もうまめだです、おかげさまで十話まで来ました、更新は遅れ気味で申し訳ないですが、がんばります。といっても予定ではもうすぐ完ですが
それではどうぞ
帝都アガスティアに夜が訪れる。街には明かりが灯り、商店街は一層の賑わいを見せる。帝都の中心にそびえたつ、通称タワーと呼ばれる壮大な建造物は漆黒の様相をしながらそのさまを見守っている。が、今夜、そこから悲劇が始まろうとしていた。
タワーの一室から階下の街を冷ややかに見下していたフリーシアは先ほどの部下の報告に決意を固めていた。報告は二つなされた。一つは大将アダムの離反。これについては薄々感づいていた。歴史を改変し、エルステを再興するという計画を大将アダムに話したとき、感情を持たず生きた人間でもない精巧なゴーレムの瞳に、決して見ることがないはずの明らかな反目を見たからだ。その時からフリーシアはアダムが自身の計画に内心は反対していることに気づいていた。しかし、たかがエルステ王国の僕ともいえる存在がその帝国の宰相を裏切るということは、多少なりともフリーシアに動揺を与えた。それもアーカーシャのコアを運び込み、デウス・エクス・マキナを使ったリアクターの調整も順調に進んでいたこのタイミングでの離反は……。
そしてもう一つの報告は今まで何度も計画の壁となってきたかの騎空団が軍の研究施設に侵入しているのが発見されたというもの。そしてそのなかには大将アダムの姿も見られたという。
アダムの離反に少なからずの疑問を抱いていたフリーシアはこの報告で納得した。アダム個人での離反はありえない……協力者はあの騎空団か。
最後に会ったルーマシー諸島ではユグドラシルのコアに魔晶の力を注ぎこみ、マリス化させて対抗させたにもかかわらず、その圧倒的な潜在能力の前に予想外の敗北を喫した。といってもあの作戦は、アーカーシャのコアの回収が主であったため最小限の成功は収めたのだが、まさか帝都に侵入してまで計画の邪魔をしてくるとは。
調整は順調に進んでいるとはいえ、まだリアクターの調子は万端とは言い難い。しかし、アダムが騎空団に付いたということは計画の全容はすでに明かされているだろうし、さらにエルステへの侵入も許している。となるとこのタワーをも侵し、リアクターを止め、計画を失敗させるために行動に出ることを予想するのはたやすかった。
扉がノックされた音を聞き、フリーシアは思考を止め窓際から離れる。ちょうどよかった、リアクターの本起動の指示を出しましょう。
「誰です?」
「はっ! フリーシア宰相への緊急の報告が!」
「入りなさい」
緊急の報告? 先ほどの二つの報告とは別のものなのか……
「それで、報告とは?」
「はっ! 蒼の少女を連れたかの騎空団の女団長と思われる者がリアクターに侵入しています!」
「予想よりも早かったですね……侵入者は何人ですか?」
「それが目撃されたのはその女団長一人、ということなんです」
「一人……囮ということでしょうか……けれど何を目的に……」
「現在小部隊を先行させて制圧に向かわせていますが、すでに三部隊が戦闘不能にされています。死傷者も出ていまして……。それとその女団長からはフリーシア宰相に会わせろ、と」
「私に……?」
一人で敵の本拠地に侵入して、私に会いたいと? 本来の目的は一体……
予想外の報告がフリーシアを悩ませる。そして返答に困る彼女の耳に憎ましい声色が響く。
「会ってみればいいんじゃない?」
「ちっ、ロキ、どうしてあなたがここにいるんですか?」
「この帝国の支配者がどこにいたっていいだろう? ねえフェンリル」
「オレは別に喰えればなんだっていいんだがよ……」
さっきまで立っていた窓際にいつの間にかロキが立っていた。そばに青い狼の様相をした星晶獣を連れて、窓の外を眺めている。
「まあいいでしょう。それで会ってみれば、というのはどういうことですか」
「僕らあの騎空団が侵入したっていう施設にいたんだよね、なにか面白いことが起きる予感がするってね。そしたら、今下で暴れている女の子が、同じ騎空団だったはずの男の子の団長と戦っててね。それも遊びとかじゃなくて本気の。最後は惜しかったね、もう少しで男の子が負けるところだったんだけど、君たちが蒼の少女って呼んでる女の子が助太刀してね」
「それは仲間割れという認識でいいのですか」
「僕にはよくわからなかったな。この世界でもまだ僕にさえ分からないことがあるって知ってうれしかったけどね。でも女の子のほうは本当に殺そうとしてたけどね。フリーシアも会えばわかると思うよ、彼女の変貌具合に」
ただ面白いことを見たい。それだけで世界を滅ぼすこともできるロキが、今ここで嘘を言う理由がないことはわかっていた。けれどもその内容はにわかには信じがたいものだった。あれほど仲が良く団内の決断力が強いはずなのに、仲間割れを越えて殺し合い? それに報告では二人の団長は兄弟であったはず、いったい何が?
十数秒悩んだ末、フリーシアは決断していた。時間は惜しいが会うぐらいなら構わないだろう。もし敵ならばこの場で始末すればいいし、味方なら……
「分かりました、会ってみましょう。彼女をここまで案内しなさい」
ーーー
「こんばんはフリーシア宰相。ごめんね、会いに来たってちゃんと言ったのに、武器を捨てろとかうるさいからさ、ちょっと戯れてきちゃった」
兵士二人によって部屋に連れてこられた女団長を見て、フリーシアはロキの言葉を理解した。何かが違う。以前ルーマシー諸島で会った時に比べて何かが……。
ロキが満足そうな顔でこちらを見てくるのを無視し、不快感を押さえながら女団長に向かって話しかける。
「たしかジータという名前でしたね、こんばんは。残念ながら私は悠長にあなたとおしゃべりをしている暇はないので単刀直入に申し上げますが、あなたの目的は何ですか。あぁ、敵であれば即刻始末しなくてはならないので」
「さすが宰相、下の雑魚兵とは違って話が早くていいね。敵ではないよ、でも残念ながら味方でもないね、強いて言えば協力者って感じかな。私があなたたちに協力するから、あなたちも私の願いを聞いてほしいんだ」
「協力ですか、それであなたの願いですか」
「お願いは二つ。一つはデウス・エクス・マキナを使うなんていう信頼性のない方法はやめて、本来の方法でアーカーシャを起動させること。もう一つはフリーシア宰相がアーカーシャを使用する前に一回だけそれを私に貸してくれること。もちろんあなたの計画には影響を与えない程度で使うだけだから心配しないで」
「それについては一応了承しました。けれども、すでにご存じだとは思いますが、本来の方法でアーカーシャを使用するにはルリアとオルキス両方の力が必要です。私もその方法で起動させたかったのですが、主にあなたと黒騎士の妨害によってそれは困難であるとみなし、リアクターを使った方法を用いるのですが」
「大将アダムもそう言っていたね。でもその方法はまだ不安定なんじゃない?」
「それもアダムに聞いたのですか? あなたの言う通りまだ不安定ですが、十分にアーカーシャを起動させる力はあります。それにあなたの騎空団がすでにエルステへ潜入したという報告も受けています。時間が潤沢にあるわけではないのです」
「そうだね、グランたちもすぐに私を取り戻しにくるだろうし。だから私考えたんだ」
そういってジータは微笑む。その時になってフリーシアは彼女の装備が血に塗られ、剣が収まっているその鞘からは血が垂れ、そしてその微笑んだ表情に浮かぶ二つの瞳が何も移さず無表情であることに気づく。敵意のないはずその姿に鳥肌が立ち、少なからず恐怖を覚える。
「それで……計画とは」
「リアクターは今日起動させるつもりだったんでしょ?、大将アダムが裏切ったしそのおかげで私たちも帝都に侵入できたしね。フリーシア宰相は計画通り今日リアクターを起動して」
「けれどもあなたはさっき……」
「うん、だからこのリアクターは囮なんだ。グランたちが一度態勢を立て直してから帝都に侵攻するか、それともすぐに来るかは私にはわからないけれど、多分リアクターを起動して街に異変が起こるのに気づいたらすぐに飛んでくると思うんだ。あの軍の施設の被験者たちを見たけど、リアクターを起動したらこの街のみんながああなるんでしょ?」
「そうですね」
「大将さんも察しがいいからさ、多分異変に気付く。そしたら態勢が整ってなくてもさ、止めに来るんだよね。グランはそういう性格だから。それにつられて団の仲間と黒騎士たちもやってくる。アーカーシャ起動に必要なルリアも正義感が強いからきっと来るだろうし、黒騎士には反対されるかもしれないけれどオルキスもやってくると思う」
「つまりリアクターをだしにして本命をとらえると」
「そういうこと。でも帝国兵は弱いし頭が悪いからさ。今までだって何度もルリアの奪還に失敗してきたじゃん。だからさ、ここは分担といこうよ。フリーシア宰相にはルリアとオルキスの分断と、オルキスの奪取を頼むよ」
「あなたはルリアをとらえるということですね」
「そう。多分オルキスには黒騎士がくっついてくると思うから頑張ってね。タワーへの侵入は団のみんなに迷惑をかけないため少数で来ると思う。その頃には街が混乱してるだろうから、そっちの救援にも人員を割かれるしね。あとはタワーに侵入してきたみんなを使えない兵を大量に投入して少しずつ減らしていけばいいと思う。分断ができないと難しいけれどさすがにできるよね」
「それに関してはこちらで考えます。まだ魔晶もありますし、星晶獣もいるので。それにリアクターが起動すれば魔晶の力はいつでも取り出せます」
「そう、ならよかった。私は適当にルリアを捕まえて、くっついてきたグランを倒すから。オルキスを捕まえたら後はアーカーシャを起動して計画成功というわけ」
「いくつか修正する箇所はありますが、あなたの計画で一応進めていきましょう。けれどその前に腑に落ちない点があります」
「ん、なに?」
「もともとあなたたちは敵だった。前にあなたたちに会った時もそれは変わらなかった。それなのにここにきてどうして……あなたは私たちの計画に協力するのですか? アダムから計画の全容も結果的に何が起こるかも聞いているのでしょう?」
「それは、私があなたたちを裏切る可能性あるっていうことかな」
「率直に言えばそういうことですね」
「そう……」
直後目の前にあったはずの執務机が一陣の風とともに消えた。まるでもともとこの世にはなかったかのように。
「机が……」
「ふふっ、錬金術だね、それも相当高度な」
全く動じていないロキがふっとつぶやく。
「フリーシア宰相、私はあなたに協力を頼むと言ったけれどね、平等の立場にあるわけじゃないんだ。やろうと思えば私は誰の力も借りずにルリアとオルキスを奪取して、あなたたちからアーカーシャも奪って、私の願いを叶えることができる」
「……それならなぜ私たちに協力を」
「あなたの計画は私が協力しなければ勝手に失敗する。七曜の騎士の一人に十天衆もいる私たちの団が本気を出せば、あなたの計画なんで子供の家出のようにお粗末なもの。ただね、私は憎いの、グランたちも、あの団員達も。そのグランたちがあなたの計画の妨害に成功して、歓ぶ姿が見たくないだけ」
「……分かりました。あなたのことは信じましょう。あと二つ疑問があります。以前あなたに会ってから今日までにあなたに何があったのか、そしてあなたがアーカーシャを起動して改変する歴史の事実というのはなんですか?」
「信じてくれてありがとう。まず私に何が起こったかだけどこれに関しては今回の計画にはほとんど関係ないから説明しなくてもいいかな。強いて言えば、私とグランは今では敵対しているっている事実だけでいいかな。それとアーカーシャを使って改変するのはね……」
ーーー
「おーいそこの兄ちゃん!、夜ご飯ならうちの店に来ないかい? 最近開店してるからサービス多いよ!」
「本当ですか、でもすみません。なぜかさっきから頭がぼーっとしてて、今日は早めに家に帰ろかなって思いまして」
「そっか残念だな、今度うちに来てくれよ! おーいそこの姉ちゃん!、夜ご飯をうちで……おい兄ちゃん大丈夫か!?、お前人を呼んできてくれ!。人が倒れた!」
街を夜が包む。突如ある一角で上がる叫び声。混乱が始まる。
どうでしたか
今回は完全にジータのほうだけで終わりました、次は前話のグランたちのそのあとの話になります
結末はすべて考え終わってるのですが、それを文字におこす時間がなくて……
気長に待っていただけると助かります
それではありがとうございました。