Magical Girl Lyrical NANOHA ZERO   作:shimoyuki

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最初は日常。


第一章~Beginning of the End~
1話 『予兆』 ①


 季節は移ろいゆく。例えどんなことがあっても、時は無常に、平等に流れる。

 

 

 早朝。時刻は午前五時半。

 月日は九月二十四日、月曜日。日中はまだ汗ばむ陽気が続く海鳴市だが、薄らと朝靄が立ち込めるここ、桜台林道はひんやりと肌寒い。

 日の出直後の林道はまだ薄暗く、そして静かである。住宅街から離れている故、聞こえてくる音と言えば微かな葉擦れや、小鳥の囀り程度のものである。夜と朝の境目の空気に満ちた林道は、荘厳とも言える雰囲気を醸し出していた。

 

 そんな林道の脇にある、少し開けた広場。

 その中央にいるのは、クリーム色のパーカーと桜色のスカートに身を包んだ、小柄な一人の少女。

 髪をツインテールに束ねた少女の名は、高町なのは。今日も日課である魔法の練習に勤しんでいた。

 

「レイジングハート。結界のチェックお願い」

 

 なのはの声に応じるように、その胸元でペンダントになっている赤く丸い宝石――レイジングハートが一瞬光沢を放つ。

 

《――No problem.(問題ありません)》

 

「オッケー。じゃ、行くよ」

 

 なのはが目を閉じ、集中して己の内にある魔力を意識する。すると足元に魔法陣が形成され、次第に桜色の光彩がなのはの周りに浮かび上がる――魔力光だ。

 ほぼ二年半行っているトレーニングは、なのはにとって呼吸するのと同義だ。流れるような動作で、魔法の起動、発現、行使とスムーズに行う。

 内容は基礎の基礎だが、なのははそれを怠らない。魔法を使う時は、トレーニング時であっても、実践時であっても、結局根底を司るのは魔法の基礎運用である。本来本場の魔法学校でじっくり学ぶようなことを、なのはは幾多のぶっつけ本番の実践を経てそれを感得し切っていた。

 

「…………」

 

 なのはトレーニングをしながら、ふと思い返す。

 レイジングハートと出会い、ユーノと出会い、時空管理局の皆と出会い、フェイトと出会い、ヴォルケンリッターやリインフォース、そしてその主であるはやてと出会い――そして管理局へ入局を果たしてから、そろそろ一年半が経とうとしていた。

 

 今のところ闇の書事件以後、大きな事件はこれといって発生していない。だからと言って、忙しくないわけでは決してない。

 何だかんだ言っても、地球ではなのははまだ極々普通の小学五年生。学校に行くだけでも体力や頭を使うのに、加えて教導官になるための大人でも音を上げるような研修プログラムだ。故になのはは(フェイトとはやてもだが)学校以外の時間を基本的に管理局で過ごしている。

 明らかに多忙極まるスケジュールではあるが、そんなに苦ではないとは本人の談。とは言え周囲の人間は結構気を遣っていたりするのだが。

 それでも実際なところ、苦ではないが楽というわけでもないのはなのはも自覚していた。研修だって周りは大人ばかりだし、子供だからと言ってトレーニングの内容が軽くなるわけでもない。しかし、このままではダメだ、という向上心がなのはの心には常にあった。

 

 偶然とは言え、身につけた魔導の力。そしてそれは、誰かを救うことの出来る力。

 誰かの役に立てる力だ。もう、自分の無力さに苛まれずに済む力だ。

 かつて何も出来ずに苦しんだ日々があった。だからなのはは、今の充実した自分を精一杯享受する。

 

 そしていつだって思う。誰であっても目の前で傷ついてほしくない、と。

 だから今日もなのはは魔法を使う。

 この力がまたいつか、誰かを助けることが出来るのだと信じて。

 

「…………ふぅ」

 

 ほぼ瞑想に近い感覚の中、二時間のトレーニングはなのはの体感時間としてはあっという間だった。

 一息吐き、近くのベンチに歩み寄る。そこに置いてある、持参してきたミネラルウォーター入りのペッドボトルに口をつけて喉を潤していると、レイジングハートが瞬きを見せた。

 

《Today, it was a careful training than usual.(今日はいつもより入念でしたね)》

 

 なのはは頷く。

 

「今日は学校が終わってから、フェイトちゃんと組んでシグナムさんとヴィータちゃんとの模擬戦訓練があるから。あとその後にクロノ君から頼まれてるお仕事もあるし。しっかり準備運動はしとかなくちゃね」

 

《……You look fun,master.(楽しそうですね、マスター)》

 

「うんっ。全力……とまではいかないけど、それなりの規模の模擬戦って最近やってなかったし。確かに教導隊の研修も大切だけど、やっぱりブレイカーみたいな大技は定期的に試射しないと鈍っちゃいそうで……それに、空き時間で組んだバリエーションも試してみたいのもあるかなー」

 

《That’s so like my master.(マスターらしいです)》

 

「にゃはは……」

 

 そうこうしている内に、見上げる位置まで太陽が昇っていた。ここから望む街並みも、まばらに人が行き交っているのが見える。

 なのはは静謐とした朝の空気を精一杯肺に吸い込み、深呼吸する。

 そして視線を海原へと向け、広々とした視界を前に気持ちを新たにする。

 これもまた、一連の儀式みたいなものだ。こうすることで、なのはは今日も一日頑張れる気がすると感じている。

 

「――よしっ! 行こっか、レイジングハート」

 

《All right,my master.(了解です、マスター)》

 

 今日もまた、一日が始まる。

 

 

 

 

「行ってきまーす!」

 

 家族と一緒に朝食を食べ、なのはは学校指定の鞄を背負って軽快に家を出る。

 行き先は通学路の途中にある児童公園。登校時の彼女らとの待ち合わせ場所だ。

 五分ほど歩いただろうか。公園が見えてきた。

 通学路なので、なのはの通う学校の制服姿の子どもが先程からちらほら現れ、なのはと進行方向を同じくする。そんな中、公園の入り口付近に二人の少女――栗色のショートヘアの娘と、金髪のツインテールの娘が佇んでいるのが見えた。

 すると、ショートヘアの娘――八神はやてがなのはに気付き、手を振ってきた。隣のツインテールの少女――フェイト・テスタロッサも、慎ましやかになのはへと頬笑みを見せる。二人共、なのはの唯一無二の友人だ。

 なのはは自然と駆け足になり、彼女達の下へと急いだ。

 

「おはよう、フェイトちゃん、はやてちゃん」

 

 改めてフェイトとはやても、なのはに向き直る。

 

「おはよう、なのは」

 

「おはようさん、なのはちゃん」

 

 朝の挨拶を交わし、三人は誰からともなく自然と歩き始める。フェイトやはやてと出会う前は一人で登校していたなのはだったが、二人と出会ってからいつしかこの短い時間も一日の中の楽しみの一つとなっている。

 

「それにしても今日は二人の方が早かったね。もしかして待った?」

 

「うぅん。私もついさっき来たところ。ちょっと早目に目が覚めちゃって……」

 

「私もや。なんや珍しいこともあるもんやな。て言うか、なのはちゃんがいつも早起きすぎるんとちゃうか? 確か毎日五時に起きて魔法の練習してるんやて? これ以上強なってどうするつもりなんやー?」

 

 はやての茶化した言葉に、なのはは苦笑する。

 

「そんな、私なんてまだまだだよ。この前の教導官の研修でも、結構散々な目に遭ったし……」

 

「それって、なのはが先週末に下士官の人達と五対一で戦ったって言ってた、あれ?」

 

「……五対一?」

 

「そうそうそれそれ。制限付きとは言え何とか勝てたんだけど、まだ立ち回りと射撃精度に課題が残ってる感じかなぁ」

 

 さらっととんでもないことを言うなのはに、はやてが怪訝な表情になる。

 

「もしかしてなのはちゃんだけ特別なスパルタメニューでも組まされてるんとちゃうか……? 私かてそんなキツイお灸据えられたことないで。なぁ、フェイトちゃん」

 

「ま、まぁ執務官コースの私や捜査官コースのはやてと違って、なのはは実践メインの部署だから……」

 

「うーん……どーなんだろ……? あ、そうそうフェイトちゃん。今日の放課後だけど――」

 

 何気にこの世界では現実離れした話題に花を咲かせていると、いつしか学校はもう目の前だった。

 三人が学校の前の横断歩道で信号待ちをしていると、向こう側の車線で黒いリムジンが徐行の末停車した。まず運転席から初老の男性が降り、恭しい挙動で開いた後部座席から二人の少女が降りてくる。

 顔を見ずとも分かる。あんな車で登校してくる児童を、なのはは彼女達しか知らない。ちょうど信号が変わるや否や、なのはは二人の少女――アリサとすずかへと声をかけた。

 

「おはよう、アリサちゃん、すずかちゃん」

 

 アリサとすずかがなのは達に気付き、挨拶を返す。

 

「おはよう、なのは。フェイトとはやては? って後ろにいたのね。おはよう」

 

「おはよう、みんな」

 

 今ではお馴染みの五人が集まり、揃って校舎へと入る。

 昇降口で上履きに履き替えながら、アリサが溜め息を吐いた。

 

「はぁ……一時間目から体育の日は憂鬱だわ」

 

「でもアリサちゃん、体育の成績悪くないでしょ? 私なんて……」

 

「成績良いのと好きなのは別よ。て言うか、アンタ本当に体育苦手よね? 本当に、その何だったっけ、空戦魔導師のエースなんて呼ばれてるわけ?」

 

「あうぅ……言わないで……」

 

 そこですかさずフェイトが助け船を出す。

 

「大丈夫だよ、なのは。今年は私が体育委員になったし、体育の時間も色々とフォローしてあげるから」

 

「フェイトちゃん……」

 

 見つめ合うなのはとフェイト。今日も二人は平常運転のようだった。特にフェイトの方が。

 そんな二人を眺めながら、はやてはどこか嬉しそうに頬を緩ませる。

 

「今日もなのはちゃんとフェイトちゃんはベタベタやなぁ」

 

「ってアンタ! そんな恣意的な理由で体育委員になったんかいっ!」

 

「フェイトちゃん、なのはちゃん大好きだもんね~」

 

 アリサがツッコミを入れ、すずかが微笑して温かく二人を見守る。

 

「そ、そんな大好きだなんて……」

 

「あーフェイトちゃん照れとるー可愛いなぁうりうりー」

 

「あぅ、ちょ、や――ってどこ触ってるのはやて!?」

 

「ちょっとはやてちゃーん、私のフェイトちゃんを勝手にいじらないでくれますかー?」

 

「ふふっ、ラブラブだねー」

 

「はぁ~……見てらんないわ、まったく……」

 

 ワイワイ騒ぎながら、五人は教室へと歩を進める。

 いつもの光景。いつもの朝の一時。

 今まで過ごしてきた、そしてこれからも続くであろう日常のワンシーン。何にも代えがたい掛け替えないものであり、ずっと大切にしていきたいものだ。

 

 勿論楽しいことばかりではなく、この先辛いことも起こるだろう。悲しいことも起こるだろう。

 だけど、今は自分の周りにはこんなにも温かい人達がいる。時に守り、時に守られ、助け合える仲間達だ。そんな人達との毎日を、なのははこれ以上なく幸福に感じていた。

 だからなのはは笑う。この境遇を享受する。

 皆となら、例えどんな困難であっても乗り越えていけるだろう。今までがそうだったのだ。これからもきっと、そうに違いない。

 そう、信じていた。

 

 だって、こんなにも当たり前に傍にあるものなのだから。

 そう、強く思っていた。

 

 

 今日という日までは。

 

 

~・~・~・~・~

 

 

 薄暗い部屋だ。奥行きが見えないほど広々とした部屋には照明器具などなく、代わりに至る所に設置されたモニターやコンソールから浮かび上がる茫とした光が点在している。

 研究室を思わせる部屋の構造だが、そこには人の気配がまるでない。ただ一人でに機械がプログラム通りに稼働し、モーターやヒーターが作動する無機質な音のみが低く響いているのみ。

 

 そんな伽藍とした空気が漂う部屋の中央に、一際明るい光源があった。

 その前に一つの人影が佇んでいる。男だ。歳は外見上二十代後半。金色の長髪が背にしな垂れ、まるで女のようであるが、その顔付きは精悍としており、流石は時空管理局の執務官を任されているだけのことはある風格を漂わせていた。

 男――オズワルド・シモンズは、一通りの報告を終え、『彼ら』の返事を待っていた。

 何分経っただろうか。長い沈黙から、『彼ら』の一人がゆっくりと喋りだした。

 

「…………解読の進捗状況は?」

 

「現在23%まで進んでいます。その時点で既に例のデバイスについて言及が為されていました。……やはり一連の『鍵』で間違いないかと」

 

「他の『鍵』の場所については?」

 

「未だ解読中です。最短でも後三日は要するかと。記述されている文字のベースは古代ベルカ語ですが、細部が我々の知るものとは若干違っているので、思ったより時間がかかっているのが現状です」

「聖王教会のあの女は何と言っている?」

 

「貴方方が考えておられることとほぼ相違ないでしょう。『二つの月が交わる時、終わりを告げる第一の笛が鳴り響く。地の底より現れし亡霊、最早何人たりとも止めること叶わず。十の遺物、ついに破壊の輝きをもたらさん』。……解読結果とほぼ一致しています。念のため後ほど教会の方にも例のデバイスの解析を委託するつもりなので、ご了承願います」

 

「果たしてそこまで時間が残されているものなのか」

 

「だが今は精度の高い情報が必要だ。今『逆しまの書』は我々の手にある。それを有効活用し、何としてでも先手を取らねばならぬ」

 

「……それにしても、本当にアレが目覚めるとでも言うのか?」

 

「裏付けは既に幾つかあります。恐らくは十年前のあの集団でしょう。貴方方が言う通り、次こそこちらが先手を取らないと、今回は取り返しのつかないことになると考えられます」

 

「当然だ。アレは本来ある筈のないモノとして扱わねばならぬ。事が公になる前に、何としてでも事態を収拾せねばならん」

 

「対策はどうなのだ?」

 

「勿論十全に。再びむざむざとやられることはしません。そのためには――よろしいですね? 御歴々」

 

「構わぬ。その程度、ミッドチルダ――いや、この全次元世界と天秤にかけるまでもない。考慮するまでもない些事だ」

 

「左様。大事の前の小事。我々はそれを取り違えてはならぬ」

 

「うむ。……ならば計画をこのまま進めるがよい。アレの復活は、断じて阻止しなければならない。我々が命懸けで封印した過去の遺物……再び目覚めるようなことになれば、全てが終わってしまいかねん。現場の統括は全て貴様に一任する。全力を以て、これの対応に当たれ」

 

「――――御意に」

 

 一礼し、オズワルドは踵を返して『彼ら』に背を向ける。

 革靴の足音が遠ざかる。

 再び静寂。

 

 

 誰も知らないところで、何かが動き出す。

 静かに、しかし着実に。

 世界はまだ、平穏に満ちている。

 今は、まだ。

 

 

~・~・~・~・~

 

 

 昼休みになると、なのは達は屋上へと移動する。特に天候が悪くなければ、屋上はいつも解放されている。昼休みの間はどこで過ごしてもいいことになっているので、いつも彼女達はそこで昼食を食べることとなっている。

 昔はなのはとアリサとすずかの三人だったが、今はフェイトとはやてもおり、一際賑やかさが増した、とはすずかの言葉。

 殆ど恒例となっている、互いのお弁当のおかずの交換会が行われていると、アリサが思い出したように言った。

 

「そう言えばさ、昨日新しいゲーム仕入れたのよ」

 

「仕入れた……? って、どういう意味? 買った、じゃなくて?」

 

 すずかが訊ねると、アリサは自慢げに胸を逸らした。

 

「パパの知り合いに任○堂の人がいてね、新作のゲームのテストプレイをやってみないか? って申し出があったんだって。ほら、再来月出る棒みたいなコントローラーで操作するあれ」

 

「あっ! それテレビでやってた!」

 

「私も知ってるで。CM見てるヴィータがなんや欲しそうにしてたわ。なんかそれでテニスとか野球とか実際にやってるみたいにプレイ出来んねんやろ? こう、棒を振り回す感じで」

 

「へぇ……なんだか楽しそう」

 

 三人が食いつくと、アリサはしたり顔で続ける。

 

「じゃあさ、今日放課後うちでやってかない? 今日私もすずかも習い事休みだしさ」

 

 その言葉を聞き、なのは達の表情が曇る。

 

「ご、ごめんアリサちゃん……今日私達向こうでお仕事が……」

 

「私も……ごめんアリサ……」

 

「えーっ。また? と言うことは、はやても?」

 

 はやてもバツの悪そうな顔をして頬をかきながら、歯切れ悪そうに切り出す。

 

「あはは……実は私もや……て言うか、なのはちゃんとフェイトちゃんも、なんや呼び出されてるんか?」

 

「ううん、私とフェイトちゃんは戦技演習。模擬戦の申請は前々からしてたみたいなんだけど、なかなか空きが出なくて一昨日やっと連絡が来たとこなの。はやてちゃんは?」

 

「私か? 昨日の夜にレティ提督から通信があって、明日の放課後にでも来てくれって言われてなぁ。多分また捜査官の雑用なんやろうけど」

 

「そうなんだ……本当にゴメンね、アリサちゃん。明日以降なら遊べるけど、どうかな?」

 

 申し訳なく両手を重ねるなのはに、アリサは仕方なさそうに嘆息する。

 

「もう……別に用事があるんならこっちから文句は言わないけど。だったら、次の日曜日になるかしらね。すずかが朝に習い事あるから、お昼からどう? どうせならウチでご馳走するし」

 

「うんっ、大丈夫。フェイトちゃんとはやてちゃんも、どう?」

 

「私はフリーだよ。問題ない」

 

「うん、ええで。ほんならウチのお昼は……折角やし、最近お料理に精が出始めたシャマルにでも頼んどこうかな」

 

 この瞬間、公園で老人会のゲートボールに参加していたヴィータと、庭で竹刀を両手に素振りをしていたシグナムと、リビングで昼寝をしていたザフィーラが謎の寒気を感じたのは別の話。

 ともかく週末の予定が決まったことで、一同は気を取り直して昨日のテレビの話題や家族の話題といった、他愛もない話に花を咲かせることとなった。

 それはまたいつもの昼休み。平和な時間。平穏な時間。

 ……の、はずなのだが――

 

「……………………?」

 

 どうしてだろうか。

 アリサは、言いも知れぬ違和感を覚えていた。

 その原因が何であるのかは分からない。ただ漠然とした不安が、胸の底に蟠っている。

 目の前にあるのは、何の変わりもないいつもの光景だ。不安に思うことなんて、何一つとしてない。

 なのに――

 

「ね、ねぇ、なのは」

 

「ん? なぁに、アリサちゃん」

 

「今度の日曜日さ、来てくれるわよね?」

 

 するとなのはは一度目ぱちくりさせて、

 

「ふぇ? もう、さっき約束したじゃない。絶対行くよ。ね、フェイトちゃん、はやてちゃん」

 

「うん。だから、今日はゴメンね、アリサ」

 

「お菓子の差し入れも持ってってあげるからなー」

 

 何故自分はそんな確認をしたのだろう。自分でもよく分からないまま、アリサはなのは達の声を聞いて何度か頷く。

 

「そ、そうよね。さっき約束したわよね。あはは……」

 

「? 変なアリサちゃん」

 

 屈託のない表情で、なのはが首を傾げる。

 だけど、アリサの胸につっかえるようにとぐろを巻く不安は、なかなか消えてくれなかった。

 何故か、どうしても、なのは達と次の日曜日に遊べる気がしなかったから。

 その原因はやはり分からない。もしかしたら急な用事が彼女達に出来てしまうのかもしれない。それならまだいい。そんなことよりも――

 

(……やめやめ。何縁起でもないこと……)

 

 アリサはマイナス思考をシャットダウンする。なのは達は先日商店街に出来たペットショップの話題に忙しい。そこなら昨日自分も行ったばかりだ。ダルメシアンの仔犬が一際可愛かったのを覚えている。

 アリサは気を取り直して、白熱しているペット談義に加わることにした。

 




目に見えない不安が、徐々に浸食していきます。
でもまだ平和
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