第五十六話 制圧
8月31日に起きた“国会議事堂爆破事件”により漆原首相は死亡した。
“日本国首相の継承順位”により生き残った村瀬文部科学大臣に首相の権限が移行した。
村瀬首相代行は憲法の一時停止を宣言、首都圏に戒厳令を敷き国家親衛隊に出動を命じた。
さらに事件発生から二時間後、国会議事堂の爆破は領海内に侵入した潜水艦から発射された巡航誘導弾だと発表。
さらに国防軍のいくつかのレーダーサイトが武装集団に襲撃され破壊されたことも合わせて発表した。
これらの首謀者として更識楯無の名を上げ、そして彼女の実戦部隊“楯”の存在を明らかにし、レーダーサイトを襲撃したと発表した。
彼女達と“盾”と呼ばれる部隊、さらに手引きをした軍人として数人の将官に逮捕状が出された。
逮捕状を出された人々の共通点は漆原政権に対して協力をした者達だった。
また攻撃を防げなかった責任を漆原政権に協力的だった軍首脳部に突きつけ解任。
軍首脳を入れ替え、若い女性の将官で固められた。
村瀬首相代行はこの攻撃を中華連邦の攻撃だと言い放ち、日本国は戦時体制に移行することを宣言。
国防軍に解放した徴用兵の招集を命じ、さらには十五歳から三十歳までの男子の徴兵準備を命じた。
そして外務省に対しアラスカ条約の破棄と国際IS委員会からの離脱を指示した。
-8月31日午後6時45分/羽田国際空港上空-
一機のビジネスジェットが羽田空港の滑走路に着陸した。
その機体はIS学園が所有するビジネスジェットであり、機内にはアラスカから帰国した轡木十蔵が乗り込んでいた。
滑走路に着陸して駐機場に進んでいる間、轡木は窓から外を見た。
テロを受け民間機の飛行は禁止され、空港の業務は殆ど停止して空港は静かであった。
駐機場に入る頃、携帯が鳴る。
「ああ、更識くんか。」
《“ああ”じゃないですよ、十蔵さん!なんで空港に着陸したんですか!》
電話をかけた更識楯無は十蔵に大声で怒鳴った。
彼女は村瀬首相が首謀者である事はわかっていた。
爆破の直前に飛び込んできた情報、“村瀬文部科学大臣は裏切り者だ”という情報。
漆原首相代行に協力していた者が次々と逮捕される中、次は自分と轡木十蔵だとわかっていた。
事件直後、更識は轡木に事態を説明してアメリカに戻るように進言した。
「大丈夫ですよ、私は裏ではありますが理事長です。簡単には手が出せません。」
当然ながらアラスカ条約ではIS学園関係者の身元は保証されていた。
《もう村瀬はアラスカ条約を破棄しようと》
必死に喋る更識の言葉を遮って轡木は言った。
「それに生徒達の為にも私は帰らなければならない。」
そう言って轡木は携帯を切った。
ビジネスジェットは駐機場に停止すると二台の黒いバンが赤色灯を点滅させながら横に止まる。
ドアが開放されラッタルが下がると彼はビジネスジェットから降りる。
目の前には完全武装した国家親衛隊の隊員達が待ち構えていた。
「あなたが轡木十蔵か?」
ひとりの隊員が轡木の前に来る。
彼の顔はまだ幼かった、十五~十六歳あたりだろうと思った。
「そうだ、私が轡木十蔵。」
「あなたを外患罪で逮捕します。」
-8月31日午後6時50分/IS学園生徒会室-
更識は無言で携帯をポケットを仕舞った。
轡木十蔵は逮捕されたのは確実だ、次は私たちの番だと感じていた。
「熱いよ~もう終わりでいい?」
「駄目、まだ処分しなけれならない書類が一杯あるんだから。」
布仏虚とその妹である本音は一斗缶に次々と更識家に関する機密書類を燃やしていく。
二人の顔は炎の熱で赤くなっていた。
更識はこれからどうするか考える。
“盾”の部隊は立川駐屯地の地下に基地を構えるが、そこは国防軍の特殊部隊と国家親衛隊隊に襲撃されおそらく全滅。
唯一テロ組織のアジトを制圧しに出動していた杉崎大尉と第一小隊は難を逃れたが連絡が取れない。
それにIS学園は国家親衛隊と国防軍IS学園警備隊に包囲されている。
逃げ出す方法と言えば自らのIS“ミステリアス・レイディ”を使っての強行突破。
けれど二人を抱えて戦闘しながら突破するのはいくら相手が通常兵器しか所持していないと言っても不可能。
二人を置いて逃げることも出来なかった。
その時、正門の方向から鉄が軋む音が聞こえた。
-8月31日午後7時/IS学園正門-
正門は二重の門で守られ、外側の門は警備隊・内側はIS学園の管轄だった。
外側の門は開かれ、内側の門に向けて05式装甲戦闘車が突進する。
職員はその光景に驚くもどうすることも出来ないので退避する。
05式装甲戦闘車は門に衝突してそのまま馬力で門を押し倒し、続いて高機動車改型と73式大型トラックが続々と侵入する。
学園の各所に車列は停止して、第一警備隊と第一国家保安連隊の隊員達が降車して施設を次々と制圧していく。
寮も制圧され、学生達に兵士達は部屋に留まるように命じられた。
第一警備隊の指揮官は職員室に入ると理事長と校長・教頭とその場にいた教員達の前で宣言した。
「現時刻をもってIS操縦者育成特殊国立高等学校は日本国の管理下に置かれる。職員はこれより我々の指示に従って行動するように!」
山田先生から報告を受けた織斑千冬は寮の宿直室から飛び出した。
「お前ら、ここでなにしている!」
一年生寮から飛び出すと近くにいた兵士に詰め寄る。
「止まれ!」
第一国家保安隊の隊員は89式小銃を向けるがその前に織斑は小銃を蹴り飛ばした。
一瞬の事に驚いた隊員は殴りかかろうとしたが逆に首根っこを掴まれ、空中に持ち上げられた。
「ここはアラスカ条約によって学園の敷地はあらゆる国家機関に属さず、いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されないということは知っているよな?」
その状況に数人の隊員が銃口を織斑に向ける。
緊迫した状況で双方引き下がらず、隊員達の人差し指に力が入る。
「銃を降ろせ!」
すると聞き覚えの声が聞こえた。
隊員が道を開けると一人の国防軍兵士がいた。
88式鉄帽を脱いだ兵士を見て織斑は驚く。
「五十嵐!何をやっているんだ!」
いつも生徒を叱るような口調で五十嵐に食って掛かる。
彼は表情を変えずに淡々と話す。
「国防軍兵士として任務を遂行しています。」
彼の目は気の立った目つきをして、なにかとてつもない覚悟を持った目であった。
ここに入学したばかりの時とは違って自ら感情を押し殺しているように感じた。
織斑はいつものような毅然とした態度で臨む。
「何をする気だ、ここで?」
「私の任務は更識楯無並びに生徒会役員布仏本音・布仏虚の逮捕。抵抗があった場合その場で“射殺”せよと命じられています。」
「お前はあれを信じているのか?更識はあんなことをする奴じゃないとわからないのか。」
彼女は更識を知る人間で、どう考えてもこのような行為をするわけが無くする必要も無い事はわかっていた。
だが更識を完全に敵だと見なす彼は聞き入れなかった。
「ただ軍人として任務を遂行するだけです。その他のことはIS学園警備総隊司令葛西准将にお聞き下さい。」
彼はそう言ったが、心の内では復讐心に燃え上がっているのはわかっていた。
しかし彼女に彼の復讐を止める術は無い。
五十嵐は踵を返すと十名ほどの兵士を率いて生徒会室のある建物に向かった。
「よし、職員室に行け。」
国家親衛隊の隊員の一人がそう命じた。
織斑は二人の隊員に付き添われて職員室に向けて歩き始めた。
そして職員室のある校舎に入ろうとした時、生徒会室が入る建物の方向から爆発音が聞こえた。
続いて銃声が学園に響いた。
第五十六話です。
やはり連続投稿はいけなかったな。
誤字脱字を確認する暇がないし、細かく書くことが出来ない。
また来週も書きたいがドイツ語と英語のテスト、さらに二週間後には長野県の山で二泊三日。
...頑張ろう。
ではまた今度。