織斑一夏は旅館の一室のベットで横たわり、その傍らで篠ノ之箒が控えていた。
救出してから五時間以上、ISの操縦者絶対防御により昏睡状態にあった。
ボーデヴィッヒは凰が落ち込んだ篠ノ之を奮い立たせるのを襖の前で待っていた。
他にもオルコット・デュノアも控えていて、タイミングを計っている。
それは五名の専用機持ちによる復讐的な行動、織斑先生の命令を無視して“シルバリオ・ゴスペル”迎撃を企てた。
すると凰の言葉が篠ノ之の奮い立たせて、大声が聞こえた。
「場所ならわかるわ。今ラウラが・・・・」
凰の掛け声と同時に合わせて襖を開けて登場する。
「ここから30キロ離れた沖合い上空に目標を確認した。ステルスモードに入っているが光学迷彩は持っていないようだ。衛星の目視で発見したぞ。」
「さすがドイツ軍特殊部隊。やるわね。」
「ふん...。お前の方はどうなんだ。準備は出来ているのか?」
「当然。甲龍の攻撃特化パッケージはインストール済みよ。シャルロットとセシリアの方こそどうなのよ。」
すると反対側の襖が開く
「たった今完了しましたわ。」
「準備オッケーだよ。いつでもいける。」
「で、あんたはどうするの?」
篠ノ之に全員の視線が集まる。
覚悟を決めると拳を握り締め、顔を上げた。
「戦う・・・戦って、勝つ!今度こそ負けはしない!」
「決まりね。」
全員の意思が固まり、作戦会議に移ろうとした。
ボーデヴィッヒは衛生写真を表示しようとタブレットPCを取り出して開いた。
「ん?」
衛生写真は自動的に更新されて、一番新しい写真に変えられた。
ボーデヴィッヒはそこに写る一点の黒点を見つけると拡大する。
「これは!?」
そこに写るのは一機の紫電、五十嵐裕也の姿であった。
―二時間前/臨海学校警備指揮所・会議室―
《IS学園による迎撃作戦は失敗...ということでいいのね。》
「はい、首相。IS学園警備主任織斑千冬は作戦行動を行わないと判断しました。」
《と言われても現に日本国領空に何時間も他国のISが滞空しているのは容認できないわ。》
IS教導隊指揮官佐々木琴音大佐は多数の将校と共に日本国総理大臣漆原美由紀とテレビ会議を行っていた。
漆原首相は前回の選挙で大勝利して、野党と連立政権を組むことに成功した。
《国防軍には手立ては無いの?》
「我がIS教導隊が保有する第二・五世代IS“烈風改”では目標と戦う事は出来ません。開発中の第三世代ISの“紫電”一号機は飛行試験用で装備のインストーを行っていますが今日中に不可能。二号機の実戦投入用は乗員の心身の問題...五十嵐大尉の健康状態から不可能でこちらも乗員の選定と初期化・最適化に時間が。三号機に関しては企業の工場で組み立て中です。」
《つまり手は無いと?》
「五十嵐大尉が戦闘機でISを撃墜した例がありますが、相手はオリジナル・コアを使った機体です。研究の結果通常兵器による撃墜は理論上可能ですが、莫大な戦力と弾薬を消費することになります。」
漆原首相は画面越しに大きく溜息をつく。
この答えだと前政権の女性至上主義者のように徴用兵を“大量消費”して撃破する考えになる。
だが徴用兵の廃止を訴えている首相にとって絶対に取れない方法だった。
《それはもう学園に任せるしか無いという事か。》
「は」
「私を出撃させてください、首相。」
会議室に突然五十嵐大尉が乗り込んできた。
服装は軍服ではなく教導隊仕様のISスーツに着替えられていた。
「君!勝手に会議室に入るな!」
高射連隊長が五十嵐大尉を怒鳴りつける。
五十嵐大尉は怯まず実の母親が写るテレビ画面に向かって言った。
「日本国国防海軍大尉五十嵐裕也です。私は心身共に健康であり、出撃は可能です。」
「虚偽の報告をするな大尉。それにお前の体は戦闘に耐えられない。」
五十嵐の体は襲撃事件で幾つもの傷を負い、深い傷もあった。
それから一週間も経たず、傷は完全に塞がっておらず精神的な面でも無理があることは首相にも知らされていた。
《裕也、お前の体は癒えていない。それにお前を失うことは出来ない!》
貴重な男性IS乗りだからか?
どうせ物としか見てない母親だ、俺を失っても痛くも痒くも無いくせに。
俺を捨てた時のように。
「だが現に目標は領空に居座っている。もし国民に被害があったら」
《緊急!伊豆諸島新島がISの空襲を受け被害甚大!》
合わせるように目標は近くの島を攻撃して、判断の余裕を奪った。
「首相!今すぐ出撃を!」
五十嵐大尉は首相に進言する。
首相は出撃を命じなければならない状態に陥り、快諾すると思った。
《...わかった...出撃を許可しよう...》
五十嵐大尉は念願の出撃許可を得たが、画面に写る漆原首相の姿を見て驚いた。
伏せた顔からは大粒の涙を落として、嗚咽を漏らしているのが画面越しからわかった。
回れ右をして会議室を出ようとした時、首相、いや母親の声が聞こえた。
《生きて帰ってきて...》
五十嵐は一度立ち止まったが、すぐに歩き出して会議室を出た。
第四十一話目です。
連投で第四十二話をお送りします。