55階層の《グランザム》からその先、幾度の《転移》を繰り返したどり着いたこの場所は……まだ誰も、足を踏み入れていないフロアだった。
手つかずのこの場所は、地平線の彼方から燃え上がるような夕暮れが見渡せる。天井も壁もない吹き抜けのフロア。地面には、真っ赤に花開いた曼珠沙華。咲き乱れているそれが、時より吹く心地よい風でゆらゆらと揺れて、その赤の花弁を空へと舞い上がらせている。中央にはストーンヘンジのような、巨人の墓標。崖から切り落としたような黒曜の石碑が屹立している、まるで鏡のように周囲の紅を彩っていた。
最も美しく映える黄昏で、時が止まった場所。
最上層《紅玉宮》。……多分ここが、そうなのだろう。
宮殿といいながら、ここにあるのはほとんど自然物だけ。石碑にしても巨岩をそのまま地面に突き刺したようなもので、古代の祭祀場だ。崇拝しているのは絶対神ではなく大いなる自然と言ったほうがいい。だから、この広々とした風景そのものが宮殿の構成要素だ。赤の美しさと終末の輝きに畏敬の念が湧いてくる。
昼と夜の境目、移り変わるその瞬間にのみ生まれる、黄昏時。ここでは太陽が東から上がって西に沈むかどうかわからないので、もしかしたら暁なのかもしれないが、一面の紅は最後の瞬きにも似た鮮やかさだ。すべてが終わるその瞬間なのだと直感させられる。……いずれ誰かがたどり着く場所だったが、今はまだ遠い彼方であるはずの終着点。
そこにたった二人、私と茅場さんだけがいる―――
◆ ◆ ◆
私たちの戦いの終幕に選ばれたフィールド。茅場さんが一プレイヤーとしてではなく、この世界で持ち得る全権能を引き出すための場所である《紅玉宮》。ここ以外の場所では禁じられているゲームマスターとしての力の全てを発揮できるフロア。最終ボス《魔王ヒースクリフ》となるための王座。
だから、その手に持っているのは、いつもの十字盾と長剣じゃない。真っ赤な炎をまとっている、あるいは炎そのものを凝縮したかのような大剣だ。
近くにいるだけで大気が歪ませるほどの熱を発している。それなのに、周囲のオブジェクトは何一つ焼きはらっていない、この世のものでない焔。剣身から漏れ出た炎の燐光が空に舞い上がり、煌きながら溶けていくだけ。それは、今まで見たことのないほど……、美しい剣だった。
【鑑定】スキルはマックスまで上げていなかったため、システムはその名前と性質を教えてはくれない。だが、それがどんなものであるかは一目見てわかった。
【オブジェクトレイサー】
この鋼鉄の浮遊城にあるオブジェクトなら、触れて切り裂けばどんなものであれ消去してしまう剣。剣の形をとっている最上級のデリートプログラム、最も警戒しなくてはならないものだ。それはNPCであろうとボスモンスターであろうと破壊不能オブジェクトであろうとプレイヤーであろうとも、躊躇いなく消去する。神様しか使えない最終兵器。
その穂先は今、私の肩を穿っている。背後の石碑まで貫き、縫い付けるために―――
「―――どうしてこんなことをしたのか、聞いていなかったね」
静かに穏やかに、茅場さんが問うた。教師が生徒に、カウンセラーが患者を諭すように。
ボロ雑巾よりもひどい有様の私は、すぐには答えられず。ただ皮と肉を焼く高熱と、全身の骨を噛み砕くような悪寒に、耐えていた。
今の私には、【ペインアブソーバー】が作動していない。現実の肉体並みの痛覚で、非現実的な責め苦を味あわされている。
そんな敏感さだと、絶叫しながら泣き喚くことを超える。ヨダレと涙を垂らしながら笑ってしまう、痴呆になったかのようにただただ、笑いがこみ上げてくるだけ。……もし、ここで出来たのならば、おしっこ漏らしてたのかもしれなほどに。
生の脳みそにある痛覚緩和処置=アドレナリンだかが大量に分泌されて、なんとか正気を保っている。
また一つ、理解できた。【ペインアブソーバー】は、プレイヤーが心地よくゲームを楽しんでもらうための処置だけでなく、システム全体を守るための処置でもあった。それがわかった。……多大な犠牲を払って。
「君はどうして、こんなことをしたのかね?」
黙っている私に業を煮やしたのか、グリグリと肩をえぐってきた、自販機にコインを入れるかのような手軽さで。……それで、黙っているわけにもいかなくなった。
「あのぉ……茅場さん。俺一応、女の子ですよ? うら若き乙女ですよ? もう少しそのぉ……丁寧な扱い、してほしいですけど?」
「身の丈超える大剣を振り回しては、私の首を狩りに襲いかかってきた。そうした以上、こうされるのは当然だと思うが?」
……いや、全然釣り合わねぇし。そんな純粋な瞳で首かしげても騙されないから!
確かに私、血に飢えた首狩り族みたいな野蛮なことしたけど、全く何も出来てないし。首の皮一枚もとってないし、茅場さん無傷だし、私は瀕死だし。こうなるの多分わかってただろうし、だから私無駄死にだし―――。改めて思い返すと、涙が出てくる。
待遇改善を訴えようとしたが、やめた。こうなった以上、もう何もかも無駄だ。諦めて受け入れるしかない。……一応秘策は、残っているしね。
問題は、
時間は私に味方しない。ほんの少しでも気づかれたらそれで、終わり。だから絶望しているフリをして騙せばいいのだろうが、そうは簡単にいかない。茅場さんは私という人間を知っている。ここまできて戦った以上、嘘などすぐバレる/逆効果でしかない。……ただ事実のみ/偽りない心情のみで、そこに至らなければならない。
絶体絶命の崖っぷち=私の現状。ソレを恐れず笑い飛ばして、駆け抜けるしかない。賭けるしかない、これまでそうだったように今回もまた、全てを―――
「……貴方を殺そうとして、逆にこんな目に遭ったことですか?」
「いいや、その逆だよ。どうして私を生かそうとしたのかね?」
私の皮肉をサラっと無視して、そんなことをおっしゃった。
「言ってる意味がわからないですねぇ。俺は貴方を暗殺しようとしたじゃないですか。……まぁ、失敗しましたけど」
恥ずかしい話だけど……。
勝つために色々と準備と策を巡らしてきたけど、そのことごとくが通じなかった。
【魔人剣】なんていうチートスキルを手に入れたこと然り、ゲームシステムを解析してプレイヤーに与えられたアバターを改造=
そもそも、前提としてそれらは、最強プレイヤー《ヒースクリフ》との決戦に備えたものだった。だから、仕方がないといえば仕方がない。一プレイヤーがゲームマスターと戦えば、こんな結末になるのは当たり前だ。戦力差がありすぎる、孫子とかクラウゼヴィッツでも匙を投げるほど。彼らが助言してくれたのならおそらく「ケツまくってさっさと逃げろ!」だろう。……そんなことすら、できなかったけど。
「はぐらかすつもりなら、私の方から言ってあげよう。
このSAOに囚われたプレイヤーすべての目的は、最終ボスである私・茅場晶彦を殺すことにある。このアバター《ヒースクリフ》の正体を知っていようと知らなかろうと。2年前に私がやったチュートリアルを聞いたその時から、プレイヤーは皆そのために行動することになる―――」
言いながら、握っていた刃をグリグリと動かしてきた。その度に、バンジージャンプかジェットコースターの急降下&急上昇並みの痛みの振幅で、心臓がベコバコする。頭はグワングワンと視界はバチバチと明滅していた。幻覚ではあるだろうが、全身から脂汗がどっと吹き出してきていた。ただでさえ体温を奪われ続けている体は、真冬の海に投げ出されたように凍りついた。……人の体を鉛筆削りか何かだと、勘違いしてるのかな。
『焼けた鉄杭がねじ込まれるような』という比喩表現は、どこぞの分野ではよく聞く。それは、『ひと振りで意識が吹っ飛ばすような快楽をもたらす魔法の杖』らしいが、現実は違った。大いに違う。ただただ痛い、苦しいだけ、自分の体がリアルタイムで焦げる匂いは吐き気がする。抜いてくれるのなら何しても構わないと思えるほどの、苦痛の塊だ。
奥歯を噛み砕く勢いで耐え忍び続けた。
「―――このゲームをクリアし現実に帰還するということは、そういうことだ。
大量誘拐・虐殺犯である私が日本国の警察に対して、有利な立ち位置を約束していた手札を手放さざるを得なくなる。人質全員が死ぬ可能性があるからこそ、電力供給をストップなどの強硬手段も取れなかっただけ。テロリストとは取引しないというのが最近の警察だが、公然と一万人を犠牲にするのは、さすがに避けなければならないからね。
私の要求に彼らが従っているのはただ、すべての人質の身の安全が私の手に握られているからだ。クリアしてしまえば、ソレはなくなる」
「なーんだ。本当に開放してくれるんですね。てっきり、冗談かと思いましたよ」
「それがルールだ。ルールを守ってこその『ゲーム』だよ。言った私がそれを破ってしまえば、これは単なる『遊び』に堕してしまう」
「こだわる理由がわからないですねぇ。俺からすればむしろ、貴方の言う『遊び』の方が面白いと思っちゃうんですけど?」
「……実を言うと私も、そちらのほうが好みだ。この世界を作るのに機械の助けを必要としなければ、そうしたのかもしれないがね」
そう言うと、お互い笑い合った。茅場さんは余裕から、私のは痩せ我慢から。
もし、あのチュートリアルで宣言したことが嘘だったら?
デス・ゲームなんて嘘っぱち、ログアウト不可なんて冗談。全てはプレイヤー達に、時間を忘れてゲームへのめり込んでもらうためのサプライズだった……なんてドッキリ。今ではもう誰も信じておらず、今更そうだといっても笑って済まされはしないだろう。大切なのはゲームではなく現実なのだから、ここはそのための踏み台でしかないから。だから―――たった一つだけ、このゲームは絶対に
聖騎士ヒースクリフは、最終ボスの魔王だった、しかも茅場晶彦だった。なんて言うサプライズは、前座でしかなくなるだろう。それで免疫がついたと安心した分、よけい重くのしかかってくるのかもしれない/おそらくそうなるだろう。
その時、ここまで最初にたどり着いたプレイヤーが、どんな選択をするか? まだ知らぬ他のプレイヤー達に、何と言うのか? 私はソレを、知りたい。……ソレは間違いなく、私の求める魂の輝きで、煌めいているから―――。
もはや果たせない夢想に耽っていると、茅場さんが続けてきた。
「ゲーム攻略とは、詰まるところ私を追い詰める侵軍だ。フロアが解放されるたびにカーディナルの計算資源もそこに投入される。外部からのハッキングに対しての防衛力も、弱くなってしまう。……日本の警察もなかなかに侮れなくてね、ヒヤリとする場所まで踏み込んできた輩もいる」
「へぇ、そんな凄腕ハッカー日本にいるんですか? いるなら是非とも会ってみたいものですよ」
「……直接的な繋がりは、ないようだね」
私が驚くのを見ると、何かを思案するように呟いた。
地雷を踏んでしまったのか……。一瞬、緊張した。
しかし、様子を伺うとそうではないらしい。カマをかけられたのだろうが、なんのことなのか私にはわからない。ただ……推測はつく。十中八九あたっている推測だ、嬉しい誤算だ。
わずかながら活路が、見えてきた。
「失礼、君の話を続けよう。
PKを主な活動にしている、いわゆるレッドプレイヤー集団は、直接的な戦闘能力だけでなく間接的な目に見えぬ恐怖としても脅威だ。ただでさえここには命を奪いにくる危険なモンスターが屯している。それなのに、仲間であるプレイヤーを疑わなくてはならない。それはかなりの……ストレスだ。それがゲーム攻略を阻害する規模にまで膨れ上がったのなら、なおさらだろう。―――君がそうさせた」
「皆の協力あってのことです。こんな痛みを……感じられない世界だから、命と罪の瀬戸際に立たない限り、生きてることを実感できないからですよ」
今の私は、痛みだらけの壊れかけだけど……。
「デス・ゲーム化だけでは、満足できなかったのかね?」
「本当に死ぬのかどうか、ここにいてはわからないじゃないですか? 手ずから確かめるしかない。……まぁ、自殺するのが一番の早道なんですけど、真相を確かめるのが目的じゃない」
「目的は、生の実感にこそあったと?」
「メンバー全員に共通していることは、『他人の世界を謳歌よりも自分だけの世界に生きたい』て願望です。どれだけ小さくてみっともなくて、許されることでなくてもね。あなたと同じですよ。……あなたほどスタイリッシュでも、クールでもないですが」
「……それでは私は、君たちに悪い影響を与えてしまったことになるね、残念なことに」
少し顔を曇らせながら言った。
皮肉も責めるつもりなど毛頭なかったので、訂正した。
「悲観なさらないでください、啓蒙してくれたんですよ」
「啓蒙とはまた……、ものはいいようだね」
「彼らにとって、それができるということは必要なことでした。自分一人だったら怖くて諦めていたはずです、ここでできなかったら現実でできるわけがないですし。そんな臆病な彼らに貴方は、勇気と希望を与えてくれたんです。ヒーローですよ。
偉大な先達に感謝こそすれ、恨みなどあるはずがない。責めるなんて恩知らず、もってのほかです」
「
そう呟くと始めて、剣の柄から手を離した。
ここにある全てのオブジェクトは、茅場さんの支配下にあるもの。だけど、完全に手のひらのなかにあるわけじゃない。
針先ほどの微細なセキュリティーホールがいくつかあって、こうやって知覚できるように仕立てている以上、なくすことができない。一方的な関係にはなりきれない。その穴を見つけこじ開けて、茅場さんの支配下から私の支配下に置くことも可能だ。たとえ、今武器として装備しているであろう【オブジェクトレイサー】であっても、変わらない。探せばきっと見つかる。
ただそれは、私に余裕がある時だけだ。今はちょっと……難しすぎる。
今も注ぎ込まれ続けている完全消去のコードを誤魔化して、私をこの世界に繋ぎ留める核が消えないように遅延させる。そういう、脳みそが沸騰しそうな作業をこなしながらでなければ、できたことだっただろう。回数制限付き
加えて言うなら、今ここじゃなければ茅場さんは、こんなとんでもチート武器を使ってくれなかったことだろう。彼がその危険を冒して直接支配をやめたということは、私にそれを取り込める力が完全にないと踏んだから。そしてその見込みは―――
今の私はズタズタのボロボロで、けちょんけちょんにやられてグロッキーだ。ガラスの顎にいいのをもらって膝がガクガクしている、もらい続けて立たされている漫画みたいな有様だ。『フランダースの犬』のラスト場面のように、裸の赤ん坊型天使が今か今が出番かと天井からこちらをチラチラとしているのが見えるほど。……私の場合その赤ん坊は、天使ではなく地獄の使者だとは思うけど。
「……ゲーム開始前にシュミレーションを行った。約千人のβテスターたちから入手したデータをAI化して、この世界で動かしてみた。そこでは、PKを主とする犯罪集団の発生など微々たる可能性だった。個々でPKを起こすことはあっても、徒党を組んで率先して犯罪を繰り返すプレイヤーは出てこない。出てきたとしても、組織を維持できず仲間内で対立して果てるか、モンスターに殺されて解散だ。できるだけ作りやすい条件を整えても、大きくは成長できなかったよ。ゲーム攻略=皆の命が助かるという、誰もが即座に共鳴できる大義を越えられるカリスマを、作れなかったんだ」
それなのに実際は、攻略の足を引っ張るレベルまで膨れ上がった。《ラフィン・コフィン》なんていう一大犯罪組織が、できあがっていた……。
熱のない長口弁だが、賞賛してくれていることはわかった。……ちょっとだけ、こそばゆくなった。
「……お褒めに預かり恐悦至極ですよ。でもそれは、もうこの世界から消えてしまいましたけどね」
「そうだね。残念ながら……、そうなってしまうようだね」
言葉通り、消えてしまったそれを惜しむように言った。
それを茅場さん以外の誰かが私の前でやってみせたら、そいつの首を狩るために剣を振るっただろう。たとえ現状、身動き取れなかろうとも、どうにかしてその首を狩るために動く。後のことは知ったことじゃない。
それは、私も含めて死んでいった彼らに対しての、侮辱以外にほかならないから。その優しさこそ、私たちが命懸けで憎悪したものだったから。優しさに隠れた傲慢な臭気は、吐き気がするほどひどく鼻につくから、こんな痛みも吹っ飛ばせるほどに。……まぁ大概の奴らは、あんなクズども死んでくれてせいせいしたと言ってくれるだろう。だから、私が手を下すことはない。
私は茅場さんの哀悼を、素直に受け取った。
「……私は、君の意志を知りたい。
なぜ、自分の命を削ってまで私を助ける? 君だけではなく君がここで知り得た友人……君の言い方に従うなら同志か、彼らを殺そうとしている私をだ。君の行動は、ただただ自分の身を削るだけの損耗だ。得られるものなど何もないはずだ」
「消費社会の申し子らしく、価値なんてわからずに使い潰しただけですよ。全くのおバカさんですよねぇ」
そう言って笑った。それは一面において事実そのもので、私が脳足りんのビッチだと言われても否定しきれない。……ビッチよりもひどいのかもしれない。
しかし茅場さんは笑わず、真面目な顔つきのまま。私の冗談を全く取り合っていない。
「はじめは、刹那的な快楽だけを求めている先天的な犯罪者かと思っていた。ただの社会不適合者だと。だが、剣を交わらせてみれば……、違った―――」
呟くようにそう言うと、先まで剣を握っていた自分の手を見つめた。まるでそこに、私の心があるかのように……、戸惑っている。
その迷いの表情に私は、喉元まででかかった軽口を飲み込まされた。
「……一体何の因が、君をこうまで駆り立てたんだね?」
できるだけ表情は崩さないようにしていた。だが先程の、悲しみに似た感情が漏れでいる顔で問いかけてきた。
私は答えられず、無言のまま……。首の後ろの和毛がビリビリと総毛立っていた。
今まで誰にも踏み込まれなかった聖域を侵されたかのような、問答無用の拒絶感に襲われていた。今すぐ何か喚き散らしてやりたいのに、なにを言えばいいのかわからない。何か出してしまえばソレが、命取りになりそうな予感が口を閉ざす。
黙っていると、茅場さんは続けて言った。
「私が、直接的なPKをあえて使用可能にしておいたのは、ゲームの難度を下げるための処置だ。ゲームの主な運営を任せているカーディナルは、私もプレイヤーの一人と判断しているようでね、
茅場さんのクリア条件……。そんなものあるはずがない。
いや―――、ある。一つだけ、どんなプレイヤーよりも困難な条件だ。
「PKを予め封じてしまうと、それに付随してゲームの難度を上げてしまう。モンスターのアルゴリズムやクエストの複雑さを調律しなおそうとするのだよ、全てを公平に帰するため。……その難度は酷いものでね、90年代あたりのゲームを思い出したよ」
「最終ボス魔王のクリア条件は
全てのプレイヤー、そこには当然彼自身=
ただ―――、考えてしまう。考えざるをない。……浮かんできた疑念に、憂鬱にさせられた。
聖騎士から魔王に変わるだけ/名前が変わるだけで、プレイヤーであることから抜け出せるのか、どうか。はみ出ることはできたとしても、完全に転身することはできないはず。彼は魔王になっても、プレイヤーであり続ける。―――彼自身の抹殺が、彼の勝利条件に加えられている。
彼を殺すこと。ソレは、彼の勝利を確定させることでもある。殺したその瞬間に敗北する=殺すことができない。どうあがこうとサバイバルゲームを仕掛けたとしても、勝ち目がない。私は彼に…………、勝てない。
「……話が早くて助かる。なら、続けて言いたいこともわかるね?」
焦りで奥歯を噛み締めていると、茅場さんは何事でもないかのように再度問いかけてきた。……ソレが事実であると、裏付けてもきた。
この戦いが/私のあがきそのものが、見当はずれの間抜けなことだと、告げた。
一つ深呼吸した。深く深く、腹の底に溜まっていた不安を吐き出しきるように。乱れてささくれだった心をそれで、整え直す。
それで冷静さを取り戻すと、顔を上げた。……今はどうしようもない未来のことよりも、はっきりとした目の前のことに集中しよう。
言いたいことはわかる。本来なら開示されない情報を明らかにしたことで、先に見返りを渡したということだろう。そしてそれでも釣り合いが取れないと思うのなら、こちらにはまだ提供できるものがある、ということも匂わせている。……どこまでこの人は、公平さを失わない。
過大評価はありがたいことだ、利用すべきことではあったのだろう。だが、こと
「そうですね、簡単に言えばそれは、貴方が―――」
「私が?」
「乙女心がわからないクソ野郎だということです」
ニッコリと、今出せる極上の笑顔とともに言った。……このぐらいの仕返ししないと、やってらんない。
「……もう少し、過程を説明して欲しいところだが……答えてくれるかな?」
眉間を指で揉みながら/深くため息つきながら、言った。
「これ以上のわかりやすい答えは、ないと思いますが?」
すげなく断ると茅場さんは、苛立ち混じりの戸惑い顔を見せてきた。それで幾分か溜飲は下がったが同時に、呆れてしまう。……本当に、わかんないの?
私は何か、大きな誤解をしていたらしいことに……きづかされた。
これは、特殊茅場晶彦的性質なのではなく、男女の思考方法の違いなのかと思う。そう思わないと、みっともなくて泣きたくなってくる。……もう激痛で枯れ果ててたけど。
私は生まれてこの方(2年間は男に留学したけど)女としてしか生きていない。それは茅場さんも同じだろう。直感に従ってすぐに結論に飛び込みたくなる私と、論理を用いてひと呼吸置きながら理詰めでしっかりと登る茅場さん。三つ子の魂百までという言葉が合っていれば、それを今更どうにかするにはもう一度生まれ直さないと無理だ。無理だと思えば、慰められる。―――磐石な動機なんかよりも胸のドキドキの方が何倍も、行動基準になるなんて。
私の行動に原因は
彼も同じ人種だと思っていたが、違うのか? それとも、同じ人種がいるわけがないと、思っているのだろうか……。ちょっと、いやかなり、寂しい認識をされていた。
一つ大きく、ため息をついた。それで、気を持ち直してみせた。
「……俺も聞いていいですか?」
「私の質問には答えてくれんのにかね?」
「なんで、こんなデス・ゲームを始めたんですか?」
無視して問込んだ。それで気分を害することはなく、むしろ興味深そうに押し黙った。
誰もが知りたがる/いつか必ず言われるであろう問いかけ、この事件を踏み切らせた根源とは何だったのか? 己の内部を見つめ直して、言葉として汲み上げようとしていた。
「先に言っておきますが、チュートリアルで言ったような戯言は、繰り返さないでくださいよ」
「……別に嘘は言ったつもりは、ないのだがね」
逃げ道を先に塞ぐと、苦笑しながら言った。
黙って見つめていると、肩をすくめた。降参だと言うかのように、ソレを告げた。
「私は、統合失調症だ」
意外な……だけど奥底では、納得してしまう弱さだった。驚くもすんなりとお腹にまで落ち込んでいく。
「ここでの時間を合わせれば、もう……4年ほどになるかな。日を追うごとに、正気でいられる時間が短くなってきていた―――」
まるで他人事のように、ただ事実を告げているだけというかのように平静のまま。己の病状をさらしていった。それでも、冗談や嘘っぱちには聴こえてこない。
「発作はいつも、突発的にやってきた。予測はできない。その間私は、深い眠りに落ちてしまう。だが体だけは、勝手に動き回っている状態だ」
そこで一旦区切ると私も、魔法から覚めたように息をついた。呼吸していたことに気づいた。
「発作時期が予測できなかろうと、対策はできる。私が
いわゆる未来日記、それも正確無比な預言書/病状を一切気づかせないレベルまでのカンペ。そんなこと常人には不可能だろうが、茅場さんなら難なくこなせそうだ。そんな気がしてしまう……。口元に小さく、笑みがこぼれた。
すると唐突に、理解が降ってきた。いつもの彼らしからぬ行動、常識的に考えれば気にもとめないであろうモノ、そして何よりもあの癖……。つながった。
「もしかして、SAO開発時期にかけてたメガネって……携帯端末だったんですか?」
「察しがいいね。その通りだよ。
皆には商品の宣伝のためつけていると言ったが、記者会見で発作が起きてしまった時の保険だよ。ストレスが溜まる場所だと特に発作がでやすいからだ」
メガネのレンズに偽装したディスプレイ、そこに表示されるであろう様々な情報。発作が起きたらソレを基準に行動する、インタビューなどの公の場ならばセリフまで出ていたのかもしれない。
そして、あの眉間を指でつまむ癖。アレは、端末を起動させるためだったのだろう。耳元にスイッチがあるタイプが主流だが、眉間の部分だと自然と俯くことができる。ここでもソレが現れてしまうというのは、それだけ長い期間一人知られずに、病と付き合ってきた証だ。
「……これでも私は、『若き天才』で通っているからね。こんな病を患っていると知られたら、ファンにもスポンサーにも逃げられてしまう」
そんなことになれば誰も、ナーブギアなんて拘束具/SAOなんて牢獄は、買わなかったことだろう。おそらく、私ですら……。
そうまでしてでも成し遂げたかったゲーム、金も地位も未来も得られず燃やすだけの犯罪行為、賞賛してくれるのは一部の奇人・変人だけだろう。空気が読めないどころか気にもしていない、むしろ噴出して占領した。……計り知ることができない熱量に再び、笑みがこぼれていた。
ただそれでも……、
「それが、真実だったとしても、貴方に時間がなかったとしてもです。やっぱりデス・ゲーム化は、納得しきれませんよ」
「……どうしてだね?」
「だって貴方は、病を克服できる方法がわかってたじゃないですか。少々手間は掛かんでしょうが、未来日記を書き続ければいいだけの話でしょ? わざわざこれから発展していく分野に、VRMMORPGに影を落とすような真似をしなくてもよかった。デス・ゲーム化で無理やり閉じ込めるんじゃなくてもう少し、穏便で効果的なやり方がありましたよ」
「ほぉ、そんなものがあったのかね?」
「あります。―――VRセックスです」
太古の昔から今でも、新天地や貧しい国でやってきたこと。
文化が発達してインフラが整備され商売が盛んになっていくに従って、その手の商売は影を潜めていく。法規制や住民の忌避感からも徐々に消えていく。だけど、ソレなしにはどんなものも築けない、地下資源や観光資源/工業技術/大国や実力者たちとの強いコネを持っていなければ、金持ちたちが欲しがるようなモノがなければ。残っているの無法地帯であることとと……、女だけだ。
身持ちが固く法で守られてしまっている同郷の淑女とは違って、そこなら好き放題にできる。後先のこと考えずはした金だけで遊べる、それでどちらも悦べる/喜べる。男が欲しいのならそれでもできるだろう。VRだったら、年も容姿も頭のデキも選り好みできて病気の心配も一切ない。現実以上、夢か銀幕の中でしか出会えないようなスターとも恋人になれる。たった一夜とは言わず、好きなだけ長く。
わざわざ罠にはめて、デス・ゲーム化して閉じ込める必要はなかった。プレイヤーの方からすすんでのめり込んでくれることは、間違いないだろう。
「……君の提案は、最もなことだ。そのような方法をとれたのならば、ことは穏便に済ませられただろう。ただ……、二つの点を除いて」
「二つ、ですか?」
「まず一は、技術的な面だ。性感やオーガズムというものをVRで再現するのはとても、難しくてね。不可能といってもいいかもしれない」
「データを集めれば、できそうだとは思いますけどね」
「男のものだけなら、ある程度までは再現可能だろう。だが女性のオーガズムは、無理だ。意識が飛び気絶までしてしまう快楽など、機械にとっては爆弾と同じだから。破裂させたら回線を繋ぎ直さなくてはらないが、人間の脳とちがって機械にはそんな融通は効かない、一度壊れたら回線は焦げ付いて直らない。それに何よりだ、やり方が噛み合い続ければ、男女二人で際限なく官能を高められる。……VRでセックスの再現は、不可能だよ」
「確かに、究極的にはそうかもしれませんが……、そこまで再現する必要はないでしょ? 求めているのは大概、遊びとか鬱憤ばらしなんだし。男のオーガズムさえ再現しきれば事足りる。逆に、本気にさせるのはやめた方がいいでしょうね。ソレは言ってみれば撒き餌であって、のめり込んで欲しいのは丹精込めて作った異世界の方だから」
「……それも一理あるが、技術者としてはそんな不具合を残しておきたくはないな。初めは遊びだったとはいえ、徐々に本気になりこの地に骨を埋める覚悟を持てる者も、いないわけではないだろうしな」
世界創造主として、客の要望には全て応えられる用意をしておかなければならない……。律儀なことだ、いや完璧主義なのだろう。私にはそんな細かい要望にまで、気を回せない。
「もう一つはなんですか?」
「君の口から、そんな話が出てきてしまったことだ」
「……意味がよく、わからないんですか?」
「もう少し、慎みを持ってくれ。仮にも……、嫁入り前の女性なのだから」
…………………え? いやいや、今更!? 遅ッ!
今アンタ、何してるのかわかってる、ちゃんと目付いてるんですか? 固くてデカく太くておまけに激熱なのぶっ刺してるじゃん! 背中超えて壁にまで貫いてるし。グリグリして抉ってもくれちゃったんじゃん、目笑わずに! こんな体じゃ私もう、どこにもお嫁にいけない、貰い手だっていないだろうし。それしたの全部アンタだし、何だって今更貞操を説いてくれちゃうの―――
私は、茅場晶彦という男を理解したと……思っていた。それは全く/全然/これっぱかしも、できちゃいなかった。そのことを痛感させられた。特に、女性に対しての考え方については。……まさか、援交したJKと体力の限りやりきったあと説教垂れる中年のオッサンみたいな真似、してくれるとは。
「…………まぁそもそも。それだけの時間は、私に残されていないのだがね」
呆れ果て白い目まで向けようとした私を無視して、つぶやいた。
そのたぶんに含まれていた深刻味に、再び引っ張り上げられた。下から上へと、アッパーを食らったかのように。
グラつき倒れそうになる、それを何とか堪えた。会話の主導権は握られまいと、すぐに気持ちを刷新した。
「でも
私の指摘にピクリと、眉が動いた。
答えられず茅場さんは、何かを見定めるかのようにして見つめるだけ。それを見てニヤリと、薄く笑みがこぼれた。
「これは私の推測ですが……、もしかしてナーブギアというのは元々、貴方の病に対抗するための携帯端末だったんですか?」
予期していたであろう答え合わせは無視して、新しく得た考察を披露した。
発作が起きたときの対処法として、メモや携帯を使う。それを見て書いた自分を信じきって、言われたとおりのことをする。そうすれば他人には、病のことは悟られない。それを効率良くしたのかメガネ型の携帯端末、記者会見時であっても違和感をほとんど見せずにやり過ごせるほどの効果があった。ならばさらに先へ、より密度が高い情報を即座に発作時の自分へ伝える方法があるはず/つくるはず。―――それが、ナーヴギアを生み出した源流。
ひとつ肩をすくめると、私の推察を全面的に肯定してきた。
「―――いちいち情報を集めて分析して予測して、それを端末に書きおこす。阿呆になった私でも分かりやすいように。ソレがどうにも……、面倒になってきてね。そんなことに煩わされるのは、身の内から出たサビとは言え、負担になってきた。だから、専用のAIを作った。……壊れた私と、交換するためにね」
AI=未来日記の自動書記。ソレはつまるところ、彼自身のクローンを作り出すことだ。全く同じ能力/記憶/思考を持つ、だけど金属の集積回路を寄り代とした相似存在。
ソレの創造は、完璧無比に果たされたのだろう。だからこそ、この世界に存在する一部のNPCたちにも、固有の魂を吹き込むことができた/ちゃんと体と一致させて生きさせることができた。
「君の推測、半分当たりだよ。
ナーブギアは病の克服のためにつくった。だが、まだ完成形ではない。再構築された私がここでなはなく現実にいて、体を動かせなければ意味がないだろう?」
「求めている性能はVRではなく、AR(拡張現実)だからですか?」
答えを先取りして、言った。
正解だと言わんばかりに微笑むと、続けた。
「ソレは、いずれやってくる未来だ。私がやらなくても、誰かが推し進めるだろう。だから私はそれまで、待てば良かったのだろうが―――」
「でも、できなかった……。
再びの先取りに今度は、息を飲ませた。瞠目させた。
空気が緊迫した、顔の強張りが目に見えた。
「貴方は恐れている。もはや
そう言い切ると、今出せる極上の微笑み向けた。天真爛漫に容赦なく、抉りだすために―――。
ゾクリ……。背筋がこわばった。
底なしの虚のような視線で、私を睨みつけていた。そこから、心臓を押しつぶすかのような殺意が浴びせられた/こちらの生気を飲み込んできた。その威圧に一時、肩に貫かれている刃の痛みを忘れてしまうほど。
異業の魔眼はほんの一瞬……。それで私の中から何事かを探り終えると、瞑目した。張り詰めていた空気も霧散していく。
「―――認めよう。私は、恐怖に囚われていた。いや、今なお
茅場さんの声が聞こえると、ドッと冷や汗が流れ落ちた/流れていることに気がついた。麻痺していた心身へ徐々に、熱が通じていく。
それでもまだ、圧倒された凍えは消えてくれない。だが、笑った/笑みを貼り付けた。ようやく彼の芯を捉えた/ソレに手が届いたのだ。そんな身体反応/システムの規定に従ってやる必要は、どこにもない。
「ここで修復された私は、もはや別人だ。『茅場晶彦』である保証はどこにもない。その記憶と思考の癖を受け継いでいるだけの―――」
「―――AIだ」
最後に躊躇い口ごもった。だが、押し切るようにして告白した。
「……そうだとはとても、思えないんですか?」
「そう思うのは無理もない、それだけ忠実に再現しているからね。
ただ、完全に再現はされていない、これからも再現されることが無い。それゆえに私は、その定義から逃れる事は出来ないだろう」
「それは、茅場さんにはあって今の貴方には欠けているものが、手に入らないものがある……ということですか?」
「そうだ。彼にはあって私には無いモノ、持つことすら叶わないモノがある」
人間とAIの違い、タンパク質製の脳みそと金属製の演算装置以外の違い。それはどういったモノなのか……、想像もつかない。
それなのに何故か私は、ソレを知って
「私には……、叶えるべき夢がない」
その答えに私は/私の芯は、震えた。どうしようもなく突然に、震えていた。予想通りに想像以上の答えだった。
夢……。そんな下らない/訳がわからない/もっとまともな答えを期待していたと、笑えなかった。正しくそれはそうだったから、それ以外にはあり得ないから。そのことを私はここで、学んできたから。……私もソレを、追い求めているから。
胸の奥の深い深い場所/誰にも触れさせたことのない聖域がソレに、共鳴していた。
「病の克服はただ、夢への障害物の一つでしかない。茅場晶彦がその人生を燃やし尽くしてまで叶えようとした、夢想ではない。だが今の私は、私の全機能の目的は、その病を克服するためだけにある。私はそれを受け継いでいるに過ぎない。叶えるための道具でしかない、私の責務のためにソレを利用するだけだ」
自虐ではなく確固たる事実として、決然と。今の自分と現実の自分を区別するように、断言してきた。……そう自分に、言い聞かせるかのように。
「だから本人が死ぬ前に、やらなくちゃならなかった。貴方にはソレが、何にも代え難い大切なものだってわかるから。持ち主に捧げるしかない。……それが貴方の、ここに在る理由だから?」
「そうだ。
私は『茅場晶彦』を全うする。その先にこそ私の、
何事か、おそらくは本物の神様に、挑むように宣言した。必ず勝ち取ると。……あるいはそうあってくれと、祈るかのように。
再び理解が降ってきた。その戦いは必ず負けると、哀れみの感情とともに。
なぜならソレは、
己の自由は、他人へ忠を尽くすことによってのみ与えられる。……そんな生き方しかできないのは実に、哀れだ。
「……貴方はもう充分に、自由だと思いますよ」
「ここで与えられた役目を果たせなければ、私はこれから一生ソレに囚われるだろう」
「ソレ、自分で縛っているだけじゃないですか? ただ意固地なだけに見えます。そんな足枷なんて捨てて、ここからすぐにでも……逃げればいいだけです」
「なら君には、そんなことができるのか?」
問い返されたが、答えられず口をつぐんだ。答えることなどできなかった。
彼の言うとおりだ。私にもそんなこと/敵前逃亡みたいな真似、できっこないから。そこから一歩でも退いてしまったらもう、前に進めない。未来にもどこにもいけっこないと、思ってしまうから。……ソレが出来たのなら私は、こんな場所で殺されかけてはいなかった。
そして、彼を見出すこともできなかった。
「……君との対話は、実に心躍るものがあった。ここまで胸の内を曝け出してしまうとは、思ってもみなかったよ。だが―――、これまでだ」
もうおしゃべりの時間は終わり……。湿つき始めていた空気が一瞬で冷たく凍った。等身大以下の人間が、機械仕掛けの無敵の神へと変貌していた。
もはや隠すこともない。不届きな挑戦者たる私に罰を下す、その殺意を解き放っていた。
「私は私の秘密を知った者を生かしてはおかない。どんなことがあろうとも、絶対に。……残念だが【神崎零】君、君はここまでだ」
私の本名の暴露とともに死刑宣告すると、左手を前にかざした。管理者用のウインドウを展開しようと鍵印をつくる。強制完全消去コードを実行しようとする―――
ニンマリと、顔を歪めて嗤った。ようやく現してくれた。
(
ガバリと一気に、体をはね上げた。激痛も腕が肩ごと千切れるのも構わずに、ギリギリ押し留めていた生命維持も投げ捨てて、拘束から抜け出す。
そして獣のように、噛み付いた。伸ばされた左手に/
長々とご視聴、ありがとうございました。
ここで描いた茅場晶彦の動機は、拙著が独自に捻り出したものです。原作の彼から逸脱し過ぎないものだと思っておりますが……、ご意見いただけるとありがたいです。
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