月下美人を枯らさぬようにと   作:諸行無常

5 / 22
物凄く長くなりそうだったので、次話への繋ぎのようなお話です。とくに新しい設定やフラグはありませんし、セリフ多めなのでサラーと読み流していただけるとよろしいかと思います。本文短めです。


強者どもが夢の跡。

階段を昇りつめた先には、ところどころペンキの剥がれた、真紅の鳥居が(そび)え立つ。敷き詰められた砂利(じゃり)を踏みしめ、目前に鎮座する神社へと向かう。

 

拝殿の前に設えられた賽銭箱に腰掛け、足をぶらぶらとさせていた巫女服の少女がこちらに気づくと、賽銭箱から飛び降り参道を疾駆する。なんだ、捻挫は治ったのか…随分と早かったな。

 

「詠水くん!!遅かったじゃないですか〜、すごく心配したんですからねっ!!」

 

この神社の巫女を務めている神繋(かんなぎ) (あおい)が俺に抱きついてくる。

 

「ひっつくな気持ち悪い。ドMがうつる。あとあざとい。それと気持ち悪い」

 

「ちょっ、開口一番に気持ち悪いは酷すぎですよ!?二回も言ってますし!!あとなんですかドMって?Mじゃないですよ私!!」

 

「いろはが言っていた」

 

「えぇ…私あの子に何かしましたかね…?そこまで接点が無いと思うんですけど…」

 

「俺が知るか。何もしていないならば、もはやお前の存在そのものがウザいという事だろう」

 

「あれ、更に辛辣になってませんかね?」

 

「どうでもいい事だ。そんな事よりさっさと離れろ。暑苦しくて敵わん」

 

「まあまあ、そんな堅いこと言わないでくださいよ。花も恥じらう巫女さんに抱きつかれているんですよ?どうです詠水くん?こうやって私に抱きつかれていると何か(・・)柔らかい感触がしませんか?どうです?どうです?」

 

葵の慎ましやかな双丘がムニュムニュと押し付けられる。俺も男なので、何も感じないという訳ではないが、葵ごときで欲情するほど落ちぶれてはいない。

 

「はっはっは、面白い自虐ネタだな。お前のそれは押し当てられるほど立派じゃないだろう」

 

「この人最低です!!全国の貧乳女子を敵に回しましたよ!!男の人はそうやって胸の大きさだけでしか評価を………んっ……………あっ…………って、ちょっと待ってください!!なに涼しげな顔して私の胸触ってるんですかっ!?」

 

「いや、潔いくらいに小さいなと思って」

 

「行動も発言も完璧にセクハラですよ!?」

 

俺に抱きついていた葵は、バッと俺から距離を取り、自らの肩を抱く。葵を引き剥がすことに成功したので、参道の横に建てられた平家へと入る。

 

「家主より先に入っちゃダメですよ詠水くん!!」

 

「なぜだ」

 

「なぜって…それはまぁ、うら若き乙女が一人暮らししている空間ですよ?見られて困るものとかあるかもしれないじゃないですか。下着とか下着とかあと下着とか」

 

「まあ、お前が住んでいるという事実が存在している時点で、人に見せられるようなモンじゃないしな」

 

「あれ、部屋の中ではなくて私自身が否定されているんですが…?」

 

 

とりあえず台所へ向かい、背負っていたバックパックを食卓の上へ放る。

 

 

「ちょっと詠水くん?今日の通わせには玉子が含まれてるんですよ?そんな乱雑に扱うと…」

 

「問題ない。玉子なら元から割れている」

 

「一体どういう事なの…」

 

「久々に鎧熊と鬼ごっこをした。楽しかった」

 

「なんか微笑ましい物言いになってますけど、普通に危ないヤツですよね?それ。怪我はないですか?」

 

「バカタレ。俺を誰だと思っている」

 

「痴漢、変態、唐変木、リアルチート、女誑(おんなたら)し、私の旦那様、通わせ人…こんなところでしょうか?」

 

「最後から二番目が気にくわない。よって罰ゲームだ」

 

「いやいや…もっと他に不愉快にさせるワードがあったでしょう?」

 

「自覚があるなら尚更だ。3秒で茶を()れろ」

 

「無理です。せめて30秒にしてください。梅昆布茶(うめこぶちゃ)で良いですか?」

 

「大好物だ」

 

それだけ伝えると、葵の部屋へ向かう。後ろから「ちょっ、勝手に入らないでくださいよ!!」という声が聞こえたが、葵に指図されたのが気に食わないので部屋の中へ入る。

 

長年の間、俺が通わせが終わった後の休憩室として(たむろ)し続け、第二の我が家のような安心感を覚える葵の部屋は、女子の部屋としてはかなり片付いており、非常に居心地が良い。ちなみに諫奈(いさな)の部屋は物が多い上に、あいつは掃除ができないため、かなり散らかっている。料理以外は壊滅的(かいめつてき)だからな、あいつは。

 

 

葵の部屋は非常に綺麗なのだが、綺麗故に片付いていない物がよく目立つ。たとえば、彼女のベットの上に、無造作に放置されているぶらj…………

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

 

男には、リスクリターンを度外視し、果敢に挑まなければならない時がある。

 

 

 

 

俺は音を立てない範囲内のスピードで、葵のベットに急接近する。

 

 

 

俺は『栄光』を手にとる。

 

 

 

『栄光』に(ぬく)もりは残っていなかったが、今は落胆している場合ではない。盗むのだ。その『栄光』から出来る限りの情報を可及的速やかに盗まなくてはならない。

 

 

 

俺は『栄光』を己の顔面へ密着させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葵の匂いがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?ちょっ………えええええええええええええええ!!!???なななななな何やってるんですかこの変態っ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

スネーク!!どうやら君は敵兵に見つかってしまったようだ!!

 

 

 

 

 

葵は湯呑(ゆの)みが乗ったお盆を叩きつけるようにテーブルに置き、俺から『過去の栄光』を奪い取る。

 

 

 

 

 

「詠水くん!?私の下着で何してるんですかっ!!!!」

 

「お前の目は節穴か。匂いを嗅いでいたに決まっているだろう」

 

「そんな事は分かってますよ変態!!何で開き直ってるんですか!?」

 

「開き直る?お前は何を言っているんだ?俺がいつ、後ろめたい事をしたと言うんだ」

 

「何を言っているんだ…はこっちのセリフですっ!!私の下着の匂い嗅いでたじゃないですか!!後ろめたさしかないじゃないですか!!」

 

葵は顔を真っ赤にして、SLの如くフシャーと白い鼻息を出している。人間じゃねぇ。

 

「どうどう、落ち着け葵。俺はお前の下着の匂いを嗅いだ。それは事実だ。俺は嘘をつかない。そのブラジャーからは、確かにお前の匂いを感じ取る事ができた。やはり葵といえど、腐っても女だ。男にはない女特有の甘美な香りが…」

 

「ちょっと、本人の目の前で解説を始めないでくださいよ!?頭おかしいんじゃないですか!!??」

 

「俺はいたって正常だ。いいか、葵。俺はお前のブラジャーのにお「何回も言わないでくださいよ!!」………匂いを嗅いだ。その行為に咎められるような要素があるのか?」

 

「えっ。それは………えーっと………って、ダメに決まってるじゃないですか!!なんなんですかあなた!?」

 

「いいか、葵。男というものは、異性の下着が捕捉範囲(レンジ)内にあれば、如何なる理解があろうとも可及的速やかにそれを手に取らなくてはならない。ここまでは分かるな?」

 

「何ひとつ分かりませんが」

 

「手に取り、匂いを嗅ぐまでは初歩中の初歩であり『最低限やらなくてはならない』というラインだ。その後、味を堪能する、己の身に装着してみる、ポケットに忍ばせる……その道の玄人(くろうと)はあらゆる技を駆使する」

 

「玄人ってなんですか?ただの性犯罪者ですよね?」

 

「男が異性の下着を堪能するという事は普遍的なものであり、履行しないという事自体があり得ぬことだ。よく考えろ。もしここで俺が、お前の下着の匂いを嗅がなかったら、それは何を意味する?」

 

「え?下劣極まりない欲望を理性で抑えた、という事なのでは?」

 

「ハズレだ大馬鹿者が。これは下劣な欲望ではない。ごく当たり前の事であり、生理現象だ。腹が減って飯を食うのと一緒だ。つまり『目の前に葵のブラジャーがあるのに匂いを嗅がない』という結果が、何を意味するか…もう分かるだろう?『腹が減っているが、目の前の飯はクソまずそうだから食う気にもならない』というのと一緒で『目の前にブラジャーが鎮座しているが、葵のブラジャーだから嗅ぐ気にもならない』という事になる」

 

「あ……」

 

「そう、もし俺がお前のブラジャーの匂いを嗅がなかったら、お前を辱め、お前を傷つけていた、という事だ。……いきなりの事でお前は動揺しただろう。羞恥を覚えただろう。怒りを覚えただろう。………許せ。俺にはお前を傷つける事などできなかったのだ。理解してくれ」

 

俺はゆっくりと葵の体を抱き寄せる。

 

「詠水くん………それ程までに私の事を大切に思ってくれていたのですね………」

 

葵はわずかに頰を紅潮させ、俺の胸にコテンと頭を乗せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

諫奈(いさな)を上回る馬鹿が居た。信じられないくらいに頭が悪いぞ、こいつ。

 

 

 

 

 

 

「さて、このままでは折角淹れてくれた茶が冷めてしまう。離れてくれないか?葵」

 

「そうですね。私もお昼ごはんを作らなくてはいけませんですし。私が料理している間は、いつも通り(くつろ)いでいてくれて構いませんよ………変態」

 

 

葵は俺から離れて立ち上がると、絶対零度の如く冷めた目で俺を見下ろし、部屋から出て行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

信じられないくらいに頭が悪かったのは、俺の方だったようだ。

 

 

 

 

 

 




土日だ!!勉強の時間だ!!(レイプ目)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。