Magical Girl Lyrical NANOHA ZERO 作:shimoyuki
9/28(Fri)
~時空管理局本局・中央センター、第七執務室~
デスクを挟んでレティに一通りの報告を終え、はやては深く息を吐いた。
その表情は暗い。自分は命じられたことをこなしているだけなのだが、その内容が内容だ。
碌な説明もなく、親友を二十四時間監視しろと言われて気分が良いわけがない。
「…………」
報告を受けたレティは眉根を寄せて思案顔のまま、ノートパソコンに何やら打ち込んでいる。
居たたまれない沈黙。悪いことはしていない、と自分に言い聞かせつつも、やはり後ろめたさが拭えない。
流石にはやて一人で身に余る任務であったので、ヴォルケンリッターの皆にも協力してもらっているのだが、当然のことながら話を聞いた時は一様にはやてと同じ反応をした。
当然だ。そんなもの、完全にプライバシーの侵害である。しかしはやてはもう時空管理局という名の巨大組織の一員。上官の命令を恣意的な理由で撥ねつけることが出来る立場ではない。
だからこそ、歯がゆさだけが募っていく。
どうして親友を――高町なのはをここまで監視する必要があるのか。
その理由が知りたいだけなのに、レティははやてに命を下してからというもの、その質問には一切答えてくれない。
「……こうなることも、想定済みだったんですか?」
だから、はやては切り口を変えてみた。
こうなること――先日のレイジングハートの暴走のことであることは、皆まで言わずとも分かってくれる筈である。
果たしてレティは、ようやく顔を上げてはやてと視線を交錯させた。
「いいえ――と言ったら嘘になるわね。でも、こんなにも早く変化が生じたのは完全に想定外だったわ。彼女の無鉄砲さも併せてね」
少し呆れ気味のレティの口調に、はやても釣られてやや閉口する。
まさかレイジングハートのために、あそこまでするとは思わなかった。土壇場で行動力が並外れているのは知っていたが、まだまだなのはという少女を甘く見ていたのを実感したはやてであった。
「今後も……あんなことが起こるっていうんですか?」
「それを監視するのが貴女の役目よ」
「…………」
取り付く島もないような物言いに、はやては奥歯を噛む。
と、レティが徐にノートパソコンを畳み、ようやくはやてに向き直った。
「……ただ――」
「ただ……?」
レティは言いかけた言葉を呑み込むような仕草を見せたが、長い吐息の後に真っすぐにはやてを見据えた。
「今回はレイジングハートに影響が出たというだけで、何とかデバイスの不調として完結させることが出来たわ。だけど覚えておいて。貴女が――私達が注視しているのは、あくまでなのはさんだということを」
「っ……」
その言葉の真意を瞬時に理解し、はやては瞠目する。
(つまり、レイジングハートの動作不良の原因は、なのはちゃんやとでも言うんか……?)
俄かには信じがたい事実。しかしレティは暗にそう言っている。――なのはが危険であると。
加えてレティは直接的な表現を避け、はやてにそう伝えた。ここが管理局内であるのにも関わらず。
聡明なはやては、それの意図するところに早々にたどり着く。
(やっぱり管理局で何や不穏なことが起こってる……? せやけどレティ提督で動きが制限されるような事案て、一体何が――)
考えてもみれば、レティほどの権限がある人間が
それが出来ない。
つまり、なのはと自然に接するのが可能な人間に委ねるしかないことを意味していた。
「前回も言ったけれど、正直なところ本案件は貴女とヴォルケンリッターだけでは手に余ることだとは重々承知しているわ。だけど、今はこれが最善――いいえ、これしか手がないの。勿論、機が熟したら全てお話しするわ。だからもう少しの間、よろしくお願い」
「…………」
暫し沈黙の帳が下りる。
はやてだってもう子供ではない。年齢上は確かにまだ十一歳だが、管理局に勤める身として、社会人としての身の振り方を徐々に弁えてきているつもりだった。
理不尽だって不条理だって、この先沢山ある。そう覚悟はしていた。
だが現実は、思っていた以上に残酷であり――自分の無力さを思い知るしかないものであった。
――自分は成長しているのだろうか。はやては自問自答する。
成長しているのならば、自分は今、何の感情も抱いていないのだろうか。
悩んだ末に、はやてはぽつりと呟くように言葉を紡ぐ。
「……それは、なのはちゃんにとって、幸せな解決策なんでしょうか」
はやての問い掛けに、レティは一瞬虚を突かれたように目を丸くする。
そして僅かに相好を崩し、決意の表情を露わにした。
「えぇ、約束するわ」
今日ここで初めて聞くレティの優し気な声音を耳にし、そこでようやくはやては幾分か張っていた気が緩むのを感じた。
「……その言葉が聞けただけでも、ひとまずは安心です」
「ありがとう。……相変わらず大人びているわね。話が早くて助かるわ」
レティの言葉に、はやては苦笑する。
「いえ……私なんてまだまだです。そこまで賢ぉありません。自分に出来ることを何とかやっていくので精一杯ですから」
「それを自覚して行動に移している時点で、貴女は十分優れているわ。――失礼」
不意にレティの眼前に、半透明のディスプレイが浮かび上がる。
「…………はい…………そう………………分かりました。今からそちらに向かいます」
会話が終わり、レティが立ち上がる。
「こちらの都合で申し訳ないけれど、今日はこれで解散とします。ではまた明日」
「あ、はい。失礼します」
一礼し、はやてはそそくさと退室。何だかんだでそれなりに緊張していたせいもあり、ドアの前ではあるが大きく深呼吸する。
そして、何かを決めたように口元をきゅっと結んだ。
『――シャマル? 今ちょっとええか?』
廊下を歩きながら、ヴォルケンリッターとはやての間だけで機能している念話魔法で、はやてはシャマルに呼び掛けた。確か今、彼女は同セクターの医療室に出向している筈だ。
返事はすぐに来た。
『はーい。はやてちゃん、どうしたの?』
――そう。自分はまだまだだ。そこまで賢くはない。
何も分からないまま、手をこまねいて待っているのはもう限界である。
再び喪うのはもう沢山だ。
だから――
『…………』
『はやてちゃ―ん? あれ? 聞こえてるー?』
『……あのな、シャマル』
せめて、自分で出来ることは全てするべきだ。
『ちょっと頼まれてほしいことがあるんやけど――』