「ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐。」
昼休み、五十嵐は中庭を歩くボーデヴィッヒを呼び止めた。
「なんだ、五十嵐大尉?」
「織斑一夏に対して敵対行動に出る理由と目的を教えていただきたい。」
彼女は踵を返して向かい合う。
「私の目的は織斑千冬“教官”を本国...ドイツ連邦軍に戻ってもらう為だ。」
「それはドイツの意向か?」
「いいや、
独断専行、ボーデヴィッヒ少佐の行動はただこの一言に表せる。
「それは本当に黒ウサギ隊の為であるのか?ただ自分自身の満足の為ではないか?」
ドイツ連邦は日本との軍事協定を結んだ国家であり、軍事交流と共に情報も流れる。
元々徴用兵の教育制度はボーデヴィッヒを始めとする遺伝子強化試験体を教育するに当たっての経験をもとに作られた。
その為、彼女についても送られてきた詳細な資料で織斑先生に対する“信仰”があるのは分かっていた。
人体改造による弊害で能力が低下、部隊からは“失敗作”という評価を与えられ蔑まされた。
だが織斑先生の手で彼女は大きく能力を伸ばし、部隊内での評価が大きく上がった。
織斑に対して信仰心を抱くのも頷ける。
「第一、この学園に“教官”が教えに値する人間はいない。君も軍人なら分かるだろう、ここの生徒は意識が甘く・危機感に疎く・ISを何かのファッションかなにかと勘違いしている。そうじゃないか、“大尉”。」
五十嵐はこれには同意見であった。
今やISは女性達がこの国で権力を手に入れるためのただの道具。
だが持っている物は大量破壊兵器に等しい物、だが彼女達にとっては一種のステータスでしかない。
この兵器が及ぼす影響を知らずに乗りこなそうとしている。
あの白騎士事件があったのに関わらず。
「ああ、だが“少佐”。織斑一夏を攻撃する理由にはならない。」
「そうだな、織斑一夏は自らの失態で教官の偉業を果たすのを邪魔をした。そんな人間が“弟”であり“IS操縦者”であることが許せない!そして“弟”という存在が教官を拘束している!」
ボーデヴィッヒは怒りで段々と熱く語る。
「教官を解放するためにはどんな手段を使ってでも...」
「解放?聞いていると“少佐”は自己満足でしかない。そして『どんな手段を使ってでも』と言ったな。」
「ああ、そうだ。教官をドイツに戻す為にどんな手段でも。」
「“殺害”も含まれるか。」
「ああ。」
流れでボーデヴィッヒは答えた。
その言葉を聞いた瞬間五十嵐はボーデヴィッヒに一気に近づいた。
彼女も気付いてホルスターからP12拳銃を引き抜いたが、右腕を押さえられ腹部に9mm拳銃の銃口を押さえつけられる。
撃鉄を起こす音と服越しからも伝わる銃口の冷たさに内心だが恐怖を感じた。
「もし試合以外で織斑一夏に対して攻撃を仕掛けた際には容赦無く反撃を加えます。」
化石のように乾いた表情で感情のこもらない声はボーデヴィッヒには恐怖を与える警告になった。
「...わかった。」
ボーデヴィッヒは諦めると右腕をゆっくりと降ろして拳銃を仕舞う。
五十嵐も拳銃をホルスターに戻すと踵を返して去って行った。
「彼は拳銃を突き付けないと人と話せないのかなぁ。」
近くで見守っていた更識楯無は収まると、静かにその場を離れて行った。
その場に残されたボーデヴィッヒは拳銃を突き付けられ、五十嵐の顔を間近で見つめた時あることに気付いた。
「あの目は
その夜、五十嵐は寮の自室である場所に支給された携帯電話で電話をした。
備え付けの机の上にはある名刺が置かれ、そこに書かれた電話番号を押す。
耳に当て、呼び出し音を数回聞いた後で相手が出る。
《はい、総理大臣秘書官室です。》
「日本国防海軍大尉五十嵐裕也です。」
《少々お待ち下さい。》
電話が切り替わると、漆原首相が電話口に出た。
《裕也、どうかした?》
漆原首相は優しい口調で迎えたが、五十嵐は意に介さずに続ける。
「漆原“首相”に折り入って頼みがあります。」
《どんな事?》
「報告書で私を知っているのなら知っているでしょうが、日韓戦争で私の後席を勤めた五反田弾海軍大尉の家族について調べて欲しいのですが。」
《わかった、すぐに調べよう。》
「ありがとうございます、“首相”。では用件は済ませましたので。」
五十嵐は一方的に電話を切った。
第三十二話目です。
ここから数話は短く区切って投稿しようと思います。
五十嵐のお陰でオルコットと鳳は助かりましたね、ボーデヴィッヒにフルボッコにされずに。
他にオルコットと鳳を織斑が助けている間にボーデヴィッヒと五十嵐で一騎打ち。
そして仲裁に入った織斑先生が、興奮納まらない二人に素手での勝負を提案。
そして軍人同士の格闘戦とか考えてましたねえ。
ではまた今度。