夏休みに入り、二週間が経った八月一日。
五十嵐の治療は順調に進み、時々トラウマを思い出す事があるが外出が出来るまでに回復した。
この日、五十嵐は織斑とデュノアに付き添われて五反田弾を都内にある駅まで見送りに来ていた。
「大丈夫なのか、五十嵐?俺を見送りに来る余裕があるのか?」
五十嵐と五反田は横に並んでホームを歩く。
だがこの日の二人の服装は同じ海軍士官服ではなく、五反田はジーパンにポロシャツの私服であった。
「大丈夫だ。それに戦友の帰還を見送らない奴がどこにいる。」
五十嵐は微笑しながら言った。
「お前にそう言われるのは久しぶりだな。」
五反田は表情を見て心中ひそかに喜ぶ。
五十嵐が戦争に行く前の感じに戻っているのが嬉しかった。
前向きで表情豊かな人間だったが戦争で大きく変わった。
戦争終盤には顔から表情がなくなり、人生に否定的な言葉を呟くことが多かった。
「...五十嵐すまないな。相棒を置いて先に“帰宅”するなんてな...」
数日前に漆原首相は徴用兵の帰還事業の開始を発表した。
徴用兵を受け入れる体制が整備されたと判断され、社会復帰が可能だと判断された徴用兵を順次退役させる事を決めた。
その第一陣として日韓戦争に従軍した徴用兵の内一万人の退役が八月一日だった。
五反田はその第一陣に選ばれた。
また衆議院解散総選挙後に行われる特別会において徴用兵制度が廃止されるのが確定となった。
「気にするな、たとえ俺が健常でも俺はISを動かせる能力のせいで退役するのは早くても学園を卒業するまでは無理だろう。しかし五反田、この荷物の量はなんだ?」
五十嵐は片手に持つ旅行バックと五反田が両手に抱える荷物を交互に見て言った。
「案外、外の生活がよくてな。“ファッション”や“ゲーム”が楽しくていろいろ買ってしまった。」
彼は駐屯地には無い生活を満喫していた。
それを聞いて五十嵐は少し興味を持つ。
二人は改札を出て、待ち合わせ用のロータリーに面する歩道に出る。
「弾!」
大きな声で五反田の名前が聞こえ、二人は声がする方向を向いた。
そこには両親と見られる男女と同年代に見える女子が一人いた。
その女子は昔に寄った五反田定食の娘だと五十嵐は思い出した。
「弾!弾なのか...」
父親は五反田に駆け寄ると手を握って聞いてくる。
両脇に母と妹も駆け寄る。
「...弾...俺は五反田弾だよ、お父さん!お母さん!」
五反田は目に涙を浮かべながら、大きな声で言う。
そして十年ぶりに再会出来た思いで二人とも涙を流しながら抱きしめた。
いくつか言葉を交わすと五反田は振り向いて五十嵐を紹介した。
「五十嵐裕也海軍大尉、戦場で一緒に戦った戦友だ。」
「五十嵐です。」
お辞儀をすると五反田の両親がお辞儀を返す。
「私達の弾を無事に帰してくれた事に感謝します。」
「いえ、こちらこそ五反田が相棒で良かったです。」
「五十嵐さんは退役の予定はあるのですか?」
母親の五反田蓮は五十嵐の軍装姿を見て聞いた。
「今のところはIS学園生徒なので退役は先になります。」
五十嵐はIS学園警備隊から国防軍試験飛行隊への異動が決まり、戦闘職種から離れる事は決まっていた。
「そうですか。“五反田食堂”に何時でも遊びに来てね、弾も喜ぶから。」
母親はにこっりして言った。
「五十嵐!また今度会おうな!」
そして五反田の家族が軽自動車に乗ると弾は五十嵐に手を振った。
「ああ、戦場以外でな!」
冗談交じりに笑顔で応えると軽自動車は町の中に消えて行った。
五十嵐と織斑・デュノアは電車に乗ってIS学園に帰ろうとしていた。
電車が到着して三人が空いている座席に座った時、デュノアは五十嵐に聞いた。
「そう言えば、裕也くんは私服持ってないの?」
「そうだが、何か問題でも?」
「軍服は目立つし...何より勿体無いよ!」
デュノアは突然顔を振り上げてこちらを見た。
一方織斑はデュノアの言う事には同感だった。
学内では学園の制服以外に戦闘服か作業着、学外では制服という服装で前者は威圧感を与え後者は目立っていた。
この車内でも電車に乗車した人々がチラチラと五十嵐を物珍しそうに見て、子供達の中には目をキラキラさせて眺める子もいる。
それに自分とは違い五十嵐は贅肉の無い引き締まった体格に精悍な顔立ちを持っていた。
多くの生徒が兼業でモデルをやっているような学園で軍服や学生服しか着ない五十嵐はハッキリ言ってダサく見られていた。
一部の生徒からは支持を得ていたが。
今までの環境がそうさせたのかも知れないが非常に勿体無い、もっと服に気を配れば自分と違い好意を持ってくれる生徒が出てくるかもしれないと織斑は自分の事を自覚せずに思った。
だが五十嵐はやっと歩くことが出来るまでに回復したばかりだ、無理をさせるわけには行かない。
「シャルロット、裕也は回復したばかりで」
「よし、行こう。」
織斑の忠告を遮って、決然たる瞳で五十嵐はデュノアに言った。
五十嵐は織斑がいろいろ考えている間にデュノアにいろいろ吹き込まれ、さらに五反田の言葉を思い出して決断した。
その言葉にデュノアは目を輝かせて力強く頷く。
電車が臨海学校で織斑とデュノアが水着を買いに行った駅前のショッピングセンターがある駅に到着する。
デュノアは五十嵐の手を引張り、ショッピングセンターに入る。
彼女は人の世話を焼くのが好きなのだろう、特にファッションについてはと織斑は考えた。
服を一通り買え揃えると、紙袋を抱えてショッピングモール内にあるレストランへと入る。
冷房の効いた店内のテーブル席に通されると織斑が店員と会話してメニューを決める。
店員が去って行くと織斑は五十嵐にこれからの事を聞いた。
「裕也、これからどうするんだ?お前はもう戦わずに済む事になるが...」
五十嵐はあと一ヶ月もすれば戦いから離れ、普通の高校生と同じような暮らしが提供される。
だが五十嵐が直面している問題は“生きる意味”はなんなのか。
五反田以外の親しい友人をすべて失い孤独となり、軍務から事実上解放されるとなると彼は心の支えであった国家への献身をする必要がなくなる。
五十嵐が自殺しようとしたのは病んだ自分が国家の為に戦えないと判断したからでもあった。
医師は彼に人生の目的を与えることで回復に向かいやすくなるという助言もあった。
「...これから三年間はIS学園に所属することになるだろう。だがその先どうすればいいのか全然分からないんだ...」
五十嵐は俯いて言った。
戦場しか知らない五十嵐にとって外の世界は未知であり、どのような社会であるか分からず恐怖心もあった。
そしてその世界で何の為に生きていけばいいのか分からなかった。
織斑もデュノアもそのことは理解していた。
するとデュノアが励ましの言葉を掛けた。
「大丈夫だよ、まだ夏休みが一ヶ月もあるからその間に様々体験をすればいいし三年間もあるんだからじっくり考えればいいよ。」
確かに今はまだ八月に入ったばかりだ。
まだまだいろいろなイベントが控えているし、この社会を知る機会はいくらでもある。
夏休みで答えが出なくても冬休み・春休み、来年度だってあるのだからいくらでも考える時間はある。
「そうだな、まだまだ時間はある。俺も一緒に考えてやるよ。」
「僕も三年後の身の振り方の答えをまだ出していないから一緒に考えよう、裕也。」
「すまない、織斑・デュノア。」
五十嵐は二人の優しさに感謝する。
「お待たせいたしました。」
そしてランチがテーブルに運ばれる。
第四十六話です
③近況―バイト
最近必死にバイトを探しています。
けれど二件のバイトに応募して一件目が攻略失敗、二件目が結果待ちの状態です。
いろいろな業種を考えているのですが大学の授業と部活をしながらバイトしようとすると週2から週3で四時間から五時間が限界。これは大学近辺で働く条件で地元の周辺ならもっと働けると思います。親曰く『この条件じゃあ受かりにくいよ』と。あと自宅近辺だと居酒屋かいろいろ話題になってる牛丼チェーン店ぐらい。もう二件目が駄目だったら小説を書ける土曜日曜を潰して登録制のイベント会場のスタッフをやろうか考え中です。
次話に続く