月下美人を枯らさぬようにと   作:諸行無常

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祭り囃子が聞こえてくるから。

 

 

ーーーシャン、シャン…

 

 

 

数多の蝋燭が灯り照らす薄暗い部屋に、鉾先舞鈴(ほこさきまいすず)の清らな音色が鳴り響く。

 

 

舞鈴の残響が消えては、(あか)の袴に黒の白衣……黒衣とでも言った方が良いのだろうか?ともかく、黒を基調とした物珍しい色彩の巫女服が衣擦(きぬず)れる音が聞こえる。

 

 

少女が(まい)を踏む度に発生する、拝殿の床が(きし)む音が、時たま訪れる静寂を打ち消す。

 

 

完全なる(じょう)がこの閉鎖空間を支配したかと思えば、そこに少女の(かす)かな息遣(いきづか)いが(まぎ)れ込む。

 

 

 

ーーーシャン、シャン………

 

 

 

少女が振りかざす鉾先舞鈴の刀身が、おびただしい数の灯火(ともしび)を不安定に乱反射する。

 

 

 

夏の暑さを閉じ込めたこの拝殿で、雑念の一つも持たず舞い続ける少女の額には、当然ながら決して微量とは言い難い汗が(にじ)む。しかし、その表情に疲労や消耗の色など見えず、少女は今この瞬間を(まっと)うしている。

 

 

 

 

シャン………

 

 

 

 

鉾先舞鈴を高らかに振り上げた少女が静止する。不足した酸素を取り込むべく肩で息をしているものの、挙上した右手は微塵も動かさない。

 

 

 

 

フッ……と、深く息を()いた少女は、鉾先舞鈴を静かに降ろす。

 

 

 

 

(あか)と黒の二色で構成された巫女服を身に纏った少女……倣神野(ならしの) 諫奈(いさな)が、緊張させていた表情を弛緩(しかん)させ、こちらへと近づいてくる。

 

 

 

「いっぱい汗かいちゃった……詠くん、どうだったかな?」

 

 

 

諫奈は自らの舞の完成度を、終始見物していた俺に尋ねて来るが、その顔には僅かな自信の色が見える。今までにない手ごたえを感じたのだろう。

 

 

 

「三回目の舞鈴の後に、一回転を忘れているぞ。それと最後は、舞鈴を下で一回鳴らした後に上で一回だ」

 

「えぇ!?全然ダメじゃん!!なんで私よりも詠くんの方が覚えてるの…」

 

傍目八目(おかめはちもく)とは言ったものだ。外野から眺めている方が良く分かる」

 

「…でも、詠くんが見て私が間違えてるって事が分かるのは、舞を全部覚えてるからだよね?」

 

「『紙渡し』の舞は諫姉(いさねぇ)のを何度か見ているからな」

 

「何度か見ただけで覚えられちゃうその要領の良さを、私にも少し分けて欲しいなぁ…」

 

「諦めろ。アホのお前とは脳の構造が根本的に違う」

 

「もう、詠くんはすぐアホって言うんだから!!」

 

頰を膨らませた諫奈が、手に持っている鉾先舞鈴(ほこさきまいすず)の刀身を突き刺してくる。おい、巫女が神具をそんな事に使うな。

 

「犬神の御前だぞここは。姫女(ひいな)(みずか)ら、そんな不躾(ぶしつけ)な事をしても良いのか?」

 

「ちゃんと感謝の気持ちと敬意を払って、犬神様には様を付けないとダメだよ。それに、犯した罪には相応の罰が課せられるんだよ、詠くん」

 

「難しい言葉を使おうとしたところで、諫奈はアホだ。アホをアホと称する事はなんら罪には該当しない。アホのお前にも分かりやすいよう、アホみたいな説明をすると、お前はアホであるから、アホのお前にアホと言う行為は、アホにアホと言う行為に相当し、お前がアホである以上アホなお前が悪いんだよアホ…と言う事だアホ。分かったか?アホ」

 

「何言ってるか全然分かんないし、アホアホ言い過ぎだよ!?」

 

またしても諫奈は鉾先舞鈴をシャンシャンと鳴らしながら突き刺してくる。地味に痛いからやめろ。刀剣の部分は金属製なんだぞ馬鹿野郎。

 

「うーん…覚悟はしていたけど、舞って結構大変だね。(あおい)ちゃんも今頃練習してるのかなぁ…」

 

「さっきまでゲームをしながら寝っ転がっていたぞ」

 

「ええっ!?この差は一体何なのっ!?」

 

「年季と要領の良さの差だろ」

 

諫奈の覚えが悪いのもあるが、神繋の舞は間違える方が難しいくらい単純だしな。

 

「去年までは、詠くんや裁花(たちばな)さんと一緒に屋台を回ってたのになぁ…姫女になってからガラリと変わっちゃったね」

 

「どうせ例年と同じショボい屋台が立ち並ぶだけだ。変な浪費をしないで済むと思えば良いだろ」

 

「ショボいとか言いつつも、詠くん結構ノリノリだよね…去年の射的(しゃてき)は凄かったね。裁花さんと詠くんに取って貰ったクマさん、まだ大事に飾ってるよ」

 

そんな事もあったな。遙と共に壇上にある商品を、矢継ぎ早に掻っ攫っていき、(たける)のおっさんを急性胃痛に追い込んだのは記憶に新しい。

 

「飾ってある…?ゴミ山の中に埋めてあるの間違いじゃないのか?」

 

「詠くんは私の部屋を何だと思ってるの!?」

 

「ゴミの最終処分場」

 

「そんな汚部屋(おへや)じゃないからね!?初めて詠くんを私の部屋に呼んだ時、これでもかってくらいに罵倒されてショックだったから、自分で掃除出来るようになったんだよ?」

 

諫奈は得意満面のドヤ顔で胸を叩く。諫姉から受け継がれた二つの軌跡がこれでもかと言うほどに揺れる。部屋の掃除はできて当たり前の事であって、決して人に威張れるような事ではないぞ。

 

 

成長とも呼べないような向上を誇らしげにする幼馴染みに呆れていると、拝殿に誰かが近く(気配)がする。誰、というか、確実に諫姉ではあるが。

 

「うふふ〜、詠くん〜諫奈の舞はどうだった〜?」

 

至ってのんびりとした口調でそう訊いてきた、先代の姫女である倣神野(ならしの)諫寧(いさね)には、我が娘に稽古をつけてやる気は全くないようだ。諫姉には良くも悪くも、諫奈に関しては放任主義な所があるからな。最低でも料理以外の家事くらいは仕込んでおいた方が良かったんじゃないのか?

 

「手順を間違えている時点で零点だが、動き自体は綺麗だから20点はくれてやる。もちろん100点満点中だ」

 

「点数が(から)いよぉ…」

 

「じゃあ〜、お母さんが〜お昼ごはんを我慢して〜一生懸命に練習してた諫奈に〜80点あげるから〜、詠くんの20点と足して〜100点満点〜!!」

 

「えへへ…」

 

超謎理論によって、母親から100点満点を与えられた諫奈は嬉しそうに顔を綻ばせる。何を喜んでやがる。お前の頭は3歳児か?

 

「今練習してたのは犬神様に奏上する祝詞だけど、里守神社ではまた別の事をするのかな?」

 

不意に諫奈が疑問を挟む。こいつ、祭りに関する事を何も知らないんだな。姫女のお前がそんなんじゃ駄目だろ…

 

「いや、里狐(さっこ)さんには葵が神籬(ひもろぎ)を前にして舞と祝詞を奏上するんだ。その必要はない。神社では葵が玉串奉奠(たまぐしほうてん)をするだけだ。お前は葵と一緒に二拝二拍手一拝をすれば良い」

 

「え、じゃあ里守神社では(さかき)をお供えするだけなの?」

 

「そうよ〜。でもでも〜、姫女がうちの集会所で行う舞と祝詞は〜、あくまでも『里守之稲荷(さともりのいなり)様に対する私たちの感謝の気持ちを、里狐様のより近くにいらっしゃます犬神様よりお伝えください』って〜犬神様にお願いをする為に奏上するものだから〜、神社に行ったら改めて里狐様に感謝の気持ちを伝えなきゃダメよ〜?」

 

……毎年の事ではあるが、姫女である諫姉よりも、神繋の巫女である葵の方が、里狐(ミツキ)に対するお参りが雑だった事は言わないでおこう。ちなみに、先代の神繋の巫女にして葵の母親である(あざみ)が現役だった頃は色々と酷かった。榊ではなく一升瓶を本殿に供え『こんなただの葉っぱよりも、酒の方が里狐様も喜ぶに決まってんのよ』とか言って玉串奉奠すら行っていなかったからな。この時ばかりは、流石の諫姉も渋面を浮かべていた。というか苦笑をする諫姉は初めて見た。

 

「…俺としては、神社に着いてからの心配ではなく、神社に着くまでの心配をしていただきたいんだがな」

 

「うぅ…わかってるよ…私だって怖いんだからね?」

 

諫奈は思い出したかのようにして、里狐さんの山へ入らなくてはならない恐怖に萎縮する。

 

「怖がる事はないわよ〜。ちゃんと詠くんの言う通りにすれば〜危ない獣さんたちと逢う事はないのよ〜」

 

「そっか…動物さんたちもグッスリ寝てるわけだし、起こしたら可哀想だもんね」

 

「その動物さんたちは、大半が夜行性だぞ…」

 

 

本当にコイツを山に入れて大丈夫なのだろうか……

 

 

「…諫姉、何か用事があってここに来たんじゃないのか?」

 

「そうそう〜、忘れちゃうところだったわ〜。諫奈〜、葵ちゃんが〜(みそぎ)の準備ができたから〜いつでも来てくださいって言ってたわ〜」

 

「意外と早いんだね。でも、舞の練習でいっぱい汗かいっちゃったし丁度良いや。お昼ごはんを食べたらすぐに行こうかな」

 

禊とは名ばかりの天然温泉だからな。とは言え、そんな汗を流してくるような感覚で身を清めても良いものなのか…?

 

「うふふ〜、どうせなら〜昔みたいに詠くんも一緒に〜3人で温泉に入ったらどうかしら〜?」

 

「ええぇぇええ!?詠くんも入るの!!??」

 

諫姉の戯言に、諫奈は顔を真っ赤にして驚愕する。

 

「入るわけないだろアホ。諫姉は一体いつの話をしているんだ。そもそも禊に男を交えるなんて、論外というレベルではないぞ…」

 

良く考えなくても、ただの混浴じゃねぇか。

 

「禊なんてしなくても〜諫奈も葵ちゃんも〜とても綺麗な精神(こころ)をしているから〜、詠くんが居ても別に問題ないと思うの〜」

 

「うーん…もっと別の問題があると思うんだけどなぁ…」

 

むしろ問題しかないだろ。

 

「心配すんな。そんなところに俺が交ざるわけがないだろ」

 

「うふふ〜、そうね〜。昔みたいに〜大事な大事な〜詠くんのおちんちんを〜諫奈に引っ張られたら大変だものね〜」

 

「ちょっとお母さん!?変な話を掘り返さないでよ!?」

 

 

……あの時は、初めての温泉で気が緩んでいたんだ。でなければ諫奈を相手にあんな不覚を取るはずなどない。

 

 

 

あれはまさしく悪夢だった。

 

 

 

男のみぞ知る苦痛を味わうと共に、葵に爆笑されるという後にも先にもない屈辱も味わった。これを悪夢と呼ばずして何と呼ぶ?ああクッソ、イライラしてきた……無性に葵を泣かせたい気分だ。

 

 

「………おい、諫奈。今思えば、俺はあの時の雪辱を晴らせていない。どう落とし前をつけるんだ?え?」

 

「10年以上も昔の事なのに今更になって脅迫するの!?」

 

「うふふ〜、じゃあじゃあ〜諫奈が詠くんのお嫁さんになれば〜、責任も取れて〜幸せになれて〜一石二鳥じゃなかしら〜?」

 

「詠くんのお嫁さん……ふわぁ……」

 

「一石二鳥…?冗談じゃない。泣きっ面に蜂じゃねぇか。そんなものは俺がお断りだ」

 

「あまりにも辛辣すぎてちょっと泣きそうになったよ!?」

 

そう訴えかけた諫奈は既に半泣きだった。

 

「まあ…掃除はできるようになったそうだが、残りの洗濯と裁縫ができるようになってから出直してこい」

 

ここで重要なのが『貰ってやる』とは一言も言っていない事だ。

 

「……お母さん、明日から家事のお手伝い頑張るね」

 

「うふふ〜、凄く助かるわ〜。でもでも〜、前みたいに〜洗濯機を泡地獄にするのだけはやめてね〜」

 

泡地獄ってなんだよ。お前は一体、洗濯機に何をしたんだよ。

 

諫姉の苦言を受けた諫奈は、任せてよと言わんばかりに胸を叩き、またしてもソレが揺れる。

 

 

 

「一回に一箱じゃないって事はもう分かったから大丈夫だよ!!」

 

 

 

「むしろお前の頭が大丈夫か本格的に怪しくなってきたぞ…」

 

「ん〜、半年はお母さんのを見てから〜お手伝いをしてくれれば完璧ね〜」

 

諫姉……物言いこそオブラートに包んではいるが、直訳すると『お前は半年ROMってろ』って事だよな?それ。

 

「…ところで諫奈。お前はいつまでこんなところで、のんびりとしているつもりなんだ?」

 

「あ、早くごはん食べなきゃだったね。でも、犬神様の御前をこんなところだなんて言っちゃダメだよ」

 

「ふん、犬神の拝殿だろうがどこであろうが一緒だ。犬神が真に実在するのであれば、もっと別の次元から俯瞰しているだろうよ。()(しろ)が神と世を繋いでいるという考えなど、人間が都合良くでっち上げた自己解釈にすぎんだろ」

 

信仰とは如何なる物か…と言う議論など、ただひたすらに面倒臭いだけだ。俺は倣神野親娘に背を向け、拝殿の出口へと向かう。

 

「詠くん〜、犬神様に背を向ける時には〜、改めて敬意を払わなくちゃダメよ〜。双神村に住まう以上は〜いつも犬神様のお世話になっているのだから〜…」

 

「諫姉よ。俺にもう一度同じセリフを言わせたいのか?勘弁してくれ」

 

お前らが神に媚びを売るのはお前らの勝手だが、そんなものを俺に強いられても困る。

 

 

「俺の『生』とは、俺が勝ち取り、俺が付加し、俺が維持していくものだ。そこに神の介入など必要なく、なんのリレーションシップも存在しない。これまでに神の世話になったつもりなど無いし、なるつもりもない。満たされた『生』を神に望むような、貧弱極まりない精神など俺は持ち合わせていない。仮に、俺の知らない間に訳の分からん恩恵(ご利益)を授かっていたとしても、勝手な事してんじゃねぇよクソが、って話だ」

 

 

姫女の血を受け継ぐ両名は、もれなく何か言いたげな表情をしているが、俺は後手に拝殿の戸を閉めて、それらをシャットアウトする。

 

 

 

 

 

人様の人生に出しゃばった真似をするくらいなら、どっかの幼狐みたいに、勝手に現れ、食うだけ食って、喋るだけ喋って、そして勝手に消えていく方が、比較にもならんくらいにマシなんだよ。

 

 

 

 

 

念調之牙神(おもいととのえのきばかみ)

 

 

 

 

 

 

お前はこの双神村の…一体何だと言うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「へぇ…それで、葵の家では煎餅を食べるだけ食べ散らかし、姫女様の寝殿ではタダ飯を食べるだけ食べて、ボクの所へ逃げてきたと言う事かい?」

 

「客観的な事実だけ見ればそうなるが、もう少しこう…言い方ってものがあるだろ」

 

「ふふ…困り果てたキミの終着点がボクの所だと思うと、それだけで今日は良い夢が見れそうだ。もはや祭りなどどうでも良くなってきたよ」

 

「それでは何のために浴衣(ゆかた)に着替えたか分からなくなるな…」

 

「詠水、女の子が浴衣を着ていたらまずは褒める……暗黙の了解とも言えるくらい、定石中の定石だよ」

 

「毎年言っているだろ。似合っているぞ。お前が着ると人形みたいだ」

 

「ふふ、60点と言ったところかな?だが、詠水の褒め言葉と言う時点で100点を超過しているから安心したまえ。愛おしいよ、詠水」

 

「一体何のために採点制度を導入したんだお前は」

 

 

 

結局、倣神野本家を後にした俺は、家へ戻って掃除やら洗車やらしていたが、そういうテンションでも無い為まるで身が入らなかった。こんな臨時休暇に昼寝をするのは勿体無さすぎるので、とりあえず(はるか)の家へと赴いた所だった。

 

遙は既に浴衣の着付けを終えており、いつでも祭りに行ける…と言ったご様子だ。少し早いようにも感じるが、すでに外は斜陽により橙色へ染められており、早すぎる和太鼓の音が聞こえ始めている。通りは次第に村人で埋め尽くされ、祭り一色となるだろう。

 

 

 

「お前の親父はこんな祭りの日にも仕事なのか?」

 

家に上がる時に見かけなかったからな。

 

「いや、本来であれば休みなんだけど、祭りの準備の最中に、高所落下をした人がいてね。大事には至らなかったそうだけど、腕の骨がイってしまったらしく、父は泣く泣く白衣を着る羽目に…と言うことさ」

 

「バカが多いと医者も大変だな」

 

「準備の手伝いすらしていないキミに、怪我人をバカと罵る資格は無いように思えるけどね…」

 

ジト目の遙が棘の含まれた言葉を投げかける。

 

「結果的として人に迷惑をかけているのだから、何もしてない俺の方がよっぽどマシだろ」

 

「キミは自己正当化のプロフェッショナルだね」

 

「うるせぇな。そういうお前こそ何かしたのか?」

 

「当たり前じゃないか。ボクは村の奥様方と一緒に、女の子の着付けを手伝っていたよ」

 

なるほど、だからお前も既に着付けを終えているのか。

 

 

「おっと、キミに会ったら真っ先に()()()()()()()()()()事だと言うのに、キミがわざわざ会いに来てくれた事の嬉しさと衝撃のあまり、失念していたようだ。受け取りたまえ。『君健やかなる事の喜ばしきに感謝せん』……キミの無病息災を切に願うよ、詠水」

 

 

思い出したように()()()()()()()正方形の紙……『柳包(やなぎづつ)み』を取り出した遙は、決まり文句と共にそれを俺に差し出す。

 

 

「…お前から折られていない柳包みを貰うのは、初めてじゃないか?」

 

「ふふ…そうだね。ボクは浅ましくも、毎年のようにキミの夜這いを期待していたからね。ボクはこれまでの愚行を恥じるべきだろう。ボクはキミから与えられてばかりいるというのにも関わらず、毎年のように柳包みを折っていた。キミを貪る事しか考えていなかった。ボクはとても貪欲で、強欲な女だ」

 

 

そう自嘲した遙は、スッと静かに右目を伏せる。

 

 

「不思議な事に、毎年祭りが近づくとどうしてもキミを求める気持ちが強くなっていくのさ。キミに会いたい。キミに触れたい。キミを感じたい…そういった欲求が、次第に増していくのだよ。祭りの日には最高潮に達し、その想いをキミにぶつけずには居られなくなる。そして、翌日になるとボクは平常運転となり、恥ずかしさのあまり悶えるのさ」

 

 

……遙。申し訳ないが、俺はその現象の元凶を知っているぞ…

 

 

「だが……今年はその欲求を、精神力一つで抑えつけた。現在、ボクの右手は柳包みを折りたいという衝動に駆られている。早く受け取りたまえ」

 

 

実際に、柳包みを差し出している遙の右手は、小刻みに痙攣していた。めっちゃ我慢してんじゃん。大丈夫なのかそれ。

 

 

見ていてあまりにもいたたまれなかったので、俺はさっさと遙から柳包みを受け取り、懐へ忍ばせる。

 

 

「……神の加護など無くとも、俺は生き延びる」

 

「知っているさ。キミは己を己で支えることができる。私に無事を祈られる必要など皆無だろう。けれど、神頼みでも良いから、ボクはキミに一年でも、一ヶ月でも、一週間でも、一日でも、一時間でも、一分でも、一秒でも長く、長く、長く生きていて欲しいのさ。ボクより先に死んでしまうのは耐えられない。キミのいない世界など、()は死んだも同然だからね」

 

 

遙がその細い腕を絡ませてくる。

 

 

「太鼓の音と祭り囃子が聞こえてきた。今年も祭りが始まったようだね。行こうか、詠水。祭りとは、より楽しんだ者が勝者なのさ」

 

 

 

 

 

そう急かす遙の身体(からだ)は、少し火照っていた。

 

 

 

 




その頃、葵と諫奈。

諫奈「葵ちゃんと温泉入るのも久しぶりだね!!」

葵「そ、そうですね〜(諫ちゃんの…おっきいなー…羨ましいなー…おっきいなー…欲しいなー…)

葵「…けしからんおっぱいめ!!こうしてやります!!」

諫奈「ちょっ、葵ちゃん!?きゃあああああああ!?ぎゃあああああああ!!!!!」
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