インフィニット・オーケストラ   作:剣とサターンホワイト

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前回のあらすじ

4人目の男子生徒として転入してきたシャルル・デュノアが、本当は女子だったことが判明。そこから彼女の身に何があったのかを聞き、急遽対策会議が行われる。途中で一夏と竹内が仲違いをするも、何とか分裂することもなく、最終的には竹内の意見でデュノア社長と直接話をする方針に決まった。そこまで持っていくための準備の話もまとまったところで、突然ノックの音が転がり込んできた。

今回の話はここから始まる………


2-6:気まずい雰囲気 からの………?

コンッ、コンッ

 

「竹内くん、晩ごはん食べに行こうよ!デュノアくんも一緒にどう?」

 

1030室にノックの音が転がり込む。続けて竹内を呼ぶ声。1年1組のクラスメートで、竹内の元ルームメートだった谷本癒子の声だ。

 

「あ、はーい!ちょっと待ってて!」

 

とっさに竹内はそう答えたが、かなり慌てている。

 

「ど、どうしましょう………」

 

竹内の焦りが一夏にも感染し、この2人はもうまともな判断ができなくなっていた。

 

「はいはい2人とも落ち着いて……とにかく、今の女の子な格好のデュノアさんを人前にさらすわけにはいかない。そこで……デュノアさん、布団に入って病気のふり、織斑くんは近くで看病してるふり。その準備が出来たら竹内くんはドアを開けて応対して、最初だけ応対してくれれば後は僕が何とかするから」

 

岩崎の指揮の下、3人は所定の位置についた。準備が整い岩崎が竹内に目で合図を送ると、竹内は扉を開いた。

 

「や、やぁ谷本さん。あはははは………」

 

「?」

 

この時、癒子は竹内の様子がおかしいと思ったが、今は気のせいだと思うことにした。

 

「ね、早く行こうよ!……で、デュノアくんは?」

 

「あ、はい…シャルルくんはその……」

 

「やあやあ、せっかく誘いに来てくれたところ申し訳ないけど、デュノアくんは急に体調を崩してしまったんだ。きっと知らず知らずのうちに疲れが溜まっていたんだろうね」

 

「……ゴホッゴホッ」

 

「あー大丈夫かシャルル……」

 

岩崎が横から割り込み、シャルルが体調不良ゆえに一緒に行くことができない旨を伝えた。その流れに乗ってシャルルが咳き込み、一夏がその心配をする様子を見せる。が、読者の皆さんもご存知の通りこれは演技である。

 

「そうなの?それは残念……お大事にねデュノアくん」

 

「うん……ありがとう……ゴホッゴホッ……」

 

「それでも今は大分楽にはなったみたいだけどね……まぁそんなわけでご覧の通りデュノアくんのことは残念ながら諦めた方がいい。でもその代わり……と言っちゃなんだけど竹内くんは行くことはできるし、織斑くんを連れていけばいいんじゃない?」

 

「えっ、でも……」

 

「その代わり、僕がここに残って彼を看てる。病人を1人にしておくわけにはいかないからね」

 

「……俺は別に誘われてないんだけどなぁ」

 

「あぁその事なら平気、後で織斑くんも誘おうと思ってたから!」

 

と、そんなわけで竹内と一夏は癒子と共に食堂へ夕食を食べに行くこととなった。

 

「あぁそうそう行く前に1つ頼みが…後で僕とデュノアくんの分のご飯、持ってきてくれるかい?」

 

「あ、はい」

 

「わかりました」

 

「それじゃあデュノアくん、それからえーと……」

 

「岩崎仲俊だ、うんうん、よろしくたのむよ」

 

「こちらこそよろしくね、谷本癒子よ。……じゃあデュノアくん、岩崎くん、この2人借りていくわね~!」

 

「うんうん、行ってらっしゃい。僕らのご飯よろしくね」

 

「は~い!」

 

そうして癒子は一夏と竹内を連れて行った。岩崎はそれを見届けた後、部屋に戻り……

 

「……うんうん、もう起きても大丈夫だよ」

 

布団に潜っていたシャルルにそう囁いた。するとシャルルも体を起こし、布団から出てきてため息をついた。

 

お互いしばらく黙っていたが……

 

「その……ありがとう、いろいろと……ボクなんかのために……」

 

シャルルがお礼を言った。

 

「いやいや、礼は不要さ。僕ァいつもみんなの世話になってるからね、当然のことをしたまでさ。だから礼なら竹内くんや織斑くんに言ってあげなよ。彼らの方が君を守ろうと頭抱えてたからねぇ。僕なんて、彼らの意見に多少口出ししただけさ。実際、僕が口を挟んだせいで危うく2人が仲違いを起こすところだったしね……」

 

それに対して岩崎は少々申し訳なさそうに言った。

 

「……ところで、異性の振りをするのは大変だったんじゃないのかい?」

 

少しの間を置き、岩崎がこんなことを切り出した。

 

「うん……すごく大変だった。それを誰にも話せず、相談できなかったのがまた辛くて……」

 

シャルルは正直な己の気持ちを答えた。彼女自身不思議に思うくらい、その顔に涙は全くなかった。

 

「そうか…………実はね………僕も少し前にワケ有って、女の子の振りをしなければならないときがあったんだ」

 

「えぇっ!?」

 

岩崎の突然のカミングアウトにシャルルは大きな声で驚いてしまった。トシの体格なら確かにやや背の高い女性くらいで何とかなるかもしれないがその声はごまかせないんじゃないのか?否、むしろそういう経験があったからこそ自分の変装を見抜けたのか?

 

その事が気になって、シャルルは恐る恐る尋ねた。

 

「バ……バレなかったの……?」

 

「うんうん、結論から言えばバレはしなかったね。幸運?なことに、僕の場合は特定の人の前でだけ女の子の振りをすればよかったし、女装もする必要はなかったから、恐らくは君よりは楽だったね………けど、やっぱりいい気はしなかったね……ただの冗談のつもりだったのに、まさか真に受けるなんて……」

 

「……って、トシはなんで女の子の振りをすることになったの?」

 

岩崎はシャルルの質問に答えると共に当時を思い出してか、苦笑いを浮かべている。そんな岩崎にシャルルはなぜそんなことになったのかを遠慮がちに尋ねた。すると…

 

「そうだね、それも話しちゃおうか」

 

岩崎は事の経緯を話した。ここで内容も記したいところだが少々ややこしい話ゆえ、涙を飲んで割愛とさせていただく。(※後書き参照)

 

長い話を終えた岩崎は、自分の湯呑みに新しくお茶をいれた。シャルルにも「飲むかい?」と尋ね、肯定の返事が来ると彼女の湯呑みにもお茶を注いだ。

 

その後、岩崎とシャルルは色々なことを話した。互いのクラスや身辺で起こったことや今後のこと、そして今ここにはいない一夏や竹内のこと。取り分けシャルルは竹内のことについて岩崎に多くのことを尋ねてきた。

 

話し込んで30分後、竹内と一夏が岩崎とシャルルの分の夕食を持って1030室に戻ってきた。

 

「た、ただいま戻りました……」

 

「………………」

 

「おかえり………って、どうしたんだい2人とも?そんな顔して」

 

ところが夕食を食べて戻ってきたと言うのに2人の顔からは疲れがにじみ出ていた。

 

「それが……食堂入ると箒と鈴のヤツが俺の顔を見るなりケンカをおっ始めて……」

 

「それで僕たちもどんどん巻き込まれて……ところでケンカの原因って何だったっけ?」

 

「さぁ……?あいつらに聞いてみても教えてくれなかったし……」

 

……この2人の解釈と実際の様子には少々乖離があるため、ここは天の声が説明しよう。

 

――――回想開始――――

 

まず一夏と竹内が谷本癒子その他女子生徒と食堂に入ると、すでに箒と鈴音が夕食を摂っていた……()()()()()()()。ところが一夏が入ってくるのを見るや否や、己の近くの席に連れていこうと双方が一夏の腕を取り、大岡裁きの子争い状態。だが今回はそこで終わらなかった。

 

「篠ノ之さんたちだけいつもズルい!たまには私たちにも譲ってよ!」

 

癒子はじめ、1組の生徒の大半がこの争いに乱入。だが……

 

「うるさい!お前たちには竹内がいるだろ!それで我慢しろ!」

 

「あんたたちには優斗がいるんだから、それで十分でしょ!?」

 

ライバルとは時に思わぬコンビネーションを産むものである。共通の敵が現れたときなどが良い例で、まさに今がその時である。彼女らは竹内をエサにして自分たちの争いに決着をつけようとした。

 

「織斑くんと先に一緒にいたのは私たちでしょ?それをいつもそうやって横取りしようなんてひどいんじゃないの!?」

 

女子生徒たちも日頃いつも一夏をとられてる鬱憤でもあるのか、1歩も引き下がらない。そこからは大半の女子生徒たちも巻き込んで不毛な言い争いが続いた。一夏の子争い状態も相変わらず継続中で、彼は「あー」も「うー」も言えない状況である。

 

一方、オマケ扱いされた竹内と、言い争いに参戦しなかった少数の女子生徒たちは……

 

「……あれ、止めた方がいいよね?」

 

「そうよ、他の人の迷惑だし」

 

「織斑くんも腕辛そうだし……けどあの騒ぎを僕らで止められるかな…?」

 

不安を抱えつつも何とか騒ぎを静めようと仲裁に当たった。だが一般女子と温厚な竹内の力ではヒートアップした女の争いを止めることができず、結局彼らも騒ぎの渦に巻き込まれていき、通りすがりのラウラ・ボーデヴィッヒに遠目から「……くだらん、バカ共が……」と鼻で笑われる始末。

 

最終的には………

 

「……お前たち、まだそんなに元気が余っているのか……」

 

この学園の法律を取り締まる(………と噂される)織斑千冬が現れ、その圧倒的オーラでこの場を収めることとなった。

 

「今度このような騒ぎを起こしたらその時は……わかっているな……?」

 

『………』コクッ

 

最後の一言には言葉では表せないくらいの重みや凄み、その他諸々があり、この場にいた全員の背中に冷や汗を流させるのには十分すぎるほどだった。

 

結局千冬の裁定の下、箒と鈴音は元の席に戻され、一夏と竹内はその2人のどちらからも遠い席に、残りの女子生徒たちは一夏たちとも箒や鈴音からも関係のない席に座ることを指示され、当然全員それに抗うこともできず、雰囲気の悪い中の食事となってしまった。

 

その後、竹内と一夏は岩崎とシャルルの分の夕食をもらいにもう一度カウンターへ行き、

 

「先程は騒いでしまってすみませんでした……」

 

と調理師の人たちに謝った。調理師の人たちは「若い証拠だ」と笑って許してくれたが、同時に「ホコリが舞って料理に入ってしまっても困るから次からは気を付けるように」と注意もした。

 

やがて盛り付けられた皿が次々と運ばれ、すべての料理が揃うと、2人は料理の乗ったトレーを食堂を後にした。

 

――――回想終了――――

 

といった次第である。もっとも……

 

「(そういうことだろうなぁ……)」

 

やはりと言うべきか、岩崎にはすでにお見通しだったそうな。

 

「まぁ何があったかはさておき、僕もデュノアさんもお腹ペコペコだよ。早くそのご飯ちょうだい」

 

……と言うことで、一夏の持ってきた料理を岩崎が受け取り、竹内の持ってきた料理はシャルルがいつも使っている机の上に置かれた。

 

ところが……

 

「うんうん、ありがとう織斑くん。さ、僕は今日のところは帰るとするよ」

 

「えっ?ここで食っていかないんですか?」

 

岩崎は突然帰ると言い出した。その事に驚きを見せたのはなぜか一夏だった。

 

「ちょっと1人で考えたいことがあるんだ。ところで、織斑くんも早いところ帰った方がいいんじゃないのかい?」

 

「え、何でまた……」

 

岩崎は帰る理由を話したあと、今度は一夏にも部屋に帰るように促した。一夏はこれにも疑問を呈した。

 

「仮にもシャルルくんは体調不良って事になっているんだ。あんまり遅くまで長居し過ぎると嘘と見破られる可能性も出てくる。もし見破られたとなってくると、作戦どころじゃなくなってしまうからね」

 

「うっ……確かにそれはまずい……わかりました。じゃあ優斗、シャルル、そういうことだから俺も帰るわ。おやすみ」

 

自分の行動のせいで作戦がおじゃんになってはどうしようもない。そう考えた一夏は岩崎に言われた通り、この日は自分の部屋に帰ることにした。

 

「はぁ……おやすみ」

 

「おやすみ、一夏」

 

竹内とシャルルに見送られ、一夏は一足先に1030室を後にした。

 

「んじゃ、僕も行くよ。2人とも、これからはくれぐれも変なことをして、デュノアさんの正体がバレるような事はしないでくれよ。織斑くんにも言ったけど、作戦どころじゃなくなっちゃうからね。それじゃ、おやすみ」

 

岩崎も自分の夕食を持って出ていった。残ったシャルルと竹内は……

 

「…………」

 

「…………」

 

いざ2人きりになると妙な緊張からか、どちらも口を閉ざしたまんまである。が、しばらくすると……

 

クゥゥゥ……

 

「あ…///」

 

シャルルのお腹が鳴った。

 

「……まずはご飯を食べようか……お腹空いてるでしょ?」

 

「……うん……///」

 

竹内に促されて、シャルルは料理が置かれてる机に向かった。

 

「………!」

 

だが料理を見た瞬間彼女の顔がひきつった。竹内が持ってきたのは焼き魚定食。まだ箸に慣れてないシャルルにとっては非常に厳しい食事になってしまった。それでもシャルルは何とか食べようとするも、割り箸を割る手も、その後の箸を持つ手もプルプル震えてどうにも覚束ない。

 

「あ…もしかして、お箸苦手だった……?」

 

「うん……練習は一応してるんだけど………」

 

何度も何度も箸でつまんでは落とすを繰り返してしまっているシャルルを見て、竹内は申し訳なくなった。

 

「ゴメン、スプーンやフォークを貰ってくるよ」

 

彼は表面上穏やかに見えたが、内心では自分の配慮不足を責めていた。その申し訳なさからフォークなどを取りに行こうとしたが、

 

「え?いいよそんな、そこまでしなくても…」

 

シャルルがそれを遠慮するように止めた。

 

だがこのままではせっかくの料理が冷めてしまうくらい時間がかかりそうなことは2人も薄々気付いてた。かと言って、竹内が大急ぎでスプーン・フォークを持って来るにしても、その間シャルルはお預け状態となり、戻ってくる頃には結局料理が冷めてしまうことには変わりなかった。どうしようかと2人して頭を悩ませていたその時、シャルルが名案を思い付いた。

 

「じゃあさ、ユートが食べさせてよ」

 

「……はいぃっ!?」

 

その案とは、竹内がシャルルの手となって食べ物を口へ運んで食べさせると言う小っ恥ずかしいものだったため、竹内は思わず声をあげて驚いた。

 

「ほら、それならユートがもう一度食堂へ行かなくて住むし、ボクもご飯が温かいうちに食べれる!……ちょっと恥ずかしいけどね……///

 

「………えっと念のため聞くけど、僕に拒否権は………」

 

「ないよ!だってあの時のお詫びとしてやってもらうんだもーん!」

 

「………わかったよ、確かにあの時のお詫びはまだしてなかったからね………」

 

「あの時」とは、竹内がシャルルを抱き抱えたときのことである。シャルルはその時、「お詫びなんていい」と断ったのだがそれでは竹内がどうしても首を縦に振らなかったので、この件は保留となっていたのだ。(2-2話参照)

 

そういうことなら従わざるを得ない。竹内はシャルルから箸を受け取った。

 

「それでまず何が食べたい?」

 

「じゃあね、最初はご飯がいいなぁ」

 

「ご飯だね、んじゃ……あ、あーん……」

 

「あーん……」パクッ

 

ハッキリ言って竹内は恥ずかしくて恥ずかしくて堪らなかった。そこから来る緊張からか、手が震えていつものように安定して箸を扱うことができない。それでもシャルルとは違ってつまんだ物を落とさずいられるのは、長年箸を扱ってきた経験が生きているのだろう。

 

「……おいしい」

 

「そ、それはよかった……つ、次は何がいい?」

 

「うーんと次は……」

 

シャルルは次に食べるものを選んで、竹内が自分の口に運んでくるのを待った。竹内はその時の彼女の顔が、今まで見てきた中で一番楽しそうだという印象を受けた。

 

こうして、シャルルはやっとこの日の夕食にありつくことができたのであった。また竹内はこの後、シャルルの箸修行にも協力をすることとなる。




to be continued...
(今回も前の予告分が終わっていないので次回予告はなし)

う~む、どうも無理矢理感が否めない。まぁいいか(←コラ

次回でやっと予告分を終わらせられるかと思います。これも早めに上げられるかも知れません。ではまた

追記:って、本編中に(※あとがき参照)って書いたのに注が何もないじゃないか!

申し訳ありません!ってなわけで……

※ぶっちゃけて言えば、吉田遥のキャライベントの岩崎関連イベントである。しかしいくらなんでもあれを女と信じるのはさすがに無理がありすぎる気がすると思っているのは私だけではない………はず
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