「織斑くんと五十嵐くん、おはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」
織斑と共に教室に入った五十嵐は挨拶を返しながら質問に答えた。
「中華人民共和国代表候補生、
「へえー、名前まで知っているんだ。」
当然の事ながら五十嵐には警備隊から連絡が入っていた。
彼は当然ながら普通の学校のことは知らず、小室准将が珍しい事だと言っていたことを思い出していた。
「鈴の事か!」
すると名前を聞いた織斑が驚きの表情を見せた。
「知っているのか?」
織斑の表情に何時の間にか近くにいた篠ノ之が問いかける。
「鈴は幼馴染で、親が中華料理屋をしていてよく食べに行っていたぞ。中学二年の頃に帰国してな。」
「幼馴染...?」
「くっ...なんでまた幼馴染が...」
幼馴染という単語を聞いて篠ノ之とオルコットは怪訝そうな声が聞こえる。
五十嵐は幼馴染というのは、彼女達が羨む何か重要な立場なのか詮索する。
「しかし、あいつが来たなら挨拶しないとな。」
「織斑一夏。」
織斑が立ち上がろうとすると、教室の入口から声が聞こえた。
「中国代表候補生、凰鈴音。今日は一組に宣戦布告に来たわ。」
そこに立つのは小柄な体でふたつの紐のように束ねた髪、ツインテールとよばれる髪型をした生徒が腕を組み、片膝を立ててドアにもたれていた。
敵の拠点に乗り込んでくる姿から肝の据わった操縦者なのだろうと五十嵐は思ったがそれは違った。
「鈴、何格好付けているんだ?すげえ似合わないぞ。」
「んなっ...!?なんてこと言うのよ、アンタは!」
先の気取った態度とは違い、声を荒げる姿が本来の姿だとわかった。
凰が大声で言い放つと五十嵐は彼女を指差した。
「...何よ!?」
「後方警戒不十分。」
慌てて振り返るとそこには鬼教官らしく恐ろしいオーラを放つ織斑千冬先生の姿があった。
「もうSHRの時間だ。教室に戻れ。」
あの気性の荒々しい生徒でも先生には逆らえず、脱兎の如く二組の教室へ戻って行った。
何時もの通りに過ごすと放課後はオルコットと共に織斑のIS操縦訓練に付き合う。
織斑は五十嵐の主張を納得せずにいたが、彼の実力と仲良くしたいという願望から問うことは無かった。
第三アリーナに行くと一機の機体が鎮座していた。
日本国の第二世代競技用IS『打鉄』、火力に難があるが初心者でも扱える操縦性の良さと高い継戦能力などから訓練機として採用されることが多い。
また日本国防軍でも改造型の第二.五世代軍用IS『烈風改』として運用している。
「あれは篠ノ之か。やっと訓練機の使用許可でも下りたのか。」
織斑とオルコットが驚いている中、五十嵐は胸のつかえが取れた感じがした。
今、織斑に足りないのはISにおける近接格闘訓練である。
篠ノ之が訓練に参加できることにより、織斑が近接格闘訓練が出来るのはよいことだった。
しかしなぜかオルコットの顔は悔しさを滲ませていた。
「では一夏、はじめようとしよう。刀を抜け。」
「おう。」
二人は刀を向け合い静かに戦が始まるのを待つ。
「では参る!」
篠ノ之の言葉で始まろうとした時、オルコットが乱入する。
「お待ちなさい!一夏さんのお相手をするのはこのわたくし、セシリア・オルコットでしてよ!?」
「ええい、邪魔な!ならば斬る!」
「訓練機ごときに後れを取るほど、優しくはなくってよ!」
なぜ二人が突然戦いを始めるのか五十嵐は理解に苦しんだ。
彼女達が戦わなくてはいけないほど譲れない何かがあるのだろうか。
「一夏!」
「なにを黙って見てますの!?」
すると双方から織斑に援護に入るように命じられるが、織斑は文句を言った。
「うえっ!?何を黙ってって...どちらかに味方をしたらお前ら怒るだろう?」
「当然だ!」
「当然ですわ!」
そしてなぜか織斑対篠ノ之・オルコットで戦いが始まる。
「裕也!助けてくれ!」
織斑は五十嵐に助けを求めたが、五十嵐は手を差し出さなかった。
「織斑、どんな状況であろうと諦めたら死ぬだけだ。とにかく戦い続けろ、その経験こそがお前を強くするだろう。」
そう言うと五十嵐は帰って行った。
疲労困憊で織斑は篠ノ之とピットに帰ってくるとスライドドアが開きスポーツドリンクとタオルを持った凰が現われた。
篠ノ之は自分を差し置いて織斑と凰が仲良くしているのに機嫌を悪くするとわざとらしく咳払いをする。
「一夏、私は先に帰る。シャワーの件だが、先に使っていいぞ。」
「おお、そりゃありがたい。」
「では、また後で。一夏。」
篠ノ之はわざと凰の前で同室であることを教えるとピットから出て行く。
「...一夏、今のどういうこと?」
上機嫌だった凰は篠ノ之の言葉を聞いて不機嫌になり、低い声で問い詰める。
「ああ、箒とは同じ部屋なんだ。警備上の問題から一緒になったんだ。」
「あの子と何で一緒なの!?」
突然の事に凰は取り乱し、必死に理由を聞いてくる。
「ああ、幼馴染で信頼が出来るし裕也が箒と戦って認めたからだったかな。」
織斑は前に同室になった時に五十嵐から理由を聞かされた時の事を思い出して言った。
「...で...認めさせれば、いいわけね。」
「?」
それを聞いた凰は俯いて小声で何を言っているのか聞こえず、織斑は耳を傾ける。
「幼馴染で五十嵐を倒せばいいってわけね!?」
「うおっ!?」
突然顔を上げたのに驚いて後ろに身を引く。
「わかったわ、あいつを倒せば...一夏!幼馴染は二人いること、覚えておきなさいよ!」
凰はそう言い放つとピットを急いで出て行った。
五十嵐は駐屯地に行き、クラス代表決定戦で消耗した分の弾薬を受け取って機体に装填する作業を終えると寮への帰路についていた。
夕映えが燃え立つような赤さを見せる中、五十嵐は受け取った弾薬が書かれた書類を見ながら歩いていた。
「ん?」
なにかとてつもない気配を感じ、後ろに振り返った。
「五十嵐!」
振り返ると転校生が助走をつけて飛び蹴りを食らわせようとした。
考えるよりも体が反応して避けると、五十嵐を飛び越して着地するとすぐさま飛び込んでくる。
「なんで避けるのよ!」
避けるのが普通だろうと突っ込みを入れるのが普通なのだろうか分からない。
五十嵐は凰の素早いジャブと蹴りのコンボを避ける。
襲ってくるという事は自分を敵視し、排除する目的がある。
それならば敵として五十嵐は見なし、制圧に移る。
「グフッ!」
五十嵐は避けつつ隙を見て顔面に重い正拳突きを食らわす。
小柄な彼女の体は宙を飛び、鼻血を噴出しながらレンガで敷き詰められた地面に叩きつけられた。
あまりの痛さに顔を手で覆い、転げまわる。
「なにしてんのよ!痛いじゃない!」
凰は鼻血をたらした顔で五十嵐に文句を言うと目の前には冷たく銀色に輝く銃口が見えた。
五十嵐は訓練通りに倒れた凰に9mm拳銃を向けて制圧する。
「地面に伏せろ!」
「な、なに言ってるの...」
彼女にとって織斑に絡む時と同じように接しただけであった。
だが五十嵐には冗談とは分からなかった。
「ただちょっかい出しただけじゃない...」
「早く地面に伏せろ!」
「はい...」
怒声に押されて凰はどうすることも出来ないと悟り、そのまま指示に従った。
その後凰は織斑先生の所に突き出され、恥ずかしい襲撃理由を言わされた挙句に説教を喰らった。
凰は冗談半分で五十嵐を襲う危険を学び、高い授業料を払わされた。
第二十八話目です。
「凰」という漢字は変換できないのでしょうか。
辞書で調べたら読みが「オウ」、「コウ」、「おおとり」と書かれていたがどれを試しても変換できない。
「おおとり」で変換しても出るのは「鳳」ですねえ...どうだすのだろうか?
いちいちコピー&貼り付けはめんどくさいなぁ...
ではまた今度。