ジータちゃんが闇堕ちしたら……   作:もうまめだ

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またまたお久しぶりです……


すぐそこの遠い距離

 「これで一安心か」

 

 地に掌をつき一人苦闘していたカリオストロが立ち上がり、大きく息をつく。古代文字で構成された縄状の紋様が目の前の扉、そして壁全体を巡っていて、その隙間を無数の魔法陣が埋め尽くしている。全てをひとりでこなした少女は顔に汗を浮かべ、少しの悪態をつきながら俺に口を開く。

 

「グラン、お前の姉はほんと優秀だよ。その才能を今まで通り仲間のために使ってくれれば良かったのにな」

 

 状況が分かっていない俺が困った顔を向けると、少し逡巡した様子を見せる。扉の奥は先ほどとうってかわり、何物もないかのように静まり返っている。

 

「初対面の時だ、お前たちがオレ様の封印を解いたとき、オレ様の姿は見えていなかっただろ? オレ様がジータを拘束した魔法の完全版があれなんだ。そしてジータはその完全版を今使おうとしたんだ」

 

「封印しようとしたってこと? でもジータの身体は拘束されてて、錬金術も魔法も使える状況じゃなかったんじゃないの?」

 

 俺の質問に苦虫を嚙み潰すような顔をしながら、カリオストロは答える。

 

「あぁ、そのはずだった。オレ様は天才錬金術師だから奴にかけた拘束術は完璧だった。だが、そのあと魔法の拘束を緩めたのが間違いだったんだ。ジータは自分に掛けられた魔法陣の古代文字を見て、どこに何を書き足せばさらに拘束が緩むかを理解したんだろうな」

 

「それをさっき言ってた、血で?」

 

「そうだ。体内だけでも自由になれば、魔法で血管中の血圧やら血流やらをいじることができる。そうすれば、ピンポイントに出血させて、魔法陣に血で文字を書き足すこともできる。頭がおかしくなるような繊細な作業だがな」

 

「そこまでして……」

 

 ジータは何がしたかったのか。俺には分からなかった。死にたかったのか、俺を殺したかったのか、それとも。ジータに最後に言われた言葉がさらに俺の頭をかき混ぜ、ジータをどうすればいいのか、何もわからなくなる。

 

「それであいつは自分を中心とした封印魔法をかけようとした、というか実際にかけた。オレ様が封印されていた完全版だ。あれが完成すると、効果範囲内の全てのものは別次元に飛ばされる。そうするともう手も足も出ない。だから、説明もなくお前たちに部屋を出ろ、といったんだ。さっきまでやってたのは魔法効果範囲の制限と、この次元にジータの魔法を固定するのと、それと……」

 

 カリオストロの話が難解になり俺の理解を超えたところで、それを察したシエテが口を開く。

 

「カリオストロ、それで今そこの部屋はどういう状況なんだ? 俺たちは何をすればいい?」

 

「お前たちにできることは、そうだな……、市街地の混乱の収拾ってとこか。これからやるのは今かけた魔法の解凍と、鍵をこじ開ける作業だ。ジータの魔法との兼ね合いを考えながら丁寧にやらないと、さっきのがジータとの最後の対面ともなり兼ねないから、慎重にやっていく」

 

「どうして? カリオストロの時みたいに封印を解けないの?」

 

「今回はそれとは状況が違う。あの時はオレ様は外側から封印されたんだ。部屋の外からかける鍵みたいなもんだから鍵さえあれば誰でも開けられる。だがジータは内側から鍵をかけたんだ、引きこもりみたいなもんだな。こっちは誰一人鍵を持っていない、だから無理矢理こじ開けなくちゃいけねぇんだ」

 

「じゃあアーカーシャを使って歴史改変すれば……」

 

 本当はこの世界のジータとも分かりあってからしたかったが、仕方ない。そう思ったが、それにもカリオストロは首を横に振る。

 

 

「偶然が恣意的なのか分からねぇが、封印範囲はさっきまでいた部屋とその奥の部屋まで行き届いている。確かめてはいないが、奥にはアーカーシャがいるんだろ。残念ながら今はジータの手の中だ、オレ様たちには触ることも操作することもできない」

 

「それじゃあ……」

 

「だから言っただろ、今のお前たちにできるのはこの島の混乱の収拾だ」

 

 

 扉の前に立って手を前に伸ばすと、ドアノブまであと少しというところで目に見えない壁が俺の掌の障害となって軽い力で押し返す。このたった少しの幅にある、カリオストロがかけた何重もの魔法の壁が俺を阻んでいる。そしてその先には……まるで世界も自身も仲間も、すべてを拒み、否定するかのようにジータが閉じこもっている。すぐそこにジータも、そのちょっとさきにすべてを元に戻せるアーカーシャもいるのに、俺には何もできない。

 

「遠いな」

 

 目の前の扉も、ジータの心とも。

 

 

 

ーーー

 

 

 すぐに始めると言ったカリオストロとそれを見ていると言ったシエテを部屋の前に残し、俺は外で待っているはずの仲間のもとに行くことにした。床に寝かされていたルリアはそのままにしておこうと思ったが、昼寝から目覚めたように急に起きだしのんびりとあくびをする。それにつられてなのかビィも意識が戻り、目を開いて同じようなあくびを続けた。二人とも俺の顔を見るといろいろと思い出したのかきょろきょろと周りを見回しだしたので、俺はみんなが揃ってから話すよ、と声をかける。

 

 ビィとルリアを連れ、タワーを出ようとする俺にカリオストロが声をかけた。

 

「三日でジータに会わせてやるよ。それに遠くなんてねえさ、すぐそこにいる」

 

 

 俺は一言お礼だけをいい、その場を後にした。

 

 

 タワーを出ると潜入組の仲間たちがみんな無事な様子で俺たちのことを待っていた。フリーシアは後ろ手に拘束された状態でリーシャに捕まっていた。説明を欲しているみんなに、俺はリアクターは停止したことを説明した。

 

「まぁ、だろうな。さっきまで倒れてたやつらの意識が戻り始めてる。少し混乱しているようだったが障害とかは残ってねぇみたいだ。あとで検査は必要だと思うがな。それでグランのとこに行ったシエテとカリオストロはどうした? ジータとの決着はついたのか?」

 

 俺はシエテとカリオストロ、それとクラリスも無事なことを話した。ジータに関してはもう少しだけ待ってくれと、それだけを伝えた。俺にもどうすればいいのか、これからどうなるのかが分からない今、何をどう説明すればいいのか分からなかった。

 

 

 説明は不十分なはずだったが、みんなはそれで一応は納得してくれた。俺の表情を見て察してくれたのか、それ以上説明を求めることはなかった。俺はその後すぐに指示を出し、続々と意識を取り戻し始めるリアクターの犠牲者の介抱に向かわせた。俺自身はこの後のことを相談するため、アダムの居場所を聞きそこへ向かう途中、別の騎空士たちに指示を出すシャロカルテの姿を見た。

 

「あらぁ、グランさんじゃないですか? 帝国との一応の決着はついたようですねぇ~」

 

「あぁ。この騎空士たちは?」

 

「黒騎士さんの傭兵さんに頼まれたんです~。到着は少し遅れてしまいましたが、今こうやって街を整備してもらってます~」

 

「ドランクか。ほんと気が利くやつだな。ありがとう!」

 

「はい~。あぁグランさん、依頼というわけではないんですが少しお話がありまして~」

 

「ん、なに?」

 

「えぇ~、つい最近お仕事をお願いした再興の島の長老さんからお手紙が届きまして~。星晶獣が元に戻ったおかげで島民の皆さんの自信がついたようで、大勢の島民が夢を叶えるために島を離れることになったそうなんです。それでですね~、四日後に島を挙げての送る会をするようで、まぁお祭りみたいなものなんですが、その時に顔を見せていただきたいとのことでした。状況が状況なので無理そうだと返事はしましたが~」

 

 

 俺の心が鋭く痛む。エルステとのいざこざは終わってもまだ終わらない問題の全てがあそこから始まった。再興の島に恨みはないが、少しの躊躇いがある。どちらにしろ四日後だと難しいかもしれない、二つの意味で。

 

「四日後だと少し難しいかもしれないな……、でも一応頭には残しておくよ、ありがとう」

 

 よろず屋に礼を言い、アダムに会うためにその場を離れる。

 

 

 その後三日間、俺はエルステの市街地を行ったり来たり、タワーを上ったり下りたりと忙しくしていた。リアクターによる混乱はすぐに収まったがエルステのトップだったフリーシアの所業が噂話で市民の間を流れ、その結果新たな混乱が起こり始めていたからだ。根も葉もない噂から、真実に比較的近いものまでさまざまなものが流れ、一時はタワーの前に人が群がる事態になったが、アダムの巧みな説明と、モニカら秩序の騎空団のおかげでそれも収まりつつあった。今は実質的なトップとしてアダムを置き、市民の生活を元に戻そうと苦心しているところだ。

 

 タワー内部ではしばらくの間帝国兵による抵抗があったが、フリーシアが捕まったこととアダムの説明があったことによりすぐに全員が白旗を挙げた。今は意識を失った市民や帝国兵らの検査、救援・整備に来ている騎空士の宿泊場所として開放している。

 

 

 そして扉の前ではカリオストロが俺に謝っていた。

 

 

 いや、どちらかといえば不機嫌な様子のカリオストロに俺が困っているといった感じか。事の始まりはついさっき目の前の壁の異変に俺が気づいたことから始まる。

 

 この三日間、街の復興は仲間に託し、タワー内部の調査を続けていた。無事に意識を取り戻したルリアが少し経って、タワー内部の様々なところから星晶獣の気配を察知しそれを俺に相談してきたのだった。アーカーシャの強い気配に隠れていたが、魔法によって封印されているため、弱い気配が現れ始めたのだろう。三日前に遭遇した男が言っていたことも思い出した俺は、ルリアとオルキスの力を使って帝国によって強制的に捕まえられた星晶獣の解放作業を続けていた。そして時々、カリオストロの作業の進展を見に来ていたのだった。

 

 作業は順調に進んでいるようで、封印を封印するためにカリオストロが設置した魔法陣やそれの類は日に日に少なくなっていった。それなのに、今朝、作業を始めて三日が経った今、壁や扉には元のように魔法の数々が所狭しと刻まれていたのだった。

 

 最初にそれを見たとき、俺は単純に何か封印解除に手違いがあり、それに気づいたカリオストロが再度かけなおしたのだと思っていた。けれど、戦闘後のような衣装の汚れ、カリオストロの不満そうな表情、そしてそばに立っていたクラリスの困ったような苦笑いにも気づき、俺の思っていることとは違う何かが起こったことに気づいた。

 

 不機嫌な時のカリオストロは怖い。けれど真相は知りたい。俺は一時中断して、カリオストロのそばに座り、真実をしゃべってくれるのを黙って待っていた。

 

 

 

 

「単刀直入に言うとな、」

 

 俺が座ってそれなりの時間が経って、真実を知っているらしいクラリスが口を開きかけたときにカリオストロがぼそりとつぶやいた。

 

「お前がジータに会えるのは今日からまた三日後だ、すまないな」

 

「何があったの?」

 

 俺の質問には答えず、カリオストロは作業を続ける。困った俺がクラリスを見ると、一度少女の顔を見た後、語りだした。

 

 クラリスはルリアやビィと同じように無事意識を取り戻すと、自ら希望してカリオストロの作業を見ていた。俺の知らないところで何かあったのか、前よりもカリオストロに親近感が湧いたらしい。そのクラリスが言うには、今日の朝には封印の解除に成功し、部屋に入ることが可能になったらしい。そのままグランを呼ぶ手はずだったが、カリオストロは弟子の始末は師匠がつける、といって単身部屋の中に入ったのだった。そして数分間の沈黙ののち、爆発音がしたかと思えばカリオストロが額に汗を浮かべて部屋から出てきて、再度部屋全体を封印したようだった。

 

「ふふ~、それならグランさん。再興の島に行くことができますね~」

 

「シェロ!、一体いつから……」

 

 クラリスの話を聞き、カリオストロになんて言うか迷っていたときに、どこからともなくシェロカルテが現れた。そういえばそんなことを言われたなと思い出しつつも、グランサイファーを動かせない今の状況で再興の島に行くのは難しいと答えようとする。それに確か、その祭りとやらは明日だったはずだ。今日出てからじゃあ間に合わないだろう。

 

「無理だと思ってますね~? でもこうなることを予想して小型騎空艇を用意しているんですよ~。乗れる人数は少ないですけれど、今から出ても余裕をもって再興の島に着ける最高の艇なんですよ~、うぷぷぷ~」

 

「それでも……」

 

「グラン、行きませんか? 私、またアネバルテに会いたいんです。そうすればもしかしたらジータのことも何か分かるかもしれませんし……」

 

 ジータのことで手も足もでないぐらいに追い詰められている俺に祭りを楽しむ余裕はなく、それでも断ろうとしたが、そばで聞いていたルリアにも言われてまた悩まされる。

 

「もちろん今の状況で祭りを楽しむのは難しいと思います~。でも長老さんはただただグランさんに感謝をしたいだけのようでして~」

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 シェロカルテに案内されて、エルステの小さな隠し港に止めてあった小型騎空艇に乗り込む。万事屋ほどにもなれば帝国が支配する島でさえ一つ二つの隠し港の場所を把握しているらしい。狭い艇内は俺とルリアとビィが入るだけで定員となってしまった。荷物はほとんど持たず、万事屋に説明された地図だけを持っている。

 

「確か目的地を設定するだけで自動で航行してくれるんだったな」

 

 目の前に設置された大理石に軽く触れると白く輝きだし、すぐに手に持った地図と同じものが現れる。シェロカルテに言われたとおりに目的地を設定すると、重低な機械音を響かせながら機体が持ち上がったような感覚を覚える。

 

「流石に走艇よりは速くはありませんが、それなりに速いので気を付けてください~。それでは、良い旅を~」

 

 ハーヴィンの商人は大きな声を上げて俺たちに手を振る。椅子の下から伝わる振動は見る間に大きくなり、大きく後ろに引っ張られる感覚と共に俺たちは隠し港を飛び出す。後ろを振り向くルリアが見る見るうちに小さくなっていくアガスティアの島に歓声を上げるのを耳にしながら、俺は青と雲の海に飛び込んでいく。 

 

 

ーーー

 

 

「あぁフェンリル、こんなところにいたんだね。随分な様子だけど、どう?、傷は癒えた?」

 

「ちっ、うるせえな。本気を出せばオレを見つけるなんて簡単なことだろ?」

 

「うん、まぁね。でも僕は今怒ってるんだ。観客は観客らしく劇を静かに見ていなくちゃだめだろ?」

 

「劇?」

 

「そうだよ。帝都アガスティアという舞台で、一大帝国と一騎空団が闘う舞台劇さ。演者が一生懸命演じているのに、それを僕ら観客が邪魔しちゃダメだろう? それが喜劇でも悲劇でもね」

 

「いつも思うが、一体何を考えているんだか」

 

「ふふっ、すぐに分かるよ。さぁフェンリル、観客席に戻るよ。まだ劇は終わっていないんだ、だって劇にはクライマックスがあるものだからね」

 

「帝国は負けたんだろ? 帝国の王のはずなのに敵側に手を貸したり……どっちの味方なんだ?」

 

「どっちもこっちもないさ。ただ彼らが何を演じようと、僕にとっては喜劇だ」

 

 

 

 

 

 

 




来週また一話投稿したい(希望的観測


ありがとうございました、また次話もよろしくお願いします。
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