病室のドアを叩く音が聞こえた。
その音に病床に横たわっていた五十嵐は驚き、近くに置いていた9mm拳銃を手に取った。
銃口をドアに向けるが、その手は震えていた。
「私だ、裕也。」
「...ドアは開いている。」
その声はボーデヴィッヒであり、彼女は病室にあるパイプ椅子を広げて病床の傍に座った。
彼女の目はベットの上にある9mm拳銃に向けられた。
「なぜ拳銃を持っているんだ?」
「.............」
五十嵐は手に持つ9mm拳銃をぼーっと見つめるが、なにも言わなかった。
「まあ、いい。私はこれから臨海学校に行く。」
「...そうか...俺の代わりに生徒達の護衛を頼む。」
「国防軍の護衛もある、安心していいだろう。」
「そうか...」
五十嵐の言葉は一切の抑揚がなく、俯いて視線は定かではなかった。
感情を見せないのは普段の事ではあったが、ボーデヴィッヒの目からは異常に思えた。
さらに最近は五十嵐の行動には不可解な部分があった。
五反田や軍関係者との面会を拒否、言葉数の激減。
襲撃時に受けた外傷とは関係が無いと思われるが、報告書作成中に吐き気を催す。
検診に来た医師・看護師を見た際に鬼の形相で奇声を発しながら襲い掛かる。
今日のように拳銃を常に手に持ちながらの会話など以前にはない行動がある。
ボーデヴィッヒは戦友として心配になり五十嵐に時間ギリギリまで付き添うが、その間会話は無かった。
「時間だ、私は行く。」
「.......」
ボーデヴィッヒはドアを閉める時に振り返って五十嵐を見るが、ただぼーっと前を見ていた。
急いで最後に輸送バスに乗る。
「遅れてすみません、織斑先生。」
いつもの出席簿アタックを食らうと隣席に座るように言われる。
本当なら織斑の隣席を望んだがすでにシャルロット・デュノアが押さえ、その他も近くに座っていた為今から座るにも座る場所が無かった。
それに恩師でもある教官の指示に従わなければならない。
「...わかりました。」
隣に座る。
それから輸送バスは出発するが、島外に出るまで会話は無かった。
先頭を国防軍の高機動車・機動戦闘車に先導されながら車列は臨海学校に向かう。
「ボーデヴィッヒ、五十嵐の様子はどうだった?」
島外に出て一時間後、車内が生徒達の喧騒に包まれると織斑先生は切り出した。
「...彼は落ち込んでいる...と言えば語弊がありますが襲撃前とは明らかに違います。」
「弟や篠ノ之から見たら何時もの五十嵐だが、どうも以前とは違う。」
「もしかして彼は...」
すると織斑先生は革の鞄からひとつの書類を出して、ボーデヴィッヒに渡した。
「これは...」
「国防海軍大尉五十嵐裕也の公開されていない内容も含めた戦歴だ。」
「いいのですか!これは国家機密です、一介の生徒に見せるのは...」
織斑先生は大声を出さぬように口に人差し指を当てる。
すぐに声を抑える、近くに二人いた生徒が気付いて振り返るがすぐに楽しい会話に戻った。
「わかっている。しかし五十嵐を分かる事が出来るのは同じ軍人であるお前しかいない。」
ボーデヴィッヒは織斑先生の考えを分かるとひとつ質問した。
「なぜ織斑先生は裕也の為にここまでするのですか?」
織斑先生はボーデヴィッヒから顔を逸らし、車窓から見える海を見ながら答えた。
「五十嵐をここまでした責任は私にある...こんな世界にした私に...」
太腿に置いた右手を強く握り締める。
ボーデヴィッヒはISを駆ってモンド・グロッソに優勝した行為などが影響して彼等徴用兵を生み出したと言いたいのだと思った。
「先生はISに乗ってただ大会で優勝しただけです。こんな世界になったのは白騎士のせいです、先生ではありません。」
「...とにかく到着までにその書類に目を通しておけ。到着したら私に返却しろ。」
「はい。」
ボーデヴィッヒはすぐに書類に目を通した。
五十嵐大尉の関わった戦争犯罪を知ることになった。
その後、バスは予定地に到着して一日目は何事も無く終了したが、翌日に事件は起きた。
―ハワイ沖-
「キャプテン、試験機が一分後に試験空域に入ります。」
「わかった。全艦に達する、これより“シルバリオ・ゴスペル”の迎撃試験を行う。」
アメリカ海軍太平洋艦隊アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦“マスティン”の戦闘指揮所。
新型ISの迎撃能力を測る為に“マスティン”から艦対空ミサイルを発射、ISが迎撃する実験だった。
この試験により装備の不具合を実戦に近い状態で確認するのが今回の目的だった。
ついでに駆逐艦の対空戦闘訓練も兼ねて行う。
「砲雷長、対空戦闘用意!」
「了解、対空戦闘用意!」
砲雷長の復唱と共にサイレンが艦内に響き、水兵達が艦内を急いで駆け抜け水密扉を閉じる。
「目標探知!数1、距離120マイル、速力640ノット!」
「高速で近づいてくるか...
そして“シルバリオ・ゴスペル”が射程内に入ると迎撃を命じた。
「ESSM、発射始め!サルボー!」
前甲板のMk41VLSから四発のESSMが発射される。
レーダー上には目標に高速で進む四つの光点。
その四つの光点は予定通りに目標に迎撃された。
「いつになったらISに命中弾得られるんでしょうね。」
あるレーダー員がぼやきを漏らす。
だが砲雷長はレーダー画面に映る目標の異変気付いた。
「ISが急降下しているぞ!」
「通信士!ISに連絡できるか!」
艦長はすぐに通信士に無線を繋げるように命じるが、通信士は首を振った。
「駄目です、応答ありません!」
「故障か?すぐに司令部に通信を繋げろ!」
「砲雷長、ISの降下が止まり水平飛行に移りました。」
艦長の他、戦闘指揮所にいた乗組員は胸を撫で下ろす。
「驚かすな~、後でISパイロットに文句言ってやろう。」
砲雷長に艦長が冗談を言うと通信士が報告する。
「艦長、依然ISからの通信がありません。」
「目標、高速で本艦に近づく。」
「そんなストーリーか?」
予定とは違うISの動きに艦長は首を傾げる。
「我が艦の近接防空戦闘を見たいのでしょうか?」
「それだったら臨むところだ。さらにESSMを撃ち込め。」
「了解、ESSM発射。5インチ単装砲並びにCIWSスタンバイ。」
さらにVLSからESSMが数発発射されるが、何時もの通り迎撃される。
《目標を目視にて確認、急速に近づく!》
「5インチ単装砲、撃て!」
砲雷長の指示で5インチ単装砲の砲撃が加えられ、ISの周囲で炸裂する。
だがISはそれでも止まらず、砲撃を掻い潜って近づくと白い光を放った。
艦橋にいる乗組員がマイクに必死に叫ぶ。
《ISから攻撃!攻撃!》
「なに!?」
「レーダーに感あり!三発の光弾の発射を確認!」
「迎撃間に合いません!」
砲雷長やレーダー員の悲鳴に近い声を聞いて攻撃を受けていることを艦長は実感した。
「CIWSで迎撃しろ!」
「もう間に合いません!」
「総員衝撃に備え!」
艦長の叫びと同時に光弾は艦上構造物を完全に吹き飛ばし、燃える船体だけ残った。
“シルバリオ・ゴスペル”はアメリカ空軍の戦闘機を撃墜すると西へと飛び去った。
―IS学園医療局病室―
「裕也くん、大丈夫?」
更識楯無は笑顔で五十嵐の病室を訪れた。
HRが始まる前に見舞いに来たのであった。
「生徒会長...」
五十嵐は苦しそうに起き上がろうとするが止める。
「体を大事にしなさい、裕也くん。」
すると会長の携帯が鳴り、五十嵐に断ると振り返ってすぐに出た。
それは部下である更識家の諜報員からの電話であった。
「...なに。米軍の第三世代ISが暴走...臨海学校の上空に向かっている!」
五十嵐はそれを聞くと、自然と体が飛び上がり畳んでいた海軍士官服に着替える。
いくつか会長が言葉を交わしているうちに着替え終わり、9mm拳銃をホルスターに仕舞う。
「篠ノ之束が現われたと思ったら次にこれね。ありがとう...って裕也くん!」
五十嵐は撃たれた片足を引き摺りながらドアに向かう。
「まだ動いちゃダメって!」
更識楯無は五十嵐を止めようとする。
すると五十嵐は病室に怒声を響かせた。
「止めないで下さい!このままだと壊れそうなんです...戦わないと...」
会長はその言葉に驚いて口を開けてポカンとしている。
入学してから繰り返される悪夢や心理的・生理的苦痛などを忘れられるのは戦闘しかなかった。
そして前の戦闘ではなぜか分からないが、209高地で戦っていると思っていた。
ここ最近の悪夢や恐怖感に耐えることはもう出来なかった。
それなら戦闘で死んだほうがマシだ。
五十嵐はそのまま続ける。
「それに戦うことは私の義務ですから。」
そう言って五十嵐は病室を出た。
第三十九話目です。
場面が変わるところを変えてみましたがどうでしょう?
次でとうとう第四十話目になります。
急ぎ足な感じは否めませんが、大学が始まる前までには夏休み期間を終わらせたい...
あと最近で言えば親がバイトしてみたらと進められますね。
でも近くにバイトの募集がしていない悲劇、支給してくれる交通費では赤字です...
では、また今度。