インフィニット・オーケストラ   作:剣とサターンホワイト

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ようやく花粉の時期も過ぎまして、私自身恨み言を言う回数が減る時期でもありますが、どうやら今年は花粉と同時に喉をやらかしたらしく、咳がこの1ヶ月強ほど治まりませんでした。……何て言うかね、無駄に年食った感じ……否、それも違うな……まぁいいや。

何はともあれ、インフィニット・オーケストラ2章2話、始まるぞよ!

気分など悪くされた場合は早めのブラウザバックを!


2-2:転校生大騒動 シャルルとラウラ

1年1組の教室。ここにこの日、新たに2名生徒が加わることになった。所謂転校生と言うものである。しかし、そのうちの1人がクラスの生徒全員の目を引くことになった。何故なら、1人の転校生は男子生徒用の制服をまとっていたからだ。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多くあると思いますが、皆さんよろしくお願いします」

 

金髪の少年、シャルル・デュノアが礼儀正しく自己紹介した。

 

「お……男………?」

 

誰かが呟いた。新たな男性IS操縦者の出現に半信半疑の様子だ。

 

「はい、ボクと同じ境遇の方がこの学園にいると聞いて本国より転入を……」

 

その呟きにもシャルルは丁寧に対応しようとするが………

 

『キャーーーーーーーーーーー!!』

 

「えっ?」

 

クラスの大半の女子生徒の黄色い声に掻き消され、その様子に圧倒された彼はひきつった笑みを浮かべる他なかった。

 

中性的で整った顔立ち、アメジストのように綺麗な紫色の瞳、そんな外見と良い意味でギャップのない可愛らしい声、そして紳士的な立ち居振舞い……これほどのハイスペックな異性を目の前にして、彼女らが黙っていられるはずがなかった。

 

「4人目よ!4人目!」

 

「今までの3人とはまた違うタイプの子!」

 

「今年は当たり年ね!」

 

「ホントね!もう最高!」

 

「み、皆さんお静かに!まだ自己紹介が終わってませんよ~」

 

真耶がおろおろとしながらこの教室を静めようとする。

 

結局千冬が一喝することでみんなはようやく静かになったが、もう1人の転校生である長い銀髪の少女はこの様子を冷ややかな厳しい目で見ていた。

 

「そ、それでは自己紹介を……」

 

「……………」

 

真耶は彼女に自己紹介をするように促すが、まるで真耶の声が聞こえていなかったように反応がない。その証拠に、もう目を閉じて腕を組み、「自分には関係ない」といった態度だ。

 

「…ラウラ、挨拶しろ」

 

「はい、教官」

 

「……ここではそう呼ぶな。私はもう教官ではないし、お前もここではただの生徒の1人だ。織斑先生と呼べ」

 

「わかりました」

 

だがラウラと呼ばれた彼女も、千冬の言うことには素直に応じた。しかしそのやりとりはどこか不思議なものだった。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「………………」

 

「………………」

 

「あの……い、以上ですか……?」

 

「………以上だ」

 

「………………」

 

名前しか言わぬ自己紹介、真耶が他にないか尋ねても「ない」と冷たく突っぱねる。さっきまでのシャルル(フィーバー)はどこかへ吹っ飛び、今度はラウラの放つ凍てつくようなプレッシャーが教室を占拠する。

 

ラウラは一夏を見るとつかつかと彼に近付いた。

 

「……貴様がッ……!」

 

彼女は憎々しげに呟くと右腕を振り上げ……

 

―――バシンッ!

 

「…い?」

 

……ビンタを見舞った。あまりに一瞬の出来事で、打たれた本人もまだ理解が追い付いていないようだ。

 

「私は認めない……貴様のようなのがあの人の弟であるなど……認めるものか……!」

 

ラウラは小さい声で、しかしはっきりと言った。その言葉にも、そして視線にも明らかな憎しみが込められていた。

 

「い、いきなり何するんだよ!」

 

「…フン」

 

ようやく自分が打たれたことを理解した一夏が抗議の声をあげるも、ラウラはそれを無視して空席に向かっていった。ラウラが教壇から降りたことで、先程までのプレッシャーはなくなったが、これまでの一連の流れのせいでさらに不穏な空気がこの場を占める。

 

「あー…ゴホンゴホン」

 

千冬が咳払いし、みんなの注意を引いた。

 

「ホームルームは以上だ。各員、すぐに着替えて第2グラウンドへ集合しろ。今日は2組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!それから織斑、竹内!デュノアの面倒を見てやれ!」

 

「わかりました!」

 

千冬はこの後の授業についての連絡事項などを伝え教室を出た。竹内は千冬の指示に了解の返事をしたあと、一夏のところへ行った。

 

「顔…大丈夫?」

 

「優斗……あぁ、大丈夫だ」

 

「あの~…」

 

竹内と一夏が先程のビンタの痕を確認しているとシャルルが話しかけてきた。

 

「織斑くん…と、竹内くん…だよね、初めまして。ボクは…」

 

彼は2人の名前を確認するように言った後、改めて自己紹介をしようとするが……

 

「あー挨拶は後!女子が着替えるから、今はとにかくここを出ないとな」

 

一夏が遮りシャルルの手をとった。

 

「!」

 

「行くぞ、優斗」

 

「OK!」

 

そして3人は教室を飛び出した。

 

―――――――――

 

「俺たち男子は、空いてるアリーナの更衣室で着替え」

 

「そう、実習の度にこの移動だから、早いうちに慣れてね」

 

「う、うん……」

 

廊下を早足で移動しながら一夏と竹内が説明する。

 

「……えと」

 

シャルルが何か言いたげに呟く。

 

「何だ?トイレか?」

 

それを察した一夏がそう尋ねるが…

 

「違うよ!」

 

食い気味に否定されてしまう。

 

「……その……」

 

「手…」と言いかけたところで……

 

「あーーーーー!!」

 

シャルルの噂を嗅ぎ付けた他クラスの生徒が彼らを発見した。

 

「噂の転校生はこっちでーす!」

 

「えぇい者ども、出合え出合えィ!!」

 

ここは武家屋敷か!とツッコむ余裕もなくあっという間に彼らは包囲されてしまった。

 

「うわぁ…黒髪の2人も良いけど、デュノアくんの金髪も綺麗ね~」

 

「見てよ、織斑くんとデュノアくん、手ェ繋いでる!」

 

「IS学園男兄弟の末っ子は可愛い癒し系!うん、イイ!」

 

「賑わうところに我ら在り!新聞部が噂の転校生にインタビューにやって参りました!」

 

みんな集まっては口々に言う。他クラスどころか、薫子を筆頭に他学年の生徒まで嗅ぎ付けて来ている……。

 

「クソッ、囲まれたか……」

 

「うん……どうしよう……」

 

このまま一人一人を相手にしていては、間違いなく遅刻は免れないだろう。だが突破しようにも、人の壁が厚すぎて、これもまた多大な時間を要するだろう。一夏とシャルルが途方に暮れていると……

 

「2人とも、ここは僕に数秒時間をくれないかな?」

 

竹内が2人の耳元で囁いた。

 

「お前……何か手があるのか?」

 

「うん…ちょっと強引な手だけどね…僕が右の手で『来て』の合図をするから、それまで耳を塞いでおいてくれるかい?」

 

「………わかった。どんな方法かはわかんないけど、他に案もないしな……ここは優斗に任せよう!」

 

「うん、頼んだよ」

 

話はまとまり、一夏とシャルルは手筈通り耳を塞いだ。

 

「みんな聞いてください!」

 

竹内が声を張り上げた。すると、みんなはワクワクしながら竹内に注目した。

 

「(上手くいくかな……えぇい、ままよ!)」

 

竹内は内心ビクビクで作り笑いもヒクついているが、どうやらまだそこは誰も気付いていないようだ。彼は意を決した。

 

「………すみません、何でもありません!!」

 

「………」

 

――ズッコーン!

 

ものの見事に全員ずっこけた。言った本人と、耳を塞いでいる2人を除いて。それを見た竹内は右手で合図を出した。それと同時に、気が引ける思いを押し殺しこんな指示を出した。

 

「今だ!人垣を飛び越えるんだ!」

 

「よーし!」

 

一夏は指示を聞いてすぐに飛び出した。そして見事に全員飛び越え、包囲網を突破した。包囲していた女子生徒がずっこけてる分高さがなくなり、距離も思いの外なかったのが幸いしたようである。だが耳を塞ぐ際、繋いでいたシャルルの手も離してしまい、一夏1人だけで先に飛び越えてしまった。それに気付いたのはその後のことだった。

 

「さぁ、デュノアくんも!」

 

「え、でも……」

 

竹内がシャルルにも飛び越えるように促すが、シャルルは自分の跳躍力に自信がないのか、それとも人を飛び越えていくことに気が引けるのか、いずれにしろ躊躇して動こうとしない。こうしている間にも時は流れ、コケてた人たちもやがて立ち上がるだろう……。

 

「……男に抱かれる趣味なんて持ち合わせてないだろうけど……やむを得ない……!」

 

竹内はシャルルに向かって突進した。そしてそのまま彼をやや強引に抱え込んだ。

 

「えっ、ちょっ!?」

 

「お詫びなら後でいくらでもする、だから今は大人しくしててください……!」

 

「…!」

 

シャルルは突然のことに思わずジタバタしたが、真剣な顔をした竹内に落ち着くように諭され、抵抗をやめた。

 

「……いいかい?これからこの人混みを飛び越えるから、しっかりつかまってて」

 

竹内が囁いた。

 

「うん…」ギュ…

 

シャルルがそれに従って竹内の首に腕を回した。竹内はそれを確認するとスピードをあげ、渾身の力を込めて飛び上がった。一夏ほどの飛距離は出なかったが、2人の体重がさほど重くないことが幸いしたのか、何とか誰を踏むこともなく包囲網の突破に成功した。竹内は着地すると迅速に、且つ丁寧にシャルルを降ろした。

 

「あ、ありがt…」

 

「お礼も後!今は遅刻しないことを最優先に考えよう!」

 

「う、うん!そうだね」

 

お礼を言おうとしたシャルルだが、竹内にはそれを聞いている余裕がなく、先を急ぐように言った。

 

「待たせたね織斑くん、さぁ、行こう!」

 

「おう!」

 

「ま、待ってよぉ!」

 

3人は大急ぎで第2アリーナの更衣室へ駆け込んだ。

 

―――――――――

 

「ここまで来ればもう大丈夫だな……」

 

「うん、とりあえず一安心だね……」

 

息も絶え絶えになってようやく彼らは最初の目的地である第2アリーナの更衣室にたどり着いた。

 

「けど、シャルルが来てくれて助かったよ」

 

不意に一夏がシャルルに話しかけた。

 

「え、何が?」

 

「優斗もいるし、俺たちの他にももう1人男子がいるけど、それでもやっぱり周りは女子ばかりだから、何て言うか…けっこう息苦しくてな。男が1人増えるだけでもなかなか心強いもんだぜ」

 

「そうなの?」

 

シャルルが竹内に尋ねた。

 

「確かに肩身の狭さは常々感じるよね……そりゃまぁ、僕ら男子がこの学園にいること事態が異常事態だから仕方ないと言えばそれまでだけど……」

 

竹内も一夏の意見に同意した。

 

「何はともあれ、IS学園へようこそ。僕は竹内優斗」

 

「あぁ、自己紹介がまだだったな。俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」

 

「うん。よろしく、一夏、ユート。ボクのこともシャルルで良いよ」

 

「わかった」

 

「こちらこそよろしくね、シャルルくん」

 

どうやらこの3人は上手く打ち解けることが出来たようだ。

 

「……って2人とも、のんびりしてる場合じゃないよ!」

 

竹内が時計を見て叫んだ。授業開始の時間まで残り5分を切るか切らないかだった。

 

「げっ!?ホントだ、急いで着替えねぇと…!」

 

言うと同時に一夏は服を脱ぎ始めた。

 

「うわっ!?」

 

シャルルが大声を出した。

 

「ん?まだ着替えないのか?早く着替えた方がいいぜ、俺たちの担任は時間にうるさいのなんの……」

 

「あーうんうん!着替えるよ!けどその……向こうを向いててね!絶対こっち見ちゃダメだよ!」

 

シャルルが早口で捲し立てる。

 

「あぁ…わかったけど……シャルルはじっとこっち見てるよな」

 

「見てない!見てないよ!」

 

シャルルは一夏から目を逸らした。

 

「?」

 

一夏はわけがわからず首をかしげた。

 

結局、シャルルは2人から少し距離の離れたところで着替えた。彼は着替えを終えるとホッとしたのか、息を吐いた。

 

「何だ?もう着替え終わったのか?」

 

それを察した一夏が声をかけた。

 

「う、うん!」

 

「早いなぁ……何かコツでも……って優斗も着替え終わってるのか!?」

 

隣にいる竹内も着替えが済んでることに気付き、一夏は焦り始めた。

 

「うん。今日は実戦授業があるってわかってたから、制服の中にISスーツを着てきてたんだ。2人も今度からはそうした方がいいと思うよ」

 

「そっかぁ、それなら裸を見られる心配もないし…」

 

「……授業直前でこうして焦ることもなくなるしな……その手があったか、俺もそうすればよかった……」

 

シャルルは名案の出現に喜び、一夏はそれを考え付かなかったことを後悔した。

 

「あ、そうだ……シャルルくん、さっきの事なんだけど……」

 

今度は竹内がシャルルに話しかけた。

 

「え、何のこと?」

 

「……包囲網突破のとき、緊急事態とはいえいきなり抱き抱えたりしてゴメン!男に抱かれる趣味なんてないだろうに……」

 

竹内は床に打ち付けるような勢いで頭を下げた。

 

「いやいやいやいや!そんなに謝らなくても!」

 

「でも……」

 

シャルルはそんな竹内を止めようとするが竹内はまだ食い下がる。

 

「うー…じゃあ今は良いから、お詫びの内容は保留ってことにしてくれるかな?」

 

「うん…それなら…」

 

半ばシャルルが折れる形となり、この場は収まった。そうこうしているうちに一夏もようやく着替え終わり、3人はグラウンドへ向かった。

 

―――――――――

 

「ではこれより、格闘及び射撃を含む実戦訓練を始める!」

 

『はい!』

 

第2グラウンド。ここに1年1組及び2組の生徒が集められ、実戦授業が行われている。

 

「まず戦闘を実演してもらおう、オルコット!凰!」

 

「「は、はい!」」

 

「専用機持ちならすぐに始められるだろう、前に出ろ!」

 

千冬の指名により、2人の代表候補生が前に出てくるが……

 

「はぁ~…何でアタシが…」

 

「こういうのは何だか見世物にされてるような気がして、気が進みませんわねぇ…」

 

と、2人はぶつくさ言っている。

 

「そう言うな、実力者の宿命だ……」

 

千冬が面倒臭がる2人に囁いた。……その言葉には妙な重みが感じられた。

 

「それでお相手は?このまま鈴さんが相手でも構いませんが?」

 

「ふん、面白いじゃない、返り討ちにしてやるわ!」

 

千冬の言葉でとりあえず己を納得させた2人は各々ISをまとい、互いに挑発する。

 

「慌てるなバカ共、対戦相手は……」

 

千冬がそう言って対戦相手の紹介をしようとしたその時、キィィィィンと大きな音がした。

 

「あああああああああ!!」

 

続いて誰かの叫び声が聞こえた。その声の主は量産型IS『ラファール・リヴァイヴ』を纏った真耶だった。ここから察するに、叫び声の前の大きな音はISの出した音だろう。

 

「ど、退いてくださ~~~~~~~い!!」

 

どうやら何か操作を誤り、制御不能に陥ったらしい。彼女はそのまま落下し……

 

「………え?うわぁぁぁぁぁ!?」

 

……1人反応が遅れた一夏の近くに墜落した。舞い上がる砂煙。

 

「や…山田先生……またですか……」

 

竹内が呟くようにツッコむ。ちなみに彼はシャルルを連れて退避させるので手一杯で一夏を助けるには至らなかったようだ。

 

「ゆ、ユート?『また』って?」

 

シャルルが竹内のツッコミに疑問を呈する。

 

「あぁ、シャルルくんは初めてだったね…山田先生は腕は間違いなく良いはずなのに、たま~にこうした失敗をしちゃう時があるんだ」

 

「ふ~ん…」

 

竹内がシャルルに説明をしている最中、砂煙がようやく晴れてきた。煙の晴れたそこには、落下してきたはずの真耶に何故か覆い被さるように一夏が倒れていた。しかもこれまた何故か、彼の右の手は真耶のふくよかな胸に置かれていた。

 

「あ、あの……織斑くん……?」

 

「………え?あっ……!?」

 

顔を赤く染めた真耶に呼び掛けられ、一夏は目を開けた。そこでようやく己が置かれた状況について理解した。

 

「その……困ります………仮にも教師と生徒ですし……その、こんなこと………あ、でもこのままいけば……織斑先生が義理のお姉さんに………それはそれで魅力的な………///」

 

真耶は真耶で何やらとんでもない妄想世界に出発してしまったようだ。一夏は慌てて彼女の上から退き、大慌てで距離をとった。しかし、騒ぎはこれで終わってはくれなかった。

 

――ガキィン!

 

また何かの金属音。一夏が恐る恐るその音がした方を向くと……

 

「ひっ!?」

 

小さく悲鳴をあげた。そこには怒りに顔を歪めた鈴音の姿があった。その手には連結した双天牙月がしっかりと握られている。

 

「いぃぃぃぃちぃぃぃぃかぁぁぁぁ!!」

 

彼女は一切の容赦なく手に持ったそれを一夏目掛けて投げ飛ばした。一夏はなんとかその場から逃れようとするも、鈴音が投げた青竜刀はどんどん迫ってくる。

 

――ドゥン! ドゥン!

 

突然銃声が響き、直後双天牙月が地面に刺さった。2発の銃弾が双天牙月を弾き、一夏への直撃を妨げてくれたのだ。ではその立役者は一体誰なのか……?

 

「……織斑くん、ケガはありませんか?」

 

それは何と真耶だった。彼女はいつの間にか妄想世界から帰還し、回転しながら飛ぶ双天牙月を見事に狙い撃った。しかし一夏を気遣うその表情はいつもの優しい副担任のものだ。

 

「は、はい……ありがとうございます……」

 

一夏は目の前の光景を信じられなかった。否、一夏だけでなく、普段のドジっ娘真耶を知っていた生徒たちも今の状況を飲み込めずにいた。

 

「山田先生は元代表候補生だ。このくらいの射撃など造作もない」

 

千冬の解説に驚く者が多数。

 

「昔のことですよ、それに結局は候補生止まりでしたし……///」

 

それに対し真耶は赤くなって謙遜する。

 

「……では始めるぞ、小娘ども」

 

茫然としていたセシリアと鈴音に千冬が模擬戦闘を始めようとする。

 

「え、でも2対1で……?」

 

「さすがにそれは……」

 

2人で1人を相手にするのは気が引けるのか、セシリアと鈴音は遠慮がちに言う。

 

「心配には及ばん、今のお前たちならこのハンデがあってもすぐに負ける」

 

そんな2人に千冬がそう言った。その言葉は2人の神経を逆撫でし、セシリアと鈴音はムッとした。今にも牙を向きそうな雰囲気だ。

 

「悔しかったら結果で示してみろ、始めるぞ………」

 

千冬がそう言うと、3人は臨戦態勢に入った。千冬は右の手を高く掲げ……

 

「では…………始め!」

 

素早く振り下ろし、模擬戦の開始を宣言した。舞い上がる3機のIS。鈴音とセシリアが真耶に仕掛け、真耶はそれを軽々と凌いでいく。

 

「デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」

 

「あ、はい。山田先生が使っているISは、デュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』、第2世代開発最後期の機体ですが、そのスペックは、初期第3世代にも劣らない物です。現在配備されている量産ISの中では、最後発でありながら、世界第3位のシェアを持ち、装備によって、格闘、射撃、防御といった、全タイプに切り替えが可能です」

 

千冬の急な指名にも難なく答えるシャルルに、竹内はかなり感心していた。シャルルはなおも解説を続けようとしたが千冬が「そのへんでいい」と止めた。

 

ちょうどその時、模擬戦の決着がついたのか、セシリアと鈴音が墜落させられた。

 

「……うぅ、私としたことが……」

 

「アンタねぇ、何を面白いように回避先読まれてるのよ!」

 

「なっ!?それを言うなら鈴さんこそ、無駄にバカスカ撃つからいけないのですわ!」

 

見苦しくも言い争いを始める2人。もっとも、コンビネーションが全くなってなかったのだ。互いに思うことだらけであろう。それは真耶が着地した後も続いた。

 

――バシッバシッ!

 

「そのくらいにしとけ、馬鹿共」

 

見かねた千冬が例によって出席簿で2人を叩くことにより、ようやく言い争いが止まった。千冬は今度は生徒全員の方を向き、

 

「これで諸君にも、教員の実力が理解できたことだろう。以後、敬意を持って接するように」

 

と告げた。

 

―――――――――

 

時は少しだけ進み、グループに別れてのIS実習。専用機を持つ者がグループのリーダーとなり、他の生徒の指導に当たる。汐風を持つ竹内もリーダーとしてぎこちないながらも、まだISに不慣れな女子生徒に指導する。

 

「そう、その調子………よし、ここでストップ!しゃがんでから交代しよう」

 

一夏のいるグループで、コックピットが高い位置で固定されてしまうという事象が起こってしまったことから、竹内のグループでは「しゃがんでからの交代」を徹底化、「次の人の事を考えて」をモットーにしていた。

 

また、一夏が箒をコックピットまでお姫様抱っこで運んだとあらば……

 

「竹内くん、私たちもアレをお願いしたいんだけど……」

 

当然竹内のグループでもそれをねだる女子生徒がいたが……

 

「えーっと………それは構わないけど、全員やるとなると相当時間が掛かって多分休み時間に差し掛かっちゃうと思うけど……」

 

と、やんわり断った。頼んできた女子生徒は残念そうだったが、ただでさえ着替えで休み時間を削られるというのにこれ以上減らされては敵わないとしぶしぶと諦めたようだ。

 

やがて、自分のグループの実習が一段落つき、竹内はふと全体を見渡してみた。どのグループも順調に実習してるように見える………たったひとつのグループを除いて。他のグループは活発にISに乗って実際に機体を動かしてみたりしているが、そのグループは訓練機の打鉄の周りをウロウロしたりオロオロしているだけで、中には涙目になってしまっている生徒もいる。何故こんなことになっているのか?それはこのグループのリーダーがあのラウラ・ボーデヴィッヒだからだ。今朝の一件で、1組の生徒は彼女を警戒・恐怖する者も居り、その事が2組の生徒にも伝わり、どう接していいかわからなくなってしまっている。それに対しラウラはラウラで腕を組んで目を閉じ、またも「自分には関係ない」という様子で完全に無視を決め込んでいる。

 

「あのー……ボーデヴィッヒさん……?」

 

竹内がラウラに声をかけた。しかし彼もまた他のクラスメートと同様にラウラを警戒する1人であり、呼び掛けたその声はかなり及び腰なものとなっていた。

 

「……ふん、貴様か……何の用だ」

 

ラウラは竹内を鋭く睨み付けた。

 

「うっ……その……授業はちゃんと受けないとダメだと思うんですが……グループのみんなも困ってるみたいだし」

 

怯みながらも竹内はラウラに忠告する。

 

「……貴様に指図される(いわ)れはない。第一なぜ私がコイツ等の面倒を見なければならない?……そんなにコイツ等のことが気にかかるなら貴様が面倒を見ればいい、私もこんな面倒事は御免だ……」

 

それだけ言い残してラウラはどこかへ去ってしまった。残ったのは、元々彼が見ていたグループの女子生徒数名と、ラウラが見るはずだったグループの女子生徒数名。竹内の忠告は結局、自分の状況をさらに悪くするだけだった。普通のグループの倍の人数の実習を見なければならなくなり、竹内が大分困っていたところ……

 

「あら、どうしたんですか竹内くん?」

 

実習の様子を見て回っていた真耶が通りかかった。竹内は真耶に事の経緯を話した。

 

「そうでしたか……わかりました!先生もお手伝いします!」

 

それは竹内にとってこれ以上ないくらい心強いものだった。真耶の提案により竹内の負担は軽減され、ラウラのグループのメンバーも無事に実習を受けることができたのであった。




実戦授業後の昼休み、一夏の提案でみんなで屋上で昼食をとることに。おかずの交換会が行われることになったが………。また、IS特訓中の一夏に、ラウラ・ボーデヴィッヒが襲撃。果たして………

to be continued...

どうも、春は地味に嫌いな剣とサターンホワイトです。……………花粉症なのはもとより、花粉の時期を過ぎれば結構な割合で風邪を引くのよ……そりゃ季節に悪意はないって、村田の彩華(さいか)ねーさんも言ってたけどさ……。

さて、まずは転校生の自己紹介。ラウラのビンタ時に竹内が割って入るシナリオもありましたが座席の位置の問題により没に……

続きまして、野次馬からの逃走中。竹内が使った「みんな聞いて!」からの「何でもない」、ガンパレプレイヤーなら知ってて当然とも言える常套テクニック!これが書きたかったネタの1つでした。うんうん、満足満足。ちなみにこれを竹内くんに仕込んだのは平さんと石山田さんだったりする。(という設定)

続きまして、ドジッ娘真耶こと山田先生の墜落事故。これも竹内が真耶を助けようとする、というシナリオがありましたがISなしで助けられるとは思えず、さらにISを使って助けようものならば「前回のクラス対抗戦のあとに『勝手にISを使うな』と言われたのにまだ懲りてなかったか」となってしまうと思ったのでこちらも没に……

しかし、またもや何か無理矢理纏めたって感じだな……まぁいいか。

何かツッコミたい事があれば是非感想欄へ。

ではまた今度……

………サブタイあれでよかったのかなぁ……

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