クラス代表決定戦の翌日。
夕食後の自由時間、五十嵐は一人第四アリーナ整備室で日本国防軍第三世代IS“紫電”の整備を行っていた。
本来なら寮から遠くにある整備室での整備は夕食前までにして自由時間を満喫するのが普通だが、国防軍の試作ISをあまり見られたくないのと日本代表候補生に妨害されるのを嫌い夕食後の自由時間に整備をしていた。
自由時間と言っても一ヶ月毎の報告書作成と銃の整備、運動ぐらいしかやることない五十嵐には問題は無かった。
五十嵐は整備マニュアルに従って十式55口径120mm狙撃銃の整備を行う。
長いクリーニングロッドを組み立て砲口から入れて砲身内に残った砲弾の発射火薬の燃えカスや発射薬が燃えてできた煤を拭き取る。
背後から気配を感じて、ホルスターから9mm拳銃を抜いて振り返る。
「きゃ!」
銃口を向けた先には眼鏡を掛け、髪を後ろで纏めた女子生徒が驚いて床に尻餅をついていた。
「お前は誰だ?」
「わ、私は二年の黛薫子!し、新聞部の副部長をしているの!」
女子生徒は銃を向けられて、焦った様子で喋る。
五十嵐は害は無い生徒だと思い、銃口を下げてホルスターに仕舞った。
「...私をあんな馬鹿な代表候補生と一緒にして欲しくないな...あと、これ名刺。」
「...それで何の用ですか?」
名刺を胸ポケットに仕舞うと、工具箱を置いた机に体を向けた。
黛は何時もの通りに戻ったのかボイスレコーダーを向けて、無邪気な子供の様な瞳を向けた。
その瞳を見たときあの“空爆”を思い出して、足元の危うくなるような不安が襲った。
「世界で初めて通常兵器でISを撃墜した新入生にインタビューしようと思って!」
五十嵐は顔を背けると帰るように促した。
「俺は日本国防海軍の軍人だ、話せるような事は何もない。それに俺と関わると面倒なことになる。」
そう言われた黛は五十嵐に見せるように電源を消してボイスレコーダーを仕舞う。
「じゃあオフレコということにしよう!」
「オフレコ?」
初めて聞いた言葉に驚きの表情を見せると黛はにっこりとした。
「君は案外いい表情するね。それでオフレコは私と君の間で話した内容を一切公開しないこと。この取材は私の単なる趣味だから公開することはしない。なんならボイスレコーダーや筆記用具を君に渡してもいいよ。」
「...いいです。機密に当たるものは一切喋りませんがそれでもいいですか?」
「それでいいよ、まずここでの学園生活はどう?」
「特に何もありません。ただ言えることは戦場よりマシとだけ。」
「少しは楽しんだほうがいいよ、君は織斑くんとは雰囲気が違うけど美形なんだからもったいないよ。みんながあの代表候補生達みたいじゃないから、政府の発表から代表候補生以外は君に興味を示しているよ。」
確かに政府が日韓戦争の情報を公表してから周りの雰囲気が変わった。
日本代表候補生が五十嵐の教科書を燃やそうとした際は他の生徒が阻止して教師に突き出し、特に海外組の生徒から食堂で一緒に食事を食べようと誘いが来た。
五十嵐としては日本代表候補生達の攻撃に巻き込むようなことになるのでやめて欲しいところであった。
「その必要はない。織斑の身辺警護とISの操縦技術を学ぶ任務を与えられた兵士ですから。」
「任務に忠実なんだね。」
「はい、我々徴用兵は祖国から戦い死ぬ名誉を与えられた。祖国からの期待を背くことはできない。」
彼の考えが自分達の考え方を比べ黛は違いを感じた。
「...じゃあ五十嵐くんはこれからの展望とかあるの?」
「展望...?」
五十嵐は答えに詰まり、困惑した顔で下を向いた。
「ほら!学園最強のIS乗りになるとか将来の目標だとか。」
黛は思いつかずに悩んでいると思い助け舟を出す。
「俺は...ただ国の為に戦い死ぬ。将来などありません。」
「そう...」
五十嵐の答えに黛は声を掛ける言葉を失った。
彼女は重い雰囲気になったのを吹き飛ばそうと話題を変えようとした。
「そうだ!今織斑くんのクラス代表就任パーティをしているけど行かない?」
「いいえ、俺には不釣合いな場所です。行っても代表候補生に殴られるだけならここで“紫電”の整備をしてます。」
「“紫電”って言うんだ、君のIS。試合では突然現われた新型機にみんな驚いていたよ!」
「そうですか。」
会話をしながら整備に戻り、クリーニングロッドを抜き出して短く分解する。
「砲身の清掃か~見た感じ君のISは長期戦を想定してエネルギーをあまり消費しない実弾兵器を多数搭載して様々な状況に対応、電子機器類や主武装である高威力の狙撃銃で他国の最新鋭機に対抗する感じかな?」
「そうです、よく分かりましたね。」
彼女は自慢げな顔をして五十嵐を見る。
「私は整備課の生徒だから装備を見るだけで機体がどのような戦闘を想定して戦うのか分かるもん。しかし見たところ君一人では大変そうだね。手伝ってあげようか?」
「大丈夫です、この機体は野外での整備が出来るように各装備は部品点数を少なくしたりして整備しやすく作られています。」
こう言うがすべての装備を分解清掃するのは一人では数時間も掛かることで、戦場で想定される運用方法も故障した部分のみを整備するのが限界としている。
「あ、時間だ!じゃあね、五十嵐くん!」
五十嵐はお辞儀して見送った。
黛は急いでるように見せるために小走りで整備室を出ると隠して作動させていたボイスレコーダーを外にいた人物に渡した。
「あなたが私にこうゆう手伝いをさせるのは意外だね、更識生徒会長。」
「ごめんね、薫子ちゃん。」
更識は手を合わせて謝るような仕草をする。
「いいよ、私も取材したかったから。しかし会長が彼に興味があるなんて...」
黛は何かを感じたのか怪しい笑みを浮かべる。
「もしかして会長は五十嵐くんを好きだったりして~」
彼女の思いがけない問いに少し驚きつつも微笑を浮かべながら否定する。
「ただの人間観察だよ、薫子ちゃん。」
「だよね~『生徒会長、五十嵐裕也に好意を寄せる!』だったら学園の話題になるのにな~」
「そうかもね、じゃあボイスレコーダーのデータをコピーしたら返すね。」
約束をすると二人は別れた。
更識生徒会長は五十嵐の精神状態を測る為に黛に取材させたのであり、彼女もまた任務に忠実な人間だった。
第二十七話目です。
やっぱり感情表現は難しい...
ではまた今度。