月下美人を枯らさぬようにと 作:諸行無常
階段を昇りつめた先には、ところどころペンキの剥がれた、真紅の鳥居が
拝殿の前に設えられた賽銭箱に腰掛け、足をぶらぶらとさせていた巫女服の少女がこちらに気づくと、賽銭箱から飛び降り参道を疾駆する。なんだ、捻挫は治ったのか…随分と早かったな。
「詠水くん!!遅かったじゃないですか〜、すごく心配したんですからねっ!!」
この神社の巫女を務めている
「ひっつくな気持ち悪い。ドMがうつる。あとあざとい。それと気持ち悪い」
「ちょっ、開口一番に気持ち悪いは酷すぎですよ!?二回も言ってますし!!あとなんですかドMって?Mじゃないですよ私!!」
「いろはが言っていた」
「えぇ…私あの子に何かしましたかね…?そこまで接点が無いと思うんですけど…」
「俺が知るか。何もしていないならば、もはやお前の存在そのものがウザいという事だろう」
「あれ、更に辛辣になってませんかね?」
「どうでもいい事だ。そんな事よりさっさと離れろ。暑苦しくて敵わん」
「まあまあ、そんな堅いこと言わないでくださいよ。花も恥じらう巫女さんに抱きつかれているんですよ?どうです詠水くん?こうやって私に抱きつかれていると
葵の慎ましやかな双丘がムニュムニュと押し付けられる。俺も男なので、何も感じないという訳ではないが、葵ごときで欲情するほど落ちぶれてはいない。
「はっはっは、面白い自虐ネタだな。お前のそれは押し当てられるほど立派じゃないだろう」
「この人最低です!!全国の貧乳女子を敵に回しましたよ!!男の人はそうやって胸の大きさだけでしか評価を………んっ……………あっ…………って、ちょっと待ってください!!なに涼しげな顔して私の胸触ってるんですかっ!?」
「いや、潔いくらいに小さいなと思って」
「行動も発言も完璧にセクハラですよ!?」
俺に抱きついていた葵は、バッと俺から距離を取り、自らの肩を抱く。葵を引き剥がすことに成功したので、参道の横に建てられた平家へと入る。
「家主より先に入っちゃダメですよ詠水くん!!」
「なぜだ」
「なぜって…それはまぁ、うら若き乙女が一人暮らししている空間ですよ?見られて困るものとかあるかもしれないじゃないですか。下着とか下着とかあと下着とか」
「まあ、お前が住んでいるという事実が存在している時点で、人に見せられるようなモンじゃないしな」
「あれ、部屋の中ではなくて私自身が否定されているんですが…?」
とりあえず台所へ向かい、背負っていたバックパックを食卓の上へ放る。
「ちょっと詠水くん?今日の通わせには玉子が含まれてるんですよ?そんな乱雑に扱うと…」
「問題ない。玉子なら元から割れている」
「一体どういう事なの…」
「久々に鎧熊と鬼ごっこをした。楽しかった」
「なんか微笑ましい物言いになってますけど、普通に危ないヤツですよね?それ。怪我はないですか?」
「バカタレ。俺を誰だと思っている」
「痴漢、変態、唐変木、リアルチート、
「最後から二番目が気にくわない。よって罰ゲームだ」
「いやいや…もっと他に不愉快にさせるワードがあったでしょう?」
「自覚があるなら尚更だ。3秒で茶を
「無理です。せめて30秒にしてください。
「大好物だ」
それだけ伝えると、葵の部屋へ向かう。後ろから「ちょっ、勝手に入らないでくださいよ!!」という声が聞こえたが、葵に指図されたのが気に食わないので部屋の中へ入る。
長年の間、俺が通わせが終わった後の休憩室として
葵の部屋は非常に綺麗なのだが、綺麗故に片付いていない物がよく目立つ。たとえば、彼女のベットの上に、無造作に放置されているぶらj…………
…………………………。
男には、リスクリターンを度外視し、果敢に挑まなければならない時がある。
俺は音を立てない範囲内のスピードで、葵のベットに急接近する。
俺は『栄光』を手にとる。
『栄光』に
俺は『栄光』を己の顔面へ密着させる。
葵の匂いがした。
「……え?ちょっ………えええええええええええええええ!!!???なななななな何やってるんですかこの変態っ!!!!!!!」
スネーク!!どうやら君は敵兵に見つかってしまったようだ!!
葵は
「詠水くん!?私の下着で何してるんですかっ!!!!」
「お前の目は節穴か。匂いを嗅いでいたに決まっているだろう」
「そんな事は分かってますよ変態!!何で開き直ってるんですか!?」
「開き直る?お前は何を言っているんだ?俺がいつ、後ろめたい事をしたと言うんだ」
「何を言っているんだ…はこっちのセリフですっ!!私の下着の匂い嗅いでたじゃないですか!!後ろめたさしかないじゃないですか!!」
葵は顔を真っ赤にして、SLの如くフシャーと白い鼻息を出している。人間じゃねぇ。
「どうどう、落ち着け葵。俺はお前の下着の匂いを嗅いだ。それは事実だ。俺は嘘をつかない。そのブラジャーからは、確かにお前の匂いを感じ取る事ができた。やはり葵といえど、腐っても女だ。男にはない女特有の甘美な香りが…」
「ちょっと、本人の目の前で解説を始めないでくださいよ!?頭おかしいんじゃないですか!!??」
「俺はいたって正常だ。いいか、葵。俺はお前のブラジャーのにお「何回も言わないでくださいよ!!」………匂いを嗅いだ。その行為に咎められるような要素があるのか?」
「えっ。それは………えーっと………って、ダメに決まってるじゃないですか!!なんなんですかあなた!?」
「いいか、葵。男というものは、異性の下着が
「何ひとつ分かりませんが」
「手に取り、匂いを嗅ぐまでは初歩中の初歩であり『最低限やらなくてはならない』というラインだ。その後、味を堪能する、己の身に装着してみる、ポケットに忍ばせる……その道の
「玄人ってなんですか?ただの性犯罪者ですよね?」
「男が異性の下着を堪能するという事は普遍的なものであり、履行しないという事自体があり得ぬことだ。よく考えろ。もしここで俺が、お前の下着の匂いを嗅がなかったら、それは何を意味する?」
「え?下劣極まりない欲望を理性で抑えた、という事なのでは?」
「ハズレだ大馬鹿者が。これは下劣な欲望ではない。ごく当たり前の事であり、生理現象だ。腹が減って飯を食うのと一緒だ。つまり『目の前に葵のブラジャーがあるのに匂いを嗅がない』という結果が、何を意味するか…もう分かるだろう?『腹が減っているが、目の前の飯はクソまずそうだから食う気にもならない』というのと一緒で『目の前にブラジャーが鎮座しているが、葵のブラジャーだから嗅ぐ気にもならない』という事になる」
「あ……」
「そう、もし俺がお前のブラジャーの匂いを嗅がなかったら、お前を辱め、お前を傷つけていた、という事だ。……いきなりの事でお前は動揺しただろう。羞恥を覚えただろう。怒りを覚えただろう。………許せ。俺にはお前を傷つける事などできなかったのだ。理解してくれ」
俺はゆっくりと葵の体を抱き寄せる。
「詠水くん………それ程までに私の事を大切に思ってくれていたのですね………」
葵はわずかに頰を紅潮させ、俺の胸にコテンと頭を乗せる。
……………。
「さて、このままでは折角淹れてくれた茶が冷めてしまう。離れてくれないか?葵」
「そうですね。私もお昼ごはんを作らなくてはいけませんですし。私が料理している間は、いつも通り
葵は俺から離れて立ち上がると、絶対零度の如く冷めた目で俺を見下ろし、部屋から出て行く。
信じられないくらいに頭が悪かったのは、俺の方だったようだ。
土日だ!!勉強の時間だ!!(レイプ目)