◆プロローグ
子供の頃の夢を見た。
弟の輝が神妙な表情を顔に張りつけていた。
『―――僕と一緒にいると苛められちゃうよ?』
『僕は平気、大丈夫だから』
そんな言葉を言われたのを今でも覚えている。
(ああ、ムカつくなぁ)
望みがある癖に諦めている様な、受け入れようとしている表情が。
自分には我慢がならなかった。
(あの時、私はどうしたんだっけ?)
大分昔の事だ。当然覚えていない。
覚えてはいないが・・・見過ごしたりしなかったのは確かだと思う。
◆異変
「あれ、ここどこ?」
確か私はプラネタリウムを見に来ていたはずだ。
それで途中で妙な香りがして、それで・・・。
「駄目だ、思い出せない。寝過ごしたかなぁ」
気が付けば周りの風景はちょっと変わっていた。
同じ様に首を傾げる二人が目の前にいた。
一人は草食系っぽい雰囲気の男性。
もう一人は何処か影を背負った様に見える女性。
(何だか対照的な二人ね)
明るいのと暗いのと。勿論そんな事を口に出したりはしなかったけれど。
◆この世界で
どうやらここはプラネタリウムではないらしい。
神話をなぞった世界、というのだろうか?
パエトーンという青年の物語。そしてその姉と友人達。
「何だか腹が立ってきた」
扉の前に記された文字を見て知らず呟いていた。
「死んだところで愚かに嘆いてばかりではもう遅い」
「後悔先に立たず」
「恐れおののき責任を放り出してはいけない」
「高望みや過ぎたることは身を滅ぼすばかり」
目にする文字に感じたのは上から目線すぎる事。そして相手を助ける気がない事。
誰だって間違いは犯す。大事なのはそれをどう取り返すかだ。
罰が罰として機能するのは最終的に相手を改心させるのが前提。
この場所はそれを感じさせるものがない。
相手の後ろめたさをいい事に自分の言いたい事しかいってない。
自分の都合を押し付ける気しかない。
「・・・気に入らないわね」
◆パエトーン
彼を目を見た時、昔の弟を見ている気分になった。
自分の求めるものがあるのにそれを諦めている様な。
自分の世界に閉じこもってしまう様な。
今まで会ってきた彼の姉と友人の姿が思い浮かんだ。
(どうしてそんなに簡単に諦めてしまえるだろう?)
自分が酷い目に遭っていないから言えるのはそうだろう。
ただ罰を受け入れている彼らにまどろっこしさを感じていたのも事実だった。
―――だから私は
「おねーさんが守ってあげるからさ!」
その言葉はきっと彼の為ではなかったと思う。
この状況を受け入れて、彼の言葉に頷いてしまったらきっと自分を嫌いになるだろう。
諦めて受け入れる事。それを認めるわけには居かなった。
◆エピローグで
彼女もまた神妙な表情を顔に張り付けていた。
事情が何なのか分からなかった。けれどきっとそういう類のもので。
自分の気持ちを表せば彼を保護したい気持ちがない訳ではなかった。
けれど今まで見てきた彼女の表情を思えば自然とこうするのが最善だと思えた。
「貴方が引き取るのが良いんじゃないかな?」
パエトーンには保護者が必要だった。
それは誰の目にも明らかだったと思う。
けれど同時に彼女には救いが必要だった。
それはあの場に居た人の中で私にしか分からなかったと思う。
私は私の幸福の為にしか行動しない。
けれどそれは他人を蔑ろにすると言う意味ではない。
私は他人の幸せを幸福に感じる事が出来る。
顔に張り付いた何かが崩れ落ちていく彼女と微笑む彼を見た時、ついつい頬が緩んでしまったのがその証だ。
「良かったね」
そんな言葉を聞えない様に彼女に背に投げかけた。
その日の夜、私は夢の続きを見た。
夢の中で私は
「そんなの良いから一緒に遊ぶよ!」
と一喝して弟の輝の手を強引に引っ張っていた。何だそれは、と吹き出してしまった。
ふと気になって弟の顔を見た。そこには涙と一緒に笑う姿があった。
その表情は彼女にとてもよく似ていると思った。