ナザリック地下大墳墓の空気が揺れる。
それは予兆だった。
「来たようです。タブラさん……」
モモンガの髑髏が笑ったように見えた。
「私が私であるうちに来るとは、ラッキーですね。カシェバさんに戻ってしまっていたら少しやばいと、実は思っていましたよ。なんにせよ、私たちの勝ちですね」
「えぇ。アインズ・ウール・ゴウンに敗北はもとよりありませんからね」
モモンガが断言をする。
「な、何を言っているのですか! 私の優位は変わりません。モモンガ様のMPは尽きた。その
表情を変えずに冷酷に微笑むアルベド。
「なかなかやってくれましたよ。さすが私が作ったNPCですよ、アルベド。情報操作もお見事でした。まさか、シャルティアが洗脳されて裏切ったという情報が、現在のことではなく、過去の情報であったなんてね。あなたは、シャルティアが裏切ったという過去の真実に隠れて、あなた自身が裏切っているという事実を上手に隠した。過去のことを現在のことのように勘違いをさせるなんて、あなたはどこの叙述トリック使いですかね?」
「私には、ナーベラルが裏切ったという偽情報を報告したよなぁ? それは、ナーベラルが冒険者をやっている関係上、洗脳される可能性はある。可能性のある話をして、自分から疑いの目を反らさせた。それに、タブラさんが出現する条件が不明だなんて、それもまっかな嘘だった。いつ、タブラさんがカシェバからタブラさんになるのか、曖昧な情報として私に流し、私をカシェバのところに釘付けにした。そして、おまえはその隙を突いてナザリックを落とした。あながち、私が死んだとか行方不明になったとか言って、全員を集合させたところで、山河社稷図を使った」
モモンガとタブラ・スマラグディナの指摘は当たっていた。だが、それが何だというのだ。アルベドは鼻で笑う。
「もちろん、そのときには、きっと、ナザリックに裏切り者がいる、とか言って、守護者たちの持っている
「ふふふ。至高の御方がたお二人が、遅れて謎解きですか? でも、もうすべて手遅れなのですよ? 短時間で私の念入りに仕込んだ計画に気づき、暴いたのはさすがは至高の御方がたと言ったところでしょうか」
天使のような優しい笑みを浮かべながら悪魔は笑う。
「初見だったら無理だったかもしれなかったな」とモモンガが言った。
「このようなことは初めてではないと?」とアルベドは、怪訝な顔をする。
「『燃え上がる三眼』という、スパイを上位ギルドに送り込んだ輩たちが、かつていたのですよ。ギルドの仲間たちに別々の情報を与えて、ギルドメンバー同士を疑心暗鬼にさせる。そしてその隙に
「アインズ・ウール・ゴウンには、おまえが知らない”経験”と、そして”思い出”が蓄積されているんだよ、アルベド。プレイヤーを舐めるなよ?」
アインズの骸骨の奥の眼が赤く光った。
「アルベド、お前の勝利条件はなんだ? 俺の世界級装備を剥ぎ取り、そして傾城傾国で、私を洗脳する……か? だが、お前は失敗した。お前になら分かっているだろ? お前はその勝利条件を満たせなかった。詰んでいるということだ。圧倒的にお前が有利な状況だ。だが、お前は私の
「私たちは千日手なのですよ、アルベド。まぁ、私たちが連続チェックをかけられているので、パーペチュアル・チェックと言った方が良いでしょうがね。私たちはメビウスの輪の上を永遠に走り回らねばならない」
「笑わせないでください。詰んでいるのはモモンガ様です。私が優位であることには変わりませんよ。もうすぐ新月の時が終わります。そうすれば、タブラ・スマラグディナはただの
「さぁ、どうでしょうね。そもそも私がさきほど言ったメビウスの輪というのは、数学的に表と裏が定義できない。果たして私たちは、裏と表、どちらを走っているんでしょうね。優位な状況も、メビウスの輪の上では定義することなどできませんよ」
「そんなことはありえない。そんなのは嘘、いえ……ただの張ったりですね、タブラ様」
「嘘の嘘、それはくるりと裏返る」とタブラ・スマラグディナは
「ごほん。アルベド、三つ、お前の間違いを指摘しよう」とモモンガが仕切り直す。
「一つ目。
お前は、山河社稷図の使い方を間違っている。俺たちがそれを手に入れたときのギルドも同じ過ちを犯していたがな。山河社稷図は、相手を閉じ込めて援軍を断ち、長期戦で持ち込むという戦い方では勝てないのだよ。必ず脱出条件が設定されるというデメリットがあるからな。裏を返せば、相手が脱出条件を探し出さないうちに敵を殲滅しなければならない。山河社稷図を使うということは、自ら時間制限を課すのと同じなんだよ。それなのに、長期戦をお前は選んだのが一つ目の過ちだ。
そして、二つ目。
プレイヤー同士の戦いは、超位魔法のクール・タイムが終わらないうちに決着がつくんだよ。相手がプレイヤーが長期戦を選んだ場合には、思惑があるということだ。まぁ、だいたい、伏兵や援軍が来ることを待っていると相場が決まっているがな。
さて、アルベド、どうして俺たちがこうやって謎解きしたり、だらだらとこうやって時間を稼いでいるか分かるか? 頭の良いおまえなら分かるよな? 一つ目の過ちと二つ目の過ち。そこから導き出される結論は?」
「援軍? まさか、それはあり得ない。山河社稷図の脱出条件を満たすことなんてできるはずがない」
「そうか? お前には分からないのか? 空間が軋めく音が!!」
パリーーッツーーーン
空中に細かいガラスの粒をぶちまけたように、光が乱反射していた。言うまでもなく、山河社稷図の解除条件が満たされ、閉鎖空間が解放されたのだった。
そして、現れたナザリックの一同。
シャルティア・ブラッドフォールン、アウラ・ベラ・フィオーラ、マーレ・ベロ・フィオーレ、デミウルゴス、コキュートス、そして、ヴィクティムを抱き抱えるセバス・チャンと、その横には、ツアレニーニャ・ベイロン。
紅蓮もいる。
パンドラズ・アクターもいる。
その背後にはプレアデスもいる。
ナザリックのすべての配下が、片膝をついていた。否、エクレア・エクレール・エイクレアーだけは、白いお腹を床に付けていた。
「偉大なる至高の御方。アインズ・ウール・ゴウン様、御身の前に!」
一同が声を揃えて言った。
「三つ目のお前の過ちだ、アルベド。アインズ・ウール・ゴウンに敗北はないと知れ!」