夕食後、五十嵐は静かな寮の廊下を歩いていた。
ここ最近なぜか眠れず、おぼつかない足取りで夕食を早めに取ると自室に戻っていた。
すると突然角から手が伸び暗闇の引き込まれた。
「私だ。」
抵抗しようとしたが押さえ付けられ、顔を見ると更識生徒会長であった。
目の前に『謝意』と書かれた扇子を開いて微笑む。
五十嵐は呆れたような顔をする。
「それで生徒会長、何の用件でしょうか?」
「今、一夏くんと同室なのはシャルル・デュノアという子だよね?」
あれから候補生学校出身日本代表候補生の一斉退学で部屋が空いたのと、男女が同室のなのは黙認出来ないと教師から意見があった。
転校してきたデュノアが適任だとして部屋を変えた。
「はい。」
「なんでかなぁ~“女子”と同室するのかな。」
「...仰る意味が分かりません。」
生徒会長はなにを言っているんだ。
織斑と同室なのは“男子”のシャルル・デュノアのはずだが。
「そのまんまの意味よ。」
扇子を再度広げると『詐称』と書かれていた。
「シャルル・デュノアは“女”だったのよ。」
「...意味は分かりましたが現状が飲み込めません。」
この学園になぜ性別を詐称してまで入学するのか、しかも“男性”として。
フランス代表候補生という国を背負った立場で年齢詐称となれば大きく取り上げられ問題となるだろう。
なのになぜ送り込むのか。
「まあ詳しいところは君の同僚達が教えてくれると思う。学園内で日本政府の指示通りに動くのは君だけだから。」
「...わかりました。」
更識生徒会長と別れると顔を叩き、意識をハッキリさせると急いで自室に戻る。
充電器に繋いでいる携帯電話を確認すると不在着信履歴に小室准将の名前が入っていた。
「五十嵐です。」
《なぜすぐに出なかった!》
電話が繋がると准将の怒声が耳に響いた。
「...学内では自由時間以外使用禁止です。」
《...そうだったな。それより緊急事態だ。》
「なんでしょうか?」
緊急事態という言葉に五十嵐は身を引き締める。
《シャルルは女だ。》
准将の口から出たのは更識生徒会長の言う通りの話題だった。
《デュノア社は知っているな。》
「はい。フランスの大手企業で軍需産業の一翼を担っている企業ですね。」
《ああ、そうだ。学園に送られた資料ではシャルル・デュノアはその企業の親族の一人でテストパイロットとしか分からなかった。》
ベットに腰を下ろし話を聞く。
《政府は怪しんで少し探りを入れたらシャルルの幼少期について断片的に分かった。詳しく調査する為にフランスに飛んだ国防省情報局の職員がフランス国内で調査した結果...》
五十嵐は固唾を呑む。
《シャルルは社長と愛人との間で生まれた“娘”で、2年前に母親と死別した際にデュノア家に引き取られた事がわかった。》
「よくわかりましたね。」
《だがこの事実がわかるまでに二人の職員が“殺害”された。この情報は在仏日本大使館に逃げ込んだ職員が持ち帰った情報だ。》
准将は殺害という二文字を強調して言った。
「それは・・・・。」
《フランス国内で事実を知られたくない組織があるのかもしれない。》
それは新たな敵勢力の出現を示していると五十嵐は考えた。
《五十嵐大尉、聞いているか。》
「...はい、それで私はなにをすれば?」
《政府はシャルル本人に事情を追求し、場合によっては我が国への亡命を認めると。》
「亡命ですか?」
《ああ、政府の考えは分からないがこの事実を公表するつもりだ。》
五十嵐は准将からどのような文句で説得させるかを教えられた。
「わかりました、すぐに取り掛かります。」
電話を切るとホルスターにある9mm拳銃に触れる。
なぜか一瞬「銃を取りたくない」という考えが頭を過ぎる。
「徴用兵に課せられた義務をこなさなければならない。」と言い聞かせてホルスターから引き抜く。
スライドを少し引いて銃弾が装填されているのを確認するとホルスターに戻して部屋を出る。
織斑の部屋の前に来ると五十嵐はドアをノックせずに開けて入る。
そこには一夏と男装をしていないシャルルがいた。
「五十嵐。これはな・・・・。」
織斑は驚くもすぐにデュノアを庇い前に塞がる。
「わかっている。デュノアが女ということは。」
「何で知ってるんだ?」
「国防軍の情報力を侮るな。私はデュノアに聞かなければならない事がある。」
五十嵐は織斑を避けるとデュノアの前に立つ。
「性別を詐称し、学園に入学した理由と目的を答えろ。」
デュノアは目の前に立つ五十嵐の気迫に押され、淡々と喋り始めようとした時だった。
「一夏さん、いらっしゃいます?夕食をまだ取られてないようですけど、体の具合でも悪いのですか?」
ドアのノックが部屋に響き渡り、オルコットの声が外から聞こえた。
具合が悪いように演演じろと指示をし、織斑にはオルコットに対応するように指示した。
織斑がドアを開きオルコットといくつか言葉を交わすとオルコットは俺にも声を掛けた。
そしてオルコットに腕を引っ張られて一夏は部屋を出た。
「デュノア、もういいぞ。」
デュノアは起き上がりベットに座る。
備え付けられている椅子を引張り、彼女の目の前に座ると事情を聞く。
「実を言うと実家の方から...父から直接命令されてこの学園に来た。日本で現れた特異ケースと接触し可能であればその使用機体と本人のデータを取ることだったの。」
「実家と言うのはフランスの大企業デュノア社の事か?」
黙って彼女は頷く。
「デュノア社か...しかし大企業が男装している事がバレるリスクを背負って送り込んだ?」
「今デュノア社は深刻な経営危機に陥っているの。兵器関連もそうだけどラファール・リヴァイヴ以降の第三世代ISの開発が難航している。イギリスやドイツと対抗出来る第三世代ISを開発できないと競合している企業に顧客を取られるかもしれない。しかも手広く広げた事業がだんだん上手く行かなくて赤字を出すようになった。援助資金でなんとか凌いでいたけど次のトライヤルで選ばれなかったら全面カットされてデュノア社は倒産するかもしれない。そのために資金を募るための広告塔の役割もあったし、特に実戦配備間近の裕也君の紫電は参考になるデータだった。その為には女子より男性のほうが近づきやすいと考えて、男性として送り込まれたんだ。」
この話でデュノア社の目的が分かった。
デュノア社が生き残る為には、第三世代ISの開発競争で一番進んでいる日本の紫電の技術を盗み取るしかない。
また男性がISを操縦できる方法が分かれば新たな革新的技術を得ることが出来る。
五十嵐は准将から頼まれた日本政府の提案をする。
「それでだ、お前は特記事項第二十一で三年間保護できる。」
「分かってる、一夏から聞いた。」
「その後をどうする。」
デュノアは顔を背ける。
「わからない、でも本国に帰れば牢獄かな...」
「我々日本政府はお前の亡命を受け入れることが可能だ。」
「えっ!」
突然の事にデュノアは驚き、面食らってぽかんとする。
「亡命すれば、ここを卒業した後も日本政府の庇護のもとで日本で生活が出来るする。またIS操縦者として研究所のテストパイロットなどに採用してもいい。」
「それはすぐにできるの?」
「そうだ、日本政府は準備が出来ている。あとは君が決めるだけだ。」
「・・・・・考えてみるよ。ありがとう五十嵐。」
デュノアは頭を下げる。
「ただ任務の一環で日本政府の提案を伝えたまでだ。」
五十嵐はそう言って部屋を出た。
第三十四話目です。
急ぎ足な感じで話を進めていますので、文字数が三千近くなる...
しかしこれからを考えると五十嵐が本当に大変なほどに戦闘ばかりになるかもしれない...
とうとう三日後、卒業式になりました。
昨日、アークⅢという非常食と卒業アルバム・記念品を渡されて帰りました。
このアークⅢと卒業アルバムは本当に重くて、鞄の一部が裂けてしまいました。
おかげで帰った後、足と腕が筋肉痛で肩が痛いです。
ではまた今度。