は特に問題ない」

 

 そいつは良いお互い全力で闘(や)り合えるってもんだ。

 

「では…………始め!!」

 

 館長の怒声と同時に俺達は互いに踏み込んだ。

 

 

 

乙女SIDE

 

 両者同時に踏み込む。先に仕掛けたのはレオだ。

 

「ラァッ!!」

 

 とてつもなく速い拳が連続して私に襲い掛かる。

 

(!?……速い!)

 

 すかさず腕でガードするが……は、速過ぎる!!ガードが追いつかない。

 

「クッ……」

 

 数発喰らってしまった、なんて鋭い拳だ……。

 

「だが、パワーは私が上だ!!」

 

 レオの拳に耐え、カウンター気味に此方も拳を繰り出す。

 

「グゥッ……」

 

 掌で受け止めるがレオは苦悶の表情を見せる。

 

「痛ってぇ、ったく、何てパワーだよ……」

 

 一旦距離を取り合い、レオは私の拳を受け止めた手を振りながら言う。

「そっちこそ、とんでもないスピードだな、軟弱という言葉は撤回してやる」

 

 認めざるを得ないな……コイツはもう根性無しだった頃のレオじゃない。

だが、勝つのは私だ!!

 

 

 

レオSIDE

 

「準備運動はコレで終わり、こっからは本気(マジ)で行くよ」

 

「いいだろう、こちらも存分に行かせてもらう」

 

 再び構えてじりじりと距離を詰め、一定まで近づく。

 

「ハァアアアアア!!」

 今度は乙女さんが先に仕掛けてきた。

とんでもない威力の右ストレート、正面突破か?当然身を屈めて避ける!

 

「墳っ!!」

 

 ゲ!?読まれた!膝が目の前に!!

 

「チィッ!」

 

 さっきみたく掌で防ぐが、勢いは大して衰えず俺の手諸共顔面に入る。

 

(痛っでぇ……)

 

 手がクッション代わりになったとはいえかなり痛い。まともに食らえば大ダメージは必至だ。

 

(けど元は取った!)

 

「うわっ!?」

 

 すかさず乙女さんの足を掴んでドラゴンスクリューで投げ飛ばし、ダウンさせる。

 

「もらった!!《テキサスコンドルキック!!》」

 

 起き上がりを狙って両膝蹴りによる奇襲を叩き込む。

 

「ウグァッ……クソ!」

 

「うわっ」

 

 一瞬苦悶の表情を見せる乙女さんだが即座に俺の身体を掴んで投げ飛ばし、俺は背中から床に叩きつけられる。

 

「「……………………」」

 

 お互い無言のまま体勢を立て直し睨み合う。

 

「「!!」」

 

 直後に二人同時に踏み込み、拳を連続して繰り出し合う。

 

「ダァアアアア!!!」

 

「ウラァアアア!!!」

 

 お互いにラッシュの応酬。乙女さんのパンチは凄まじいパワーと重さがあって威力で言えば確実に俺の上を行っている。

だが俺のパンチには乙女さん以上の手数とスピードがあり、尚且つスピードによる鋭さが加わり、乙女さん程ではないにせよ威力も高い。

 

「ハァッ!!」

 

「ウラァッ!!」

 

 お互いのストレートが顔面に入り、俺達は面白いように同時に仰け反った。

 

「クッ……やるな……」

 

「……そりゃ、どーも」

 

 暫く続いた殴り合いが一区切りし、軽口を叩きあう。

 

「そろそろ本気で行かせて貰う!!」

 

 乙女さんがまた俺に襲い掛かってくる。俺は再び迎え撃つが……。

 

「!?」

 

 パワーがさっきより上がっている!?ヤバイ、押し負ける!

 

「ハァアアアアア!!」

 

「ガッ……!」

 

 乙女さんの蹴りにガードを崩され、乙女さんはそのまま俺の胸板を踏み倒した。

 

「ゲハァッ!」

 

「もらった!!」

 

 ダウンした俺に馬乗りになって俺の顔面にパンチの連打を浴びせてくる。

 

「うわ、顔面をモロに……」

 

「こりゃヤバイぞ……」

 

「さすがに乙女センパイが相手じゃここら辺が限界なのね……」

 

 言いたい放題なギャラリー。

 

(畜生……まだ、負けてたまるか!!)

 

 両手でガードして耐える、耐え続ける。

 

「これで終わりだ!!」

 

 乙女さんがフィニッシュと言わんばかりの拳を振り上げる。たぶんガードも突き破るほどの渾身の一撃だろう。

 

(今だ!!)

 

 大振りになった隙に乙女さんの頭を掴み、渾身の力で締め上げる。

 

「グァアアアアアッ!!!!」

 

「ぬぉおおおおお!!!!」

 

 更に力を込めながら乙女さんをマウントポジションから引き離す。

 

「出たぜ!レオの十八番(オハコ)、アイアンクロー!!」

 

「グゥゥ…………こ、この!!」

 

「おっと!」

 

 蹴りを繰り出して俺を引き離そうとする乙女さんだったが俺はすぐにアイアンクローをはずしてそれを回避する。

 

「クゥ…何て握力だ、今のはかなり効いたぞ……」

 

 頭を抑えながら乙女さんは唸り声を上げる。

 

「へへ……俺も握力なら乙女さんのパワーにも負けない自信があるんでね…………次はこっちが本気を見せてやるよ」

 

 両手の指先に力を集中させる。見せてやるぜ、とっておきのあの技を。

 

 

 

NO SIDE

 

 レオが指先に力を集中させた直後、その変化は周囲にも伝わった。

外見自体は何も変わらない。しかし何かが変わったのが空気を通して伝わってくる。

 

「むぅ……あの技は……まさしく鉄装拳(てっそうけん)!」

 

 百戦錬磨の武人である平蔵は直感でレオの技の正体を見抜いた。

 

 

「《鉄装拳》

 かの豊臣秀吉によって行われた刀狩によって民衆は武器を持つ事を固く禁じられた。

そこで生み出された二大活殺術が身の回りの日用品を武器と化して戦う無限流活殺術とそれに対を成す鉄装拳である。

その極意とは、氣で己の肉体をコントロールし、鉄装拳の名の示す通り自らの手足や体を鉄の如く硬く強化する事にある。

強化された肉体は拳や脚はあらゆる物を打ち砕く鈍器となり、手刀は鋭い刃物と化す、文字通り『人間凶器』と呼ぶにふさわしい肉体となる。

なお、現在でも硬く握り締めた拳を『鉄拳』と呼ぶのはその名残である。

 

                         民明書房刊 世界・男の拳大全より」

 

 

(クッ……何という闘志だ、コレがレオの本当の力なのか?)

 

 流石の乙女も戦慄を隠せない。今までこれ程の闘志を燃やす相手はそうそうお目にかかれるものでは無い。

 

(あれを避けるのは……無理か、悔しいがスピードも手数もアイツの方が上だ、ならば……真っ向勝負だ!!)

 

 元々逃げの一手は彼女の性分ではない。

それならばと正面から迎え撃つ事こそ美徳と考えるのが彼女、鉄乙女なのだ。

 

「行くぜ!!」

 

 俊足ともいえる速度でレオは乙女に接近し凄まじい速度の蹴りを見舞う。

 

「グゥッ……!!?(な、なんて硬さと鋭さだ)」

 

 まるで鈍器で殴られたような感覚に乙女は一瞬ではあるがたじろいでしまう。

そしてそれを逃すほどレオは甘くは無い。

 

「うぉおおおおおおお!!!!」

 

 咆哮と共にレオは両拳で乙女の顔面を乱打する。

 

「グ……ガッ!!?!」

 

 凄まじい連打に瞬く間に乙女はサンドバック状態になってしまう。

 

「こ……の…………舐めるなぁあああーーーーーーー!!!!!」

 

 だが乙女の目はまだ死んではいない。乙女が反撃に移り再びラッシュの応酬に入る両者。しかしその凄まじさは先ほどのものの比ではない。

両者の拳が、脚が、相手に噛み付くように襲い掛かり、瞬く間に互いの傷が増えていく。

 

「うぉらぁあああああーーーー!!!!」

 

「甘い!!」

 

 レオの右ストレートをかわし、乙女はレオの頭部をヘッドロックで捉え、そのままレオをブルドッキングヘッドロックで床に叩きつける。

 

「ブッ!……こ、の…野郎!!」

 

 ダメージを受けつつもレオは乙女の髪を掴み、ヘッドバットを叩き込む。

鉄装拳で強化したヘッドバットである。その威力は絶大だ。

 

「ぐあぁぁぁ!!……クゥッ」

 

 お互い顔を傷だらけにし、体中ズタボロになりながも二人の立ち上がり、その目は未だ闘志に燃えている。

「喰らえぇ!!《波動光弾!!》」

 

 遠距離からの気による遠当てが乙女の両手から繰り出される。

 

「甘い!!《修羅旋風拳!!》」

 

 乙女の遠距離攻撃にレオは両腕を高速回転させて自らの腕に竜巻を纏わせる事により、攻撃力を増加させた拳で叩き落す。

そんな二人の様子にギャラリー達も開いた口が塞がらないといった様子だ。

 

「ハァハァ……ココまで私がボロボロになってしまうとは…………見直したぞ、レオ……」

 

「ハァハァ……見直したって言うならさぁ、降参してくれない?」

 

「冗談言うな、弟に負けるなど私のプライドが許さん」

 

 レオの軽口に乙女は笑みを浮かべながら答える。

それを見てレオも僅かではあるが笑った。

 

 

 

レオSIDE

 

「お互いもう限界の様だな、次で一撃で決めさせてもらう!」

 

 乙女さんがそう言いながらゆっくりと構える。

 

「はぁああああ…………!!」

 

 クッ……空気を通じて凄まじさがビンビンに伝わってくる。

何だよこりゃあ、俺の鉄装拳と似ているが威力は段違いだ。

俺の鉄装拳は汎用性を重視しているのに対して、アレは純粋な攻撃特化型だ。

それに加えて乙女さんのパワー、まともに喰らえば俺でもノックアウトは必至。

避けるか?…………いや、それを許すような乙女さんじゃない。

なら、やるべき事は一つ、危険な賭けだがやるしかない!!

 

「だったらこっちも切り札使うまでだ……」

 

 静かに体と両手に残りの力を込める。

 

「行くぞ……鉄流奥義、《真空鉄砕拳(しんくうてっさいけん)!!!!》」

 

 とんでもない勢いで乙女さんの拳が俺の体を狙って迫り来る。

まだだ、まだ動くな……チャンスは一瞬、それに懸ける!!

 

「喰らえぇえええええーーーーーー!!!!!」

 

 乙女さんの拳が俺の体に吸い込まれるように入る。

 

「そこだ!!」

 

 俺の体にパンチが入るその直前、俺はカウンターの要領でそれを繰り出した!!

 

「《気掌旋風波(きしょうせんぷうは!!!!)》」

 

「な!?うわぁぁぁぁ!!!!」

 

 お互いのストレートがほぼ同時に入ると同時に俺の右腕から強烈な竜巻が吹き荒れる。

気掌旋風波……己の拳から凄まじい竜巻を生み出し、相手を吹き飛ばす俺の切り札だ!!

 

「カハッ!」

 

 吹き飛ばされた乙女さんは壁に叩きつけられダウンする。

俺も乙女さんの一撃を喰らってしまってはいるが旋風波による竜巻がクッションの役目を果たしてくれたお陰でなんとか立っていられる。

 

「ぐ……ま、まだ…終わりでは……」

 

 だが、乙女さんはそれでも立ち上がろうとする。

まだ終わりじゃない。止めを怠る事は敗北に繋がる。

俺は乙女さんの両足を掴んで再びダウンさせる。

 

「『天使のように細心に』そして……」

 

 そのままジャイアントスイングに捉えて振り回す。

 

「『悪魔の様に大胆に』だ!!」

 

「グゥ…ゥゥ……」

 

 そのままぶん投げ、直後に間髪入れずに接近、再び掴みかかりローリング・クレイドルで三半規管を狂わせる。

 

「クッ……ドリャァアアアア!!!!」

 

 さっきまでの傷や必殺技でのダメージによる痛みを訴える体に鞭打ち、エアプレンスピンで上空に投げ飛ばし、天井に激突させる

 

「これで……ラストぉおおおおお!!!!」

 

 落下する位置に立ち、直立不動のまま拳を振り上げる!!

 

「《我流連撃・風林火山》…………」

 

「ガ……ハッ……」

 

 乙女さんが気を失ったのを確認し、俺は彼女を降ろした。

 

「そこまで!勝者、対馬レオ!!」

 

 館長が俺の勝利を宣言する。俺は……勝った……!

 

「は、ハハ……勝った……勝ったぞぉぉーーーーーー!!!!」

 

 乙女さんに勝った。その歓喜に俺は腹の底から叫んだ。

 


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