インフィニット・オーケストラ   作:剣とサターンホワイト

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皆さん、大変長らくお待たせいたしました……インフィニット・オーケストラ~エピソードof岩崎~です。

月1更新を目指すと言いましたが…なかなかどうして早くも折れそうです……。

前回以上に手こずっていて最後の方なんかほぼやっつけでやってしまった感が否めない………。

また、時間をかけすぎたこともあって、内容が薄いだけじゃなくごちゃごちゃになってしまっているかも知れませんのでご容赦ください…。


1-EX2:エピソードof岩崎vol.2 援助の章

やあやあやあ、読者の皆さん。僕は岩崎仲俊。作者の剣サタくんによると、この"エピソードof岩崎"は1つの事件が片付いたら1話書こうって決めてたらしいんだけど、実はこのタイミングであるかどうか微妙なところだったんだよね。何せ前回からそんなに間がないし、しかも僕も僕でそこそこ目立っちゃってるからね。終いにゃISまで乗っちゃってたし。けど、書くことが無いわけじゃないからやっぱり書こう…ってことになったらしいんだ。

 

それじゃあ、冗談やメタ発言満載の前置きはこれくらいにして、そろそろ本編へ進もうか。

 

――――回想開始――――

 

それは1組の面々が一夏のクラス代表就任パーティを行う数時間前のこと。岩崎は授業が終わるとすぐ整備室へ向かい、以前西から出された課題…ライフル銃の改造に取り掛かっていた。彼はこの日までに先人たちの資料を読み漁り、石山田からもらったマニュアルを解読し、資材をかき集め、どういった改造を施すかの構想を練り上げていた。それを形にする作業がこれから始まるのである。

 

とはいえ、彼にはどうしても気にかかることがある。そう、クラスメートでルームメートの更識簪のことである。数日前、布仏本音に「かんちゃんを頼む」と言われて快諾したものの、以来挨拶程度にしか言葉を交わせていないのだ。岩崎がこの数日で新たにわかったことは、彼女の帰宅時間が日に日に遅くなってることと、それに比例してどんどんフラフラしてきていることだ。入学当初は就寝時間までの空いた時間に端末で何か見ていたようだが、最近は帰ってきたらすぐ眠りに就いてしまうのだ。

 

「(………このまま放っておくと……壊れちゃうよなぁあの子………)」

 

岩崎は何とかしてあげたかったが、話すきっかけがつかめず、結局時は無情にも流れていくのである。

 

午後6時前。岩崎は空腹を感じ、一度作業する手を止めた。まもなく夕食の時間、今から向かえばちょうど食堂が開く頃だろう。彼は整備スペースの整理をして、必要最低限のものだけをもって整備室を出た。出る前に簪の様子を確認した。彼女は岩崎のことなど全く気にも留めず、黙々と作業を続けている。その手際の良さに感服しながら岩崎は食堂へと向かった。

 

―――――――――

 

岩崎が食堂で夕食を食べていると、女子生徒たちが慌ただしくテーブルを動かしたりと、何かの準備を始めた。「どうしたのだろう」と様子を窺っていると、知り合いの本音が声をかけてきた。

 

「やーやーやー、岩プーではないか~」

 

「やあやあやあ、こんばんは本音さん。何やら慌ただしい様子だけど、この後何か…」

 

そこまで言いかけて岩崎は本音の手にあるものをみた。色々な種類のお菓子、ついでに彼女の頭にはとんがり帽子が乗っていた。

 

「…パーティでもあるのかい?」

 

「えへへ~、オリムーのクラス代表就任パーティを執り行うのだ~」

 

オリムー?あぁ、そういえば織斑くんが1組のクラス代表になったって噂で今日は持ちきりだったね。岩崎はそんなことを考えながら本音の話を聞いていた。

 

「岩プーも一緒にどうかな~?」

 

オリムーもタケッチも喜ぶよ~、と本音は誘い続ける。

 

「いやぁせっかく誘ってくれたのに悪いけど、今日のところは遠慮させてもらうよ。やることがあるし、それに……」

 

岩崎はそこまで言うと周りの目を確認し、本音に顔を近付けるようにとジェスチャーを出した。本音は不思議に思いつつも彼に従い顔を近付けた。

 

「………簪さんのことも気になるからね……申し訳ないことに君からあの話を聞いて以来、全く進展がないし………」

 

「!……そっかー……ゴメンね岩プー……」

 

本音は自分が厄介事を押し付けてしまっているのではないかと思い、謝った。それに対し岩崎は首を振り、

 

「なぁに…僕が何もできなかっただけで、君が謝ることじゃないさ……。……まぁとにかく、そういう訳だから今日はクラス水入らずで楽しむといい。………さぁ、僕はもうそろそろ行くとするよ」

 

空っぽになった食器をトレーに乗せて席を立った。本音は手を振って彼を見送った。

 

整備室に戻る途中ふと岩崎は足を止めると、何を思ったのか…もうすぐ整備室だと言うのに突如違うところに向けて歩を進めた。

 

―――――――――

 

数十分後、岩崎は整備室に戻ってくると早速簪の様子を見に行った。彼女は未だ黙々と作業を続けていたが、その作業スピードは明らかに前に見たときより落ち、何となく足元もフラフラと覚束無い。

 

実のところ、彼女は岩崎がいる間には食堂に姿を現していない。岩崎が整備室に戻る際にもすれ違うことはなかった。つまり彼女は夕食もとらず作業を続けていたことになる。

 

そう…今にして思えば、岩崎が夕方の食堂で簪の姿を見かけたのは初日だけで、それ以来全く顔を合わせていない。だからと言って夕食を食べていないということにはならないが、日に日にふらつき具合が増していることや今日のような様子が数日続いたことを考えれば、食事を抜いて無理をしていると考えるのが自然だろう。

 

「こんばんは、簪さん」

 

ついに岩崎は声をかけた。

 

「………何か用?」

 

簪は興味がないのか、岩崎の方には一切目をやらずに答えた。

 

整備室(ここ)に来る度によく見かけていたからね。それにいつもフラフラになって帰ってくるのも気になっていたし…でもその理由が今日完全にわかったよ……ずっと1人で頑張ってきたんだね」

 

そう言いながら岩崎は簪に近づいていく。

 

「差し入れを持ってきたよ。それにそろそろ休みを入れないと、体が悲鳴を上げるんじゃないかな?」

 

彼は手に持ったレジ袋を差し出した。中には購買で買ってきたのか、ハムとレタスのサンドイッチやペットボトルのお茶が入っている。するとようやく簪は作業の手を止めた。

 

「……せっかくだけど、いら…」クゥゥゥゥ……

 

簪は差し入れを一度見てから「いらない」と断ろうとしたとき、タイミングが良いのか悪いのか…彼女の腹の虫が弱々しくもハッキリと悲鳴をあげた。

 

「……………/////」カァァァァァ…

 

簪はその音を聞かれたのが恥ずかしかったようで、顔を赤らめて俯いてしまった。

 

「………うんうん、どうやら身体の方は正直みたいだね。それに、僕は何も『もう作業をやめろ』と言ってる訳じゃないんだ。ちょっとでも休みをとってくれれば良い、それだけさ」

 

岩崎は少し戸惑うもにこやかに休憩を促す。

 

「…で、でも……」

 

それでもなお簪は作業を続ける意思を見せる。

 

「………それに、今休憩を入れた方がこのまま続けるより作業効率が良くなると思うよ。現に今の君はどう見てもフラフラだったし、もし倒れてしまった場合は回復するまでの間は作業ができず、それこそ完成が遠のくことになりかねないからね」

 

「………わかった………」

 

ついに簪が折れ、岩崎から差し入れの入った袋を受け取った。

 

「本当はパンよりお米の方が腹持ちが良いからおにぎりでも良かったんだけど、具の好みの差が激しいからね。サンドイッチならよほどの事がない限り大丈夫だと思ったんだけど………どうかな?」

 

「………ううん、大丈夫。……ありがとう。…………あの……」

 

簪はお礼を言ってサンドイッチを食べようとしたが、口元まで運んだところで止めてしまった。

 

「何だい?」

 

岩崎が聞き返す。

 

「………その…そんなに見られていると、その…………食べ辛いんだけど……」

 

そう、簪の言う通り岩崎は簪の事をにこやかに見ていた。ハッキリ言って食べ辛い。……読者の皆さんも他人の食事をじーっと見るのはやめましょう。

 

「あぁ、ごめんごめん。でも…僕がいなくなったらまたすぐ作業を再開するんじゃないかなって思っちゃってさ」

 

「そ、それは………」

 

そうしようとは思っていなかったようだが、すぐに否定しない辺りその考えは簪の頭に少なからずあったらしい。

 

「ん~、でもそれで食べないんじゃあ元も子もないし………うん、ちょっと先に食べてて。すぐ戻ってくるから」

 

そう言うと岩崎は突然整備室を飛び出した。簪は呆気にとられて30秒ほど固まってしまった。

 

――数分後

 

簪がひとり岩崎からもらったサンドイッチを食べていると、その岩崎が戻ってきた。その手にはペットボトルと何かの小袋を持っている。

 

「……それは?」

 

簪が小袋の事を尋ねた。

 

「あぁ、お菓子だよ。お茶と一緒に自動販売機で買ってきたんだ。よかったら食べても良いよ」

 

ほら、と岩崎が見せた小袋は確かに簪もよく知るお菓子のそれだった。

 

「まぁそういうことで…僕が簪さんのリフレッシュに付き合うついでに、君には僕のリフレッシュに付き合ってもらおうかな~…なぁんてね。互いに飲み食いしている状態だったら、食べ辛さも多少は紛れるんじゃないかと思ったんだけど…」

 

いや、簪の言う食べ辛さはそう言うことではないだろう……が、簪はこのどこか必死な年上男性の姿に思わず笑みをこぼした。

 

―――――――――

 

そんな訳で急遽、整備スペースの片隅という何とも似つかわしくもない場所で始まったお茶会……のようなもの。

 

「…ねぇ、岩崎くんは…そんなにのんびりしてていいの?」

 

ここまで会話らしい会話がなかった2人が、簪が岩崎の作業状況について尋ねた。

 

「あぁうんうん、僕のことなら平気さ。別に締切があるわけじゃないし。それにしても……」

 

岩崎は簪が組み立てているIS"打鉄弐式"を見た。外見はほぼ組み上がっているように見える。

 

「このIS、君が1人でここまで組み上げたんだよね?」

 

「う、うん…まだ完成にはほど遠いけど……」

 

「いやいや、すごいことだと思うよ。僕はISに触れるようになってからまだまだ日は浅いけど、ISを組み上げるのは大変だって聞いてるからね」

 

岩崎は渇いた喉にお茶を流し込む。

 

「……そこまでして1人で頑張る理由って……何かあるのかい?」

 

「…!…………」

 

岩崎が然り気無い感じで尋ねたが、簪は再び口を閉ざしてしまった。

 

「………そう、無いなら無いって即答するはずなのにそれをしないことを考えると、やっぱり理由はあるみたいだね。けど今は言いたくないってところかな?うんうん…わかったよ、言いたくないんじゃ仕方ないね……今聞くのはやめておくよ」

 

頑張る理由があることはすでに本音から聞いていた岩崎は、簪本人がどう思っているのかを知りたかった。だが本人が口を割らないのではどうしようもない。岩崎はあっさりと引き下がった。

 

「それじゃあ簪さん、僕はそろそろ行くけど、倒れない程度に頑張るんだよ」

 

「あっ、待って!お茶とサンドイッチとかのお金…」

 

岩崎が自分の作業に戻ろうと立ち上がると、簪は慌てて財布を探し代金を払おうとするが…

 

「あー良いってお金なんか…僕の奢りってことで僕が勝手にやったことだから…ね」

 

岩崎はそれをやんわりと拒否した。

 

「でも…」

 

「どうしてもお礼がしたいなら、もう無理な作業はしないこと!それと疲れたらすぐに休むこと!この2つを約束してほしい。…じゃあね」

 

「………はい」

 

岩崎は手を振り自分の作業スペースへ戻っていった。簪は「何故自分は彼の言うことを素直に肯定したのだろう?」と今になって考えつつ、残ったサンドイッチやお菓子をお茶と共に流し込んだ。

 

この後、一足先に作業を切り上げた岩崎が中国からの転校生・凰鈴音に遭遇し、総合事務所までの案内を頼まれることになるが、それはまた別の話…。

 

――――回想終了――――

 

うんうん、結局彼女の思いは分からずじまいだったわけだけど、本人があの様子じゃ無理に踏み込むわけにもいかないからね。あぁそうそう……あの日以来、簪さんはフラフラになるまで頑張ることはなくなったんだ。……相変わらず帰ってくるのは遅いけどね。それでも、端末で動画を見る元気はあるくらいだから……まぁいいかな?

 

さて、それじゃあ次の話に進もうか。リンさんと会った翌日、彼女は1年2組に正式に加わり、織斑くんからも紹介を受けた。そして放課後に何かあったみたいだけど……今回のお話はそこじゃないんだなぁこれが。そりゃ放課後に起こったことには違いないんだけど…。

 

本題はこっち。その日の放課後、僕は竹内くんと生徒会室へ赴くことになっていた。何故そんなことになったのか、その事も話さないとね。

 

――――回想開始――――

 

♪~~

 

竹内の携帯が鳴り出した。この日はクラス代表決定戦の翌日で、明日の準備を終えた竹内がゆっくりしようと思っていたところである。ちなみにルームメートの谷本癒子は現在大浴場にて友人たちとともに入浴中である。

 

竹内は電話に出た。

 

「はい、もしもし」

 

『もしもし、竹内くん?』

 

「岩崎くん?」

 

―――――――――

 

電話の相手は岩崎だった。彼は先日、生徒会長の更識楯無に「竹内くんと話がしたいのであれば自分から口利きをしておく」と言う約束を交わしていた。そしてこの日、銃改造の資料整理の合間にこの約束を思い出し竹内に電話をかけた次第である。

 

ちなみにこの時は時系列的に一夏の就任パーティーより前の話、つまり岩崎がまだ簪とまともな会話が出来ていない頃であるため、ルームメートである簪はこの日も整備室に籠って奮闘中、すなわち今部屋には岩崎1人しかいない。

 

「……先日の戦いぶり、見させてもらったよ。うんうん、ナイスファイトだったね」

 

『へへ、ありがとうございます……って、まさかそれだけを言うためにわざわざ電話した訳じゃないですよね?』

 

「あははは、流石、僕の親友!僕と言う人がわかってきたじゃないかww」

 

岩崎はひとしきり笑い飛ばすと咳払いをした。

 

「じゃあ本題に入ろうか。君、ミス・オルコットとの対決の時に……不思議な技を使ったね?」

 

『……やっぱりその手の話になっちゃうか……はい、使いました。あれは恐らく……精霊手じゃないかと』

 

電話口の向こうの竹内は予想通りという反応をしていた。そしてそのまま自分の推測を岩崎に伝えた。

 

「ふむ、やっぱりか………あぁそうそう…実は僕、色々あって生徒会に入ったんだけど、生徒会長さんがその技の事について話が聞きたいんだってさ。覚えてるかな?入学初日、寮に向かう途中の僕らに声を掛けた水色の髪をした先輩」

 

『………あぁ、あの時のあの人が……それにしても岩崎くんが生徒会にだなんて……いつの間に』

 

「うんうん……さっきも言った通り、色々あったのさ。それはさておき、会長さんは早い方が良いって言ってるんだけど、いつが空いてるかな?」

 

『そうですね……最も近い日だと明後日が空いてますね』

 

「そうか、ちなみに生徒会室の場所はわかるよね?」

 

『うん、マップを見れば問題ないと思います』

 

「よしよし…んじゃ、明後日の午後のホームルームが終わったら生徒会室に来てくれ」

 

『わかりました』

 

「…………まぁ早い方が良いとは言ったけど、多少遅れても問題ないと思うよ。実はああ見えて結構ユル~い人だからさw」

 

『………へ?』

 

「要するに、"生徒会長"って肩書きにビビって硬くなる必要はないってことさ、それじゃあおやすみ~」

 

『は、はぁ……おやすみなさい』

 

竹内は不思議そうに電話を切った。

 

―――――――――

 

「……そんなわけで、彼は明日ならこちらに来てくれるそうです」

 

「そう…報告ありがとう、仲俊くん」

 

翌日の昼休み、岩崎は昨日のやり取りの報告をしに生徒会室を訪れていた。

 

「それで?仲俊くんは何を熱心に読んでるのかな?」

 

楯無は岩崎の読んでる書物に興味を持った。ちなみに彼らの周りでは虚がせっせと忙しそうに仕事をしている。

 

「……まぁ、マニュアルみたいなものですよ」

 

「ふーん……ねぇねぇ、ちょっと見ても良いかな?」

 

「えぇ、構いませんよ」

 

岩崎は自分が見てたページに栞代わりの紙切れを挟んでから楯無にその本を手渡した。初めのうちはクスクス笑いながら読んでいたが次第に笑顔は消え、代わりに驚愕が彼女の顔面を支配する。

 

「なっ、何よこれ!?一部文章に変な語尾や言い回しが書かれてること以外はとても良い整備マニュアルじゃない!?あなたこれをどこで手に入れたの!?」

 

あまりにも良質な代物であったことに、楯無は思わず岩崎に詰め寄った。

 

「……α社の先輩整備士から貸していただいたものですが……」

 

「α社?そういえば仲俊くんと優斗くんはα社所属だったわね。どういった経緯で協力を得られるようになったのかしら?」

 

「………その事については僕からはなんとも……明日竹内くんが話してくれるでしょう」

 

「えー明日までお預けぇ?つーまーんーなーいー!」

 

話が聞きたい楯無は駄々をこね始めた。一応同い年とは言え、先輩のこの行動に岩崎は正直困った。しかしすぐさま…

 

「お嬢様、彼の話が気になるのはわかりますが、次の授業は移動教室じゃありませんでしたか?」

 

仕事を切り上げた虚が助け船を出した

 

「えっ、もうそんな時間!?…こうなったら……」

 

「お嬢様?まさか授業をサボろうなどとお考えでは…?まったく、私たち生徒の長たる貴女がそんなことでは他の生徒に示しがつきません。何よりそれを認めるわけにはいきません」

 

「あははは……それに僕も話さないとは言ってませんから、ただ1日待ってください」

 

「わ、わかったわよぅ…じゃあ明日楽しみにしてるからねー!」

 

岩崎と虚の説得により、楯無はようやく今日のところは諦めてくれたようだ。彼女は急いで生徒会室を後にした。

 

「やれやれ…虚さん、助けていただきありがとうございました」

 

「いいえ…岩崎くんも早く次の授業の準備をした方が良いわ、戸締まりなら私がしておきます」

 

「いやいやぁ、重ね重ねありがとうございます、ではお先に失礼します」

 

岩崎は虚に礼を言って出ていった。

 

―――――――――

 

そして迎えた楯無による聴取当日。岩崎が生徒会室に向かっていると、前方を歩く縮こまった背中が見えた。それは緊張からビビってしまっている竹内の姿だった。

 

「竹内くん!」

 

岩崎が声をかけると竹内はビクッとした。

 

「なんだ、岩崎くんでしたか…はぁビックリした」

 

竹内は声を掛けた相手が岩崎であることを知ると心底安心した。

 

「何だい何だい、だらしがないなぁ。大丈夫だよ、そんなに緊張しなくても。別に取って食われるワケじゃないんだから」

 

「…そう言われましても…」

 

竹内はまだ不安げだ。

 

「彼女に会ってみればわかるさ、そんなに緊張すると余計に疲れるだけだって」

 

とは言われても元々真面目な性格の竹内、「そんな態度でいては舐めた奴と思われないか」という不安が彼の頭を支配する。

 

「ところで竹内くん、織斑先生にはあの技の事はもう言ったのかい?」

 

岩崎が話題を変えて再び話しかけてきた。

 

「えぇ…自分が何者であるかも含めて、担任(織斑先生)副担任(山田先生)には粗方話しました」

 

「そうかぁ、…僕も担任の先生や織斑先生には話しておいた方が良いのかもなぁ…」

 

やがて、2人は生徒会室に着いた。竹内は深呼吸してから扉をノックした。

 

――コンッコンッ

 

『はーい、どうぞ入っちゃってー』

 

中から入室を許可する声が聞こえた。その声に従い竹内は「失礼します」と言って入った。

 

――――――――

 

「いらっしゃい、よく来たわね優斗くん。久しぶり♪」

 

楯無がからかうような笑みを浮かべて出迎える。

 

「はぁ、お久し振りです…そう言って良いのか微妙なところですが…」

 

竹内は畏縮しつつ答えた。

 

「会長さん、例の件ですが…」

 

「えぇ、虚ちゃんや本音ちゃんたちには休みを言い渡してあるから、今日は余程の事がない限り君たちの他は誰も入ってこないはずよ。……それから仲俊くん、何度も言うけど私の事はもっとフレンドリーに呼んでよ」

 

相変わらず堅い呼び方をする岩崎に楯無はブーブー文句を言う。対して岩崎は竹内に「ね、言った通りだろ?」と目で語りかけてから

 

「いやいやぁすいません。まだ僕自身慣れてないって言うのもありますけど、そこに約1名"生徒会長"に呼び出されて緊張のあまりガッチガチになっちゃってるのが居るので…」

 

と言った。楯無は緊張している竹内(その約1名)を見て「なるほどね」とすぐに理解した。

 

「そうそう、自己紹介がまだだったわね。私の名前は更識楯無。『たっちゃん』とか、親しげに呼んでね♪」

 

楯無はニコニコと自己紹介をした。

 

「は、はぁ……竹内優斗です」

 

対する竹内はまだ緊張が解けないのか、たどたどしく名乗った。

 

「それじゃあ早速だけど…今日呼ばれた理由は仲俊くんから聞いてるわよね?」

 

先程までの人懐こい笑顔から一転、真剣な表情になり本題に入る楯無。

 

「はい……先日のセシリアさんとの対決において僕が発動した腕の青い光のこと……これについてですよね?」

 

その様子に呼応するように竹内の顔付きも引き締まる。

 

「そう……わかっているなら話が早いわ。じゃあ何の捻りもなく尋ねるけど………あれは何なのかしら?」

 

「……あのー、これと同じ質問を先生方からも受けたんですが、やっぱり答えないとダメですか?」

 

竹内が遠慮がちに尋ねた。

 

「うん、答えないとダメ」

 

有無を言わせない楯無の答えに竹内は覚悟を決めた。

 

「……わかりました、それなら僕もその時とほぼ同じ回答をしますが…」

 

竹内は以前千冬に述べたときと同じ説明を始めた。岩崎も補足程度に口を挟む。何度も言うがほぼ同じ内容のため、ここでは割愛させていただこう…。

 

「……と言うわけなんです」

 

「ふーん…その証拠は?」

 

「え?」

 

説明を終えた竹内に、楯無は何と証拠を要求してきた。

 

「君たちが学兵で、幻獣って言う存在と戦っていたと言う確固たる証拠がほしいの。確かに大変だったと思うけど、口だけの説明じゃちょぉっと信じられないかなぁって…」

 

予想外の要求に竹内は困った。この事を証明する証拠なんて……

 

「うんうん、じゃあこれが証拠になれば良いんだけど……はい、学生証」

 

あった…?岩崎は何かを取り出し楯無の前に提出した。それは竹内もよ~く知ってるものだった。

 

「これは……IS学園の学生証じゃないわね…」

 

「えぇ、それは竹内くんの話に出た、前の世界での僕の学生証です……当然青森邪麻田高校なんて学校、この世界には存在しないはずです」

 

そう、それは竹内・岩崎両名がかつて所属していた高校、青森邪麻田高校の学生証だった。岩崎はこれを御守り代わりに肌身放さず持っていたのだ。

 

「ふーん…それでちなみに…この…ひゃく…よくちょう…って読むのかしら?…って言うのは何なの?」

 

「"百翼長(ひゃくよくちょう)"…まぁ言ってみれば、学兵における階級ですかね。確か百翼長で…えーっと……」

 

「うんうん、少尉クラス…だったかな?」

 

百翼長……普通に生活していたら絶対耳にしない単語である。それについて楯無が尋ね、竹内が答え、岩崎がそのフォローをする。

 

「う~ん…ホントだわ、似たような名前の学校はあったけど…この字の"あおもりやまだ"はないわね……」

 

楯無が端末で青森邪麻田高校を調べるが、以前紫波が言った通り"青森邪麻田"という高等学校は存在せず、どんなに探しても検索にヒットしない。

 

「……わかった、君たちの話信じるわ」

 

「「ありがとうございます」」

 

竹内はようやく話を信じてもらえてホッとした。

 

「それにしても、まさか君たちが異世界人だったとは……それで優斗くん、その…精霊手…?は今後どうするつもり?」

 

「はい、その事ですが織斑先生の許可が出るまで使用を禁じられました。ですから僕の意志では好き勝手に発動できないのでご安心ください」

 

「そう?なら良いわ」

 

そしてこの後、彼らは楯無と様々な会話に興じ、気がつけば相当長居をしてしまった。楯無はお詫びの印として2人に夕食を御馳走することとなる。

 

またその帰り道、1人涙を流す凰鈴音に遭遇することにもなるがそれは本編にて……。

 

――――回想終了――――

 

これで、竹内くんの秘密は織斑先生にも、そして楯無会長さんにも知れ渡ることとなったとさ…え、僕?もちろん、僕も正体を明かしたよ。楯無さんには竹内くんが話してくれたし、それでもって織斑先生にも、あの後にね……。

 

――――回想開始――――

 

クラス対抗戦。クラスの代表者が己の技量、戦術、その他すべてをぶつけ合うイベント。ピットの一角には岩崎の姿があった。普通ならクラス代表が出場するところだが、今回は特例として参加が認められたのだった。

 

また、岩崎には試してみたいことがあった。以前、西太介と林青子から託された一挺のライフル銃。この銃の改造を課題として出されていたが、岩崎は空いた時間を有効に活用し、何とスナイパーライフルへ改造し、完成させたのだ。しかし完成したのも昨日の話、まだ試運転も行っていない。そこで今日の試合で隙があればどこかで使ってみようと目論んでいた。

 

そんなわけで彼は一夏と鈴音の試合を横目で見ながら、自分のISの最終調整にも余念がない。

 

「………よしっ、これで不自由なく動けるだろう!」

 

と調整を終えたその時…!

 

――ドォォォォォン!

 

「…!?」

 

大きな音がした。そう、謎のISの乱入である。アリーナでは一夏と鈴音が先程までの険悪ムードはどこへやら、共闘して敵ISを引き付ける。岩崎はこのスナイパーライフルの出番だと、すぐさま自分のISを展開し、ピット内から狙いを定め始めた。

 

しかしただでさえ動き回る敵ISを狙うのも難しいのに、加えて一夏や鈴音も飛び交っている。このままでは一夏たちを誤射してしまう可能性だってあるため、下手に引き金を引くことも出来ない。結局岩崎が何も出来ない間に一夏の何度目かの攻撃が外れた。

 

だがその時岩崎にとっても大きなチャンスが訪れた。一夏と鈴音が何やら話をしている時、敵ISは攻撃の一切を行わず、むしろ彼らの話を聞いているようだった。お陰でターゲットを狙いやすくなり、岩崎は引き金を引こうとした……。がその時……

 

「一夏ァァァァアアアアア!!!」

 

何者かが岩崎の前を横切り、岩崎は思わず銃を引っ込めた。横切ったのは言わずもがな、制服姿の箒である。

 

「男なら………男なら!それくらいの敵に勝てないで何とする!」

 

その直後、敵ISが箒に向けてビーム兵器を構える。

 

「(マズイッ…!!)」

 

岩崎はピットを飛び出し、箒の前に立ちはだかった。

 

「(落ち着け、相手は今もろに的を見せてくれてるんだ…そこを狙い撃つ……!)」

 

岩崎はすぐに敵ISのビームの発射口に狙いを定めて発砲した。銃弾は見事に発射口に撃ち込まれ、敵ISの右腕は暴発を起こした。岩崎は一安心して一夏たちに連絡を取った。

 

「もしもーし?生ーきてるかーい?」

 

―――――――――

 

「では解散。それから篠ノ之、以後勝手な行動は慎むように」

 

「……はい……」

 

謎のISが3人によって撃破された後、この事件に大きく関わったメンバーは千冬に呼び出され、事情聴取や注意などを受けた。それも終わって解散となり、そろりそろりとみんな管制室を後にする。しかし岩崎だけは帰ろうとせず、その場に留まっている。

 

「……織斑先生」

 

「ん、どうした岩崎。お前も早く寮に戻った方がいい」

 

「……その前に1つお話があります」

 

「……何?」

 

「竹内くんが先生に自らの正体を明かしたと言う話を聞きまして、それに関連する話です」

 

「何だと?……わかった、そこに座れ」

 

そんなわけで、岩崎と千冬は机を挟んで向かい合う形になった。

 

「……それで、話は何だ?」

 

「……実は、僕も竹内くんと同様…否、全く同じ事情の異世界人です」

 

「!!……なるほどな」

 

「………もしかして、気付いてました?」

 

思いの外薄い反応に岩崎が小声で尋ねる。

 

「いや、気付くとかそういう確信めいたものではないが、竹内が話してくれたときに『もしかしたら…』と言うのはあったな」

 

「なるほど、さすが織斑先生」

 

「ん…ちょっと待て、竹内と同じってことは…お前は竹内の精霊手の秘密について何か知ってることはあるか?」

 

岩崎の発言に引っ掛かりでも感じたのか、千冬が尋ねた。

 

「……残念ながら僕もそれほど知ってる方ではありませんので……ただ恐らくですが、彼が精霊手を使えるようになったのはIS学園(ここ)に来てからです。それは間違いありません」

 

「そうか……わかった」

 

結局、千冬は精霊手についてまともな情報を得ることが出来なかった。

 

「この話はくれぐれも内密に………って、先生方は竹内くんの話した内容を誰かに話したりは……?」

 

「いや、まだ誰にも話していない。情報開示は任されてはいるが、本人は出来るだけ話さないでほしいとのことで、アイツの正体を知っているのは私の知る限りでは直接話を聞いた私と山田先生だけだ」

 

「そうですか……わかりました、では僕の正体のことも彼と同じように任せても構いませんか?」

 

「……わかった。話はそれで終わりか?」

 

「はい。お聞きいただきありがとうございました」

 

「あぁ、お前も早く戻れ。私はこの後やることがある」

 

「はい、では失礼します」

 

――――回想終了――――

 

そんなわけで、僕の秘密も無事カミングアウト成功!ということになったわけだ。だからと言って何かが変わるわけじゃないんだけどね……。

 

おっと、今回はここまで。僕はこれからα社に戻るんだ。その理由は…本編の次回。




この日は休日。一夏は1度自宅の様子を見に地元へ戻り、旧友と再会する。一方竹内と岩崎もそれぞれ報告のためにα社へ戻った。そこで2人は紫波がある電話をしているのを見かける。そして更に翌日、転校生が1年1組に入ってくる。

to be continued...

どーも、花粉の季節の到来に頭を痛めている剣とサターンホワイトです……。って言うかリアルで頭痛ぇッス…。

えー、遅くなってごめんなさい!どうにもエピソードof岩崎は手こずっていかんなぁ……。前回もエライ字数と時間食ったし、今回もまたしても10000字越えました。

……正直エピ岩、必要なのだろうかとも思いましたが……まぁ、またやっていこうかと思います。

さて、一先ずこれにて『第1章 新生活の始まり クラス代表戦編』は終わり、次回から第1章の登場人物紹介を挟んだ後に新章に入ります。……実は次の章の方が書きたいネタがいっぱいあると言うね……。どんなネタがやりたいのかは書いた後に紹介するかもしれません。お楽しみに

ではまた次回にて。

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