Magical Girl Lyrical NANOHA ZERO   作:shimoyuki

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最初の山場です。


1話 『予兆』 ④

 その世界は、岩肌が剥き出しになった峡谷が延々と広がっていた。

 場所は第121観測指定世界『オリアス』。前述した通りの環境だが、これでも点在するオアシスのような場所を拠点として人が住んでいるらしい。

 だが場所によっては魔力のバランスが不安定であり、魔力持ちの人間が立ち入ると体調を崩すばかりか、魔力暴走の引き金にさえなってしまいかねないと言う。それ故の、第二種危険区域である。

 とは言うものの……

 

「特に私達、すること無いっぽいねー」

 

「うん。言ってしまえば、有事の時のバックアップみたいなものだから。私達は」

 

 高台に設置されたベースキャンプにて、なのはとフェイトは眼下に広がる発掘現場を眺めていた。

 到着してから早一時間。作業は順調に行われているようである。

 ロストロギアの発掘調査に同伴するのは二人共始めてではないのだが、今まで戦闘状態に入るようなことは一度もなかった。そして今回もどうやらその様子のようだ。ともあれ現時点でこれと言ってトラブルは発生せず、なのはとフェイトは暇を持て余していた。

 

「でも、やっぱりロストロギアの発掘だし、何が起こるか分からないから……」

 

「うん。いつでも出撃出来るようにはしとかないとね。……そう言えばフェイトちゃん」

 

「? 何? なのは」

 

「そのロストロギアについてだけど、何か聞いてる?」

 

「いや、特には……そう言えばブリーフィングの時、そのことについて説明なかったね……」

 

 ロストロギア関連の事案では、そのロストロギアの現時点で分かり得る情報を関係者の間に共有しなければならない。情報共有はあらゆるケースで重要ではあるが、特にロストロギア絡みは注意を払うべきである。何しろ相手は基本的に正体不明の遺物であり、現場にいる人間の間で情報の齟齬があれば、場合によっては取り返しのつかないことになってしまうからだ。

 だが、今回それがなかった。ただ単に、遺物管理課のサポートをしろとしか言われていない。

 とは言え本来下っ端のなのはやフェイトにとって、そこまで気に揉むようなことではないのは自覚していた。

 それでも、何かが引っかかる。言葉には出来ないけれど、何かが変だ。

 最初に気付いたなのはに続き、フェイトも何だか胸の中に言いも知れぬ蟠りを感じ始めた。

 

「…………」

 

 何となく不穏な空気が二人の間に漂い始める。

 すると、アクセルモードにあったレイジングハートが、突如として煌めきを見せた。

 

《Sensing a huge magical power. It approaches at high speed.(巨大な魔力を感知。急速に接近中です)》

 

「っ!?」

 

 なのはとフェイトの間に緊張が走る。フェイトもすぐ様アサルトフォームのバルディッシュに、逼迫した声で呼びかける。

 

「バルディッシュ!」

 

《…Until the arrival of the target,300yard…280yard…260yard…(対象の到着まで、300ヤード……280ヤード……260ヤード……)》

 

 速い。この調子だと、あと十数秒でやって来てしまう。

 この後誰かが合流するなんてことは聞いていない。それに、なのはは既に感じ取っていた。

 こんなにも敵意ある魔力を掲げた誰かが、味方な筈がない。

 

「……ッ」

 

 なのはとフェイトがそれぞれの愛機を構え、飛来する魔力反応の方角へと向いて戦闘態勢を取る。

 何かが、接近している。ここからだと豆粒のようにしか見えないが、なのはは確かにそれを視界に収めた。

 

 それとほぼ同時だった。

 

 接近してくる何者かが、一瞬光った。

 と思ったのも束の間、一秒後には直径数メートルはあろうかという魔力弾が向こうから撃ち出されたことが分かり、二人は驚愕に目を見開く。

 

「なっ――ッ!?」

 

 標的は、明らかにこの発掘現場地点だった。

 ここでようやく調査隊のメンバーも異変に気付き始めた。だが、あまりに唐突且つ強大な脅威に、彼らには為す術はないようだった。

 なのはとフェイトは余裕で避けられる猶予があったが、もしそうすれば背後の調査隊の人間が直撃を受けてしまう。となれば、取る方法は一つしかない。

 

「調査隊の皆さん! 今すぐ私達の後ろに逃げて下さい! 早く! ――フェイトちゃんっ!」

 

「うんっ――はあああああっ!」

 

 フェイトが左手を掲げ、幾多の魔法陣――ラウンドシールドを形成する。

 防御に長けたなのはは、より周囲への被害を減らすためにフェイトより前に出て、レイジングハートを力強く握った。

 

「レイジングハート、お願い!」

 

 なのはの声に応じ、レイジングハートがカートリッジロードのモーションに入る。重々しい音と共に薬莢が二発排出、瞬間的に魔力の急上昇が計られる。

 

《Wide Area Protection》

 

 なのはを中心として巨大な魔法陣が出現する。そして、薄い桜色をしたドーム型のフィールドが瞬く間に組み立てられた。

 だが、それも殆どギリギリの出来事。

 二人の防御魔法が完成するや否や、正体不明の誰かから放たれた魔力弾が着弾した。

 

「っ!? く、ぅ……ッ!」

 

 思った以上の強烈な一撃が、なのはを襲う。体全体が揺さぶられるほどの衝撃に、なのはは思わずよろめてしまう。それでも歯を食いしばり、数ミリ地面にめり込む足に必死に力を入れる。

 まるで暴風と地震が一気に来たような感覚が続くこと約十秒、何とか耐えきったなのははすぐにフェイトへと向き直った。

 

「大丈夫!? フェイトちゃん!」

 

 疲弊した様子ながらも、フェイトは何とか気丈に返事をする。

 

「うん、私は平気――なのは! あれ!」

 

 フェイトが指し示す方向へと、なのはは顔を上げる。

 そこには一人の若い男が、上空でなのはとフェイトを見下ろしていた。

 

「…………」

 

 銀色の髪を靡かせるその男の顔は、やはり二人共見知ったものではなかった。

 地上を睥睨する鋭い目つきは、さながら獲物を前にした鷹。その眼光を受けて、なのはは冷や汗が頬を一筋伝うのを感じた。

 黒いマントを羽織った男の右手には、穂が三叉に分かれた全長二メートルほどの槍――トライデントが握られていた。だが、ただの槍ではない。遠目から見ても分かるように、それはアームドデバイスだった。

 

 改めて目の前にして、男の魔力が尋常ではないことに、なのはは緊張を隠せない。だがこのまま呑まれては、元も子もない。

 なのはは決意し、フェイトへと顔を向ける。すると、彼女も同じ気持ちだったのか、示し合わせたように二人は顔を合わすこととなった。

 

「……行くよ」

 

「分かった」

 

 頷き合う二人は、一斉に飛翔した。そして謎の男の前に立ちはだかった。

 そこで、ようやく男が口を開いた。

 

「……あぁん? 誰だテメェら。ガキが出しゃばってんじゃねぇぞ。どけ」

 

 底冷えするような声に怯みそうになりつつも、なのはは毅然とした態度で言い放つ。

 

「ここは……管理局の管轄下にある、古代遺物探索現場です。先程の貴方の行為は明らかな妨害及び危険行為で――」

 

 そこまで言った時だった。

 男は槍の穂先を二人へ向けたかと思えば、問答無用で魔力弾を撃ち出してきた。

 

「きゃっ――」

 

 二人が反応する前に、なのはがレイジングハートを介してオートモードに設定していたプロテクションが作動。難なく攻撃を弾いたなのはを見て、男は僅かに眉を動かす。

 

「はっ……ただのザコじゃあ、ねぇみたいだな」

 

「いっ、いきなり何を――っ!」

 

「うるせぇ。こっちも無駄にドンパチやりてぇわけじゃねぇんだ。――サイケロッドはどこだ。ここから反応があったんだから、テメェらが隠してんのは丸分かりなんだよ。とっとと出せ。でないと殺す」

 

 無慈悲に言い放つ男の物騒な言葉に、なのはとフェイトは緊張した面持ちで唾を飲み込む。

 

《――Confirmed evident hostility. Judged he is danger.(明らかな敵意を確認。危険人物と判断)》

 

「うん、バルディッシュ。――誰かは知りませんが、交渉の余地なしと判断して、貴方を逮捕します」

 

《Haken Form》

 

 バルディッシュの先端から金色の魔力刃が出現、戦闘態勢に入るフェイト。なのはも覚悟を決めて、レイジングハートを構え直す。

 だが男は当然のように投降する様子は微塵も見せない。それどころか、目を細めて興味深そうになのはとフェイトを凝視してきた。

 ――否、正確には、レイジングハートとバルディッシュを。

 

「ほう……お前らそれ、インテリジェントデバイスか。なら、どちらにせよ戦う理由が出来た」

 

 男の眼光が一層鋭くなる。そして獰猛な笑みを浮かべたのと同時、男が二人へと突っ込んできた。

 

「っ!」

 

 なのはとフェイトは互いに別方向へと散開。果たして、男はなのはの方へと追撃してきた。

 

「――疾ッ!」

 

 目にも止まらぬ速さで、男が瞬きの内に十数もの槍による突撃を繰り出してくる。ただの突きではない。切っ先に魔力を付与した、一突き一突きが必殺の攻撃。並のラウンドシールドなら、殆ど紙切れ同然と言っていいだろう。

 なのはは瞬時に防御よりも回避を判断。アクセルフィンに魔力を集中させ、一気に飛翔。

 男の頭上に急上昇しつつ、なのはは体を捻って男の方向へとレイジングハートを構える。タイムラグ無しでレイジングハートの先端には環状魔法陣が渦巻き、魔力が恙無くチャージされていた。

 そしてなのはが決め打ちの直射砲撃魔法の名を紡ごうとした――が、

 

「なっ!?」

 

 ほぼ手の届くところに、十メートルは距離を取った筈の男の姿があった。

 予想以上の速さで肉薄してきた男を前にして、なのはは一瞬息が止まる。

 ほぼ瞬間移動と言っても良いレベルのスピードだ。機動力が凄まじいフェイトと何度も戦闘訓練を繰り返してきたなのはとしては、ちょっとやそっとの素早い相手ならば十分に対応出来ると自負していた。しかし、これは完全に規格外であった。

 

「Master!」

 

 レイジングハートが呼びかけるが、驚愕と動揺によってなのはの判断が遅れる。

 男は何の躊躇もなく、再び魔力を漲らせた槍を繰り出す――ッ

 

《Plasma Lancer》

 

 途端、なのはと男の間に、雷の軌跡が煌めいた。あわや槍の切っ先がなのはに届こうかというギリギリのところで、再び両者の間合いが開かれる。

 それだけでは終わらない。死神の鎌のように、鋭利な金色の光刃を振りかざしたフェイトが男目がけて突進してきた。

 

「はあああああああっ!」

 

《Haken Saber》

 

 体全体を使って、フェイトはバルディッシュを一振り。そこから出現した円形状のハーケンセイバーが、まるで巨大なチャクラムのように回転しながら男へと目がけて滑空していく。

 

「うぜぇんだよ!」

 

 吼えながら、男が槍を大きく薙ぐ。男の迎撃によりセイバーは爆発四散、光の粒子と爆煙が弾ける。

 するとすぐに煙の中からなのはが飛び出していったのを見て、フェイトはほっと胸を撫で下ろす。だが、すぐに殺気を感じたフェイトはバルディッシュを持つ手に力を込める。

 その感覚は当たっていた。朦々とした雲煙から、突如として槍型の魔力弾がフェイトに向かって飛んできた。ただの射撃魔法ではない。小刻みな軌道を描くそれを見て、誘導効果が付与されているとフェイトはすぐに悟る。

 高速機動を駆使し、逆に誘導弾を誘導してフェイトは各個撃破する。

 最後の誘導弾を斬り伏せたところで、本番がやってきた。

 

「オラァッ!」

 

 それはまるで弾丸。或いは小さな台風。大気を渦巻かせながら、男が切っ先に魔法陣を展開させた槍を構え、フェイトへと突撃してきた。

 フェイトは一秒、逡巡する。そしてすぐに迎撃態勢に入った。

 

「バルディッシュ!」

 

《Haken Slash》

 

 リボルバーが僅かに回り、排莢。魔力が溢れ出るのを感じつつ、フェイトは真っ向から男の攻撃に対して、更なる力を以て捩じ伏せる――ッ

 

「ッッ!」

 

 互いのデバイスがぶつかり、鍔迫り合いの状態になる。想像以上の衝撃に腕の感覚に違和感を覚えるフェイトだったが、それでも何とか必死に耐える。すると、反面余裕の表情を浮かべている男の口が動いた。

 

「――いいねぇ。ザコどころか、ただの魔導師じゃあねぇ。ますますブチ殺し甲斐が出てきたじゃねぇか、あぁ?」

 

「っ……貴方は……一体……」

 

「お前が知る必要はねぇよ。俺らはただインテリジェントデバイスを――ッ!?」

 

 男の発言が不自然に途切れる。フェイトはすぐにその原因が分かった。男の四肢が、それぞれレストリクトロックによって拘束されている。

 その魔力光は、桜色。

 

「フェイトちゃん! 離れて!」

 

 上空から声がかかる。瞬間、何が起ころうとしているのか察知したフェイトは、脱兎のごとくその場を退いた。

 

「クソがッ!」

 

 男が悪態を吐きながら、バインドを解こうと手足に魔力を注ぐ。だが、頭上に眩い光を感じ、はたと天を仰いだ。

 そこには、先程自分が放った魔力弾とは比較にならぬほどの光球が、こうしている間も更に肥大化していた。

 

《Charge completion.(チャージ完了)》

 

 レイジングハートが、静かに準備の終わりを告げる。

 なのはは呼応するように、抑えつけていた魔力を一気に解き放つ。

 ――その時だった。

 

「っ……!?」

 

 いきなりだった。何の前触れもなく、レイジングハートから不自然に規格外の魔力が溢れ出た。

 

(なっ、何!? 何何!?)

 

 まるで跳ね上がるような魔力の横溢に、動揺しながらもなのはは必死で制御する。

 しかし、すぐになのははこれ以上自分の手に負えないと判断する。と言うか、あり得ない魔力量だ。自分の魔力総量とレイジングハートに装着してるカートリッジを全弾使っても、ここまでの魔力は出ないだろう。だが、それほどの魔力が今確かにレイジングハートから溢れ出ているのだ。

 理解不能だった。だが、この状況で詳しく考えている暇などなかった。

 これ以上は、暴発してしまう。なのはは判断し、危険を承知で砲撃準備の最終調整に入る。

 レイジングハートの先端に、一層魔力が集まる。そして――

 

「スターライト――ブレイカーッ!!」

 

 どうと桜色の魔力の奔流が空を翔ける。

 それはまるで壁。逃げ切れる隙間など、皆無。

 極太の砲撃魔法を前に、男は瞬時に防御魔法の魔法陣を展開。しかし、すぐにシールドは砕け散り、彼はブレイカーに完全に呑まれた。

 ブレイカーはそのまま地上へと着弾。衝撃の余波で、嵐のような砂塵が一気に充満した。

 

「……ふぅ……」

 

 なのはが大きく息を吐き、レイジングハートも排気ダクトから気体となった魔力残滓を噴き上げる。

 よく分からないままブレイカーを撃ち出し、なのはが肩で息をしていると、大きく旋回してきたフェイトが合流した。

 

「なのは」

 

「フェイトちゃん。怪我はなかった?」

 

「うん。ちょっとバルディッシュにダメージがいっちゃったかもだけど……なのはは?」

 

「私は平気……だけどあの人は……」

 

 二人共視線を同じくして、土煙が充満している地上を固唾を飲んで見守る。

 目視した分には、確実に直撃だった。手応えも感得した。少なくとも無傷では済むまい。魔力を削り取られ、昏倒している可能性も十分に有り得る。

 だが、なのははこの静けさがどうも不気味に感じられた。

 

「…………」

 

 煙が、晴れる。

 数メートルはあろうかというクレーターが、煙の中から徐々に顕わになる。

 その中心には――

 

「……テメェら……」

 

 さっきよりも数段表情を険しくさせた男が、なのはとフェイトを見上げていた。

 魔力が減少しているようにまるで見えない。寧ろ、肌が焼けるような烈火の如き魔力を、二人は確かに感じていた。

 

「無傷……?」

 

 動揺を隠せないフェイトに、なのはは落ち着き払った口調で分析する。

 

「ううん、全然ダメージが通ってないわけじゃない筈。その証拠に、あの人の魔力の波動に結構ブレがある。無理矢理魔力を捻り出してるんだと思う」

 

「なら……もう一撃」

 

「うん。何とかして、隙を作り出す」

 

 正直なところ、二度に渡るレイジングハートの謎の不調に、なのはは戦闘を長引かせたくない思いがあった。

 だが状況はそうさせてくれそうにない。不安定でありながらも、とにかくこの場を切り抜ける方法を必死で模索するなのはだった。

 

「っ……」

 

 なのはとフェイトも、男の一挙手一投足を見逃すまいと強い眼差しを向ける。

 男もまた、殺気立った視線を二人へと飛ばす。

 息が詰まるような、張り詰めた空気が流れる。

 

 何秒経っただろうか。

 果たして先に動いたのは、男の方だった。

 勢いよく飛び上がった男は、そのまま二人に背を向けて地平線の向こうへ消えていってしまった。

 

「っ! …………え?」

 

「あ、あれ?」

 

 ぐっと身構えていたなのはとフェイトは、その予想外の行動に呆気に取られる。

 逃げた、のだろうか。それにしては、男の挙動から推測するに不自然に思われた。もしかすると、こっちからは分からないだけで結構負傷していたのだろうか。

 本当に男がどこかへ行ってしまったのを確認したなのはは、フェイトに向き合う。

 

「えっと……とりあえず降りよっか」

 

「うん。……調査隊の人の安否確認もしないといけないし」

 

「そうだね。じゃあ、私向こうの方行ってくるから」

 

「分かった。また後で」

 

 そう言い、なのはは発掘現場へ、フェイトはベースキャンプの方へと移動した。

 

 

 

 

「皆さん! 大丈夫でしたか!?」

 

 なのはが降り立つと、現場の人達は一様に安堵した表情を見せた。

 

「……あの変な奴は、もうどっか行ったのか?」

 

「はい。何とか……途中で逃げられちゃったんですけど、もう大丈夫だと思います」

 

「そうか……済まなかったな、助けてもらって……」

 

「いえ、それが私達のお仕事ですから――って、それは……?」

 

 調査隊の一人が手に持っているそれに、なのはは自然と注目した。

 それは水晶型のスフィア――恐らく簡易結界だろう――であり、その中には小さな宝石のような球体が保管されていた。

 その色は、綺麗な海を思わせる透き通った蒼。自ら発光しているようで、その美しさが一層際立って見えた。

 なのはがまじまじとそれを眺めていると、調査隊の男性から声がかかった。

 

「先程発掘に成功したロストロギアだ。触れない方がいいぞ。内部からはかなりの魔力値が計測されてる。ふとした弾みで暴走する可能性すらあるから、慎重に管理局へ運ぼうとした矢先、あの男の襲撃だ。本当に助かったよ」

 

「は、はい……どうも……」

 

 調査隊から感謝されるなのはだが、何故だかそのロストロギアからなかなか目を離すことが出来なかった。

 単に綺麗だからというわけではない。それ以上に、何となく察することが出来たのだ。まだ正体も分からないこのロストロギアが、どういったものであるのか。

 

(何だろう……この感じ……)

 

 この感覚を、なのはは確かに知っていた。

 だが、それがどういった意味を持つのか、すぐには理解出来ない。理解出来そうにない。

 それでも、現実は目の前に静かに鎮座している。

 

「…………」

 

 なのはの身体の奥で、何かがドクンと鼓動を打った。

 胸がざわめく感じがする。なのはは今一度眉を顰めて目の前のロストロギアを凝視した。

 と、そこでなのはは微かに目を見開いた。

 何故なら、そのロストロギアは――

 

「……あっ」

 

 と、そうこうしている内に、管理局の救助隊が到着したようだった。

 手際良く負傷した隊員を手当てし、撤収作業を始める。

 ロストロギアも、あっという間に局員の名も知らぬ誰かによって回収されてしまった。

 なのはは、暫くの間その場に立ち尽くしていた。

 自分でもどうしてそう思ったのか分からない。だが、そう感じてしまったのだから仕方がない。そしてそれは、時間が経つにつれてじわじわとなのはの心を支配していった。

 さっき発掘されたというロストロギア。恐らく襲撃者が狙っていたと思われるロストロギア。

 なのはは、心の中でぽつりと呟いた。

 

 

(似てる……初めて会った時の、レイジングハートと……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 物語は、静かに動き始める。




1話終了です。

2話は大体1週間くらい開けての更新となります。

よろしくお願いします。
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