Magical Girl Lyrical NANOHA ZERO   作:shimoyuki

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遅くなってすいません。これで2話終わりです。


2話 『襲撃』 ④

 被害の全容としては、合計四つのセクションが侵入者の破壊行為により、一時的な麻痺状態に陥っていた。第6セクターに至っては損壊率六十五パーセントという、まるで異世界の召喚竜でも暴れたのかと言わんばかりの悲惨な状況になっていた。

 だが、暫く経って知らされた新たな事実は、前述したそれらが瑣末事であると言っても過言ではない内容だった。

 

 

「何……? ロストロギアが奪われた?」

 

 デスク上に現れた空間モニターの通達を聞き、クロノは耳を疑った。

 クロノの前でこってりと絞られていたなのはも、思わず目を見開く。正直な話、説教が中断したので内心少しホッとしたのは内緒である。

 確かに本局への通達無しの無許可転送及び、メンテナンス中のレイジングハートの無断使用。結果として強力な侵入者を追い払えたから良かったものの、それを差し引いても懲罰房へ放り込まれてもおかしくないやんちゃをやらかしたことには変わりない。

 胸騒ぎのことについては、迷った挙句なのはは口を閉ざすことにした。自分でもよく分かっていないのに、これ以上話を拗らせたくなかった。これは自分自身の問題だ。抱え込むことはよくないと分かっていても、そう確信めいたものをなのはは感じずにはいられなかった。

 結局のところセシルが、

 

「まぁ俺達も助けられたことだし? 口頭注意だけで勘弁してやろうや。規律違反はいただけないが、目の前の脅威に突っ込んでく勇気は大したもんじゃねぇの。なぁ、嬢ちゃん。知ってるか? クロノが嬢ちゃんくらいの歳の時なんてな――」

 

 と見事に話を脱線させてくれたお陰で、彼の言う通り厳重注意だけで済ませてもらえる運びとなった。

 良い人だな、となのは思った。ちょっとちゃらんぽらんな態度が気になったけれど。

 そしてお礼を言おうとした矢先、先程の報告である。

 

 

「はい……どうやら先程の襲撃に紛れて、奪取されたとのことです。先程古代遺失管理部から正式な被害報告が出ました」

 

「おいおいおい、そのロストロギアってのは、もしかしなくても昨日のアレのことか」

 

 セシルの言葉を受け、局員は歯噛みしながら頷く。

 

「……そうです。解析中のため、保管庫から出していたところをやられたようです。しかし、古代遺失管理部の方での人的被害はゼロ。襲撃に際して、局員達が数分ロストロギアから目を離してしまった間に、煙のように消えてしまったと言っています」

 

「煙のように、ねぇ……」

 

「それってまさか……」

 

「あぁ、ぼく達が目の前で見た、あの白づくめの女……彼女の仕業と見て間違いないだろう」

 

 三人はほぼ同時に、あの情景を思い出す。

 未だに信じられない、完璧な瞬間移動。本局の至る所に設置された監視カメラから解析すれば、或いは何か手掛かりが掴めるかも知れないが、悔しいが現状お手上げ状態である。それにエイミィの追跡を、ものの十秒そこらで振り切る速度。今回どういう意図でロストロギアを奪ったのか不明だが、あんなのが再び来襲したら本局はあっという間に機能停止に陥るだろう。

 

「襲撃者の詳細は?」

 

 クロノが短く訊ねる。

 

「幸いにも録画した映像データから、男の面は割り出せました。今過去の犯罪者リストを洗っているところです。ただ、白ローブを着た侵入者の方は……」

 

「ま、一人だけでも正体掴めるに越したことはない。インテリジェントデバイス持ちの上に、Sクラスは下らん魔力量、魔力運用、機動力――ただ者じゃあねぇ。……それにあの小僧の目、眼前の何もかもをぶっ壊すことに何の躊躇も抱いてねぇ目だ。あんなのが今の今まで野放しにされてたなんて、到底考えられん」

 

 

 

 局員との通話が終わり、丁度一段落ついたところで、なのははふと口を開いた。

 

「あの……結局奪われたロストロギアって、何なんですか?」

 

 捜索隊の依頼を受けた時からずっと気になっていたことだ。そして今、それを巡って思いもよらぬ方向へと事態が向かっている。

 ロストロギア絡みでこう言うのも何だが、途轍もない大きな動きが起ころうとしている。そんな予感を覚えずにはいられないなのはだった。

 クロノとセシルは同時に表情を曇らす。そしてセシルが肩を竦ませ、

 

「それが分かってたら、もうちょっとこっちで対策立てれたかもしれなかったんだけどなー」

 

「? それってどういう……」

 

「今回、ぼく達にそれを知る権限が与えられてないってことさ。唯一把握している情報は、奴らが度々口にしていた『サイケロッド』という単語……恐らくそれが鍵なんだろうが――」

 

 内線受信のコール。加えて、局内の回路から外れた個人回線での呼び出しだ。ここにかけてこれる人間は、極々限られている。

 今度は何だと呟きながら、クロノが空間モニターを開く。

 

 そこに映し出されたのは、ユーノの姿だった。

 

「ユーノ君?」

 

「あぁ、なのはもそこにいたんだ。怪我とか、大丈夫だった? なんかめちゃくちゃ強い敵と戦ったって聞いたけど……」

 

「うん、平気。特に大きな怪我とかは、全然ないよ。レイジングハートも、ね」

 

《No problem.》

 

「そっか……ならよかった」

 

「おいユーノ。何の用事だ。いちいちなのはの無事を確認しに内線寄こしたのか?」

 

「なっ、そういうわけじゃ――」

 

「へー嬢ちゃんも隅に置けねぇな。ったく、こんな小さい子でも彼氏がいんのに、俺ぁ何で一人身で執務官なんてやってんだ……」

 

「にゃっ!? ちょ、セシルさん!?」

 

 何だか数十分前にどこかで見たような光景だな、とクロノは他人事のように眺める。自分のこととなればイラッとするが、他人のこういうやり取りを見るのは面白いものだな、と少し邪な考えを抱くクロノであった。

 

「はぁ……あ、そうだ、例のロストロギアの件なんだけど――」

 

 一通りいじられ、疲弊した様子でユーノはそう切り出す。クロノの眉間に皺が寄る。

 

「何か分かったのか?」

 

「残念ながら、まだ本格的な調査はまだなんだ。でも奪われる前に一通りのデータは採取したから、今からその分析に取りかかるところ。――確かに君の言う通り、何らかの報道管制が敷かれてるのは間違いないと思う。一応古代遺物管理部から調査依頼は来てるんだけれど……得た情報は完全に他言無用だと念を押されたよ。あのロストロギアは、何かがおかしい。多分、意図的に情報が操作されている」

 

 それ故の個人回線か、とクロノは納得する。

 

「ユーノ君も、そう思うの?」

 

 なのはの言葉に、ユーノは首を傾げながら

 

「うーん、ぼくはそのロストロギア自体に関しては、あまり重要度が分からないんだけど……ぼくが言っているのは、アレを取り巻く管理局上層部の対応さ。ぼくはともかく、そこの二人に情報開示が行われていないなんて、明らかに異常だ。例え秘匿級であれ、執務官レベルの人間には詳細を把握しておく義務すらあるのに」

 

「なんかキナ臭くやってきやがったな……面倒くさいことになりそうだぜ」

 

 渋い顔でセシルが呻く。クロノも同じ気分だった。どうしてこう、いつもややこしい方向に事態が転がっていくのやら。

 

「……あまり無理はするなよ。深追いには十分気をつけろ」

 

「ご忠告どうも。まぁ、何とか出来る限りやってみるよ」

 

「気をつけてね、ユーノ君。あんまり危ないことしちゃダメだよ?」

 

「はは……それをなのはに言われるとはね……分かった。約束するよ。でもそっちこそ、レイジングハートの具合が悪いんだろう? 今回は何とか乗り切ったみたいだけど、無茶は禁物だからね。なのはレベルの魔導師が局内で魔力暴走なんて起こしたら、途轍もないことになるよ?」

 

「あぅ……ごめんなさい……」

 

 墓穴を掘ったようだ。逆に心配し返され、なのはは小さくなる。

 通信が終わり、クロノが何度目かも知れない溜め息を漏らす。

 

「とりあえず、後でマリィにも謝っておくように。騒ぎが収まってメンテナンスルーム行ったらレイジングハートが無くなってて、ちょっとした発狂状態だったからな、彼女」

 

「うっ……そうします……」

 

「まぁあんまり落ち込むなよ、嬢ちゃん。若い時ってのはこのくらいの無茶して然るべきだぜ。俺やクロノくらい立場が上になるとだな、色々責任がついてきてそりゃもう鬱陶しい――」

 

「セシル」

 

「あーはいはいそんな睨むなって」

 

 そんなやり取りを見て、なのはは苦笑い。

 とは言え色々な人に迷惑をかけてしまったのは、しっかりと反省しなければならない。

 どうも最近色々なことが起きすぎて、冷静さを欠いているとなのはは自覚していた。普段なら焦りに身を任せて、こんなことしでかすなんて考えられないのだが……

 

「…………」

 

 何か、大きな力が自分を駆り立てている。

 恐らく近い内に、同じようなことが起こるだろう。

 それはほぼ、確信だった。

 

 

 

~・~・~・~・~

 

 

 

 そこは、廃墟と化した教会だった。

 何十年もそのまま晒されたかのような、重苦しい空気が教会堂に沈殿している。ステンドグラスは悉く割られ、そこから差し込む穏やかな月の光が廃れた内装を照らしている。

 外は夜だ。今までも、これからも。ここの世界は、夜が明けることはない。

 何故ならここは呪われた地。忘れられた地。かつて迫害され、虐げられ、最終的に見捨てられることとなった、悲劇の地なのだから。

 

「…………」

 

 教会の身廊に、白衣を羽織る一人の赤毛の女が立ち尽くしていた。

 歳は二十台前半くらいだろうか。しかしその達観し切った面持ちは、とてもじゃないが外見と一致しない。

 絶望、とはまた違う。それでも、気の強そうな瞳で虚空を見据える彼女は、まるで世界に対して飽いているようにも見えた。

 

「…………」

 

 見上げる先――祭壇の向こう側には、巨大な石像があった。恐らく神を模して造られた、偶像だろう。恐らく天井まで届いていただろうその神は、さぞかし多くの人の願いを一心に受けてきたのだろう。

 そう、それらは全て推測でしかない。何故なら、神の上半身はもう存在していない。断面を見る限り、誰かによって破壊された跡がありありと見てとれる。

 

 女――エリス・レッドフィールドは、それを穏やかな瞳で見つめていた。

 

 儚い。エリスは思う。何が神だろうか。所詮は造形物だ。確かに弱い人間の依り代くらいにはなるだろうが、所詮はその程度の役にしか立たない。神は人間を生かしもしないし、殺しもしない。いつだって為すのは自分自身だ。

 なのに、人間はいつだって神の名に縛られる。弱い人間は、そうやって異端者を迫害してきた。それを理解出来ないを、まるで当然のように。

 

「下らないわね」

 

 エリスは知らず呟く。そう、下らない。何故皆もっと『面白く』しない。何故踏み込まない。何故、新たな段階へ足を踏み入れようとしない。

 それが、エリスが『メフィストフェレス』の一員となった理由の一つだ。

 

「――エリス。来ていたのですか」

 

 無から有が発生する。この女が現れる時は、いつもこうだ。心臓に悪い。

 

「私を呼び出したってことは、それ相応の有事ってことなんでしょうね、マティルダ。私も暇じゃないんだけれど」

 

 好戦的なエリスの態度。マティルダ・ルケティウスが口を開く前に、彼女の後方の闇からヴォルフガング・ヴァイザーの姿が浮かび上がってきた。

 

「何忙しそうに装ってんだよ。どうせお気に入りの機械人形いじくってるくらいしかやることねーくせに」

 

「……何? 早々に死にたいの? ちょっと腕っ節に自信がある程度で、調子に乗り過ぎじゃない? 新参が舐めた口利くと殺すわよ」

 

「あんだと? テメェここでケリつけてもいいんだぞアァ?」

 

 ヴァイザーがトリシューラを構える。エリスも柳眉を逆立て、己のデバイスを取り出そうとしたが、マティルダが寸でのところで仲裁に入る。

 

「あぁもう、二人共喧嘩は止しなさい。曲がりなりにも神の御前ですよ」

 

「ハッ! なーにが神だ。アンタまだ聖職者の頃の自分演じてんのか?」

 

 侮蔑めいたヴァイザーの言に、マティルダは笑みを深くする。

 邪悪に満ちた満面の笑みを、一層。

 

「いえいえ、私が言う神は世間で一般で浸透しているような、人々が苦しんでいる時に限って何もしない無能とは違いますよ。貴方方も分かっているでしょう? 私達が信仰する対象は、唯一『彼女』でしかあり得ないことに」

 

 沈黙の帳が下りる。『彼女』が誰を指すのかなど、この場においていちいち確認するほどヴァイザーもエリスも野暮ではない。

 

「で? 雑談は置いといて、貴女とヴァイザーが一緒にいるってことは、計画が始動したってことでいいわけ?」

 

「えぇ。少し前倒しですが。予定外なことに『逆しまの書』の発掘が、奴らに一歩先を行かれましてね。仕方ないので、自力でサイケロッドを集めることにしました。恐らく解読に向こうは時間がかかる筈ですが、奴らが私達の存在に気付いた以上、何らかのアクションを見せてくると考えた方がいいでしょう。少なくとも機動零課はもう動いている筈です。故にこちらも対抗すべく、『彼女』の存在濃度を現世に顕現させるため――後一つ、捜索を急ぐために貴女の力を借りたいのですよ」

 

「あっそう……ん? あと一つってことは、あれから一つ見つかったの?」

 

「見つかった、と言うか、奪い返したと言うか……とにかくヴァイザーの活躍で、何とか奪取することが出来ましたよ」

 

「テメェが引きこもってる間に仕事してやったんだ。舐めた口利いてる場合じゃねェのはテメェの方だぜ」

 

 再び調子に乗るヴァイザーを、エリスは軽く一蹴する。

 

「ちょっと貴方は黙ってて。――新たなサイケロッドはどこに?」

 

 マティルダが小型結界で封印している『それ』を差し出す。

 

「私の見たてでは、恐らく第三のサイケロッド、『ハスター』。対応概念は《アクゼリュス》」

 

「へぇ……残酷《アクゼリュス》ねぇ……」

 

 エリスが恍惚とした顔で、スタンバイモードの『ハスター』を眺める。

 結界越しからでもゾクゾクとした震えが、体を駆け巡る。無論それは恐怖ではない。どこまでも純粋な、好奇心故の生理的反応。

 ――一体このデバイスで、どれほどの悲鳴が聞けるのだろう。

 

「これ、私のイングリッドに使わせていいかしら?」

 

「勿論。そのために貴女を呼んだのですよ。――これで、我が『メフィストフェレス』も最高の布陣で奴らに鉄槌を下す準備が出来た。喜ばしいことです」

 

「はぁ!? じゃあ何か? 俺はコイツのためにタダ働きしたってことか!?」

 

 ヴァイザーが喚き散らす。いちいちツッコミを入れるのも面倒くさいので、エリスは無視。マティルダも苦笑しながら、ジェスチャーでヴァイザーをなだめる。

 

「なら早目に性能も兼ねて暴れさせたいところね。――次の戦場は?」

 

 マティルダは即答。こういう手際の良さが、エリスは気に入っている。

 

「えぇ。もう幾つか絞り込んでいます。第24管理世界、『オルガ』、第30無人世界『ティクシム』、第68観測指定世界『ギリース』」

 

 

 そしてその後、三つほど候補を上げ――

 

 

 

 

 

 

「――第97管理外世界『地球《アース》』」




次の話でやっと主はやて再臨です。
3話からはそれなりに話の展開が早くなる……筈。
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