―8月20日午後零時/官邸危機管理センター―
首相官邸の地下にある官邸危機管理センターは首相をはじめ閣僚達や国防軍首脳など安全保障に関わる面々が集まっていた。
そこに集まった者は一時間前に入った一報を受けて皆一様に絶望を飲み込むような表情をしていた。
約二時間前、隣国の大国である中華人民共和国において人民解放軍による軍事クーデターが発生。
親日派である汪総書記を始めとする中央政治局常務委員は全員北京軍区の陸軍部隊に捕らえられ処刑された。
汪総書記は白騎士事件後に総書記に就任、経済崩壊後の中華人民共和国を立て直そうと尽力。
その中で日本との関係改善を行い経済協力等で日本と協力しようとしたが国民からの支持は時が経つにつれ段々と失った。
だが前代の政権まで続いた反日教育は国民に深く浸透、さらに何時までも改善されない経済状態の不満も高まり国民は汪総書記を日本に媚びる売国奴と見るようになった。
そんな中で現われた
朱炳煥は軍国主義日本の打倒と中華人民共和国のアジア平定を掲げて国民の反日思想と中華思想を刺激した。
国民は熱狂的に支持し、国内にある日系企業の施設と日本人を襲撃を繰り返した。
朱は国民の暴動を止めるどころか奨励し、とうとう国民は在中国大使館を襲撃。
施設を放火したうえに大使館員を惨殺した。
この行為はもはや日本に対する宣戦布告に等しかった。
「現在様々な情報から推測するに五万人の邦人が現地人並びに地元政府によって殺害されたという報告が入りました。」
漆原首相はただただその報告を聞くしかなかった。
国防軍には邦人救出の任務はあるが不可能だ。
中国本土に兵力を送り込み邦人救出を行う、それは中国本土に国防軍に上陸させるという事。
それはすなわち中国と戦争するという事だが、日本にそんな兵力は無い。
「残念だが邦人を救出することは不可能だ。問題はこれから朱の中国はどう動くか?外務大臣、まず各国の対応を教えて。」
「はい。欧米諸国は中国に滞在する自国民に対して退避勧告を出しました。東南アジア各国など中国と隣接する国家は軍に動員をかけました。」
「統合参謀長、中国軍について分かっていることは?」
「まだ完全には分かりませんが現在分かっているのは衛星による偵察で中越国境に広州軍区の一個軍団と成都軍区の一部部隊が移動している事がわかりました。」
「ベトナムに侵攻するのか?」
首相は事態が急速に拡大しているのに驚いた。
まだクーデターが成功してから数時間しか経っていないはずが、軍を編成して隣国に攻め込もうとしている。
「クーデターはもとより一連のシナリオは前々から作られたのでしょう。」
納得して頷く。
「彼は中華帝国を作り上げる気ね。ならまずは裏切り者が立て篭もる台湾に攻め込むはず、問題はその先の琉球と駐留するフランス軍の動きだ。」
「まだ我々の得られている情報では」
すると会議室に首相と外務大臣の秘書官と国防軍情報局の士官が入出してそれぞれの上司に報告する。
「先程フランスと中国が軍事同盟を結びました。」
三人の耳に同じ報告が持たされた。
秘書官が退室すると首相はその意味を含めて切り出した。
「先程フランスが中国と軍事同盟を結んだようです。我々はシーレーンを抑えられました。」
日本の生命線であるシーレーンは中国とフランスの勢力下にある。
日本に向かうタンカーやコンテナ船は勢力下を通らなければならず、開戦すればすぐさま封じるだろう事は容易に考えられる。
そうなれば日本は一切のエネルギーや材料が輸入できなくなる。
また琉球諸島を通って中国とフランスの潜水艦が太平洋側で通商破壊が可能となる。
「船会社にはパナマ経由で通ってもらわないといけなくなるね。その分輸入が滞るか。そこは海軍参謀長に輸送船の護衛を任せとるとして、統合参謀長。日本は中国と戦えるか?」
その問いに統合参謀長は頭を横に振って答えた。
「国防軍は日本防衛するのが限界、いやそれも難しいでしょう。我々の総兵力は七十万人に対して中国・在琉フランスの総兵力は二六十万人。またBMDシステム、弾道誘導弾防衛システムは完全ではありません。仮に中国とフランスがすべての弾道誘導弾並びに各種誘導弾で攻撃された場合五割しか撃墜できないと推測しています。」
「そんなに低いの?」
「はい...現在の技術ではこれが限界です。」
首相と閣僚達は絶望の淵に立たされた気分にされた。
「提案があります!」
すると空軍参謀長が立ち上がって提案した。
「何かいい方法でも?」
やつれた声で聞き返す。
「ISをBMDシステムに組み込む事です。」
その発案に閣僚達は驚きの声を上げる。
「そうか...白騎士事件を再現すれば」
「そういうことか」
統合参謀長は付け加えて言った。
「実を言うと国防軍内部で計画されていた案で、完成目前の第三世代IS“紫電”には対弾道誘導弾迎撃用の装備を開発させてました。」
それに対して外務大臣が怒声を発する。
「どういうことだ!君たちはアラスカ条約を無視する気だったのか!」
「違います。もしもの際に」
「ああそうだろうな!だが君達は考えられないのか!もし我々がアラスカ条約を破棄して使い始めれば世界の国々、中国やフランスだってISを戦争に投入するぞ!そうなれば世界は破滅的な損害を被ることになるんだぞ!」
「もうよい!」
首相は外務大臣の言葉を遮ると自分の考えを言った。
「私はこの国を存続させる為にはどんな手段も取る。それが国際法違法と言えども、第一相手が国際法どころか法というものを失っている。対するのは我々も相応なる手段を使わなければならん!」
首相の言葉に閣僚達は息を呑む。
彼女は一切の迷いを捨て決断を下す。
「統合参謀長、すぐに万全な防衛体制を構築させろ。特に海軍参謀長、戦時には輸送船団を絶対に守るんだ。財務大臣、外貨をすべてを使ってでもいいから石油を大量に買え。外務大臣はフランスと中国に敵対する国々と協力を取り付けろ。特にアメリカは我々の国土が焦土化しても戦い続ける為にはあの国の工業力が必要だ。国交大臣、すぐに地下壕の建設を急げ、足りない場合は地下鉄を避難施設にしろ!」
首相の指示に従い動き始める。
そんな中で文部科学大臣は手を上げる。
「首相、どんな手段でも使うと言いましたが徴用兵の招集もお考えですか?」
彼女の問いに首相は否定した。
「絶対に使わない。この国の将来を担うのは若者だ、これ以上死なすことは出来ない。あと文部科学省管轄のISを国防軍に提供しなさい。」
そう言って閣僚達に指示する事に戻る。
「そうですか。」
文部科学大臣は同意しつつも首相のそばを離れると不愉快な表情をして舌打ちした。
第五十一話目です。
様々な事に追われながら空いた時間で急いで書いています。
大学にはいってからの勉強、特に語学はきついですね。
今日も語学の勉強して夜中に一気に書き上げる生活です。
なかなか国際情勢とか陰謀とか考える時間が無くお粗末な結果になってるかもしれません。
すみません。
もしご意見がありましたら感想欄でお教え下さい。
ではまた今度。