学園の守護者   作:新稲結城

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第五十三話 激務

-8月25日午後12時/首相官邸-

 

 

 

 

 

 

 

漆原首相は執務室に入ると椅子に勢いよく倒れる。

フランスの琉球進駐から連日に及ぶ厳しい政務をこなして体は限界であった。

やっと衆議院において『知的・身体障害者並びに棄児と低所得者の男児徴用法』の撤廃法案が可決され、三日後の今日に否決された。

残念ながら参議院は国民党が多く議席を持ち、ねじれ国会の状態であった。

また緊迫する情勢の中、国防軍の大部分を占める徴用兵の解散は連立する他党の中には国民党に賛同を示すような素振りを見せた。

中国・フランスの脅威に対処しながら他党との連携を図るために連日駆けずり回り可決を勝ち取った。

 

「すぐにお茶を用意します。」

 

その様子を見て秘書はお茶を入れに部屋を出ようとすると入れ替わりに統合参謀長が入室する。

ゆっくりと起き上がると椅子に座るように指示をする。

 

「失礼します。ベトナムの戦況は芳しくありません。」

 

椅子に座りながらそう切り出した。

 

「中華連邦空軍は深夜の内にベトナム空軍を壊滅させ、ベトナム海軍も同様に各個撃破され壊滅しました。反日で中華連邦軍は首都ハノイを陥落させ陸海軍共同でフエに上陸。ベトナムは南北を分断されました。」

 

「何日間が限界?」

 

「...せいぜい三日、よくて一週間が限界だと思います。」

 

「そうか。」

 

首相は毎日のように入る悪い知らせに顔を手で覆い溜息をつく。

朝には台湾が危ない、委員会出席しているとフィリピンが危ないという具合だ。

徴用兵の兵力を使わない以上、七十万人の志願兵で中華連邦の侵略に対抗しなければならない。

けれどこの兵力では東南アジアへの派兵は当然ながら行えない。

日本を守る事で精一杯であり、ベトナムとフィリピんの要請は無視するしかなかった。

今思えば要請を断らず、海軍の航空艦隊だけでも送ればよかったと後悔する。

ベトナムとフィリピンの要請を断った事で『日本は中華連邦の侵略に立ち上がろうとしない』『東南アジアを見捨てた』と東南アジア各国から批判された。

日本の軍事力を頼りにしていた多くの国は中華連邦への編入を認めるしかないという考えが大きくなっていた。

こうなれば日本は東南アジアの道を失い、インド洋から来る輸送船は日本に来ることが出来なくなった。

通ろうとしても中華連邦・フランスそして東南アジア各国の海軍により封鎖され、撃沈されるだろう。

なんとかアメリカとオーストラリアの協力を得る事が出来、海外からのエネルギー輸入はひとまず安心出来る。

それも海軍が守り切れればの話だが。

 

「わかったわ。そっちには朝鮮にいる部隊の撤兵計画をすぐに立案して。」

 

「わかりました。」

 

統合参謀長は激務で疲れているのを知っているのですぐに執務室を出る。

秘書がお茶を持ってくると一気に飲み干し、次の委員会まで執務室に緊急の報告以外で入らせないように命じた。

ソファに寝転がると今度は机に置いた携帯電話が鳴る。

 

「今度はなによ...」

 

鬱陶しく思いながら携帯を取り上げると画面に表示される電話番号を見る。

電話番号を見ると携帯を耳に当てる。

 

《お疲れ様です、首相。》

 

「そちらこそ、更識さん。」

 

電話の相手は更識楯無だった。

 

「それで今月の掃討作戦はどうだった?」

 

《はい、五つの拠点を制圧。七十丁以上の小銃及び拳銃と手榴弾三十個、大量のプラスチック爆弾を押収しました。》

 

毎月、日本へ攻撃しようとするテロリストなどを秘密裏に抹消している報告であった。

 

「御苦労、それで二人の方は?」

 

《今のところ五十嵐くんが織斑くんをなだめているお陰で馬鹿な行動を起こしてはいません。》

 

「そう。それで彼とは話したの?」

 

《はい...五十嵐くんは卒業後は国防軍に再入隊すると。》

 

更識は少し間を置いて答える。

それを聞いて首相は残念そうな顔をしたが、内心ではそうなると覚悟していた。

自分と過ごした時間より軍隊での生活が長い分、社会で生活するよりも安心するのだろう。

それに息子が決めた事なら邪魔せず、応援する事が母親の勤めだと思っていた。

 

「そう、彼が決めた事ならしょうがない。」

 

首相は力強く考えを言う。

続けてボソッと言葉が漏れ聞こえた。

 

「...出来れば普通に暮らして貴方のような子をお嫁さんに」

 

《はい!?》

 

それを聞いた更識の声はとても上擦り、電話を間に挟んでも酷く狼狽しているのが分かった。

しかし首相は気付かずにそのまま続ける。

 

「同い年で美人で頭もよく仕事に対しても真面目に働いてくれる子なら...って私は何を話しているんだ。すまない、更識。」

 

《ですが私は防諜機関の長であり...彼とは対等な立場に...》

 

「何を言っているんだ、更識?」

 

《い、いえ何でもありません!以上で報告終わります。》

 

「ありがとう、この先も我々を妨害するものが現われる。国家・国民の為に勤めてくれ。」

 

電話を切るとポケットに携帯を仕舞い込み、立ち上がる。

 

「さて息子達の為にもあの法案を廃止しなければ。」

 

そう意気込んで、漆原首相は執務室を出た。




第五十三話です。

第四章も予定ではあと二話になりました。
今日、いつものように満員電車に押し込められ大学へ通学中、大の大人二人が喧嘩し始めて驚きました。
最近大学の英語やドイツ語の授業で小テストが行われるようになり勉強が少し忙しくなりました。
バイトの件は四件受けて四件落ちる四戦四敗の状況です。
先方の話だと『夏休みに一週間抜けられるのは...』らしいです、あと四日以上は行って欲しいとか。体育会の部活なので難しいです。

ここからストーリについて。
ちょっと更識さんが五十嵐に行為があるように書いていますが、前のようにイチャイチャすることはありません。ネタバレですがこれから書こうとしているテーマは『昨日まで友人・恋人が次の日になると敵同士になっていた』というのを書きたいんですね。そのために凰と更識には犠牲になってもらいます。

ではまた今度。
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