-2013年6月17日午前1時/指揮所会議室―
五十嵐少佐は作戦計画と武器弾薬・糧秣をどのように賄うかを内田中尉と足立大尉と共に考えていた。
糧秣に関しては近くのスーパーなどの店舗から“徴発”する事にして二個大隊をトラックと共に向かわせた。
だが武器弾薬に関してはどうすることも出来ないように思い、三人共に匙を投げていた。
「すみません、少佐。」
そんな時、一人の兵士が会議室に入って来た。
「なんだ?」
「先ほど連絡橋の防衛にあたっている小隊から不審者を捕らえたと報告があったのですが...」
兵士の要領のえない話に五十嵐はイライラする。
「で、なにがあったんだ。」
「それが、不審者が“国防陸軍近衛師団の者”だと名乗って指揮官に会わせろと言っているのですが...]
それを聞いて五十嵐は立ち上がる。
「すぐにここに呼んで来い!」
「了解!」
兵士はすぐに会議室を飛び出して行った。
内田中尉は五十嵐少佐に注意する。
「少佐、相手が誰か分からない状態で会うのは危険です!」
だが五十嵐少佐は内田中尉の言葉にこう返した。
「こんな状況じゃあ何かすがれるものにすがるしかない。これはチャンスかもしれないんだ。」
するとすぐに兵士が戻って来た。
そして会議室に私服姿の男性を連れてきた。
見た目はチャラチャラした若者に見えるが、体はよく鍛えられた身体であり五十嵐達に見事な敬礼を見せた。
「国防陸軍近衛師団の牧瀬少尉です。」
「指揮官の五十嵐少佐です。単刀直入に聞きます、今日は何の為に?」
「君達に武器の援助を申し出たい。」
三人は顔を見合す、ここまでうまい話はない。
「なぜ近衛師団が武器を我々に援助する?」
五十嵐がそう聞くと牧瀬少尉は答える。
「これは皇帝陛下の頼みで、皇帝陛下は無実の市民がこれ以上殺されることを望んでおりません。そのため皇帝陛下は我々近衛師団に武器を援助するように願われ、師団長は願いを聞き入れ援助することを伝えに来たのです。」
それを聞いて内田中尉が質問する。
「牧瀬少尉、我々は国民から敵と見られています。その敵に皇帝陛下が武器を援助したとなれば国民は黙っていないでしょう。最悪、皇帝陛下の身に危険が及ぶかもしれません。そのことは分かっているんですか?」
牧瀬少尉は頷いて答えた。
「皇帝陛下は覚悟の上でお決めになられました。また援助する為にひとつ演技をします。」
「演技?」
「はい、貴方がたの部隊で皇居を包囲し我々を武装解除してください。それならば我々は被害者です、皇帝陛下に非難は及ばないでしょう。」
「そうか、わかった。我々は援助を受けよう。」
五十嵐は即断した。
牧瀬少尉が退室すると内田中尉は猛反対した。
「少佐!これが罠かもしれないと考えないのですか?」
「ああ、その可能性もあるが我々は提案に乗るしかない。すぐに二個大隊用意しろ、私が直接出向く。」
「少佐!」
「もしもの場合は内田中尉、後を任せる。」
そして足立大尉に五十嵐少佐は命じた。
「君達国家親衛隊は今ある武器弾薬を持って臨時政府軍を食い止めろ。時間を稼ぐだけでいい。」
「わかった。」
そして“第一学園連絡橋”を通って五十嵐少佐率いる二個大隊は皇居へ、足立大尉の率いる残存国家親衛隊二個連隊は南下し多摩川へ向かった。
五十嵐少佐と牧瀬少尉は二個大隊と共にトラックで皇居に向かう。
そして北の丸公園にある近衛師団司令部庁舎に到着し、二個大隊千名の兵士を展開すると形だけの投降勧告を行う。
「我々はIS学園警備総隊である、皇居は完全に包囲した。すぐに投降せよ!」
拡声器を使って勧告するとすぐに窓から白旗が立てられ、一人の将官が出て来た。
「近衛師団長林田中将だ。我々は降伏する。」
「我々は目的が済めばすぐに帰る。それまで大人しくして欲しい。」
「わかった。」
すぐに牧瀬少尉の案内で近衛師団の弾薬庫から武器弾薬を次々とトラックに乗せ、さらに155mm榴弾砲FH70を牽引させた。
全部で三十門の榴弾砲と多数の迫撃砲、対戦車誘導弾などを確保することに成功した。
「ありがとうございます、牧瀬少尉。」
「お礼は私ではなく師団長、いえ皇帝陛下にしてください。」
牧瀬少尉に別れを告げるとすぐに車列を組んで学園島に戻る。
途中、民衆の襲撃も容赦無く銃撃を浴びせ車輌で轢殺し無停止で進んで帰還することに成功した。
三十門の155mm榴弾砲FH70は地下施設に運び込まれ、砲座に据えられた。
砲兵はIS学園警備総隊の隊員から砲兵の課程に進んでいた者を集め、彼等を砲兵として配置することにした。
そして周辺地域からの食料の“徴発”も無事に済み一週間分の糧秣が確保できた。
一方、夜が明けると同時に足立大尉率いる残存国家親衛隊は多摩川沿いで臨時政府軍と戦闘を始めた。
これを境に戦いの幕は上がったのであった。