第四十五話 記憶の整理
夏休みを迎えた初日。
織斑・オルコット・ボーデヴィッヒの三人は医師と共に廊下を歩いていた。
医師は五十嵐裕也の治療について語りながら案内する。
「裕也くんは薬物の投与で前よりは落ち着いているわ。」
「そうですか。」
織斑一夏は安心したかのような表情を見せる。
目を覚ました直後の自殺未遂から錯乱状態になる事がしばしばあった。
それが収まったことは喜ばしい事だった。
「だけどそれだけでは駄目なんだよ。根本的な解決にはならないわ。」
記憶を自らコントロールできるようにしなければ解決することはない。
「それでわたくし達は?」
セシリア・オルコットは自分達の役割について聞く。
神経症の治療など誰も経験がした事が無く、なにをすればいいか全然分からなかった。
「そうね~病室内にいればいいよ。」
医師が言ったのはそれだけだった。
その指示に三人は唖然とする。
「あ...いや、彼にとって友人の存在は安心感を与えるから。」
医師は慌てて言い直したが、ラウラ・ボーデヴィッヒとオルコットは別の目的があると感じた。
しかし病室前に着いて、聞く前に医師はドアをノックして入室する。
六人は部屋の中に入るとベットの上にいる五十嵐裕也の姿があった。
彼の表情は何時もの通り無表情に見えたが、元気が無いように見えた。
「では前に予告した通り、これから五十嵐くんと行動認知療法を行います。」
医師はベットの傍にある椅子に座り、六人は少し離れた場所から治療を眺めた。
「...はい。」
声は弱々しく、目には力が無い。
「無理に思い出さなくていいんですよ。五十嵐くんが思い出せる範囲でいいんです。」
「はい...どこから話せば?」
「まず目を閉じて、群山空港での近接航空支援について出来るだけ詳しく語ってください。出来るだけその時の気持ちになって話してください。」
指示通りに五十嵐は目を閉じて語り始めた。
「その日、スクランブル待機をしていた。陸軍から近接航空支援の要請が入った。」
五十嵐は淡々と語る。
「慌てて“流星”に乗る時にアレを見たんです。」
「何を?」
医師は詳しく聞く。
「我が軍では“特殊爆弾”と呼ばれるナパーム爆弾でした。白い増槽のような形だった。」
「ナパームってなんだ?」
織斑は軍人であるボーデヴィッヒに質問した。
「燃焼材のナフサにナパーム剤と呼ばれる増粘剤を添加してゼリー状にしたものを充填した油脂焼夷弾だ。周辺を900度から1300度の高温で焼き尽くす非人道的な爆弾だ。」
医師は五十嵐に語るように促す。
「それから?」
「編隊長に続いて離陸して、ゲリラの拠点に向かった。そこまで行くのにさほど時間は掛からずに一度村の上空を通り過ぎた。」
「なにが見えました?」
「洗濯を干す人や農作物を纏める人、そして無邪気な子供達が見えた。」
「それらを見てどう思いましたか?」
「ここが本当にゲリラの拠点なのか疑問を持ったが、前線で苦しむ仲間達の為にしょうがないと思った。」
「続けて。」
「俺は編隊長から命令でその村にナパームを落さなければならなかった。五反田が反論したが、命令でありゲリラの拠点であるならば攻撃するの必要はあった。気持ちを抑えて低空低速で村に近づいてナパームを落とした。さらに命令でさらに二発落とした。」
五十嵐は逆らえなかった悔しさで布団を強く握る。
「...子供がいる所にあんなものを落としたのか?」
織斑は小声で言うとオルコットが返した。
「前線に続く兵站を攻撃するゲリラを排除しなければ味方の被害が大きくなりますわ。それにゲリラを匿っている時点で攻撃されてもしかたがありませんわ。」
だがオルコットは五十嵐の次の言葉で自分の発言を撤回する。
「実際はゲリラの拠点でもなんでもなく、陸軍兵に食料を提供しなかった腹いせにナパームを落すように命じた事をのちに帰還して知った...くそ!なんで俺は些細なことの為に数十人を焼き殺したんだ!」
五十嵐は拳を振り上げてベットを思いっきり殴りつける。
それを聴いた瞬間に三人の思考は停止した。
ただ食料を差し出さなかった腹いせに非人道的な兵器を落とした。
さらにその兵器の投下を未成年の少年にやらせたのだ。
この事実は彼らが考える以上に意味の無い行為であった。
ボーデヴィッヒは小声で言った。
「命令を無視すればいいのに...」
ボーデヴィッヒが軍人らしからぬ発言をする。
それはドイツ連邦軍の“抗命権”という制度があるからだ。
ドイツ基本法及び軍人法には“軍人もまた市民であり基本権を保持する”という規定、「抗命権」及び発動された場合の不利益処分禁止が明文規定されている法律がある文化であるからだった。
残念ながら国防軍、特に徴用兵にはそんな権利はない。
「さらに逃げる民間人を殺せと命じられた。これ以上民間人を殺す必要があるのか考えた。結局は周囲を包囲していた陸軍兵に銃殺された。」
「そのあとあなたはどうされましたか?」
「基地に帰還しました。機を降りると編隊長に殴りつけられた、『海軍の面汚し』と。」
「そう言われてどう思いましたか?」
「徴用兵は日本国の為に上官の言う通りに従い、日本国の為に戦い死に行く兵士であり心は必要ないと考えた。心は躊躇を生み出し、味方を殺す。」
医師は腕時計を見ると始まってから四十五分を経過していた。
「では今日はここまでにします。」
医師は立ち上がると織斑達と共に病室を出て、五十嵐を一人残した。
廊下で今後の治療について話した。
「あのように記憶の中にある出来事を自らが選んで話せるようにするのがこの治療での目的。君達には彼に何があったか、そして治療した後彼を受け入れる心構えを持って欲しい。」
「...わかりました。」
織斑は返事をするとあとの二人も頷く。
「この治療を後数回行うわ。今日はもう終わり、昼を食べてきなさい。」
医師はそう言ってその場を立ち去る。
三人は医療局の廊下を何も喋らず歩いて出入り口を出た。
「くそ!なんでなんだ!」
突然織斑は医療局の壁を殴った。
それに二人は驚いて目を白黒させる。
「束さんの作ったISが五十嵐のような存在を作ったんだ!納得が出来ない!」
大声で叫びさらに数発壁を殴る。
自分は姉の影でのうのうと暮らし、代わりに五十嵐達に人殺しを強要していた。
織斑一夏は何も知らずに暮らしていた事を恥じ、悔しさから壁を殴る。
「一夏さん...」
オルコットは止めようと掛けるが、織斑の怒りは止まらない。
「ISが動かせる女性が偉いのはまだ分かるさ!だけどなんで五十嵐のような徴用兵が出てくるんだ?それになぜ彼らに虐殺をさせたんだ!おかしいだろ!」
織斑は思った事を大声で吐き出す。
理解が出来ない、少年達を集めて戦わせ虐殺を行わせた理由。
理解出来ない、国民達はそれを知りながら賛成し黙認した理由。
そしてなぜ彼らは犠牲にならなければならないのか。
するとボーデヴィッヒは近づくと織斑の腹にパンチを一発見舞った。
腹を殴られ織斑は咳き込み痛みで屈み込む。
「大声で喚くな。」
織斑は周囲を見渡すと職員や生徒達がこちらを見ていた。
「とにかく食堂に行こう。」
ボーデヴィッヒがそう言うと二人は食堂に行く。
午後、織斑は図書館に行き白騎士事件以降の日本の政争・防衛政策・世界情勢について書かれた本を片っ端から読んだ。
そして今の世界について考え、見直した。
第四十五話です。
皆様小説の投稿が遅れてすみません。
ここ最近様々な事が立て込んで小説を更新するのが大きく遅れました。
作品について、近況について順を追って説明しようと思います。
①第四十五話について
今回の話の終わり方に自分は正直言うと不満で実力不足だと言うことが終わりました。
本来は織斑・篠ノ之・凰・オルコット・デユノア・ボーデヴィッヒと一話ずつ会話して日韓戦争と一般人と徴用兵の相違を描こうと思いましたが、全部で五話も描く程のネタもなく時間的にも余裕がないのでこんな終わり方にしてしまいました。すみません。
②近況―大学
無事四月一日に入学式を経て大学に入学しました。けれど、誰だ!文系は暇だって言ったのは!確かに理系よりは暇だろうが授業・バイト・部活しようとしたら全然暇じゃない!絶対聖域だった土曜日曜も削らなければならないなんて!小説書く暇ないじゃん!ちくしょーめ!(鉛筆を机に叩きつける)
次話に続く