Magical Girl Lyrical NANOHA ZERO   作:shimoyuki

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2話も4分割の予定


2話 『襲撃』 ②

「じゃあなのは、元気出してね」

 

「もし心細う感じたら、いつでも呼び出してくれてええねんで?」

 

 帰り道、それぞれ通学路の分岐点である公園に差し掛かったところで、フェイトとはやてがなのはに励ましの言葉をかける。

 

「うん、ありがとう、フェイトちゃん、はやてちゃん。もう大丈夫だから」

 

 朝の沈んだ表情が嘘のように、なのはは二人に微笑みかける。

 それを見たフェイトとはやても、どこか安心した顔を見せ、一同は別れの挨拶と共に離散した。

 

「……さて、と……」

 

 一人になったなのはは、これからの予定を考える。

 ひとまずマリエルからは、今日の午後八時頃にレイジングハートの最終チェックが終わると聞いている。

 振り返り、公園の中央に据えられている鳩時計を見る。時刻は午後三時五十分。まだ四時間以上ある。

 正直学校の宿題や魔法のトレーニングなど、その間にやれることはあるにはある。だが……

 

「はぁ……嘘吐きだなぁ、私」

 

 恐らく今すぐ本局へ行っても、皆仕事で忙しいだろう。それでも、こんな気もそぞろな状態で他のことに集中出来る気がしなかった。そう、結局のところまだ吹っ切れてはいなかったのだ。

 とは言え、もし管理局へ行ったとしても、メンテナンスルームで四時間も待ち続けるのか? それこそ向こう側に迷惑がかかる。自分の我が儘が周りにどんな影響を及ぼすかくらい、なのははもう分からない歳ではない。

 

「…………ふぅ……宿題、終わらそう」

 

 深呼吸し、今一度気分を切り替える。アリサからも言われたじゃないか。今は待つ時だ。

 そう思い、朧気でありながらも今日の授業内容を思い返そうとした、

 

 その時。

 

 

 

 ドクン、と。

 

 なのはの心臓が、大きく鼓動を打った。

 

 

 

「ッ!?」

 

 鋭い痛みさえ伴うそれに、なのはは思わず胸を押さえる。

 途端、なのはの脳裏に一つのヴィジョンが浮かんだ。

 突発的でありながらも、その情景はこれ以上なく鮮明であった。

 先程からずっとそのことばかり考えていたから、単なる偶然なのかもしれない。しかし、なのははどうしても今の動悸と無関係であるとは思えなかった。

 

「……レイジング、ハート……?」

 

 もやもやしていた気分が一発で晴れ、なのはは急いで人気のない路地に駆け込む。

 嫌な、予感がした。胸騒ぎ、第六感、虫の知らせ。何でもいい。とにかく居ても立ってもいられない感じが、ひしひしと押し寄せてくる。

 もしかしたらただの気のせいなのかもしれない。考え過ぎなのかもしれない。しかし、今のなのはの精神状況からして、そう片付けることはどうしても出来なかった。

 

 周りに誰もいないことを確認し、魔法陣を展開。やたらと長い座標番号を詠唱し、急務の時に限り使用を許可されていた、管理局本局への強制転移魔法を緊急作動させる。

 多分後でこっ酷く叱られるだろう。そう頭の片隅で思うが、それ以上に無視出来ないことがある。

 詠唱を終えると、魔法陣が輝きを増し、なのはの全身が魔力光に包まれる。

 転送は、一瞬だった。

 

 

~・~・~・~・~

 

 

 およそ十万を超える人間が暮らしているミッドチルダ首都――クラナガンは、大きく分けて三つのエリアに区分出来る。

 

 一つが、局員や一般人が生活している居住区。何気に本局と言いつつも、この区画が全体の半分を占めている。

 

 一つが、主に学者達が魔法の開発、実験、調査等々を行う一大区画、研究区。ここと居住区は一見して地上の街並みと変わらない造りになっており、空はミッドチルダにおける太陽――リオスの光を反射させる巨大な鏡を設置、内部の自然も地上と遜色がないほどの再現度を見せている。

 

 最後が、一般的に管理局地上本部として認知されている中枢区である。

 中枢という名の通り、クラナガンの中心部に位置しているそこは、細かく32のセクターに分割されている。それぞれのセクターが超高層ビル一つ分の広大さを持っていることから、本局内部の広大さが見てとれる。

 

 そして今、古代遺物管理部第二支部が配置されている第6セクターは騒然としていた。

 

「武装局員を除く全局員は、第6セクターから最低でも二区画以上離れたセクターへ、直ちに退避して下さい。侵入者は第6セクター、C3を移動中。侵入者は武装が確認されています。武装局員は装備レベルB以上で対応に当たって下さい。繰り返します。武装局員を除く――」

 

 サイレンと共に艦内放送が響き渡る中、クロノとセシルはようやく現場付近へと到着した。

 第7セクターに通じる大きな通路で、指揮を執っている局員が二人に気付く。すぐに誰を前にしているか理解した局員は、居住まいを正して向き直った。

 

「クロノ執務官、セシル執務官。何故お二人がここに?」

 

「僕達も事態の制圧に向かう。状況は?」

 

「はっ、はい。現在侵入者は施設の破壊行為と共に、どこかへ向かっている様子を見せています。情報によると侵入者の数は……恐らく単独であると」

 

 その報告を聞き、セシルは思わず声を荒立てる。

 

「はぁ? 一人にここまで滅茶苦茶やられてるってのか?」

 

 セシルがそう思うのも無理はない。本局に侵入者など、長い管理局の歴史の中で初めてのことである。それが複数犯によるものならまだしも、たった一人に侵入を許されるとは、武装哨戒隊の怠慢などというレベルではない。

 だが実際、事は起こってしまっている。それも聞いている感じから、まだ鎮圧の目処は立っていなさそうだ。

 

「も、申し訳ありません! しかし侵入者の戦力が圧倒的で、既に把握している武装局員の被害状況が、重症四人、軽傷三十八人。幸いにもまだ死者は出ていませんが――」

 

「――――」

 

 不意に、クロノが不自然な魔力の流れを感じた。

 それが攻撃の予兆だと瞬時に判断、即座にバリアジャケットを装着し、シールドを展開。

 セシルも同じく気付いていたようで、クロノに倣い防御魔法を発動、直後に来るであろう衝撃に備える。

 きっかり一秒後、目の前で爆発が起こった。

 

「ッ!!」

 

 地面が揺らぎ、爆風でガラスが大破する。大小様々な瓦礫が木の葉のように吹っ飛び、回廊は一変して台風でも通り過ぎたかのような有り様になっていた。

 間一髪で発動したクロノとセシルのシールドのお陰で、その場にいた局員に怪我はないようだったが……

 

「んー? 魔力反応は大きくなってるが、まだこの辺りじゃねぇようだな……ったく無駄に広いだよここ。しちめんどくせぇ」

 

 若い男の声。恐らく侵入者のものだろう。もうもうと立ち込める黒煙のせいで姿が見えないが、クロノとセシルは完全に戦闘態勢に入って緊張感を張り詰めさせていた。

 そして、互いが対峙する。

 

「……一応訊いとくが、お前が侵入者だな?」

 

 デバイスを構えながら、セシルが低い声で問い掛ける。

 大穴の開いた天井の真下、穂先が三つに分かれた奇妙な形状の槍を携えた銀髪の男は、全く怯む様子を見せぬまま薄笑いを浮かべる。二人に加えて大勢の武装局員を前にしてのその態度に、一同は少なからず悪寒を禁じえない。

 

「はっ。だったら、どうするってんだ?」

 

「なら話は早い。問答無用で確保だ」

 

 言うや否や、クロノは手にしていたデュランダルを男に向けた。

 

《Freezing fetters.》

 

 デュランダルの先から、青白い魔力光が弾ける。すると男の足元に半径二メートルほどの魔法陣が浮かび上がり、その範囲内にいた男の膝上までが一瞬で氷漬けにされた。

 

「おっ?」

 

 男の目が軽く見開かれる。脱出しようと足腰に力を入れるが、足裏から地面に根が張っているかのように全く動かない。それもその筈、ただの氷結効果だけでも足止めには十分だが、その上魔力付与による捕縛結界のオマケつきだ。例え砲撃魔法を食らったとしても、そうやすやすと壊れるものではない。

 動きを封じた所で、クロノが叫ぶ。

 

「総員! バインド!」

 

 クロノの号令に、武装隊が慌てて拘束魔法をかける。一人一人の強さは強力とは言えないが、十数人がかりのリングバインド、フープバインドは、最早男に身じろぎさえ許さない形となった。

 そして絶好のタイミングで、セシルが独自の高性能ストレージデバイス――オートクレールを構え、狙いを定める。

 

「吹き飛べ」

 

《Shoot Barret》

 

 純粋魔力の強力な射撃魔法が、オートクレールから撃ち出される。

 ライフル弾を軽く超える速度で対象に迫るそれは、最早この距離で外れる要素など皆無。例えバインドで拘束されていなくても、相手は直撃及び昏倒を免れないだろう。

 しかし――

 

「ふっ!」

 

 男が、何重にもかけられたバインドを力任せに破壊した。

 流石にクロノの魔法までは潰せなかったようだが、それでも明らかに規格外の男の力に一同が瞠目する。

 それだけでは終わらない。

 自由になった腕を振るうと、眼前まで肉薄していたシュートバレットがまるで霧のように雲散した。

 

「なっ!?」

 

 魔力光の残滓のベール越しに、男の不敵な笑みが窺える。ダメージを与えたようには、到底見えない。

 防御と言うよりか完全に無力化されたことに対して、セシルは僅かながら驚愕と混乱が入り混じった表情を浮かべる。こんな形で自分の射撃魔法が通用しなかったことなど、初めてのことである。

 今度は局員側の動きが止まる番だった。彼らの奇異の視線を受けながら、それでも男は余裕を崩さない。

 

「さて、と。これも邪魔だな」

 

 ぶっきらぼうにそう言ってのけると、ついには両足を拘束していた氷が音を立てて破裂した。

 

「!!」

 

 この時、クロノとセシルは先程の局員の報告に偽りはなかったと確信した。

 確かにこの実力差は、圧倒的だ。単独犯で重軽傷者があれだけ出たのも頷ける。魔力出力の瞬発力やその技術力。それにこれが底ではないだろう。所感としては、少なくともAAAランクは下らないとクロノは判断した。

 

 改めて男がデバイスを構える。

 雰囲気が変わり、肌を焼くような殺気が回廊に充満する。

 どうやらここからが本番のようである。さっきと同じような出方で行くと、恐らくやられるのはこちらだろう。そうクロノは直感した。

 

 一歩、男の足が前に出る。

 

 ミッド式でもベルカ式でもない魔法陣が、男の足元に広がる。

 

 男は嗜虐的に口端を吊り上げ、愉しそうに言った。

 

「さぁて、第二ラウンドと行こうか?」

 

 

~・~・~・~・~

 

 

 なのはが本局に転送されると、聞いたこともない大音声のサイレンが出迎えた。

 あまりのうるささに両耳を押さえる。なのははぐるりと辺りを見渡し、すぐに異常を察知した。

 人がいない。いつもなら転送してきたら出迎えてくれる局員はおろか、ガラス壁の向こうのオフィススペースには照明や電子機器がつけっぱなしであるのにも関わらず、人っ子一人見当たらなかった。

 すると、サイレンの音が小さくなり、幾度となく繰り返されている艦内放送がなのはの耳にも届いた。

 

「…………侵入者……?」

 

 物々しいアナウンスの内容に、なのはは身を震わせる。管理局の事情にまだ詳しくないなのはでも、すぐにこれが緊急事態であると理解するのにそう時間はいらなかった。

 なのはは少し考えた後、弾かれたように走り出した。

 

 迷路のような艦内だが、技術部までの道のりは何回も行ったことがある。

 最短ルートで走り抜け、ものの二、三分で到着。ここも完全に無人であり、なのは何となく不穏な空気を感じながらメンテナンスルームに入る。

 

 まず目に飛び込んできたのは、部屋の中央に配置されていた筈のポッドが、無残にも横倒しになっているの光景だった。

 

「っ! レイジングハート!」

 

 なのはが慌ててレイジングハートに駆け寄る。

 ポッドは無残にも大破しており、辺りには厚さが五ミリほどある強化ガラスが散乱していた。単に横倒しになって割れたとは、到底考えにくい壊れ方である。

 なのはは顔面蒼白になってレイジングハートを抱きかかえる。すると、レイジングハートのコア部分が僅かに光った。

 

《…master?(マスター?)》

 

 レイジングハートが反応してくれたことで、なのははひとまず安堵の溜め息を漏らす。

 

「レイジングハート、大丈夫?」

 

《Yes. When I wake up from maintenance, things would come to this. There is no problem to myself.(はい。メンテナンスから目覚めると、こうなっていました。私自身に問題はありません)》

 

「なら、よかった……」

 

 下校途中の予感が、最悪の形で的中しなかったことになのはは胸を撫で下ろした。

 だが次の瞬間、そんなに遠くない所で爆発が起こった。

 続いて微弱な振動がメンテナンスルームを揺るがす。恐らく、さっきの緊急アナウンスと無関係ではないだろう。そうなのはは直感した。

 

「……レイジングハート」

 

《All right.(分かりました)》

 

 レイジングハートは主の言わんとしていることをすぐに理解し、短く返事をする。

 これは明らかな規律違反だ。勝手に本局に転移、加えてメンテナンス中のレイジングハートを無断使用。後から何を言われるか分かったものではない。

 だが、自分の手の届く範囲で危機が訪れている。そして今、自分にはそれに対処出来るかもしれない力がある。

 もしかすると自分の力は必要ないかもしれない。しかしそれは現場に行ってみなくては分からない。もしあの時、こうしていればよかった、ああしていればよかった、そう考えるのだけは絶対嫌だった。

 

「――レイジングハート、セットアップ」

 

 瞬時にバリアジャケット姿になったなのはは、レイジングハートを手にメンテナンスルームから飛び出す。

 

 再び地鳴りのような轟音。

 その音の発生源を探りながら、なのはは急いで現場へと急行した。




なかなかノロい展開であることは自覚してます。
丁寧に書こうとして、実際蛇足になってるかも。
うう……難しい。
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