Magical Girl Lyrical NANOHA ZERO   作:shimoyuki

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バトルは難しい


2話 『襲撃』 ③

「らぁっ!」

 

「――くっ!」

 

 セシルと男のデバイスが交差し、火花と互いの魔力光が散る。

 

 一瞬でも気を抜くとやられる。そんな極限状態が一体どれだけ続いただろうか。

 そんなことを頭の片隅で思いつつ、セシルは額に脂汗を浮かべて男の猛追を凌ぐ。まるで銃剣にも似た形のデバイス――オートクレールは、射撃魔法は元より、魔力の刃を発生させることで近接戦闘でも効果を発揮することが出来る。ベルカのアームドデバイスを参考にして作られた、扱いの難しい特注のストレージデバイスである。

 

 対して漆黒の衣服に身を固めた男は、信じられないことにまだ一筋の汗すら流していない。まるでセシルの力量に合わせているかのような、そんな余裕すら窺わせるほどだ。

 セシルでこの状態なのだ。他の武装隊に至っては、背後でこれ以上周囲が破壊されないように魔力でバリアを張る程度のことしか出来ない。

 

「オラオラどうしたぁ! まさかこの程度ってわけじゃねぇよなぁ!?」

 

 そう大声で嘯く男に、セシルも負けずに覇気を漲らせる。

 

「調子に――乗ってんじゃねぇぞ!」

 

 魔力を乗せたセシル渾身の一撃が、男を僅かながら弾き飛ばす。そしてその隙に素早くバックステップと共に、彼へと合図を送った。

 

「クロノ!」

 

「任せろ」

 

 セシルの後方頭上でタイミングを見計らっていたクロノが、戦闘中に密かに設置していたバインドを一斉起動する。

 幾重もの魔法陣が、男の周りに矢継ぎ早に浮かび上がる。

 

「捕らえろっ!」

 

《Activation》

 

 鎖型のバインドが、一斉に男へと襲い掛かる。

 前から、後ろから、横から、上から。逃れる隙間はない。物量と速度で、捩じ伏せるような捕縛方法だ。

 

「ちっ」

 

《Protection》

 

 男のデバイスが脅威を察知、全方位に魔力バリアを自動起動させる。

 互いの魔力がぶつかり合う音と共に、バインドが弾かれる。だが、男はすぐに異変に気付いた。

 バリアに、罅が入っている。それを目にした瞬間、バリアが一気に砕け散った。

 

「なっ!」

 

 クロノはそれを見て、まずは思い通りにバインドが機能したことに安堵する。

 恐らく、一対一での戦闘ならこうはいかなかっただろう。だが、セシルが時間稼ぎしてくれたお陰で、バインドに多少の防御なら貫けるほどの魔力効果を付与することが出来た。

 

 バリアの無力化を確認するや否や、セシルが男に肉薄する。

 いくら防御力が高かろうが、ゼロ距離からの射撃には耐えれまい。

 男へ手の届く位置へ瞬時に移動したセシルは、オートクレールを男の眼と鼻の先に突きつけた。

 そして――

 

「――かかったな」

 

 男の不敵な声。

 ほぼ同時に、セシルは違和感を覚える。――動かない。オートクレールが、まるで空中で縫い止められたかのようにピクリともしなくなった。

 その正体はすぐに分かった。

 

「っ! 絡束盾《ホールディングシールド》だと!?」

 

 よく見ると、男の周囲には魔力で出来た薄い膜のようなものが確認出来た。

 そして悟る。防御は二段構えだったのだ。さっきのバリアは囮。一度防御が砕かれたと思わせ、相手を誘き寄せるための巧妙な罠。

 形勢は一転、完璧なカウンターのお膳立てをされたセシルは絶体絶命の状況に陥った。

 

「セシル!」

 

 焦りの声と共に、クロノが咄嗟に誘導弾を撃ち出す。

 だが、時既に遅し。男は凶悪に口端を吊り上げ、セシルへとデバイスを突きつける。

 意趣返しの、ゼロ距離射撃。

 

「トリシューラ、屠れ」

 

《Yes, Sir》

 

 

 瞬間。

 

 

「ッ!?」

 

 ゾッ、と全身が総毛立つのを男は感じた。セシルもまた、目の前の脅威とはまた別の何かが、自分を脅かそうとしているのを、本能的に察知する。

 それは、すぐに訪れた。

 

「――バスターッ!!」

 

 突然、回廊の壁が局員の結界諸共粉々に吹き飛んだ。

 規格外の魔力砲が撃ち込まれたとその場にいた全員が認識した時には、既に桜色の極太レーザーは男へとまともに直撃した。

 

「!? がっ――!」

 

 防御力としてはあまり効果が期待出来ない絡束盾は、直射砲撃を受けて大破。すぐに急場凌ぎのシールドを展開する男だが、濁流のようなそれに押し流されるような形で反対側のガラス張りの壁に激突する。

 それだけでは収まらない。厚さ十センチはある耐衝撃性の強化ガラスをも魔力砲はいとも容易く破壊し、男はガラスの破片と共に、その先にある広大な戦艦ドッグへと放り出される形となった。

 

「な、なんだぁ……?」

 

 辛くも寸でのところで男から飛び退き、難を逃れたセシルが目を白黒させる。

 そんな彼に、頭上からこの場にそぐわない可愛らしい少女の声がかかった。

 

「すいません! 大丈夫ですか!?」

 

「え? ……誰だっけ?」

 

 二度目の対面とは言えまだ顔と名前が一致せず、眉を顰めるセシル。クロノはと言うと本来ここにいる筈のない闖入者に驚きを隠せない。

 

「な、なのは!? どうしてここにいるんだ!」

 

「ふぇっ!? あ、えっと、ちょっと話せば長くなっちゃうんだけど……」

 

 そこで、体勢を立て直したセシルが間に割って入る。

 

「何だっていい! おい、さっきの魔力砲は嬢ちゃんの仕業か?」

 

「はっ、はい! ごめんなさい! あんなギリギリな距離で撃っちゃって」

 

「いーや、怒ってねぇよ。寧ろ僥倖だ。――ここに来たってことは、アレと戦う覚悟が出来てるってことだよな?」

 

 セシルの言葉に、なのはは無言で頷く。まだ年齢的に二桁そこらの容姿でありながら、その表情は幾度の修羅場を潜り抜けてきた歴戦のそれだ。思わずセシルは微かに笑みが零れるのを感じた。

 

「なら問題ない。行くぞ、二人共。追撃だ」

 

「お、おいセシル」

 

「積もる話は後だ。とにかく今は、アレを黙らせないことには始まらん」

 

 鶴の一声で、セシルとなのはと若干不満顔のクロノが、戦艦ドッグに突入する。

 およそ二百五十メートル四方の床面積に加え、高さが百メートルほどの広々とした空間だ。現在艦船は出払っているようで、妙にがらんとした印象を受ける。

 三人がドッグ内に入ると、攻撃はすぐに来た。十数もの誘導弾が、まるで生き物のように細かい軌道を描いて空を翔ける。

 

「あっ、あの人――」

 

「なのは、知ってるのか!?」

 

「はいっ! 昨日、発掘現場で戦った男の人です!」

 

「マジかよ。お早い襲撃だな――っと!」

 

 早々に侵入者の目的が割れ、三人の気力が一層漲る。狙いは例のロストロギアに間違いはないだろう。ならば、確実にここで止めなければならない。

 

「クロノは引き続きバインドによる援護! 嬢ちゃんはとにかくバンバン撃って牽制! ただし俺が男に近付いてる時は勘弁な!」

 

「了解だ」

 

「はいっ!」

 

 セシルの指示を受け、三人は散開。それぞれ迎撃を開始する。

 対象が三人に増えたのは勿論、開けた場に出たことで男にとっては一気に不利な状況になった。あらゆる方向から砲撃魔法や射撃魔法が襲いかかり、躱した先にタイミングよく捕獲魔法が待ち構えて男の動きを制限する。

 

 だが、俊敏な身のこなしで何とかなのは達に食らいついている様子だが、それだけでも空戦魔導師という観点から見れば驚嘆すべき立ち回りと言えた。AAA+二人とAAAランク一人を同時に相手取れる魔導師など、この管理局でも両手で数えるほどいるかどうかというところである。

 

「――疾ッ」

 

 男がクロノのバインドを叩き切り、足元に魔法陣を展開させる。

 足裏に魔力を溜め、瞬間移動とも言える高速移動で一気に合間を詰める。

 狙いは――なのは。

 

「ッ!」

 

 レイジングハートのオートガードが起動し、多少の衝撃を感じつつもなのはは男の刺突を受け切る。

 なのはと目が合い、男の瞳が怪しげな輝きを放つ。

 

「よぉ、また会ったなガキ」

 

「……貴方は、一体……」

 

 底知れぬ何かを男から感じるなのはだが、男の視線はレイジングハートの方に向けられていた。

 

「――やっぱりお前のデバイスか。妙だとは思ってた。標的のサイケロッドとは別に、もう一つ共鳴対象が近くに現れてたからな。ハッ、これで一石二鳥ってわけだ」

 

 男が何を言っているのか、なのはには分からない。

 だが、なのはは本能的に嫌な予感を禁じえなかった。

 まるで、自分の知らないところで自分に関係のある何かが起ころうとしている、そんな気味の悪い予感が。

 

 と、そこでなのはの中で何かが朧気に繋がった。

 確信とまでには至らないが、そう考えると大体の説明はつく。

 

「貴方が、レイジングハートに何か細工を……?」

 

「……はぁ? 何言ってんだテメェ」

 

「だって、レイジングハートの様子がおかしくなったのは、貴方と最初に戦った前後のことだし……」

 

 実際のところ、今もまた不規則な魔力の鼓動をレイジングハートからなのはは感じていた。

 幸いまだ戦闘に支障が出るようなレベルではないのだが、また魔力暴走のようなことがいつ起こるのかなのはとしては気が気でなかった。

 そこまで聞いたところで、男が何か感得したような表情を見せた。

 

「成程ね……お前、まだ把握してねぇのか。そもそもお前のデバイスは――ん?」

 

 ふと男が顔を上げる。

 瞬間、男の四肢が縄状のバインドにより空中固定された。遠目にクロノがデュランダルを構えているのが、男の視界に入る。

 

「ハッ! 何度も同じ真似を――!?」

 

 先程のように力任せに脱出しようとする。だが、その動きもものの二、三秒で止まった。

 力が入らないのだ。更に言うならば、力が抜けて行く感覚がする。

 男の顔に狼狽の色が滲み出るのを見て、クロノは確信する。今発動したのはただのバインドではない。対象の自己強化魔法を強制解除する捕獲魔法――ストラグルバインド。あまりに機動力、魔力生成速度、魔力発生速度が並外れていたので、この可能性に賭けたが、どうやら当たりだったようだ。

 

「セシル!」

 

「応! 嬢ちゃん離れろ!」

 

「ッ――はい!」

 

 既に環状魔法陣を敷き、砲撃準備を終えたセシルが詠唱に入る。

 

「開け、審判の門。裁きの灼雷を受け、ゲヘナにて焼かれよ」

 

 魔法陣が、赤黒い焔と目も眩む雷電を帯び始める。禍々しくも神々しいオーラを放つそれを、男はただ見つめるしか出来ない。なのはもまた、凄まじい魔力の奔流を目の当たりにし、その様に目が釘付けになっていた。

 そして、オートクレールがベストなタイミングで振り下ろされる。

 

「裁け。アニヒレーション!」

 

 無数の魔力弾が、男に向かって雨のように降り注ぐ。

 それはもはや壁。射撃魔法とは言え、一ミリ足りとも隙間なく敷き詰められた弾幕は、完全に砲撃魔法のそれであった。その上、一弾一弾が必倒。故に一度着弾すれば、立て続けに食らい続ける形となる。そうなれば結果は想像に難くない。

 そして為す術もなく、身動きが取れない男へと炎熱効果と雷電効果が付与された、慈悲もない魔力弾が迫る――

 

 

 

「遊び過ぎです、ヴァイザー」

 

 

 

 その時、男の除く全員の瞳が驚愕と共に見開かれた。

 男の盾になる形で、『それ』は唐突に現れた。真っ白いローブに身を包み、その顔までは確認出来ない。だが、セシルの魔力の三分の一を費やした弾幕を、瞬時の内に無効化したことの方がこの場においては重大だった。

 一体どこから現れたのだろうか。少なくとも、誰一人として『それ』の接近に気付くことは出来なかった。いや、接近なんてそんなものではない。あれはどう見ても、何もないところから現れたとしか考えられない。しかし――

 

(魔法陣も先行魔力拡散反応《ストリーマー》も無しに、どうやって……?)

 

 自分が言うのもおかしい話だが、まるで『魔法』のような現象に図らずセシルの思考が停止する。

 動揺が走る外野には目も呉れず、白ローブの『彼女』に男――ヴァイザーは薄笑いを浮かべて声をかけた。

 

「よぉ、目当てのモンは見つかったのか? マティルダ」

 

 マティルダと呼ばれた白ローブは、呆れた風に嘆息する。

 

「ここまで追い詰められるなんて、全くもってみっともない。それとも、こんなところでサイケロッドモードを使うつもりだったのですか?」

 

「流石にそれはねぇよ。ないない。まぁちょっと危なかったが、やられたらやりかえせばいいだけの話だ。最後に立つのは、俺なんだからよ。――で? どうなんだ?」

 

 ヴァイザーの言に、マティルダは事もなさ気に淡々と答える。

 

「貴方が好き勝手暴れてくれたお陰で、時間が稼げましたよ。既に最優先事項はクリアしました。……何やら、貴方は貴方で面白いものを見つけたようですが」

 

 マティルダが、少し眼を動かしてなのはの方を見遣る。

 

 

 そしてなのはの視線が、『それ』と交錯した。

 

 

「ッ――」

 

 息が、止まった。

 深淵から覗き込んでくるような、闇に彩られた眼光。

 まるで心臓を鷲掴みにされたような感覚に、なのはの全身から嫌な汗が噴き出る。

 

(何……これ……)

 

 かつて様々な脅威を、恐れを己の勇気でなのはは乗り越えてきた。決していつも怖くないわけではない。だがそれ以上に、レイジングハートと共に培った不屈の心が、それを凌駕してきただけのことだ。

 

 だが、これは違う。

 恐ろしいとか怖いとか、そういった概念で表現することが出来そうにない。

 

《……mater?》

 

「…………大丈夫。大丈夫、だから……」

 

 ただそこにいるだけの、根源的な『悪』。

 そう、それは『悪』であった。

 単純明快にして理解不能。そのような『何か』を、なのはは初めて目にした。

 なのはだけではない。マティルダから放たれる不可視のオーラに中てられ、武装隊員はおろかクロノやセシルまで体を強張らせるまでに至っていた。

 

「一旦、退散するとしましょう。行き当たりばったりで行動すると、上手くいくことも失敗しますからね」

 

「へいへい、しゃーねぇな」

 

 マティルダとヴァイザーが軽い口調でそう話していると、ようやくセシルが動いた。まだ体は思うように動かなかったが、自分達のテリトリーでここまで我が物顔をされてこれ以上黙ってはいられない。

 

「テメェら――好き勝手言ってんじゃねぇぞ!」

 

 オートクレールが甲高い魔力の唸りを上げ、ものの一秒足らずで砲撃準備を整える。

 しかし――

 

 

「――焦らずとも、貴方達時空管理局はいずれ潰しますよ。その時まで、ごきげんよう」

 

 

 弾幕がヴァイザーとマティルダの位置にまで到達した時には、既に二人は消えていた。まただ。何の予備動作もない、瞬間移動。

 それを確認したクロノは、すかさず空間モニターを開く。

 

「エイミィ! 捕捉出来るか!?」

 

 画面の向こうには、管制室にいるエイミィがコンソールを前に、必死に膨大なデータと奮闘している姿が映し出されている。

 

 そして約十秒後、大きく息を吐いたエイミィはがっくりと肩を落とした。

 

「……ロスト。振り切られた。――あーっ、すぐに捕捉自体は出来たんだけど、一秒に三百回以上の座標転移だなんて無茶苦茶だって……こっちの処理能力では三秒が限界だよ、あんなの。……何なのあの化け物じみた魔導師達」

 

「それは僕達の方が知りたいくらいだ……なのは、君とフェイトが戦ったのは、あの二人組なのか?」

 

 なのははその言葉で我に返ったように、ハッと瞳を瞬かせて、

 

「……ううん。あの真っ白のフードの人は、今日初めて見た」

 

 その報告を聞き、セシルは苦々しげに表情を歪める。一人だけで相当厄介だったのだ。それがもう一人。いや、或いは――

 

「まぁ大体分かってたが、これで複数犯ってことが確定したわけだ。それに、アイツら二人だけってわけじゃねぇだろうな」

 

「あぁ……奴らの言動からして、背後にもっと大局的な動きがありそうだ」

 

 現状について話し合うクロノとセシルの傍ら、なのはは脳内でマティルダが最後に言い残したことを反芻していた

 

 

『貴方達管理局はいずれ潰しますよ』

 

 

 その不穏な言葉に、なのはは知らず身震いする。

 管理局を潰す? あまりに荒唐無稽すぎる発言でありながらも、なのははそれがただの妄言には到底聞こえなかった。

 あの人達なら、やりかねない。

 そして思う。彼らの言う通り、また自分達はぶつかり合うだろう、と。

 セシルと一通り話が終わったのか、クロノがなのはへと向き直る。

 

「とりあえず、だ。――なのは、君が何故ここにいるのか、その説明から移らせてもらっていいか?」

 

「あ……」

 




次で2話終わり。
クソ遅い展開ですが、ラストまでプロットは出来上がってるので後は書くだけです。
後は気力と気力と気力~
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