それはさておき、今月2度目の更新です!
パーティーがあった日の翌朝。
「おはよーございまーす」
竹内と一夏が教室にやって来ると、みんな何やら集まって話し合っている。何人かが彼らの存在に気付き、挨拶を返す。
「おはよっ竹内くん、織斑くん。ねぇねぇ、2人は転校生の噂知ってる?」
「転校生?こんな時期にか?」
「まだ新学期が始まって1ヶ月も経ってないのに…それにここに転入するのってとても大変だって聞いてるけど…」
そう、竹内の言う通りIS学園に転入するには試験はもちろんのこと、国家からの推薦が必要となり、簡単に入れるものではない。が…
「それがさぁ、中国の代表候補生らしいのよ」
「へぇ~…」
代表候補生ともなれば知識もバッチリ、恐らく試験は難なく突破し、国家からの推薦だってよほどのことがない限りもらいやすいだろう。
「(中国か……そういえばアイツは元気にやってるかな……)」
一夏は中国と聞いて、1年前に別れた知り合いを思い浮かべる。
「……それで、その転校生はこのクラスに来るのか?」
回想を終えた一夏が尋ねる。
「うぅん、2組の子たちが何か慌ただしかったから、どうも2組らしいよ」
「ふーん…どんなやつなんだろ」
「……気になるのか一夏」
不意に後ろから声がした。声の主は箒だった。
「篠ノ之さん…おはよう」
「「おはよう」」
「……あぁ、おはよう。それで、どうなんだ一夏?」
みんなと挨拶を交わした箒は再び一夏を問い詰める。
「まぁ、そりゃあな」
一夏は曖昧に答えた。
「気にしている余裕なんぞお前にはないだろう。お前はもっと強くなって勝たねばならんのだからな」
箒が喝を入れるように入った。
「そうそう、織斑くんには勝ってもらわなくっちゃ!」
「フリーパスのためにもね!」
それに便乗するようにクラスメートたちが一夏に発破をかける。フリーパスとはこのクラス対抗戦の優勝商品で、優勝クラスはこれにより半年間学食のデザートが無料になるという代物だ。スイーツに対する飽くなき欲を以前垣間見た竹内は苦笑いした。
「でも専用機を持ってる人がいるのって、うち以外じゃ4組だけだから、そこさえ気を付ければ何とかなるんじゃないかな?」
1人のクラスメートが思い出したように言う。
「………その情報、古いよ!」
その時、教室の出入口の方から誰かが割り込んできた。一斉にその方向を見ると、そこにはツインテールの女子生徒が腕を組んで仁王立ちしていた。一夏がその彼女に近づく。
「お、お前…鈴…なのか…?」
「そう。中国代表候補生凰鈴音。今日は2組のクラス代表としてアンタたちに宣戦布告しに来たって訳!」
彼女…鈴音は指を差したポーズを取りながら宣言した。堂々とした出で立ち、鈴音は小さく笑みを漏らし、内心では「決まった…!」と思っている。
「…プッw…何を格好つけてるんだよ、全然似合ってねえぞw」
しかし一夏はそんな鈴音を可笑しく思い、不覚にも吹き出してしまった。
「なっ…!何てこと言うのよアンタってヤツは!」
吹き出した一夏に鈴音は大声で抗議する。一夏は笑いを堪えながら「わ…悪い悪いw」と詫びる。箒の一夏を見る目が厳しくなった。
「えっと、織斑くん?その人は?」
竹内が遠慮がちに一夏に尋ねる。
「あぁ、コイツは…」
「ちょっと待って!」
「え?」
一夏が鈴音のことを紹介しようとしたが、その鈴音によって遮られる。彼女は竹内を見定めるようにジー…っと見ている。
「……………」ジー...
「………あの?」
「ふーん、アンタが…」
「…?」
鈴音は10秒ほど竹内を見続け、1人で何か納得したようだった。竹内は一体何のことか丸っきり理解できず、頭上に"?"を浮かべる。
「おい」
その時、鈴音の後ろから声がした。
「何よ!?」
気が立っていた鈴音はその声に乱暴に対応する。が…
――パァン!
如何せん相手が悪過ぎた。声の主は我らが絶対的存在、織斑千冬。そして今の音は千冬が鈴音に放った出席簿での殴打によるもの。およそ普通の出席簿では出ない音がするほどの力で打たれた鈴音は涙目になるほど痛がり、この光景を見ていた全員が「うわぁ…」とか「痛そう…」などと哀れんでいた。
「もうSHRの時間だ。お前も早く教室に戻れ」
「イタタタ…ち…千冬さん…」
「学園では『織斑先生』と呼べ。そして早く
「はっはいー!すみません!」
いかに気の強い鈴音でも、千冬には敵わないようだ。"ピューッ"と擬音がつくような勢いで千冬の前から退いた。そしてもう一度一夏を指差して
「ま、また後で来るからね!逃げないでよ一夏!」
と言い残し、足早に2組に帰っていった。
一夏始め1組のみんなも急いで自分の席に戻り、ホームルームが開始された。
―――――――――
………なお、
「…では篠ノ之さん、教科書の23Pから朗読をお願いします」
「(一夏め…あの女とどういう関係なのだ……まさか…つ、つ…付き合って)」モヤモヤ
――パァン!
「ングッ!?」
「授業には集中しろ!」
箒は鈴音と一夏の関係がえらく気になって授業どころではなくなってしまい、度々千冬に出席簿で打たれ、しまいには彼女だけ追加の宿題をもらってしまったとか…。
―――――――――
「これも全部貴様のせいだ!」
「……あのなぁ、そんなに俺を悪者にしたいのか………?」
無茶苦茶なことを言う箒に一夏が呆れながら言う。時は昼休み、楽しい楽しいランチタイムである。一夏は竹内と箒、そして岩崎と一緒に食堂へ向かっていた。ちなみになぜ岩崎がいるのかと言えば、一夏が「紹介したい人がいる」と誘ったからである。
「待っていたわよ、一夏!」
食堂に着くと鈴音が朝と同じように仁王立ちして待っていた。
「券売機の前に立ったら他の人の邪魔になるだろ?」
しかし、一夏は受け流すように立ち位置のことを指摘した。
「わ、わかってるわよ!アンタが遅いからここで待ってたんでしょ!」
鈴音が券売機の前から退きながら言う。どうにも朝から筋書き通りいかない鈴音であった。
そして5人は席に着き、ようやくゆっくり話ができるようになった。
「それにしても久しぶりだなぁ鈴。いつ日本に戻ってきたんだ?っていうか、いつ代表候補生になったんだよ」
「いきなり質問ばっかりしないでよ!アンタこそ何IS動かしちゃってるのよ、ニュース見たときビックリしたんだから!」
攻撃的な口調だが、鈴音の顔は楽しそうに見える。
「…一夏、そろそろその女との関係を説明してもらいたいのだが…?」
その様子をずっと見ていてモヤモヤを募らせた箒がついに口を挟んだ。
「まさか…つ…つ、付き合っていると言うことはあるまいな!」
ザワッ…
箒の声が大きすぎたせいか、周囲の女子生徒がざわつく。
「べ、べべべ別につつき付き付き合ってる訳じゃ…」
鈴音が顔を赤らめしどろもどろになりながら答えを返そうとするも…
「あぁ、付き合ってる訳ないだろ。ただの幼馴染みだ」
一夏がズバッと言い切った。あまりにあっさり言い切ったため、鈴音が恨めしそうに睨み付ける。
「幼馴染み……だと…?」
聞き慣れた単語に箒が反応する。
「あれ?幼馴染みと言えば篠ノ之さんもだったよね?その篠ノ之さんが彼女を知らないって…」
竹内が一夏にどういうわけか尋ねた。
「あぁ、箒とは入れ替わりだったからな。箒がファースト幼馴染みで、鈴がセカンド幼馴染みってやつだ。確か箒が引っ越していったのが小4の終わりで、鈴が前に転校してきたのは小5の始めの方。んで、国に帰ったのが中2の終わり頃。だからこうして会うのはほぼ1年ぶりってことになるな」
一夏はみんなに説明を終えると鈴の方に向き直り、
「鈴、こっちが箒だ。前に少し話しただろ?小学校からの幼馴染みで、俺が通ってた剣術道場の娘」
箒を紹介した。
「ふぅ~ん…アンタがその箒って訳ね…これからよろしく、箒さん?」
「あぁ、こちらこそよろしく」
互いに挨拶を交わす箒と鈴音。だがどう見ても雰囲気は良いとは言えない様子だ。
「……見たまえよ竹内くん、まさしく三角関係の構図だよ」コソコソ
岩崎が小声で話しかけてきた。
「そう……みたいですね……。……でも佐藤くん、鈴木さん、渡部さんの三角関係(※)とは何か様子が違うように見えますけど……」コソコソ
「そりゃあそうだろうとも。あの3人の場合とは違って、こっちは織斑くんがフリーな分、尚更性質が悪いのさ」コソコソ
(※:
「あー…鈴?」
一夏は睨み合いを続ける鈴の注意を引き、竹内と岩崎の方を指した。
「こっちの2人が俺と同じ男のIS操縦者だ。黒髪の方が同じクラスの優斗」
「どうも、竹内優斗です」
軽く会釈をする竹内。
「そして灰色の髪の人が…」
「1年4組の岩崎仲俊でしょ?トシとは昨日会ったから知ってるのよ」
「え、そうなんですか?トシさん」
一夏が岩崎に尋ねる。
「あぁ、本当だよ。昨日の夜…そうだね、君たちがパーティーを楽しんでるぐらいの時に会ってね。道案内を頼まれたよ」
「そういうことっ♪」
岩崎の話を聞いて、一夏はようやく納得がいった。
「それで、アンタが優斗ね。一夏と一緒になって、イギリスの代表候補生にケンカ売ったって言う…」
「ウッ…まぁ否定はしないけど…その話って、そんなに噂になってる?」
竹内が苦虫を噛み潰したような顔をして尋ねる。
「さぁね、アタシはトシから聞いただけだし」
「おや?鈴さんが織斑くんについて聞いてきたんじゃなかったっけ?」
「へ?俺の?」
予想外なところで自分の名前が出てきたことに、一夏はビックリした。
「俺の噂なんか聞いてどうしようってんだよ」
「な、なななななな何でもないわよ!それよりアンタ、クラス代表になったんだって?」
鈴音が慌てて話題をすり替えた。
「アタシがISのコーチしてあげる。だから放課後はアリーナで特訓よ!」
「その必要はない、私がすでについているからな。他のクラスの奴の施しは受けん」
鈴音の申し出に一夏が答える間もなく、箒が割り込んでスッパリ断る。
「アンタじゃなくて一夏に聞いてんの!どうなの一夏!」
しかし鈴音は箒を相手にせず、一夏に早く答えるよう急かした。すると箒も自分の意見を通そうと一夏に詰め寄る。
「あー…」
一夏は完全に困り果ててしまった。
「あはは、まぁまぁ…」
「はいはいそこまで、織斑くんが困り果ててるじゃないか」
それを見かねて竹内と岩崎が仲裁に入った。そして様々な意見飛び交う話し合いの末、鈴音のコーチの件はクラス対抗戦が終わるまではお預けという結論が出されたのであった。
―――――――――
その日の放課後。竹内は岩崎に連れられて生徒会室へと赴いた。岩崎によれば、「会長さんが君に聞きたいことがある」とのことだった。どんな話だったかはまた別の話で…。
そんなわけで、生徒会室に思いの外長居しすぎた彼らはそのままそこでご馳走になり、ゆっくりと寮へ帰っている途中だった。しばらく行くと…
「…グスッ………ヒクッ……」
鈴音が独り、涙を流して泣いていた。竹内が声をかけようとしたが、岩崎がそれを制した。
「な、何ですか…腕、掴んだりして」
「僕ァ思うんだけど…今はソッとしておいてあげた方がいいと思うなぁ…こんな
「……全部……聞こえてんのよ………バカ」
岩崎は竹内を連れてこの場から立ち去ろうとしたが、鈴音に見つかってしまった。
「やれやれ、見つかってしまったか……話しかけてきたってことは、話を聞いてほしいってことだよね?わかった、聞こうじゃないか…竹内くん、お金はあとで渡すから何か適当に温かい飲み物を買ってきてくれ」
数分後、竹内の買ってきたお茶を飲みつつ、鈴音は語り出した。彼女の話によれば、かつて日本に来たときに一夏とある約束をしたそうだ。その内容は「料理の腕が上がったら、毎日アタシが作った酢豚を食べてくれる?」という、プロポーズともとれるものだ。それを数分前、一夏に覚えているか尋ねたところ、彼はなんと「酢豚を奢ってくれる」と解釈したらしく、これに鈴音は激昂。彼にビンタ一発を見舞ったあと、ここで涙してた訳だとか。
「ねぇ、どう思う!?」
話している間に一夏に対する怒りの感情が再び沸き上がり、鈴音はヒートアップする。
「僕は思うんだけど、織斑くんが100%悪いとは言えない気がするなぁ」
「なっ、何でよ!」
岩崎の答えに鈴音はムッとした。てっきり自分に賛同してくれるものだと思っていたのに、違う意見が出てきたからだ。
「確かに、彼は聞きしに勝る唐変木だ。正直、今の話を聞いて僕も驚いている」
「でしょ!?」
「そう…もっと悪く言えば、織斑くんは君の想いに1ミリも気付かなかった…とんだスットコドッコイだ。だがそんな彼の鈍感ぶりを知らぬ君ではあるまい。幼馴染みという間柄なら尚更お互いのことはよく知ってるはずだ。そこで聞こう、何故そんな遠回しな告白をしたのかな?」
「そ、それは…」
岩崎の問いは、鈴音の怒りの炎を一瞬にして鎮めた。
「竹内くんも僕が解説を入れなければわからないくらいの回りくどい言い回しだ。…もっとも、彼もこの手の話題には疎い方だけどね…。とにかく、そんな彼とほぼ同類と言える織斑くんが違う風に捉える可能性だって十二分に有り得たわけだ」
岩崎の言う通り、竹内は岩崎の「酢豚を味噌汁に置き換えて、その状況を想像してごらん」などの解説がなければ理解できていなかった。その鈍さを自覚した今、竹内は全く口を挟めないでいた。一方鈴音は岩崎の問いかけに対し答えることができず、ただ唸るだけしかできない。
「……まぁ、だいたいわかるよ。告白する…自分の想いを告げることはとても勇気が要ることだ。……恥ずかしかったんだね」
「………」コク
鈴音は顔を真っ赤にして無言のまま頷いた。
「やっぱりそうか、うんうん…でもね、そんなことじゃ彼は恐らく一生気付いてくれないよ」
「…!!」
「さっき君が言ったように『付き合ってください』を『いいぞ、買い物くらい』と返す彼のことだ。これを超えるくらいにストレートに言わないと気付いてくれないだろう。…ついでに僕に言わせれば、『付き合ってください』も遠回しの告白でしかないね」
「………じゃあトシ……アンタなら何て言うのよ……」
鈴音がブツブツと尋ねた。
「……うんうん、こういうのは人に聞くべきではないと思うんだけどねぇ……」
岩崎は渋って言おうとしない。
「参考程度に聞くだけよ、さあ」
鈴音は食い下がった。
「やれやれ……僕だったら『好き』って言葉はまず間違いなく使うだろうね。やっぱり変に言葉をいじるよりはシンプルで伝わりやすいはずだし」
「…………」
『好き』……この2文字がスッと言えたらどんなに楽なことか……鈴音は更に赤くなって固まってしまった。
「そんなことより、これから君はどうするんだい?」
岩崎は鈴音に今後のことを尋ねた。
「……そうね、やっぱりしばらくは口利いてやらないことにするわ」
「そうかい…まぁ、そこは君の思う通りにすればいいさね」
「そうさせてもらうわ…いろいろとありがとねトシ、優斗」
鈴音は2人に礼を言って自分の部屋へ帰っていった。心なしか少し元気が戻ったようだ。
「………岩崎くん、この事を織斑くんに伝えた方が良いですかね………?」
竹内は親切心からそう提案した。
「おっと竹内くん、それは止めておいた方がいいね。そういうのは野暮ってものさ」
岩崎がやや語気を強めて言った。
「で、でも…」
「君が親切でやろうとしているのはもちろんわかってる。けどそれは出過ぎたマネ、ありがた迷惑でしかないんだ。これは織斑くん本人が自分で気付かないと意味がないんだ。いいね?」
「…わかりました」
釈然としない様子を見せながらも、竹内は引き下がった。
「(やれやれ……鈍感な友達を持つとこうも苦労するもんかねぇ…竹内くんに織斑くん……この
岩崎は竹内を見ながらそう思った。そして今度は鈴音が歩いていった方向を見ながら…
「(リンさん…君がこれから行くべき道は…1つ:もう一度彼に告白できるだけの勇気が持てるまで自分を磨くこと、2つ:逆に相手側から告白させるように彼に自分を印象付けること、そして3つ:それら両方ができないならいっそ彼を諦めること……まぁ3番目の道は彼女の性格からして選びそうにないけど……どの道を選ぶにしても後悔はしてほしくないね…)」
と思いつつ、誰にも聞こえないようにこっそりため息を吐いた。
クラス対抗戦の特訓に行き詰まってしまった一夏。そんなある日、彼は千冬からあるテクニックを教わる。一方、一夏に対する怒りを募らせ鈴音が再び宣戦布告に現れる。…が、ひょんなことから状況は更に悪くなる…!クラス対抗戦、果たして無事で済むだろうか…?
to be continued...
※
どーも、イワッチのボイスでいちいち笑ってしまう剣サタです。何故彼が喋るだけで笑ってしまうのか…私の笑いのツボがおかしいだけだろう。
さて、今回は『エピソードof岩崎』でもないのに岩崎くんが目立ってたような気がしますね。まぁ話の内容が内容だけに、竹内くんは食いつけませんしね…。
ちなみに名前だけ出てきた佐藤、鈴木、渡部。ガンパレ世界で時を同じくして3人同時にくしゃみしたとかしなかったとか…蛇足。
あ、そうだ…岩崎くんが絡んできたかわりに、セシリアさんが今回全く登場しません。彼女にだって、彼ら以外の別の友好関係があるはずです。まだ誰かに惚れた様子も有りませんし…。
そして最後に岩崎くん、ドラマCD版では鈍感な級友になかなか苦労していましたが、今回も鈍感少年に四苦八苦することになりそうです。それも2人もいるから、倍苦労すること請け合いでしょう…ナム…。
どうやらしばらくは竹内くんより岩崎くんの方が目立ちそうですね。それではまた次回御目にかかりましょう。それでは皆さんごきげんよう。