ルーマニアでの戦闘で更識家は当主である更識楯無を除いて死亡、組織は壊滅した。
彼女はアメリカ本国に連れて行かれ、アメリカの思い描く新世界の建設へ協力するように説得された。
どんな返事をしたかは五十嵐は教えられなかった、いや聞くことはなかった。
それから三ヶ月、世界大戦の状況は大きく変わった。
ヨーロッパではヨーロッパ連盟軍が幾度も空爆を受け弱ったイギリスへの上陸作戦を決行した直後、ロシア連邦が自国領内へヨーロッパ連盟軍の爆撃機が空爆したことを理由にヨーロッパ連盟へ宣戦布告、対仏同盟に加わりロシア連邦軍は雪崩のように東欧に侵攻した。
これに対してフランスを中心とするヨーロッパ連盟軍は予備軍を派遣し、防衛するがロシア連邦軍の進撃を食い止める事が出来ず、ロシア連邦軍がドイツのエルベ川に到達した時に戦術核を使用。
前線に配置されたロシア連邦軍各部隊は壊滅し、一時ポーランド国境線まで押し返されたがロシア連邦軍はこれに対して戦術核を使用して攻勢に出た。
このため中央ヨーロッパは核兵器の爆発により荒廃、人々が住めない土地となった。
しかしこの戦術核の撃ち合いはフランスとロシア双方とも本土に対して使用しなかったため、戦略核による全面核戦争には至らなかった。
一方、アジアでは日本国国防軍が琉球共和国並びに台湾の解放に成功した。
しかし東南アジア諸国へ派遣された東南アジア派遣軍とフィリピン派遣軍は苦戦を強いられていた。
東アジア最強の海軍と評された国防海軍もアジア全域の海を守りきることは不可能であり、多くの輸送船が中華連邦海軍の潜水艦に撃沈され輸送は滞っていた。
またジャングルでの戦闘が数ヶ月も続き、感染症が兵士達に蔓延していた。
中国大陸では朝鮮半島から進撃する国防陸軍は中国大陸北部を破竹の勢いで進んでいた。
さらに国防空軍と国防海軍による共同の空爆作戦で沿岸部は壊滅状態になり、爆弾の中には名古屋への核攻撃への報復として原発から出された放射性廃棄物をもとにしたダーティー・ボムも実戦投入された。
これがどのくらいの被害をもたらしたか不明だが、結果沿岸部の経済都市は灰燼に帰した。
この事が中華連邦国内で広まり、朱炳煥総書記の政権は求心力を失い人々は政権へ反旗を翻し始めた。
新疆ウイグル自治区やチベット自治区・青海省では大規模反乱が発生し、各軍区ではクーデターの噂が流れるようになっていた。
-2013年5月23日午前10時/南大西洋のある無人島-
波の音しか聞こえない白浜に轟音を響かせ数機のISが着陸する。
スコール・ミューゼル率いるアメリカ合衆国空軍第1特殊作戦航空団第2特殊作戦飛行隊はこの世界を作った元凶である篠ノ之束のアジトがあるという報告をもとに無人島へ上陸した。
飛行隊が保有するIS八機全機を投入しての作戦だったが、五十嵐はこの作戦に疑問を持っていた。
今まで篠ノ之束の身柄確保又は殺害にアメリカを始めとする国々が総力を挙げておこなってきたがことごとくすべて失敗、酷い時は逆に罠に誘い込まれて部隊が全滅したことだってある。
『フェニックス、入口の爆破をお願い。』
さっそくミューゼルから命令され、五十嵐は“紫電”の44口径120mmM258ライフル狙撃銃を構える。
そして他の隊員が見つけたアジトへの入口に向け、榴弾を撃ち込む。
重厚な扉に榴弾が炸裂すると扉はくの字に曲がり内部へ吹き飛ばされた。
『総員、突入』
隊員達はミューゼルを先頭にアジトへ突入する。
入口は小さい為にISを展開したままでは入れない為、展開を解除する。
そしてFN―P90を構え、部隊の最後尾からついて行く。
狭い通路を一列になって進む、暗く明かりがなければ一寸先も分からない。
下り、曲がり、また下り、また曲がりと迷路のように通路は続く。
ここで襲われたらひとたまりもないだろうと考えるが、特に何も起こらなかった。
すると通路の先に光が見え、それに向かって進む。
「案外、空間は広く出来てるな。これならISを展開させても戦闘機動がおこなえる。」
光の先に出るとそこは金属の壁で囲まれた天井の高い広い部屋だった。
全隊員が散開して前進し続けると、突然五十嵐は上下左右もわからない世界が広がった。
その瞬間、周囲から銃声と悲鳴が木霊する。
そして無音の状態になる。
「隊長!」
五十嵐は白い世界でミューゼルや他の隊員の名を叫ぶが返答はなかった。
右往左往していると白い世界から天井の高い部屋に戻され、見たものは飛行隊の隊員の死体だった。
金属の床に四肢が切断されたり、上半身と下半身が切り離されたり、つぶれた死体が転がっていた。
ミューゼルも同様に頭部が半分陥没した姿で見つけた。
「銃を捨てて。」
背後から少女の声がした。
この惨状を作り上げたのは彼女なのだろうと思い、おとなしくFN-P90の弾倉を抜いて床に捨てる。
「ISの待機形態も、こちらに投げて。」
首に下げた認識票、待機形態の“紫電”を外して後ろに投げた。
「こっちを向いて。」
指示通り振り返ると銀髪の少女が拳銃を構えて立っていた。
一瞬五十嵐はボーデヴィッヒと勘違いしたほど雰囲気が似て、さらに黒の眼球に金の瞳の目をしているのに驚いた。
「そこの部屋に入りなさい。」
天井の高い部屋の壁の一部が開き、ゆっくり歩いて部屋に入る。
そこはいくつものディスプレイが並んだ部屋で、他に工作機械らしきものも見受けられた。
しかしそれらは死んだように動きを止めていた。
「君が探していた束さまは奥にいます。」
言われたとおり奥に行くと、そこには寝台に横になった篠ノ之束の姿があった。
それを見て五十嵐は悟った。
「世界がこんな状態になっているのに、こいつが静かにいる事が不自然に思ったが...死んだのか。」
銀髪の少女はコクリと頷く。
「束さまは大戦がはじまる前、学園が襲撃され親友である織斑千冬が死んだことにショックを覚え、自殺しました。織斑千冬のいない世界は彼女にとってどうでもいいのでしょう。」
「科学者の癖に織斑先生のあとを追ったと?」
信じられなかった、この狂った人間が死んだ人を追って自殺するような人間だとは。
「最後に束さまはいつか男性IS操縦者のうちどちらかが来た時までここを守り、その方に事実を伝えるように言われました。」
彼女は認識票を五十嵐に投げ返すと自らのこめかみに拳銃の銃口を突き付けた。
「私は最後の言い付けを終えました。私、クロエ・クロニクルはあの世で束さまに仕えるため死にます。この施設は私の生体反応が消えると五分後に爆破します。急いでこの島を離れてください。」
そう言うと彼女は躊躇いもなく引き金を引いて自らの頭を吹き飛ばした。
五十嵐は言われた通り走って施設を出ると急いでIS“紫電”を展開して島を離れた。
五分後、無人島は閃光に包まれ爆音と共にきのこ雲に包まれた。
そして晴れた時には無人島は跡形もなく消えていた。
-2013年5月23日正午/アメリカ合衆国ワシントンDC・ホワイトハウス-
「そうか、御苦労。」
昼食をとろうとした時、ターナー大統領はオーバルオフィスで電話を受けた。
電話をしたのは国防総省長官で、『篠ノ之束は死んだ』と彼は伝えられた。
「IS部隊は壊滅したが、それ以上の成果をもたらした...よしすべては整った。戦争を終わらそう。」
そう言って大統領は昼食をとりにオーバルオフィスを出た。
第七十話です。
大学の講義が休みになって書く暇が出来たので投稿しました。
もうこの小説も終わりに近づいていますね。
ではまた今度。