注意。
この話は映画を観て感動して作った作品であり、すべて作者の妄想でございます。
また、小説、映画を見ていない方はネタバレになりますので今すぐに映画、小説を観てきてください。
空が輝いている。空には一筋の青い光がある。それは神々しく、幻想的な光景だった。周りの皆はそれに目を輝かせて、口々に「神様がおいでなさった」と言っている。
だが私は―――この村の巫女である私は確信していた。あれは神などではない。この村を滅ぼす何かだ。だがもう遅い。青い筋から分離してきた赤い点はすでにすぐそこに迫っていた。
私では何もできない。
だから、私は最後に願う。髪を結んでいる紐を解く。どうかこの紐が私たちの未来と命を結んでくれるように。
――――――どうか、私たちの村をお救いください。
視界が、白に覆われた。
◇
この書を妻に見せるべからず。
これは私の見た摩訶不思議な体験を綴ったものであり、この村の未来のためのものである。ただしもう一度言うが決して妻には見せてはいけない。たとえ読めずとも、だ。それが彼女との約束なのだから。
それでは語ろうか。今ではこの村の神職についている私だがかつては都の貴族であった。
ある日、不思議な夢を見た。
気づけば私はどこかも分からないような田舎で、さらに女となっているのだ。都とは程遠い光景に私は目を疑った。四方を山に囲まれ、水田が広がっている。その時私がいた神社の社はそこそこ立派だったが、我が家と比べると程遠かった。
そこでは私は巫女であったらしい。祖母と思われる人物に怪しまれながらも会話をし、その情報を得た。しかしその後は巫女の修行や仕事というものをさせられた。特に結紐づくりというもの、あれは相当に難しいものであった。さらに祖母の教えが厳しいことこの上ない。夢といえどこんなに厳しいことがあるものか、と当時は思った。
翌日、目を覚ますといつもの我が家にいた。しかし奇妙なことに出仕すると同僚が口をそろえて「昨日の様子がおかしかった」などという。その時は首をひねりながら帰宅したものだ。
その数日後、私はまた先の村で目を覚ました。また不思議な夢であるものだ。そのようなことが何度も続いたある日、私は確信に至った。これは夢ではない。そして―――
――――私はこの巫女と入れ替わっているのだと。
なるほど、そう考えれば周りの反応も納得である。だが私と入れ替わっている巫女は好き放題しているようだ。まったく、しわ寄せが来るのは翌日の私だというのに。もっとも人のことは言えないとも思うが。しかしその巫女が文字の読み書きができるとは到底思えない。どうしようもないことだと思いながら私はある計画を立てた。
そのあとの行動は早かった。私が入れ替わっていた先の村は糸森という場所らしい。どうやら年貢を納めているようなので都で調べることも可能だろう。そう、私はその糸森を訪れようとしていたのだ。
そう考えながら出仕をこなしつつ調査をしていた時、突如その入れ替わりが途絶えた。
二、三日の周期で起こっていた入れ替わりが突如終わったため私は訝しんだ。そのためより一層調査に身を入れた。
なぜここまで熱中していたのかは今でもよくわからない。おそらくは、私と入れ替わっているであろう巫女と人目会って言葉を交わしたかったのだと思う。
ついに糸森に関する文献を見つけた。しかしどうやらおかしいことがある。三年前より後の記録がないのだ。さらに読み進めてみると滅んだなどという記述がある。ばかばかしい、そのようなことはありえない。つい最近私はその村で過ごしたというのだから。
私は数人の従者を連れて糸森に向かうことにした。かなりの道のりであったが、なんとかしてたどり着いた。着いた頃には日も沈みかけ、かたわれ時が近づいていた。けれども目の前に広がっているのは、まさにありえない景色であった。
村がない。
家屋はほとんどが潰れ、人の気配は感じられない。神社があった場所は、そこを中心として大穴が空き、小さな湖が出来上がっている。私は膝を落とした。滅んだというのは本当であったのだ。ならばあの生活は本当に夢であったのか。あの巫女には会えないのかと。
地面に手をつくと何かが見えた。木陰に何か赤く細長いものが転がっている。泥にまみれていてぼろぼろだが私は一目見ただけで理解した。あれは結紐である。私はすぐに近寄ってそれに触れたが、その瞬間強い頭痛に襲われた。
まだ夕方だというのにまた不思議な夢を見た。従者の姿が消え、目の前には一人の女性がいた。私が入れ替わっていた巫女だろうか。女性はゆっくりと口を開いた。
「よくぞ来てくれました。ご足労を感謝いたします」
私はすぐさま答えた。
―――おまえは誰だ。この光景はどういうことだと。
「私はこの村の巫女だった存在です。あなたの知る巫女とは違う存在でしょう。この村は三年前に滅びました。原因は天より降ってきた青い筋と赤い点です。その結紐はその直前に私が願いを託したものでしょう」
―――滅んだだと。私はつい最近までおまえと入れ替わっていたはずだ。
「それはあなたは過去の
―――過去と入れ替わっていたとはにわかには信じがたいが……続けよう。天から降ってきただと。それにだった、とはどういうことだ。
「私は既に死んでいます。きっと神様がその結紐に私の念を宿らせてくれたのでしょう。ですからあなたが入れ替わっていた
―――少々不可解なことはあるが今更だ。それでここに出てきて何を言いたい。そもそも私はなぜおまえと入れ替わっていた。
「ええ。あなたに―――この村を救っていただきたいのです。あなたたが過去の
―――救うだと。馬鹿な。この村は既に滅んでいる。それに、入れ替りも無くなっている。
「心配ありません。結紐は結ぶもの。未来と過去が繋がることもまた結びです」
―――また入れ替われということか。無論だ。
「感謝します。口噛酒というものをご存じでしょうか。結紐を持って強く念じながらそれを飲んでください。そしてあの山に――――」
そこで景色がもとに戻った。日は先よりもさらに沈んでいる。かたわれ時が終わったのだ。
かたわれ時―――それは生者の世界と死者の世界が
気がつけば従者が怪訝そうに私を見つめていた。しかし私は彼らには目も向けず歩き出しだ。
もう何をすればいいのか分かっていた。
私は吸い込まれるようにそこへ向かった。湖のほとり。そこにそれはあった。口噛酒だ。泥まみれで苔さえ生えている。しかし私はためらいもなく栓を開けそれを飲んだ。
―――さあ巫女よ。今からおまえを救いに行こう。
視界が暗転した。
目を覚ますと見覚えのある天井が見えた。そこは神社の一室だ。無事入れ替わりは成功したようだった。この時は必死だったため考えが及ばなかったが、やはり過去の人間と入れ替わるというのは奇妙なものである。
私は起き上がると祖母の言葉も無視して外へ出た。向かうのはある山の上。まるで何かに引っ張られるようにして私はそこに向かった。私の体が勝手に動いていた、といっても過言ではなかった。荒れ果てた道を進み山を登っていくと開けた場所に出た。山の上にはくぼんだ地形があり、その中央には川が流れていてそれを挟んだ先には石でできた遺跡があった。
―――この場所だ。
私はそう呟くとすぐに村に戻った。村に戻るや否や祖母にあることを話した。『この神社の御神体をほかの場所に移す』と。幸いなことに私の立場は巫女であったため神託があったと話せばすぐに信じてもらえた。瞬く間に村中に広まった。そして御神体を移す時間帯はかたわれ時と決まった。
あの不思議な空間ででてきた巫女の話にあった『青い筋と赤い点』。それに私はすぐに思い当たった。私の中でも特に鮮明に残っている記憶だったからだ。私もまた三年前に天の青い筋と赤い点を都で見ていたのだから。都は大騒ぎだったことを覚えている。その時間帯は確かにかたわれ時であった。
そして夕刻。村中の人がその場所に集まった。山の上で私の後ろに集まっている。祖母をはじめとして「このような場所、知らなかった」などと言っていたが、これについては後述する。
私は御神体を持ちくぼみの中央に近づいて行った。そして川をゆっくり渡った時何とも言えぬ感覚を味わった。自分が自分でなくなったような感じである。眩暈がしたかと思うと目の前には私が―――否、私と入れ替わっていた巫女が立っていた。ふと自分の体を見ていると入れ替わりが戻っているのだ。巫女はおずおずと声を出した。
「えっと……あなたが私と入れ替わっていたお方ですか」
―――そうだ。入れ替わりが戻ったということは……そういうことか。時間がない、手短に話す。これから先はおまえの役目だ」
「ちょっと待ってください。いきなり……っ」
巫女はいきなり頭を押さえてうずくまった。
「え、嘘でしょう。私は―――この村はあの時滅びたのですか。いえ、きっと神が―――」
「そうだ。思い出したか。神はこの村を見捨てておらん。私が今からいうことをしてくれ」
私はすぐさまに事情を話した。必要な情報を選び最小限の言葉で伝えた。
「ありがとうございます。本当に……この村を救っていただいて」
―――違う。救うのはおまえだ。これから、おまえがこの村を救うのだ」
私は思いついたように言った。
―――過去が変わる、ということは私はいずれおまえのことを忘れるだろう。だが、必ず私はおまえに会いに行く。その時はおまえの名を教えてはくれぬだろうか。おまえから、おまえの口から聞きたいのだ。
私はなぜこのようなことを口走ってしまったのだろうか。今思うととても恥ずかしい。しかし後悔はしていない。巫女は笑顔で頷いてくれたからだ。
その時の記憶はそこで途切れている。次に目を覚ました時は私はいつもの家にいて、その後もいつも通りの日常を過ごした。あの入れ替わりの記憶はこの時私の記憶から消え去っていたのだ。けれどもそこにはぬぐいきれない違和感があった。
この記憶を取り戻したのはその五年後のことである。つまり今これを書いている私から見ればたった一か月前のことである。私は違和感に我慢できなくなったのか衝動的に都の外に出た。神の思し召しだろうか、私は道を違えもせずにこの村にたどり着いた。村は滅びることなく平和だった。ただ村の中央には大きな湖が出来上がっていた。村に入るや否や私は神社に向かった。神社の境内では巫女が掃き掃除をしていた。巫女は私を見ると涙を流しながら箒を落とした。私も同様に泣いていた。私は静かに口を開いた。
「おまえの名は―――」
◇
妻は涙を流しつつも笑いながら答えてくれた。教えてくれた名前、その声、その時の顔は今でもかけがえのない
宝物である。
記憶を取り戻したのはちょうどこの時である。その時頭の中で声が響いた。
『この村を救っていただきありがとうございます。どうか、彼女には入れ替わりのことは伝えないでください。そうすれば結びが解けてしまう。あなただけ特別です。いつかまたこの村は困難に陥るでしょう。その時のためにあなたはこのことを後世に伝えてください』
今考えてみればその声の主は――いや、それだけではなくあの不思議な空間でであった巫女もまた神ではなかったのだろうか。あの山の上に祭られていた、村民ですら忘れ去ってしまったこの村の守り神。忘れられてもなおその神はこの村を救ったのだ。
数日前、私はあの山の上に上った。遺跡――御神体の眠る遺跡の中に入ると口噛酒が納めてあった。そのままふと上を見ると絵が描かれていた。青い筋と、赤い点。それを仰ぐ村人。おそらくまだ記憶の残っていた妻が、このことを後世に伝えるために記したのだろう。そして同時に村を救った神への感謝を記したと考えられる。
私もまた書によって後世に伝えよう。
入れ替わりはいずれ来る困難に立ち向かうためのものである。そのために重要なのは『結び』であり、決して結紐と口噛酒の儀式を絶やしてはならない。
この村の未来に幸福があらんことを。
糸守町に1200年前に彗星が落ちた、との発言がありましたのでそれを想像して作りました。湖がまだできる前の話です。そして宮水家最初の入れ替わりですね。
日記というか書物の形式をとっているつもりですが、このあたりが限界でした。連載を書くには時間も知識も足りなさ過ぎました。他に誰かが1200年前が舞台のものを作ってくれないものですかね。連載を書くとしたら来年なので難しいんですよね。
ガバガバな設定、好き勝手な想像など申し訳ありません。「ここの設定が違う」など指摘してくだされば可能な範囲で修正する心づもりです。
それでは失礼しました。