-2013年6月19日午後1時/東京国際空港新管制塔―
大森大将は管制塔から学園島を眺める。
砲爆撃で島全体が黒煙に包まれ、その煙が風向きによってこちらの視界を遮るほどであった。
そして砲撃が終わるとすぐに上陸用舟艇が一斉に飛び出し上陸を試みる。
だがいつものとおり学園島に篭城する学園警備隊の砲撃で上陸用舟艇が転覆され、上陸しても機関銃が設置されたトーチカの猛烈な銃弾の掃射で次々と死んでいく。
こうなることは彼はわかっている、いやこうなることを望んでいた。
臨時政府内での権力を掴むことに失敗し、協力してくれた五十嵐少佐と罪のない徴用兵と民間人を殺さなくてはならないことに彼は罪の意識を感じていた。
だが今日の朝、臨時政府にアメリカ大使が訪れ彼らの保護の為に我々に停戦を求めたことを知って希望を見出した。
今、アメリカ海軍の艦隊が彼等を救う為にこちらに向かっている。
この艦隊を大戦で損耗した臨時政府海軍は止めることは出来ず、さらに臨時政府はアメリカとの衝突は望まない。
ならばこの戦闘の指揮を取る大森大将の匙加減で彼らが脱出出来るチャンスを与えることができる。
今朝の大使との会談で臨時政府の要人は大森大将に攻略を急ぐように急かしている。
そのため大森大将は血気盛んな徴兵された国民の部隊で無駄な戦闘をさせて攻略しているように見せていた。
「お願いだ、五十嵐少佐。少しでも時間を稼いでくれ。」
大森大将は小声で言った。
「ここにおりましたか、大森大将。」
背後から突然名前を呼ばれ振り返るとそこには一人の男性がいた。
高級なアクセサリーを見せびらかすようにつけた若い男は大森大将の傍に立つ。
「これは治安委員長、ここへよくいらっしゃいました。」
臨時政府内で実質的に首班の次の地位である治安委員長の彼は元々政治家の二世であったが不祥事が発覚し、時の首相漆原美由紀に政界を追い出された政治家だが大戦の混乱の中で村瀬政権女性至上主義者に激しい批判を浴びせ国民の支持を獲得し、臨時政府内で治安委員長の地位を獲得した。
治安委員長として国民裁判所を運営し、協力的な自警団である国民警察を動かしかつての政敵を消し去ったり意に沿わない人間・集団を国民の前で糾弾し国民を煽り彼らの暴力で潰した。
そして国民の支持をさらに集める為にこの学園警備隊の反乱を演出したと言われている。
もし彼に目をつけられたら次の日には失脚し国民裁判所か国民のリンチにかけられるだろう。
大森大将は緊張を抑えつつ対応する。
「今日はなぜここへ?」
「君達がちっぽけな人工島に何時までも時間が掛かってるから視察に来たんだよ。」
治安委員長は双眼鏡を手に取って学園島を望むと質問する。
「あと何日で陥落する?」
大森大将は言葉を濁しながら答える。
「何日掛かるかと言われても難しいですね...様々な手を使っているのですが敵は効果的な陣地を構築しておりまして...一日二日では陥落はしないと思います...ですが必ず」
「いやあと二日で陥落させろ。」
大森大将の言葉を遮って治安委員長は断言する。
その理由は大森大将もわかっていた。
「あと二日でアメリカ艦隊が浦賀水道を通るだろう。そうなっては遅い!我々は国民に答えなければならない、必ずや五十嵐を中央国民裁判所で裁き反逆者達の首を街灯に並べることを!国民が望んでいる。」
治安委員長は大森大将を睨んで言った。
「もし攻略が間に合わずにアメリカ艦隊が反逆者を匿った時、君がどのように責任をとるか?私のやり方を見ていれば分かるよな。」
治安委員長の今までの残虐な行いを考えて体は震え汗が流れる。
「...はい、必ずや結果を。」
「ああ、期待しているよ。私も臨時政府の皆も、そして国民が君に期待しているよ。」
治安委員長は笑顔で大森大将の肩を叩くとそのまま管制塔を降りて行った。
大森大将は一気に緊張が解け、疲れが一気に襲い近くの椅子に座り込む。
顔を上げると黒煙と銃声に包まれる学園島を見て言った。
「俺も頑張るよ、命を懸けて。」
この冬に書き溜めた物語はここまでです。
この後はレポートやら定期試験やらあるので二月までは投稿する予定はありません。
ですが最終話が近いので頑張って書きたいと思います。
では、また今度。