学園の守護者   作:新稲結城

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第十七話 突破

織斑一夏襲撃事件発生同時刻

 

「織斑が襲われただと!」

 

午前の職務を終えて漆原首相が首相官邸に戻ると電話口で国防大臣から連絡が入る。

 

「織斑くんは大丈夫なのか!」

 

《はい、護送部隊からは無事であると。学園警備隊が救助の部隊を送りました。》

 

「...五十嵐くんは救助には行かせてないよね?」

 

国防大臣は電話の向こうで慌てて部下に問いかける声が聞こえる。

 

《いえ...こちらでは...》

 

「国防大臣?」

 

突然電話が切れて電子音が聞こえると執務室のドアがいきなり開かれる。

 

「入室を許可していぞ!」

 

漆原首相はドアに向けて怒鳴るとそこのは拳銃をこちらに構えた警護官が入る。

 

「漆原さん、あなたには首相を降りてもらいます。」

 

「官房長官?...」

 

警護官と共に執務室に入ったのは信頼をしていた議員の中でも信頼していた一人であった。

 

「これは...どういう?」

 

「我々は日本の国益のために蜂起しました。」

 

 

織斑一夏襲撃事件発生から三時間

 

担架に乗せられ地面に置かれた織斑一夏は目を開けると灰色の天井が見え、周りを見渡すと軍用車が周りを囲み周囲に武装した兵士が立っていた。

隣には同じように担架に乗せられた迷彩服姿の兵士が血を流し、呻き痛みに悶え苦しんでいた。

 

「気分はどうだ、水を飲むか?」

 

一人の兵士が水筒を差し出しながらヘルメットを外しながら屈み込む。

顔を見て自分とさほど年が変わらない少年であると分かり驚く。

 

「ありがとうございます。」

 

渡された水筒で水を飲み喉の渇きを癒す。

織斑は自分の記憶にある気絶するまでの記憶を思い出す。

 

「...俺は車でIS学園に行く途中で車が横転して...」

 

「そうだ、その間に俺達IS学園警備隊はお前を助ける為に六十名の兵士を投入して、多くが負傷し死んだ者もいる。」

 

五反田大尉は自分達が置かれている状況を護衛対象である彼に教える為に見渡しながら話をする。

だが護衛対象が言った言葉が親友が瀕死である大尉の心を刺激した。

 

「助けが来たならもう大丈夫か、もう少し寝るか。」

 

五反田は怒りが爆発し、襟元を両手で掴むと体を引張り上げ顔を近づけた。

 

「もう一回大きな声で言ってみろ、お気楽野郎!お前のようなお気楽野郎の為に何人死んだと思っていやがる糞餓鬼!」

 

そのまま隣に無理矢理体勢を変えさせると織斑の視線に一人の兵士が入る。

胸の辺りに白い包帯が幾度も巻かれ、左胸のあたりは血で真っ赤に染まっていた。

彼も襟元を引張る兵士と同じように顔を見る限り若かった。

 

「五十嵐はお前の為に今死に掛けているんだ!もし死んだら絶対にお前を許さん!こんな馬鹿の為に死んだと口が裂けても先に逝った者達には恥ずかしくて言えない!」

 

激しい口調で言い放つ五反田に織斑は自分の言った言葉に非がある事を認めた。

周囲の兵士が二人を離して、暴れる大尉を押さえ付ける。

 

「うるさいぞ大尉!」

 

向井少佐は五反田大尉に怒鳴ると高機動車改型に搭載されている無線機の受話器を取る。

通信の相手は警備総隊司令の小室准将である。

 

「司令、現在我々は湾岸道路学園ICを少し過ぎたあたりの立体駐車場です。」

 

《戦死者・負傷者は?》

 

「第一、第二警備隊を含め戦死者三十名負傷者は二十名です。満足な戦闘は行えません。」

 

《そうか、今から我々の置かれている状況を説明する。》

 

「はい。」

 

《我々学園警備隊は学園を人質に取り蜂起、クーデターを起こした。首相は職務を行えない状況のため首相代理の官房長官は関東圏に戒厳令を引き警察に織斑・五十嵐並びに国防軍首脳部と俺達は国家反逆罪で逮捕だそうだ...ふざけるのも程々にして欲しいくらいだ。》

 

「司令は今どこにおられますか?」

 

《駐屯地を放棄して学園のある“学び舎の丘”に防衛線を引いて立て篭もっている。》

 

警備隊の任務は対人間における戦闘を主眼として、警察と同じような暴徒鎮圧用の装備も含めた軽装備の部隊であるが故に橋を封鎖してる装甲車を吹き飛ばすような兵器は残念ながらない。

もしも戦車でも現われた際には近くの駐屯地や空軍基地から戦車や戦闘機の支援が来るが、国防軍がクーデターを起こしたと言う濡れ衣がある限り、官房長官は動かさないだろう。

 

「とにかく我々は我々で突破方法を考えます。そちらは学園防衛をお願いします。」

 

《君に言われなくても、それが私や私たちの任務だ。通信終わり。》

 

通信が切られるとそばにいる通信兵を呼ぶ。

 

「墜落機救出に向かった車輌から連絡は?」

 

「呼びかけていますが一時間以上通信が途絶えたままです。」

 

四両の車輌は救出に向かって以来通信は途絶え、帰ってこない。

そして負傷者の中でも特に重症負った五十嵐大尉の容態はなんとか保っているが衛生兵によればこれ以上待てないらしい。

救出に向かった車輌は全滅と考え行動することにする。

 

「隊長、海上警備隊の艦艇で移送することは出来ないのですか?」

 

一人の分隊長が提案する。

 

「残念ながら海上警備隊の艦艇は制圧されたらしい。」

 

飛行隊は二機のブラックホークが落とされ残るのは二機はあるが地対空誘導弾の攻撃には晒せない。

海上警備隊の艦艇は先程も言ったように警察により占拠された。

あとは陸路のみしかないが高機動車改型の馬力では特型警備車を押し退けて突破することは不可能。

バリケードを制圧しようとも多くの負傷者を抱える我が部隊にはさらなる戦闘は荷が重過ぎる。

近くの駐屯地や軍病院は手際よく包囲されるか制圧されているらしい。

ここにいる負傷者を一刻も早く治療を受けさせるにはバリケードを突破して部隊に戻るしかない。

 

「バリケードをどうするか...」

 

手に持つ双眼鏡を覗き込むと橋には入口と中間に二重のバリケードが敷かれ万が一入口のバリケードを突破しても中程にあるバリケードで阻止出来るようにされている。

それにIS学園警備の管轄を巡って国防省と警察庁双方の威信に掛けた対立の結果国防軍と警察双方の警備隊が置かれ、残念ながら人員は向こうの方が多く装備は同等。

橋の奪還を目指して強襲隊が襲撃したが多勢に無勢で追い返されたらしい。

 

「お!」

 

双眼鏡で周囲を見渡すと向井隊長は何かを見ると作戦を思いつき、口角を上げた。

 

「五反田大尉!工兵を呼んで一緒に来い!」

 

「了解!」

 

程無くして工兵と共に五反田大尉は隊長の前に集まった。

 

「大尉、私はお前に暴れた罰を科さなければならない。それでだ・・・」

 

 

織斑一夏襲撃事件発生から三時間三十分

 

「これなら誰も通す事は出来ないわ。徴用兵の成り上がりめ、苦しんで死ねばいい。」

 

“第二学園連絡橋”の中程に設置されたバリケードで陣頭指揮にあたる女性警察官は目の前のバリケードを見て自信を持って言った。

重量のある特型警備車を押し退けるほどの力のある頑丈な車輌を国防軍IS学園の警備隊が持っているはずはない。

そして仲間である女性真理教の洗脳された男性信者や移民政策で雪崩れ込んできた外国人から掻き集めた傭兵共の集団に包囲された中で生き残れるわけがない。

それに徴用兵のIS乗りが撃たれたとの報告を聞き、女性警察官は上機嫌であった。

 

「隊長!バリケードが!」

 

一人の隊員が前を指差して叫ぶと車が衝突したような衝突音が前から聞こえた。

 

「何事!」

 

飛び出す千葉方面に設置したバリケードの特型警備車が衝撃で押し退けられ一台が乗員ごと海に飛び込んだ。

そこに現われたのは運転席を鉄板で覆った巨大なトレーラーが猛スピードでこちらに突っ込んでくる。

 

「撃ちまくれ!」

 

機動隊員達は運転席に向けて八九式小銃やMP5短機関銃を構え銃撃する。

女性警察官も自らの拳銃を引き抜いて撃ちまくるが銃弾は鉄板で弾かれる。

 

「ふざけんじゃねえ少佐!絶対後で殴ってやる!」

 

トレーラーの運転席では五反田大尉が鉄板の隙間から外を見ながら運転する。

銃弾を鉄板が弾く音が幾度も運転席に響き、耳が痛くなるが親友の為にアクセルを踏み込み一車線をふさぐ一台の特型警備車に進路を向ける。

隊長は近くの工場に止めたあったトレーラーを見つけ、工兵に工場で見つけた鉄板で運転席を強化させてバリケードに突っ込ませて進路を切り開く荒唐無稽な作戦だった。

 

「退避~!」

 

一人の機動隊員が逃げると同時に巨大トレーラーの恐怖に負けてバリケードから次々と隊員が離れて逃げる。

 

「貴様ら離れるな!逃亡者は銃殺するぞ!」

 

女性警察官がそう叫んでいると目の前に巨大トレーラーが迫っていた。

次の瞬間女性警察官は特型警備車と巨大トレーラに挟まれて圧死され、先のバリケードと同じように吹き飛ばされて海に落ちた。

 

「よし!そのまま突っ込め!」

 

トレーラーに続いて高機動車改型の車列が次々とバリケードに開いた穴を通って学園島に入る。

市街地を抜けるとすぐに“学び舎の丘”に通じる坂を上り、向井少佐の乗る車輌は学園正門前に停車した。

 

「よく突破した、隊長!すぐに二人を!」

 

小室司令と共にIS学園医療班の医者と看護師がストレッチャーを運んでくる。

高機動車改型のトランクのドアを開けると担架に乗せた五十嵐の体をストレッチャーに移して学園内に運び込む。

 

「千冬姉...」

 

同じ高機動車改型から降りた織斑一夏は医者達と共に来たIS学園教諭である織斑千冬の姿を見つけた。

織斑先生は弟を一瞥すると表情を変えずに小室准将に感謝を述べた。

 

「小室司令、我が校の入学予定者の護衛をありがとうございます。」

 

「織斑さん、私達の任務は命を掛けてこの学園を守ることでですから当然の事です。こちらこそ私の部下、五十嵐裕也大尉の事をよろしくのお願いします。」

 

「はい、我が校の入学予定者です。責任を持って治療と教育を行います。」

 

織斑先生は振り返ると弟の傍に行く。

 

「行くぞ。」

 

すると小室准将は織斑先生を呼び止めた。

 

「織斑さん、感謝は五十嵐くんにしてあげて下さい。」

 

「はい。」

 

学園は島外から集まった警察部隊に包囲され、中央からの指示も無く孤立していた。

そして舞台はIS学園から首相官邸・国防省に移る。

 




第十七話です。

自分は小説を書いる中でいつも思うのは登場人物の感情表現をどのようにするかですね。
一人ひとりの喜怒哀楽をどのように表して言葉にしていくか、自分がいつも苦戦させられているところですね。
特に篠ノ之束に関しては不明すぎて一番の悩みどころですね。
ちなみに第十七話での織斑一夏の発言は危機感が無い、または一度危機が過ぎると忘れてしまうところを表したのですが・・・どうですかね?(銃撃されても翌日には忘れていつものような生活を送る男ですからねえ)

ではまた今度。
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