-2013年6月15日午後1時/神奈川県大磯町-
五十嵐少佐は高機動車の中で揺らされながら前線司令部の置かれている大磯運動公園に赴いた。
戦闘停止命令が全軍に行き渡ってから二時間、司令部に向かう道には降伏した大量の徴用兵が臨時政府軍の監視下で列を作ってゾロゾロと歩く。
どの徴用兵も生気のない顔で俯く、彼らはまだ何が起きたか理解していない様子だった。
それもそうだ、彼らは絶対的忠誠を誓った政府と軍が敗れ捕虜になるということは一度も考えたことはない。
いや考える余地もない、彼らはそう教えられてないからだ。
幸い彼らの指揮官は勇気ある降伏を選んだおかけで彼らは助かったのだろう。
そう思いながら彼の乗る高機動車は列の横を進む。
すると運転している一等兵が前を見て言った。
「少佐!あれは?」
そう言われ前を向くと列の脇で倒れた徴用兵に二人の兵士が銃底で殴りつけていた。
「すぐに停めろ!」
一等兵に命じて高機動車を停めさせると助手席から降りて二人の兵士に向かって歩く。
近づくと殴りつけられていた徴用兵の顔は原形を留めず、脳漿が割れた頭蓋骨の間から飛び出していた。
「お前達!何やっている!」
二人の兵士の中の一人に詰め寄ると怒声を浴びせた。
すると兵士は悪びれる様子もなく返り血を浴びた笑顔で敬礼して答えた。
「はっ、少佐!突然座り込んだ徴用兵に歩くよう命じたのですが何も答えなかったので命令を聞かせるために殴りつけましたら死にました。」
彼の表情は悪を倒して正義をおこなったと語っていた。
「君の与えられていた任務はなんだ?」
「はっ、降伏した徴用兵の移送を監視することです!」
「その任務に徴用兵を殺すという命令はないな?」
兵士は答えに窮する。
「...自分はただ命令の聞かない徴用兵に命令を聞かせるためにやっただけです。」
「こいつを見ろ、脳漿をぶちまけるほど殴るのはやりすぎだと思わないか?」
すると兵士は開き直って叫んだ。
「徴用兵を殺して何が悪いんですか!こいつらは俺の家族や親友を殺した、そして俺から平穏な人生を取り上げた!そして国をこんなにした女性主義者の犬共を殺して何が悪いんですか!本当は全員殺したい!女性至上主義者とそれに協力した金持ち、IS乗り、そして徴用兵を殺して何が悪い!これでも我慢しているんだ!たった一人くらい!」
五十嵐は黙ってホルスターから9mm拳銃を引き抜いて兵士の頭に向ける。
拳銃を向けられ兵士は黙る。
「君は命令不服従をおこなっている。ここで特設軍法会議を開く、誰かこの隊の士官を呼べ!」
士官を呼ぶように周囲に命じた時、運転手の一等兵を除く周りの兵士が八九式小銃を彼に向けた。
「誰が徴用兵少佐の命令を聞くか!」
「お前も女性主義者のシンパだったくせに鞍替えして上官面か?」
「こいつを殺すならお前を殺してやる、人非人め。」
周囲を囲んで彼らは五十嵐に罵声を浴びせる。
この状況を見て彼は自分は彼らにとって人以下の存在だということを。
昔IS学園で日本代表候補生などから言われた言葉と似ていた。
「お前達!すぐに銃を降ろせ!」
騒ぎを聞きつけた指揮官が駆けつけ、この騒動はなかったことにされた。
「彼らの多くは政権に親しい人を殺されたり、拷問された兵士もいる。大目に見てやってくれ」と指揮官に言われ五十嵐は引き下がった。
その場を高機動車で去り、大磯運動公園の前線司令部に到着する。
そこには天幕がいくつもたてられ前線司令部、後方支援部隊の拠点、そして臨時政府の国民裁判所だ。
国民裁判所では捕らえられた女性至上主義者の政治家や官僚から一般人まで分け隔てなく臨時政府の議員と選出された国民の裁判官によって裁かれていた。
弁護人なしで上訴も抗告もできず判決は一度きり、有罪となれば死刑だ。
証拠がなくても裁判官に女性主義者と見なされた者は全員有罪にさせられ銃殺刑にされていた。
今も天幕の前に多くの人が兵士の監視下で裁判を待ち、裁判が終わった者はトラックに乗せられた。
トラックに乗せられた者は人気の無いところに連れて行かれ処刑される。
その光景を横目に五十嵐は前線司令部のある天幕に入る。
「五十嵐少佐、入ります。」
天幕の中に入ると大きな地図などが置かれた長机の先に大森大将の姿があった。
「久しぶりだ、五十嵐くん。おい、すぐにこの子に椅子を持ってきてくれ。」
一人の兵士が持ってきたパイプ椅子に座ると単刀直入に異動命令を言い渡された。
「君には一個小隊と共にIS学園に向かい学園警備総隊の指揮官となってもらう。」
突然の指揮官を任じられ驚く。
「私にですか!階級は少佐ですよ!」
「大丈夫だ、向こうには指揮官不在の国家親衛隊の二個連隊と国防陸軍の一個連隊が駐屯している。向こうにいるのは君より階級の低い者達だけだ。それに徴用兵主体だ、君は彼らとって英雄だ。命令に従うだろうし、未だに抵抗している部隊を制圧して本隊が到着するまで部隊を纏めるだけでいい。」
話を聞くと学園警備総隊に村瀬首相が死亡したと伝わると指揮官達が一斉に姿を消して指揮官不在となり、下士官たちが纏めてはいるが三千人規模の部隊が暴挙に出る危険があるため徴用兵で一番階級の高い五十嵐に指揮官となることが決まったというのだ。
「わかりました。」
渋々彼は承諾した。
そして五十嵐少佐は迎えに来たV-22J“オスプレイ”に一個小隊と共に乗り込み、東京湾に浮かぶIS学園に戻った。
第七十四話です。
この次から最終章に入ります。
内戦パートが短かったですね。
そういえば艦これの秋イベは全ステージクリアしました。
ドイツ海軍好きなのでプリンツ・オイゲンを入手した時歓喜しました。
でも入手ばかりで育成が追いつかない、特に駆逐艦。
ではまた今度。