「おおおおっ!」
学年別トーナメントに近づいた土曜日の午後。
第三アリーナで織斑は零落百夜を纏わせた雪片弐型を構え、瞬間加速を用いてオルコットに突撃を仕掛ける。
だが直線的な機動は簡単に読まれ、回避されると背後からスターライトmkⅢの銃撃を受ける。
防御手段の無い白式は数発浴びせられシールドエネルギーを削られる。
「くそ...またやられたか...」
目の前にはデジタル表示の数値が“ゼロ”と表示されていた。
今日の模擬戦では零勝三敗の結果に終わっていた。
「...単純な動きだ。」
駐屯地から直接第三アリーナを訪れた五十嵐は偶然見掛け、一言呟いた。
空戦は常に敵機に自分達の攻撃を分からせないように戦う。
だが織斑の戦い方は簡単に読まれる。
ただ真っ直ぐ突っ込んで来るところに弾幕を張り、回避して背後に銃撃の繰り返し。
そして零落百夜と瞬間加速を多用する織斑はシールドエネルギーを使い切って自滅する。
銃を用いるISにとってはこれほど退屈な相手はいない。
「ええとね、一夏がオルコットさんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握して無いからだよ。」
デュノアは戻ってきた織斑にアドバイスを始める。
数日前から訓練に参加してから織斑の頼れる教官役となっている。
何回か五十嵐も見たが他で忙しく篠ノ之、オルコット、凰の三人が殆ど訓練を見ていたがどれも教官には向いていない。
篠ノ之はISについて無知に近く、凰は理論や知識より感覚で飛ばしている二人のアドバイスは曖昧。
一方オルコットは豊富な知識と経験を持ち合わせているが、それを織斑のような新人に詳しく説明しすぎて伝わらない。
だが五十嵐自身も人のことを言えなかった。
戦闘機パイロットとしての経験は多くあるが、“IS学園”での戦闘方法についてはアドバイスする経験を持ち合わせていない。
戦闘機や軍用ISの戦術は二人一組の編隊を組んだチームプレイだ。
一方IS学園でのISの戦い方は競技用の一対一の戦い、雪片しか持たない織斑の装備では精々回避し続けるしかないと五十嵐も考えアドバイスが出来なかった。
しかしデュノアは代表候補生で、アドバイスは相手に分かりやすく丁寧に教える。
これで織斑の教育はデュノア、戦術は五十嵐と役割分担が出来た。
アリーナの観客席に座るとタブレットPCを開いてボーデヴィッヒへの対策を考える。
彼女とは絶対に試合で方を付けると織斑は考えているので協力している。
戦闘訓練の映像を見ながら訓練時の映像を見比べる。
ドイツの第三世代IS“
全距離に対応したISだが、大型レールカノンを除いた近接格闘戦の装備だ。
大型レールカノンはその火力で他の機体を援護、近接戦での敵機撃破をする戦い方なのだろうか。
「...これはなんだ?」
タブレットPCで流していた訓練映像を巻き戻し、見直す。
そこにはシュヴァルツェア・レーゲンに乗ったボーデヴィッヒが右手を突き出す。
発射された銃弾は右手に突き出した手前で空中停止し、右手を下げると地面に落ちた。
「これが
ISに搭載されているPICを応用したもので、対象を任意に停止させることが出来る。
しかしこの能力を使うには多量の集中力が必要のが弱点で多数の機体と戦うには不利だが、一対一の競技なら問題は無い。
零落百夜の能力ならこの盾を切り裂いて、続けて切り裂けばいいだろうと考えた。
だがこの考えは否定される。
「映像を見る限る、細かく調節が効くな。」
実体がある物なら動きを止める事ができる。
特に織斑のように剣術を使うと腕は縦や横に腕が一直線に動くので動きを読めれば交差するように展開すれば腕を拘束して、あとは砲撃を叩き込むかプラズマ手刀で切り刻めばいい。
どうするべきか、五十嵐は考え込むが一向に作戦が立てられない。
「もう一機あれば...」
「ならばタッグを組ませてやろう。」
五十嵐の呟きを聞き、織斑先生が背後から声を掛けた。
「これを下にいる織斑達に知らせろ。」
「わかりました。」
一枚のプリントを渡されると去って行き、プリントに書かれている内容を読んだ。
『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦を行うため、二人組みでの参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。』
「これなら勝機があるな。」
ボーデヴィッヒのAICは多数との戦闘に対応できない。
これなら織斑の白式の弱点をカバー出来る射撃火器を使うISを組ませることで解決できるだろう。
そして学年別、一年で専用機を持つものはボーデヴィッヒ以外に自分、オルコット、凰、デュノアの四人。
さらに射撃火器で中距離から遠距離で自分、オルコット、デュノアに限られる。
この三人の中なら全距離に対応できるデュノアが適任であろう。
問題はボーデヴィッヒとタッグを組むのは誰なのか。
『ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。』
という条件ならば今いる専用機持ちを全員ペアを組ませて、ボーデヴィッヒを一年の訓練機と組ませる。
そうなれば即座に訓練機を潰して一対二に追い込むことが可能だ。
ならば織斑とデュノアを組ませたように近距離&中・遠距離で組ませるとしたらオルコット又は自分と鳳で組ませよう。
さらに考えを纏めるとピットに戻ってきた五人に説明した。
「...という理由から織斑には全距離に対応出来るデュノアが適任であると考える。」
五十嵐の理に適った説明で最初は文句を言っていた女子三人は黙ってしまった。
「しかし卑怯じゃないか、ラウラを孤立させるとか...」
「そうじゃないと勝てる可能性は一切無いぞ、織斑。戦いとはどんな手を使っても勝つものだ。」
「そうか...俺はそれでいいぜ。」
織斑は渋々五十嵐の提案に従った。
「僕もいいよ。」
「ではすぐに申込用紙に書いてくれ。問題は我々だ。」
五十嵐、オルコット、凰の三人は円になり話し合う。
「五十嵐が勝つためにはボーデヴィッヒと専用機持ちを組ませたくは無い。協力して欲しい。」
オルコットと鳳は顔を見合わせるが、二人とも忌々しげな顔してそっぽを向く。
「わたくしは優勝を狙っているのです、二人で優勝となると...決定的ではありませんわ。」
「あたしだって優勝を狙っているし...あんたとじゃあ優勝は狙い無い。」
凰の言うように実習での連携は訓練でどうにかできるのか心配な程に連携は取れていない。
また何かの噂だが『優勝すれば織斑と交際できる』と。
どうのような意味か分からないが、女子生徒にとっては重要なものらしい。
目の前いにいるオルコットが心配しているのはそのことなのだろう。
学年別の為、学年別に優勝者が出る。
その中で専用機を持つ者は当然ながら訓練機とは比べ物にならないアドヴァンテージだ。
優勝となれば専用機持ちであるのは当然であるからこそ優勝を一人のものにしたいのだろう。
三人は考え込むと凰が答えを出した。
「わかったわよ。五十嵐、あたしと組みなさい。」
そうして五十嵐は凰とペアを組むことになった。
その後オルコットは同室のルームメイトと組むことで決着が付き、ボーデヴィッヒを孤立させる包囲網を完成させた。
第三十三話です。
なんとなく五十嵐の作戦は卑怯の一言が言えますね...
そう言えば詳しく知りたいのが新装版の白式の解説で《アサルトライフル『焔備(ほむらび)』》なるものが書かれているのですが、アサルトライフル装備できたんですか?
ではまた今度。